ラブライブ・メモリアル ~海未編~   作:PikachuMT07

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第6話 作詞のヒント

高校での授業が終わり、今日も弓道場へ向かう。

やはり実際に矢を放つ練習は難しいが楽しいものである。

力を使うので結構な汗をかきながら射っていると、だいぶ遅くなって園田師匠がやってきた。

昨日よりはマシだが、やはり園田師匠はいつもの精細さを欠いているような気がした。

紫音「師匠、園田師匠、こんにちは」

園田師匠「・・・ああ、桜野さん、こんにちは」

紫音「師匠は昨日、練習しないで帰ってしまったから少し心配で・・・試合も近いし。ウチの妹に聞いたんですが、もしかして音ノ木坂学院の廃校のことで元気がなかったんですか?」

そう聞くと師匠は少し暗めの表情で話してくれた。

園田師匠「あ・・・やはりご父兄に広まるのは早いですね。ええ、廃校の件ももちろんそうなのですが・・・その事で友人の一人が、昨日すごく落ち込んでいたんです。それで・・・その友人が今日、元気になってくれたのは良かったのですが・・・また変な提案をしてきまして・・・どこまでできるか分からないのですが、別の友人と少し手伝うという事になりました」

紫音「手伝うって・・・何をです?弓道の試合はどうするんですか?」

園田師匠「いえ、もちろん試合には出ます。しばらくは弓道とそちらを両立できるよう、がんばらないといけません」

紫音「う~むさすが師匠、人助けですか・・・がんばって下さい」

園田師匠「そういえばあなたも高校の弓道部が廃部になりそうだから入部した、と言っていましたね」

紫音「はい、確かにそうですけど、今は弓道楽しいですよ。がんばっただけ狙いがしっかり定まってきますからね。しかも俺、海外生活が長かったからこういう日本的なものにすごい憧れていたんです。ある程度、少なくとも来年の総体で成績残せるようにはがんばりますよ」

園田師匠「弓道、楽しいですか。それは良かったです。そちらこそがんばって下さい」

紫音「ありがとうございます、俺、家庭の事情でバイトもしなきゃいけないんで、俺も二足の草鞋ですよ。お互いがんばりましょう」

園田師匠は優しく微笑んでくれた・・・とてもかわいい・・・もっと仲良くなりたい。

その後は園田師匠と一緒に練習し、一緒に終了し道場を出た。

しかし期待した帰り道は同じ方向ではなかった・・・とても残念だ。

 

     ■□■

 

実家に帰ると夕食ができていた。

妹二人と母さんの4人で食事を摂る。

翠音「お兄さま、今朝のA-RISEのPVを見に行った話を雪穂ちゃんと亜里沙ちゃんにしたら、すっごく盛り上がったの~。来年はみんなでUTX高校へ行きたいねって話したの」

紫音「それは良かったな。そうだね、俺の高校は男子校だし、紅音の高校は廃校になるみたいだからな、UTX良いかもね」

紅音「翠音はいいわね、UTXが選べて。私あんなの知らなかったから伝統があるって事で音ノ木坂にしちゃったのよね・・・まあそれはそれで楽しいけど」

瑠璃音「母さんの経験からするとやっぱり学校がどうのよりも友達が大事よ?高校の友達って一生続くからね。仲の良い子ができると楽しくなるのよ」

紅音「それはそうだと思うけど・・・UTXの白い制服もちょっと着てみたいのよね」

瑠璃音「音ノ木坂の制服だってかわいいじゃない。ああ、そうそう、今日母さん、ピアノの調律で西木野さんっていうお家に行ったのよ。そしたらそこのお嬢さん、あなたと同じ制服を着ていたわ。同級生よね?紅音の話をしておいたわ」

紅音「え!そうよ、西木野真姫さん、私のクラスの子だわ・・・ママ、調律行ったんだ・・・」

母さんは現在、複数のピアノメーカに調律師として登録し、オファーがあると仕事に行くのである。

瑠璃音「紅音の学校、1年生は1クラスしかないものね。彼女の家、すっごい大豪邸だったわよ。あの子は少し恥かしがりやさんね。でもピアノの話とか好きな話題なら普通に話せる子よ。しかもすっごい綺麗な子ね」

紅音「う~ん、すごい綺麗な子なのは間違いないけどね。休み時間とか話しかけてもあんまり返事がないし、放課後とかすぐ音楽室とか行っちゃって、あんまり仲良くなれないのよ」

瑠璃音「ああそうそう、ピアノの購入名義が彼女の名前でね、見たら誕生日がすぐ近かったわよ。それを話題にして話かけたら?もし良かったらこの家に呼んでバースデーパーティしちゃえばいいじゃない。仲良くなれるわよ」

