ラブライブ・メモリアル ~海未編~   作:PikachuMT07

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第8話 弓道の大会

バイトで園田師匠と出会ってから数日が過ぎた。

あの日から筋トレ後にバイトに向かう際は、必ず神田明神下を通るようにしていた。

園田師匠達3人は雨の日以外は階段でのトレーニングを続けていた。

ミニストッパでも3人と会う機会があった。

どうも栗色の髪の娘はほのか、高い声の娘はことりというらしいのだが、師匠が頑なに俺を知らない振りをするので、なかなか声をかけられずにいた。

先日練習が一緒になった時、師匠に聞いた所によると学校では雨の日は弓道部、晴れの日は友人のトレーニングを手伝い、その後に弓道神田道場で稽古をする、との事だった。

大変であるが師匠は疲れた様子などは見せない人なので、それが少し心配である。

俺の弓道の上達のほうは順調で、なんとか二分の一くらいの確率で的に中てられるようになってきていた。

実は4月の大会は正確には「高校総体関東予選」というのだが、まあ1年生から始める人には最初の大会なのだから新人戦で良いかと思う。

ちなみに秋にはずばり「東京都新人大会」というのがあり、それは3年生は出られない(夏で引退だから当然だ)。

しかし2年生は出られるのだから新人戦という名前が付いているのに疑問を感じるのは俺だけだろうか。

4月の大会は団体戦のみで出場校は選手が3人必要である。

部長は4月頭で来なくなっていた3年生の元弓道部員を引っ張ってきて、俺のために1日だけのチームを結成してくれた。

練習しているのは俺だけなので、要するに俺が試合慣れするために1回だけ出場する暫定チームである。

この大会が終わったら部長も予備校に専念し大会には出なくなるので、神田電機高校弓道部は副部長の俺のみで、個人戦にしか出られない部活となる。

7月には俺が部長だ。

 

     ■□■

 

関東予選当日の朝、俺は朝食と弁当をもらいに実家へ行った。

今日は西木野さんのバースデーパーティを実家でやるとの事で、妹達二人は朝からどの服を着るか、揉めていた。

紅音と翠音は、二人とも良いと思ったデザインの服は一着ずつ持っている。

母さんがお揃いの服を着せるのが大好きだからだ。

ゆえに服を取り合う事はないのだが、片方のデザインにもう片方が合わせるか合わせないかが決まらないのである。

翠音「お兄さま~決まらない~」

紅音「仕方ないわね、お兄ちゃん決めて」

二人は困って俺に振ってくる。

通常は二人だけで決まるのだが、こういう事が今までにもたまにあった。

俺は候補として広がっていた服の中から、春らしいデザインが違う白のブラウスを2着と、同じデザインでピンクと水色のミニスカートを選んでやった。

瑠璃音「あら、なかなか良いコーデね。紫音が選んだにしてはマトモね。ぱっと見は同じだけど近づくと実は違うっていうのがいいわね」

母さんからも合格が出て、何とか二人も納得したようである。

瑠璃音「さ、紫音はこれお弁当ね。昨日例のお饅頭屋さんの饅頭を買っておいたの。2つ入れておくから会場で食べなさい」

う~む試合は3人一組なんだけどね、母さん。

心の中でつぶやきつつ、俺は弁当と弓道具を持って家を出た。

ちなみに俺の弓と矢は弓道部の備品である・・・まだ自分用のものは持っていない。

当初は辞めるかもしれないと思って買わずにいたのだが、かなり弓道にはまってきているのでいずれ道具は買い揃える予定だ。

ただやっぱり良い物は高い。

少しずつ買い揃える事となるだろう。

 

     ■□■

 

部長と秋葉原駅で合流し明治神宮第二弓道場へ向かう。

会場は弓道をする高校生でひしめいていた。

3人チームで一人4射ずつ放ち、当たれば1点、外れれば0点である。

さすがに東京都、ものすごい数の高校が出場し、一人4射なのでどんどん射らねばならない。

俺は4射中2射的中、部長も2射、助っ人が1射的中で我が神田電機高校は5点で予選落ちした。

まあ最初はこんなもんだろう。

少なくとも大会の雰囲気や流れを掴んだのは大きい。

予選落ちが決定した後、部長と助っ人は予備校のためそそくさと帰っていった。

俺は適当なベンチで弁当を食い、俺の唯一の知り合いを見るため女子の競技を見学に向かった。

お、いたいた・・・音ノ木坂学院弓道部は予選を勝ち進み準決勝へ進んでいた。

ここまでの得点を見ると決勝へ進む8校に残るためには、予選と準決勝の得点を合計し13点以上は欲しいところである。

音ノ木坂学院は予選を6点で突破していた。

園田師匠も4射中2射しか的中していない。

やっぱり疲れているのだろうか。

 

