ラブライブ・メモリアル ~海未編~   作:PikachuMT07

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第9話 μ's、ミュージックスタート!

試合から何日かが過ぎた。

園田師匠は大会が終わってから弓連神田道場のほうには顔を出さなくなった。

その代わり晴れた日の夕方、俺が道場への行き帰りやバイトへ向かう際に神田明神裏を通ると必ず友人2人と階段でトレーニングをしていた。

俺はできれば師匠に声をかけたかったが、俺が立ち止まると園田師匠はすごい目で俺をにらむので、遠慮することにした・・・とほほ。

また西木野さんの胸を触っていた巫女さんも良く明神様の境内や付近を掃除している事が分かった。

日曜などはお札の売り子もやっている。

この娘は長い黒髪を和紙で束ねている後姿だけでも素敵な女性だと思わせる気品があるのだが、何度か拝見させて頂いた素顔は気品に加えとにかく柔和な優しい表情が印象的だ。

大きなタレ目の彼女が、もし巫女服でなく普通の服を着ていたら、守ってあげたいような幼さも持っているのかもしれない。

そんな不思議なイメージを感じる娘である。

もっとも、西木野さんの胸を触った事から注意して見ると、彼女の胸のほうが西木野さんとは比べられないほど大きい事も分かった。

何見てんだ、俺・・・やっぱ男子校、キツイな。

女の子を見たくて俺はできるだけ神田明神の周りを歩くようにしていたのだが、園田師匠達3人組を一度だけ、夕方のトレーニング以外に見る機会があった。

弓道練習後の暗くなった帰り道、ふと境内を覗き込むと、師匠達3人は制服姿で明神様に熱心にお祈りをしていたのだ。

とにかくこの数週間、ずっとがんばっていたのを見ていたので、何をするにしても成功して欲しいと思った。

 

     ■□■

 

ゴールデンウィーク前のある日、親父を抜いた4人で夕食を摂っていると紅音が俺に明日の予定を聞いてきた。

紅音「ねえお兄ちゃん、明日の午後、ヒマ?」

明日の午後はバイトも無いので弓道の練習をするくらいだが、基本は俺一人の部活なので絶対という予定ではない・・・最近園田師匠も来ないし。

紫音「うんまあ、別に絶対外せないという予定はないよ」

紅音「やたっ!じゃあね、明日はウチの音ノ木坂学院でね、午前中は新入生歓迎会があるの。で午後は部活紹介があって父兄の見学もOKなんだって。私も部活を決めたいから、見に来て欲しいの・・・あ、でも周りの女の子をジロジロ見るのはダメよ。あくまで部活を見てもらうんだから」

なんとまあ、女子高の中に合法的に入れる機会があろうとは・・・嬉しい。

弓道部をぜひ見たいものである。

紫音「おお、面白そうだね。行きたい」

瑠璃音「あら、紫音は行くのね。それなら母さんも行こうかしら、明日は調律の仕事入ってないから。それにもし、紫音が変な行動しようとしても、保護者同伴なら自由はできないものね」

紫音「母さん・・・俺、そんなに信用ないかね?」

瑠璃音「ふふっ、まあ疑われても母さんが居れば言い訳してあげられるものね!」

母さんは楽しそうに笑った。

翠音「お母さま~翠音も行きたい~。お姉さま、いいでしょ?」

紅音「もちろんいいわよ。中学の授業は何時に終わるの?」

みんな場所が近い事もあり、14時には集合できそうである。

紅音は14時に俺達3人を校門で出迎えてくれるとの事だった。

 

翌日、俺達家族は予定通り14時に音ノ木坂学院の校門前に集合した。

紅音の案内で校内に入る。

中は色々な部活の勧誘活動で盛り上がっている。

俺達はテニス部、バスケ部、陸上部、剣道部を見た。

俺のたっての希望で弓道部にも行ってみたが、残念ながら園田師匠は居なかった・・・むむ、何故だろう?