紅音「ママ、大胆なアイデアね・・・それで西木野さんの誕生日はいつなの?」

瑠璃音「ホントはお客様の個人情報だから話しちゃいけないんだけどね。4月19日よ」

紅音「分かったわ。なんとか本人から聞きだして、パーティを誘ってみるわ」

アメリカ暮らしが長いせいで、我が家の女子はホームパーティが大好きである。

ピザやケーキを食べながら女子トークをするだけなのだが・・・昨年までは毎月のように企画しては楽しんでいた。

引っ越してきてから友達がいなかったため、紅音はホームパーティに並々ならぬ熱意を抱いたようだった。

翠音「いいなぁ~お姉さま。翠音も混ざっていい?」

紅音「もちろんいいわよ!久しぶりにかわいい服着ましょ!お兄ちゃんはダメね。アパートに戻っててちょうだい」

俺は噴出した・・・ちょっと食べ物が口から出てしまった。

紫音「ぶほっ。なんでダメなの?」

紅音「き、汚いわねお兄ちゃん。ちゃんと口拭いて。西木野さんすっごい綺麗な子だから、お兄ちゃん絶対話しかけたり変なことしようとしたりするんだから!ダメったらダメ」

紫音「もう仕方ないな~じゃあ日取りが決まったら教えて」

ニューヨークではホームパーティはたくさんあって、どちらの友達でも兄妹揃って参加する事が多かったのだが・・・昨年まで女の子に声をかけまくっていた俺が悪いのか。

しかし向こうでは話しかけないほうが「変わった人」になってしまう文化なので、仕方ない。

そんなこんなで夕食は終わり、俺はいつものように妹の後に風呂に入ってからアパートに帰り、正座の練習をして寝た。

 

     ■□■

 

翌日の部活では筋トレをしたが、その時間中に園田師匠は弓道場に来なかった。

筋トレ後はバイトである。

品出し、レジ打ち、掃除については大体覚え、スムーズにこなせるようになっていた。

ミニストッパではそれにプラスしてハンバーガーやアイスクリームを作らねばならないのだが、俺はニューヨークのハンバーガー屋でバイトした事があり、その経験が大きく生きた。

そもそもここに即採用されたのもそれが大きかったと思われる。

 

実家に帰ると紅音からホームパーティ計画が始動したことを知らされた。

うまく誕生日を西木野さんから聞きだせたようだ。

誕生日当日は西木野さんは自分の家族と過ごすそうで、パーティは来週の日曜に行う事となったようだ。

そしてその日は弓道の高校総体の日であった。

紫音「あ、その日は朝から居ないな・・・弓道の試合がある」

そう言うと意外にも紅音は残念そうな顔をした。

紅音「あら、それは残念。お兄ちゃんが弓道してるところ少し見たかったのに」

紫音「う~ん、まだあんまり的に当たらないんだよな・・・もう少しうまくなったら見に来てくれ」

やはり見せるからには自信を持って見せたい。

 

     ■□■

 

翌日、俺が弓道場に行くと園田師匠はまた遅めの時間にやってきた。

しかも制服ではなくジャージを着ている。

そして盛大にため息を吐いている。

紫音「園田師匠、こんにちは。どうしたんですかため息吐いて。今日はマラソンでもしてきたんですか?」

園田師匠「ああ、桜野さん、こんにちは。つい今までそこの神田明神の階段で友人とトレーニングをしてたんです」

紫音「トレーニングって弓道のですか?それにしては冴えない顔をしてますね。美人が台無しです」

そう言うと師匠は焦った顔をする。

園田師匠「・・・あ、あなたはその・・・美人とか簡単に言わないで下さい。私がその、あまり晴れない顔をしているのは、友人二人がやりたい事に対しあまりに体力が追いついていない事と・・・そ、それから詩を・・・」

師匠の言葉はだんだん声が小さくなっていくのであまり聞き取れなかった。

紫音「し・・・と言いましたか?え~と、し、というのは英語で言うとポエム、ですか?」

園田師匠「・・・そ、そうです。なぜか私が歌の歌詞を書かねばならない事となってしまい・・・」

歌詞?友人の手伝いというのがそれなのだろうか。

紫音「師匠も新しい事を始めたんですね!何でも最初が肝心ですからね、最初がんばると後が楽ですから。歌詞って俺書いたことないですけど、友達ががんばっている事、助けてあげたい事を書けばいいんじゃないですか?あまり深く考えずスタートダッシュで勢いを付けたほうが良いと思います!俺も試合、スタートダッシュできるよう頑張ってます」

俺がそう言うと園田師匠は俺の顔を見つめ、何か納得したような顔になった。

俺と園田師匠はその後短い時間に集中して練習をした。

 


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