もうすぐ準決勝での音ノ木坂学院の順番である。

園田師匠は先輩に促されたのだろう、道場の外に出てきた。

今日の師匠は美しい黒髪ロングをポニーテールに結い上げ、白い布で留めている。

会場の誰よりもかわいいと思った。

俺はこの機会を逃がさず声をかけた。

紫音「師匠、園田師匠!」

園田師匠「あ、桜野さん・・・こんにちは。そちらはどうでしたか?」

紫音「師匠、こんにちはってのん気に挨拶してる場合ですか。顔色悪いですよ?」

園田師匠「ええ・・・最近穂乃果達に付き合ってしっかり練習できず・・・予選も半分しか中てられず・・・後悔と緊張でいっぱいです・・・」

紫音「やっぱり・・・でも自分で緊張してるって分かってるなら大丈夫ですよ。深呼吸してください」

園田師匠は顔を上に向けて深呼吸した。

紫音「師匠、甘いもの好きですか?師匠最近お疲れ気味だったから、甘いもの体に効きますよ。これどうぞ」

俺は母さんから今朝もらった穂むらの饅頭を一つ、園田師匠に手渡した。

園田師匠「これは・・・!!なぜあなたがこれを知っているのです?」

紫音「知っている?いやこれは母さんが今日弁当と一緒に持たせてくれたんです。二つしかなかったから師匠と食べたかったんですよ」

園田師匠「まあ・・・ありがとうございます。これ大好きなんです。元気が出ます」

紫音「それは良かった。さあ食べて食べて」

俺は師匠と二人でほむまんを頬張った。

紫音「師匠、はいお茶」

俺は師匠に十七茶を手渡して飲ませた。

師匠の顔色も幾分良くなったようである。

園田師匠「何から何までありがとうございます・・・あっ」

俺は師匠が飲み残した十七茶を飲みつつ言った。

紫音「いや、師匠がんばって下さいね。俺2射しか中たらなくて予選落ちだったんですけど、師匠なら絶対もっと中てられますよ。後ろで見てますね」

園田師匠は俺が飲んだペットボトルと俺の口辺りを交互に見て赤くなった。

紫音「あれ、師匠、今度は顔が赤いですよ。大丈夫ですか?」

俺は師匠のおでこに手を当てた。

園田師匠「!!!ちょっと何触ってるんですか!」

師匠はおでこを両手で押さえ少し涙目になった。

やりすぎたか?

紫音「師匠すみません!でもどうです?緊張は解けたんじゃないですか?」

園田師匠「う~もう!緊張は解けましたが逆に恥かしすぎます!・・・心配してくれた気持ちは受け取っておきますが、いきなりはやめて下さい」

師匠は涙目になって「かんせつ~」とか何とか言いながら会場に戻って行った・・・関節?

 

高校総体の弓道の試合は選手同士が「集中!」とか「ファイト!」とか声を掛け合い、的中したら拍手喝采、外れても暖かい声をかけるため、特に女子の大会は黄色い声援でいっぱいである。

もちろん指導員に男性がいるので男性の声も少しはある。

しかし音ノ木坂学院は女子高なので、男性の声援というのは珍しいかもしれない。

判ってはいたが、俺はどうしても我慢できず、園田師匠に「集中して!」「がんばれ!」と声援をかけた。

その甲斐があったかは不明だが、結局音ノ木坂学院は園田師匠が3射的中し他2名は2射ずつ的中で準決勝7点、予選と併せ13点で決勝へ進出した。

さすがは師匠、と思ったのもつかの間、その次の決勝トーナメントでは残念ながら第一試合で敗退していた。

次会ったら何て言おうかな。

師匠は音ノ木坂の部員と帰るようである。

俺が挨拶したらすごく怒りそうだからこのまま帰る事にしよう。

 

     ■□■

 

俺が帰宅する頃にはパーティは終わっていると思っていたのだが・・・大誤算である。

自宅は母さんも入れると女子6人で大盛り上がりしていた。

呼び鈴を押してから玄関を開けると、まず翠音が飛びついてきた。

翠音「お兄さま~お帰り~~」

紫音「ただいま。みんなまだ居るの?」

凛「ショーン兄さん、おかえりなさ~い!!」

花陽「あ、お兄さん、お邪魔してます~~」

紫音「凛ちゃん、花陽ちゃん、いらっしゃい。ゆっくりしていってね。え~とその娘が西木野さ、ん??」

西木野さん「あっ!!あなたは・・・」

俺と目が合った綺麗な娘はなんと先日、巫女さんに胸を触られて絶叫していた娘その人である。

紅音「ちょっとお兄ちゃん!!西木野さん知ってるの!?」

瑠璃音「あら紫音、西木野さんと知り合いなの?」

う~こりゃマズい。

紫音「い、いや~はっきりは知らない。この前俺がバイト先に行く途中で、なんか困ってそうな感じだったから警察の場所を教えてあげた。この娘が西木野さんだって今、知った」

紅音「西木野さん、ホント?ウチのお兄ちゃんはかわいい子みんなに声かけるの。やらしい事されたら言ってよ?」

西木野さん「いえ、そういう事はされてないわ。そう、道に迷って、ちょっとだけ困ってただけよ」

なるほど・・・それで乗り切りますか。

紫音「じゃあ無事に帰れたんだね。良かった。あ、誕生日なんだってね。おめでとう」

西木野さん「・・・そ、その節はお世話になりました・・・あ、あの・・・心配してくれて、それから誕生日を祝ってもらって、ありがとう、ございます・・・」

紫音「いえいえ、ゆっくりしていってね。母さん、このピザ、もらって行くよ~」

俺はピザをオーブンで温め、アルミホイルに包みながら横目でみんなを観察してみた。

凛ちゃん花陽ちゃん翠音の3人と、西木野さん母さん紅音の3人の2チームに分かれて盛り上がっていたようである。

凛ちゃんと花陽ちゃんも含め、全員まだ彼女を「西木野さん」と苗字で呼んでいる・・・まだ固さが残っている印象だ。

これを機に皆仲良くなってくれると良いなあ、と俺は思いつつ実家を後にした。

また風呂に入りに戻ってこなければならないが・・・。


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