渡り廊下を歩いていると、2年生らしき娘からチラシを受け取った。

「μ's ファーストライブやります」と書いてある。

時間は・・・もうすぐ講堂でやる模様だ。

講堂はちょうど目の前だった。

翠音「お姉さま、μ'sって何部なの?」

紅音「確か・・・廊下の掲示板にスクールアイドルと書いてあったと思うわ」

翠音はスクールアイドルと聞いて目を輝かせた。

翠音「うわ~っ!それ、この前UTXで見たA-RISEみたいなのじゃないのかな~?お姉さま~、翠音見たいぃ」

紅音「・・・確かできたばっかりなはずよ。A-RISEみたいにうまくないと思うけど・・・」

翠音「うぅ、でも見たいよぅ」

その時、花陽ちゃんが後ろから走ってきて俺達の横を通り、講堂へ駆け込んでいった。

紅音「あ、花陽ちゃん!」

紅音が呼びかけたが聞こえなかったようだ。

アイドルへの集中はハンパなかったからなあ、あの娘。

続いて凛ちゃんが小走りに近寄ってきた。

凛「あ、紅音ちゃん・・・これ見る?かよちんがどうしても見たいって・・・」

紅音「そうなんだ・・・私達も見るわ。花陽ちゃんも凛ちゃんもいるし、翠音も見たいようだし」

翠音「お姉さま、優しい~!行こぅ!」

そんなに時間は食わないとは思うが翠音の嬉しそうな顔を見るとこれは行かざるを得ない。

どちらにしても女子高の中で男はウロウロできる立場になく、一緒に入るしかなかった。

 

俺達家族は凛ちゃんに続き急ぎ足で講堂へ入った。

ガランとした講堂には既に曲が流れ始めていた。

俺達は花陽ちゃんと凛ちゃんが立っている横の席に座った。

前奏が終わりちょうどアイドルが振り返るところである。

振り返った青いワンピースの娘を見て、俺は驚愕した。

紫音「そ・・・園田師匠!!」

家族の皆様は俺を振り返ったが、公演が始まったらマナー良く、というのはピアノの演奏会などに良く招待される我が家の鉄則である。

その場での追求はなく、俺はステージに見入った。

園田師匠とお揃いで色違いのワンピースを着て3人組になっているのは無論、神田明神でトレーニングしていたあの2人である。

俺の脳裏に境内の裏の急な階段を駆け上がっている3人が鮮やかに浮かんだ。

ドレスアップした3人は、俺には画面の中で舞っていたA-RISEの3人よりよっぽど輝いて見えた。

懸命に踊りながら笑おうとしているがうまくできたりできなかったりしている。

しかし3人とも目が超真剣である。

園田師匠の目は的を見据えるときのようにまっすぐだったが、時折仲間と視線が交錯する瞬間はとても優しい目をして微笑むのであった。

弓道場でも師匠が女神に見える時があるが・・・今回は本当に女神なのか?と思った。

だがそれにも増して素晴らしかったのはセンターの栗色の髪の娘である。

まなざしも、微笑みも、人はこんなに楽しそうな顔ができるのかと思うほど輝いていた。

本当に光を放っているかのようにまぶしかった。

声の高い娘も嬉しそうに歌っていた。

晴れやかな表情と歌いだしの明るい声は曲やグループの第一印象を決定付けるのに充分な力がある。

翠音が目を輝かせて見入るのも納得だ。

さらに曲が良い。

誰が作ったのだろうか?始めて聞く曲であるが有名なグループの曲なのでは、と思う。

転調も効果的でサビが印象的に聞こえる・・・単純な作りではない。

しかし園田師匠・・・俺がまったく見たことのない表情を連発していた。

俺にもあんな優しい目で師匠から見てもらえる日が来るのだろうか・・・。

そう考えるといつも睨まれたり怒られたりうつむかれたりしている気がしてくる・・・地味にショックだ。

そんな事を考えているうちにキーが上がるサビが来て、曲がもうすぐ終わる事が分かった。

3人は何度も振り上げた腕を一度中央低くに集め、最後に高々と上げ、曲は終わった。

 

(スクフェス「START:DASH!!」プレイをオススメ!)

