ラブライブ・メモリアル ~海未編~ 作:PikachuMT07
園田師匠と作詞の話をしてから数日経った。
師匠は俺が筋トレをしている時間には顔を出さなくなり、あれから会っていない。
おそらく新しく始めた事が忙しいのだろう。
筋トレが終わるとバイトに行くというリズムにも慣れてきた。
その日俺は道場から出てミニストッパに行くのに、神田明神の後ろを通ってみた。
すると境内の裏手の急な階段でジャージ姿の女の子が3人、トレーニングをしていた。
よくよく見ると、一人は園田師匠である。
そういえば神田明神でトレーニングって言ってたな、何でもっと早くこの道を通らなかったんだろう。
俺が園田師匠に声をかけるか迷っていると、音ノ木坂学院の制服を着た女子高生が1人、3人の練習を見ているのを発見した。
その娘は3人から見つからない事を最優先にしているようで、俺がその娘を見ている事には気がつかないようだった。
綺麗な娘である。
肩より少し長めの髪は先でふわりとカールしている。
切れ長の瞳は大きく、真剣に見つめる横顔は気品がある。
右手は時々髪をクルクルと巻いては放すのがクセなようだ・・・このクセ、どこかで見たことがないだろうか?
記憶を漁っているとハタと思い当たった。
彼女は高校初日にベンツで登校していたお嬢様である。
俺が一人で納得していると、トレーニングしている3人を夢中で見つめるお嬢様的な娘の背後に、いつの間にか巫女さんが忍び寄っていた。
巫女さんはお嬢様的な娘が気が付かないのを良い事に・・・なんと背後からお嬢様的な娘の胸をわし掴みにした。
お嬢様的な娘「きゃーーーーーーーっ!!!」
俺は思わず警察を探した・・・えっと万世橋警察署が近いか?
しかしその後巫女さんは、お嬢様的な娘に優しく微笑み何事か話して去っていった。
お嬢様的な娘は胸を押さえ、トレーニングしている3人から必死で姿を隠している。
トレーニング中の3人も悲鳴を聞いて顔を見合わせていたが、やがてトレーニングを再開した。
俺はそのお嬢様的な娘に声をかけた。
紫音「キミ、大丈夫?」
お嬢様的な娘はものすごく懐疑的な目で俺を見た。
お嬢様的な娘「・・・な・・・なんですか?大丈夫ですから私に構わないで下さい」
俺は自分がヘンタイとして訴えられないよう、少し逃げ腰になった。
紫音「変な巫女さんだったね・・・知り合いなら別にいいんだけど。困った事あれば言わなきゃだめだよ。警察は万世橋にあるからね。大丈夫なら俺は行くね」
お嬢様的な娘は不信感丸出しの目で俺を見つめ何も言わない。
なんだか心配ではあるが俺が疑われてもつまらないので、軽く手を振ってそのままミニストッパに向かった。
・・・しかし本当に大丈夫だろうか?
紅音と同じリボンだったから同じクラスの娘に違いない。
ちなみにもし紅音が知らない人にあんな風に胸を触られたら半狂乱になると思われる。
ショックだろうなあ。
まあ知ってる人でスキンシップなら問題ないんだろうが・・・スキンシップなら実際あの表情はないだろう、とも思った。
■□■
ミニストッパで店員の上着を着てレジ打ちをしていると、ジャージの女子高生が3人入ってきた。
栗色の髪の娘「あ~のど渇いたあ!海未ちゃん厳しすぎるんだよう!!」
声の高い娘「穂乃果ちゃん待って・・・お財布、お財布!」
栗色の髪の娘「あ~忘れてた。ことりちゃんありがとう~」
園田師匠「ほら二人とも、あまりお店の中で大声を出さないで下さい・・・」
栗色の髪の娘「なによう海未ちゃんが悪いんじゃん、後一本後一本、遅かったらやり直しとか~!あ、そうだ海未ちゃんが嫌いな炭酸ジュースをおごってやる!うひひ」
園田師匠「穂乃果!!それとこれとは別問題です!お店で騒ぐのはマナーの問題なのですよ!」
声の高い娘「海未ちゃんも声が大きいよう~」
さすがに女子高生3人のかしましさは破壊力がある。
夕方の遅い時間のため営業のサラリーマンも少なく、ポツポツとしかお客が居ない店内がイッキに騒がしくなってしまった。
そのうちに栗色の髪の娘は惣菜パンとスポーツドリンク、炭酸のシーツーレモンを持って俺のレジに並んだ。
栗色の髪の娘「お願いします!!」
紫音「いらっしゃいませ~」
俺はバーコードを通しながら間近で栗色の髪の娘を見た。
背は翠音と同じくらいだろうか・・・きらきらと輝く大きくて丸い目は、睫毛が長く二重の目蓋も含め明るく快活な印象を与える。
全体的に小作りな顔で、右の頭にはちょこんとサイドテールが揺れている。
かわいい娘だなあ。
紫音「3点で363円になります~」
栗色の髪の娘「はいっ!これです!」
紫音「370円お預かり致します。7円のお返しとなります。ありがとうございました」
栗色の髪の娘「は~やっと食べられる~お兄さん!あそこで食べていいでしょ!」
ミニストッパには簡単なテーブルとイスが設置されており、会計済みの商品はそこで食べる事ができる。
紫音「どうぞ~」
栗色の髪の娘「わ~い、お兄さん良い男だねえ」
俺の返事も待たず、栗色の髪の娘はテーブルまで駆け足で行った・・・なんともせわしない。
次の娘が商品を置いた。
声の高い娘「はい、お願いします!」
紫音「いらっしゃいませ~」
これまた目を見張るほどかわいい娘である。
なぜかこの娘も右の頭にサイドテールを付けている。
先ほどの娘と結び方が若干違うようだが・・・流行なのか?