 

凛ちゃんと花陽ちゃんはスタンディングオベーションである。

もっとも二人は一回も座っていなかった。

他にも拍手をしている女子高生が何人かいる。

なんだ、まったく人がいないわけではなかったのか。

またなぜか小さい女子高生は椅子の隙間から覗くように見ていた・・・なんでだろう。

そのうち金髪の女子高生が階段通路を下りて行き、センターの娘に何か話しかけた。

センターの娘が「生徒会長」と呼んだので、俺には、というか俺の家族は全員分かった。

あれは亜里沙ちゃんのお姉さんである。

俺が彼女を見るのは2回目だが相変わらずスーパーモデルのようなスタイルの良さである。

スカートが短いせいもあるのだろうが、脚がとんでもなく長い。

 

栗色の髪の娘は「この会場をいっぱいにしてみせます!」と生徒会長に叫んだ。

ただならぬ雰囲気になってきたので、俺達家族は顔を見合わせた。

我々は見学の部外者であり・・・これ以上何かの話し合いを聞いても仕方あるまい。

目を見交わして、俺を先頭に講堂の廊下へ出た。

廊下には西木野さんが居た。

紫音「お、西木野さんこんにちは」

西木野さん「・・・こんにちは」

紅音「西木野さん・・・見てたんだ。一緒に来て座れば良かったのに!なかなかかわいくて良かったわ。曲がとてもいいわね、アイドルって感じしたもの。何て曲なのかしら?」

西木野さん「・・・『START:DASH!!』よ」

紅音「・・・え?西木野さん、知ってるの?」

西木野さん「す、少しね・・・べ、別にいいでしょ」

翠音「西木野さん、こんにちは!」

瑠璃音「こんにちは。今日はお邪魔してます」

紅音「じゃあ西木野さん、明日は詳しい話聞かせてね?ママ、お兄ちゃん、私他にも見たい部活があるから行こう!」

翠音「お兄さま、μ's結構かわいかったよね~!!少し興奮しちゃったんじゃなぃ?それからぁ『園田師匠ぅ~っ』て、誰?翠音は聞きましたよ~」

俺の言い方を真似して聞く翠音の言葉に、俺は不意を突かれ吹き出した。

紫音「ぶほっ!!いや、俺そんな事言ってないよ、うん言ってない。西木野さん、じゃあね」

紅音「お兄ちゃん!私も聞いたわよ!待ちなさい!じゃあね西木野さん」

俺達家族は挨拶もそこそこに講堂の外へ出た・・・正確には逃げようとした俺を皆が追ってきた図である。

 

その後俺達は吹奏楽部、化学部、茶道部、新体操部を見た。

うむ、女子高生を堪能した気がする。

瑠璃音「廃校って聞いてちょっと心配で来てみたけど、まだまだ在校生は多いし少なくとも今年は大丈夫ね。紅音、何の部活に入るか、決まった?」

紅音「う~・・・ちょっとまだ考えてるわ」

翠音「ねえお姉さま、μ'sは部活じゃないの?」

紅音「・・・少なくとも新入生歓迎会の印刷物の部活紹介の欄には書いてないわ。アイドル研究部っていうのがあるようだけど、さっきのライブのチラシにはそんな事書いてなかったし」

翠音「そうかぁ~翠音はね、お姉さまはああいうのできると思うんだけど・・・」

瑠璃音「・・・ママは少し違う意見ね~帰りながら話しましょうか」

俺達はそんな会話をしながら校門を出ようとした。

すると背後から「お~~い!!桜野さ~ん!」と呼ぶ声が聞こえる。

俺達が振り返ると、3人の制服姿の女子高生が走ってくるのが見えた。

先頭はサイドテールの栗色の髪の娘である。

もちろん後ろには声の高い娘と微妙な顔をした園田師匠がいた。

栗色の髪の娘はまっすぐに紅音に走り寄り、がしっと紅音の肩を掴んだ。

栗色の髪の娘「あなたっ!桜野あかねちゃんだよねっ!!!」

紅音「は、はいぃ!」

栗色の髪の娘「あなたすっごいかわいいね!!アイドルに興味はないかなっ!!あなたには絶対ぴったりだよ!!」

紅音「・・・あ、あの・・・え、えと」

珍しい・・・紅音が押されている。

声の高い娘「ほ、穂乃果ちゃん・・・そんなイキナリはダメだよ。まず私達が誰か・・・」

栗色の髪の娘「あ、ごめんごめん、驚いちゃったかな。てへ。私、高坂穂乃果!ほのかでいいよ!こちらお母さんですか?さっきは私達のファーストライブを見て下さって、ありがとうございます!!え~とこちらは・・・」

穂乃果ちゃんは俺と目が合った。

穂乃果ちゃん「・・・あ、キミは・・・いつものコンビニのナイスガイ!!」

・・・俺、そんな風に言われてたのか・・・って事は園田師匠、ホントに俺の事知らない振りなんだな・・・と思いながら園田師匠を見ると、師匠は明後日の方向の空を見て口笛を吹くまねをしていた・・・。

紅音「あ、あの穂乃果さん・・・手を放してもらえますか?」

穂乃果ちゃん「お~っとこれはごめんよう!」

穂乃果ちゃんが紅音から慌てて手を放すと、そのタイミングで声の高い娘が切り出した。

声の高い娘「あの、はじめまして。私達は音ノ木坂学院でスクールアイドルのμ'sをやっている者で、私は南ことりと言います。帰るところを呼び止めてしまってすみません。今日は私達のライブを見て頂いて本当にありがとうございました。直前まで誰も来てくれてなくて・・・悲しかったんです。でも花陽ちゃんとその友達の凛ちゃん、紅音ちゃんが来てくれて、ちゃんとライブができました。すごく嬉しかったです!それで、勝手なお願いなんですけど、もし私達に興味が出たら紅音ちゃんを、見学だけでもいいから誘ってもいいかなって、聞きに来たんです」

穂乃果ちゃんはうんうんと頷いている。

園田師匠は恥ずかしそうに俯いて、俺と視線を合わせないようモジモジしている。

瑠璃音「・・・はじめまして。桜野紅音の母です。南さん、礼儀正しいですね。今日は素敵な歌とダンスを見せてもらえてどうもありがとう。あなた、高坂さん。もしかして雪穂ちゃんのお姉さんなのかしら?」

穂乃果ちゃん「えええっ!!雪穂を知ってるんですか!?」

穂乃果ちゃんはそこで翠音の着ている地元中学の制服を見た。

瑠璃音「雪穂ちゃんには紅音の妹の翠音がお世話になってます。紫音の事も知ってるみたいね。ふふ」

母さんがそういうと穂乃果ちゃんはだいぶ恐縮したようだった。

穂乃果ちゃん「こっこちらこそ色々とお世話になってます・・・」

瑠璃音「高坂さん、あなた今日、とっても素敵だったわ。夢中になれる事があるのは素晴らしい事ね。うらやましい。それからあなたは・・・」

母さんは園田師匠のほうを見た。

園田師匠「・・・そ、園田海未、と申します」

瑠璃音「そう、あなたが園田さんなのね。あなたは紫音の事は知らないのかしら?ふふ、あなたも素敵だったわ。さあ紅音、誘われているけど、どうするの?」

紅音は俺と母さんを交互に見た。

俺も母さんも特に表情は変えず、紅音の選択に任せる事とした。

自由に決めて良いという許可をもらった事を理解したようで、紅音は穂乃果ちゃんを見て言った。

紅音「・・・少し考えさせてもらってもいいですか?」

穂乃果ちゃん「もちろんだよ!待ってるからね!!私達は屋上や神田明神とかで練習してるから、いつでも声かけてね!それじゃ呼び止めちゃってごめんなさい!!私達、もう行きます!みおんちゃん、今度雪穂だけじゃなくて、私とも遊んでね!バイバイ!」

俺達は穂乃果ちゃんの大振りなバイバイに手を振り返さざるを得ず、兄妹で手を振った。

すると一緒に去ると思った南さんが、わざわざ俺の正面に立ち止まった。

南さん「あの、桜野紫音くん・・・いつもお店でうるさくしちゃってごめんなさい。私の事はことりって呼んで下さい。今日は本当にありがとうございました!」

ことりちゃんと園田師匠は俺達に会釈をして校舎に戻っていった。

うう、ことりちゃんかわいいなあ・・・しかし園田師匠はいつまで俺の事、知らない振りなんだろうな。

紅音「・・・お兄ちゃん?」

翠音「・・・お兄さま??」

気がつくと妹二人の視線が超鋭くて痛い・・・。

紫音「は、はい?」

紅音「どうしてお兄ちゃんがあの人達知ってるの!!」

翠音「なんで南さんみたいなかわいい人に覚えられてるのぉ?」

うう、帰宅後の追及は厳しくなりそうである・・・誰か助けて。


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