そこまで考えて俺は「あっ!!」と思った。
この3人は音ノ木坂高校初日に俺と紅音の前にいた3人である。
とりあえず冷静に声の高い娘が出したスポーツドリンクとフルーツ飴をバーコードリーダーに通す。
紫音「お会計は256円になります」
声の高い娘「は~い、あ、私もそこで食べるので、袋は要りません」
紫音「はい、レジ袋なしですね。260円お預かりします。4円のお返しです。ありがとうございました~」
声の高い娘はおつりを受け取る時、上目遣いで俺を見た。
瞳が動く様にはドキッとするような色気がある。
この娘も先ほどの栗色の髪の娘と同様、童顔に近いとは思うのだが、このかわいらしいさはなんだろう。
俺は思わず目が離せなくなり、声の高い娘の背中を見送ってしまった。
でもまあ1秒かそこらだったと思う、たぶん。
どん!
俺のレジに大きな音を立ててペットボトルが置かれた。
紫音「いらっしゃい・・・ま、せ??」
その時の園田師匠の顔はすごかった。
まず目は俺をギロッとにらみ付け、口は何事かを必死に伝えようと動いているが声は出ていない。
紫音「どうしました?その・・・?」
俺がそのだししょう、と言いそうになったところで園田師匠は泣きそうな顔で、レジを乗り越えるほど手を伸ばし俺の口を塞ごうとした。
更に唇に人差し指をあてるジェスチャーは・・・ああ、なるほど、名前を言ってくれるな、と・・・知らない振りをすれば良いのかな?
俺は園田師匠の置いた十七茶をバーコードに通した。
紫音「125円になります~」
園田師匠は黙って150円出し、俺の手に持たせた・・・手が一瞬触れ合った。
園田師匠はその一瞬で真っ赤になり、顔を伏せてしまった。
紫音「150円お預かりします。25円のお返しです。レジ袋はご利用になりますか?」
園田師匠は顔を伏せたまま頭を左右に振り、おつりを俺から奪うように受け取ると、2人のテーブルへ急ぎ足で行き、座った。
師匠、俺の事、友達に知られたくないんだろうなあ。
俺がそう思っていると、店内のテーブルから女子高生達のトークが聞こえてきた。
声の高い娘「海未ちゃんどうしたの、顔真っ赤になってるよ」
園田師匠「な、なななんでもありません。早く飲んで食べて帰りましょう」
栗色の髪の娘「え~まだ来たばっかだよう!もう疲れて動けない~。しばらく休む~。これは海未ちゃんのせいなんだから!」
園田師匠「ほ~の~か~!あなたって人は・・・」
声の高い娘「ねえねえ、それよりも~あの~・・・さ~・・・と思わない?」
栗色の髪の娘「うんうん!ことりちゃんも思った?あの子さ~ちょっとカッコイイよね!!」
声の高い娘「穂乃果ちゃん、聞こえちゃうよ・・・あの子ってことり達より年上かも知れないよ?」
栗色の髪の娘「いや~私の目に狂いはない!あれは同い年!ね~海未ちゃんもそう思わない?」
園田師匠「し、知りません!!」
女子トークは盛り上がっていたが次のお客が来て、俺はレジに集中しなければならなくなった。
う~残念。
3人は20分ほど飴を舐めながら女子トークをしていた。
園田師匠は栗色の髪の娘にシーツーレモンを無理やり飲まされそうになり怒っていた。
栗色の髪の娘「やい海未ちゃん、私のシーツーレモンが飲めないって言うのかい!人がせっかくお前のツルツルな肌を更に綺麗にしてやろうと言っているのに!」
園田師匠「や、やめて下さい穂乃果、嫌です、炭酸嫌いなんです!」
声の高い娘「やめてあげなよ~穂乃果ちゃん」
う~ん園田師匠の女子高生らしい所が見られて幸せだ。
3人のジャージ姿の背中を見ながら俺はふとヒロタカの言葉を思い出した。
それは学校でヤンマガに出ていたグラビアの娘がかわいい、という話をしていた時の言葉だ。
曰く「真実にかわいい女の子はジャージでもかわいい」である。
水着でかわいい女の子はまだまだ普通なのだそうだ。
そういう点で園田師匠3人組はジャージでもかわいいと思うのだから、かなり高レベルに違いない。