ラブライブ・メモリアル ~海未編~   作:PikachuMT07

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第51話 どんなときもずっと

俺の冬休みのアルバイトは、三が日は人手が足りないため出勤し、その後段々と出勤日が減っていくようになっていた.

Linerに寄るとμ'sは5日・6日が練習日で、その辺りは絵里先輩と希先輩のセンター入試受験まで、約一週間前である。

さすがにアイドルの練習をしていて良いのか心配になるが、練習は3~4時間なのだろうし、あの二人なら気分転換にちょうど良いのかも知れない。

そんな事を考えていた5日夜、穂乃果ちゃんから電話があり6日の予定を聞かれ、弓道の練習くらいしか予定が無い事を見破られてしまった。

穂乃果「ねえ!じゃあ海未ちゃんを付けるからさ、弓道の練習は夕方にして午前中、ウチに手伝いに来てよ!」

との事だった。

俺としては断る理由は何も無い。

 

     ■□■

 

翌日、午前中から妹二人を伴って穂むらへ向かった。

穂乃果「おーい!しょーくんおはよう!来てくれてありがとう!今日はお願いねっ!」

そう言って手渡された物は杵で、穂むらの前には臼があり、中には蒸したての糯米(餅米)が入っていた。

穂むらの前にはμ'sメンバーと雪穂ちゃん、亜里沙ちゃんも全員集合している。

穂乃果「いやー女の子だけで今ちょっとやってみたんだけどさあ、やっぱり時間かかっちゃうし、たくさんは無理だから、しょーくん頼んで良かったよ!後で私をわしわしして良いから!」

穂乃果ちゃんはその発言で皆様に怒られていた・・・懲りない娘である。

 

今日はラブライブ東京決勝で雪かきしてくれた人に、お礼として餅をご馳走するという企画で、図らずも音ノ木坂学院の生徒全員に連絡が行っているようだった。

三年生は受験直前で来れる人は少ないだろうが、1~2年生が半分しか来なくても60人分は用意せねばなるまい。

多めに設定して自分達の分まで入れると80人分は必要だろう。

俺は餅搗きが初めてだったので喜んで杵を握った。

始めは穂乃果ちゃんが合いの手を入れてくれた。

今日は1月にしては暖かい日で、俺は最初の2分でコートを脱ぎ、次の5分でセーターを脱ぎ、次の10分でネルシャツを脱ぎTシャツ一枚になった。

凛「あーっ、凛があげた猫のTシャツ、着てくれてる~」

俺は凛ちゃんの言葉に笑顔を返したが、話す余裕は無かった。

暑い。

その頃には音ノ木坂の生徒が集まり始め、μ'sメンバーと妹チームはきな粉、粒餡、こし餡、大根卸し、納豆、甘醤油、醤油と海苔、お汁粉、お雑煮などの準備に追われていた。

合いの手は穂乃果ちゃんからことりちゃん、海未ちゃんへ交代したが、俺は水を飲みつつ交代なしで餅を搗き続けた。

 

30分を過ぎると俺の上半身からは餅のように湯気が立ち上り始めた。

海未ちゃんが水を付けた手で餅をめくり、俺はハイペースで搗き続ける。

そんな様子を見に来た穂乃果ちゃんのお母さんが、いきなり爆弾発言をした。

穂乃果母「まあ!桜野くんと海未ちゃん、仲良く息が合って夫婦みたいね~!これは穂乃果の出る幕は無いわね」

それを聞いた海未ちゃんは、顔を朱に染め立ち上がった。

海未「おばさま、やめて下さい!」

海未ちゃんは必死になって否定する。

穂乃果「そうだよお母さん!まだ私にだってチャンスはあるよ!」

この二人の物言いに、言いたい事は俺にも山ほど有るが、息も上がり暑くて発言できず、苦笑するしかなかった。

 

搗き始めてそろそろ1時間という頃には、穂むらの前に多数の女子高生が列を為しており、俺は汗で体にピタリと張り付くTシャツに不快感を感じていた。

水を飲んでも体温が下がらず、俺はついに猫の絵付きTシャツを脱いで上半身裸になった。

女子高生一同「きゃーっ!」

上がった黄色い歓声にしまった、と思ったがもう遅い。

女子高生A「きゃーっ凄い筋肉!カッコイイ!」

女子高生B「ほら、あの人紅音のお兄ちゃんじゃない?」

女子高生C「あー、あれが生徒会長や凛をお姫様だっこしたっていう!すっごいカッコイイじゃん、紅音がブラコンなのも判る!」

女子高生D「なんか弓道も凄いんだって。都内でベストスリーとか」

女子高生E「やだぁどうしよう・・・腹筋とか超かっこいい」

噂や感想が波のように伝わって行くのが判った。

海未ちゃんは俺の体を見て目が明らかに泳ぎ、またもや顔が真っ赤になり立ち上がった。

海未「ことり、その、ちょっと鏡を見に行きたいので交代して下さい」

ことりちゃんを見ると、なんだかことりちゃんももじもじしている。

ことり「・・・ことりも・・・ちょっと身だしなみを整えたいな。穂乃果ちゃんお部屋借りるねっ」

海未ちゃんとことりちゃんはなぜか揃って穂むらの中へ消えてしまった。

俺は弾んだ息を整える事も兼ねて小休止し、誰か相方をしてくれないかと周りを見た。

そこに敏感に反応したのは凛ちゃんである。

凛「はーい!凛が相方するにゃー!今行くにゃっ」

凛ちゃんが穂乃果ちゃんのお母さんから軽く手ほどきを受けるのを待って、俺は餅搗きを再開した。

凛「はいにゃっ!はいにゃっ!」

軽妙な掛け声と笑顔の凛ちゃんは、一緒に餅搗きしていてとても楽しく、可愛い。

精力的に搗いていると、餅を食べ終わった女子高生数人が俺達を囲んだ。

俺の筋肉が珍しいらしく(女子高なのだから珍しいだろう)、きゃあきゃあ言いながら俺の体を指でつんつんしてくる。

俺としては汗ばんでいるし、触られるよりも話がしたかったのだが、凛ちゃんが「今は凛のモノなのにゃ!触っちゃダメにゃっ!」と言って追い払ってしまった。

まあいいか。

 

1時間を少し過ぎたところで用意した糯米は全て搗き終わった。

凛「終わったにゃー!しょ~くんお疲れ様!100人分くらいあるにゃ」

全身汗だくな俺は高坂家からタオルを借り、凛ちゃんにも手伝って貰いながら体を拭いていると、お汁粉担当だった紅音と翠音が戻って来た。

紅音「ちょっとお兄ちゃん!何脱いでるのよ!」

紫音「いや、もうちょっと、暑くて」

俺は息を整えながら言い訳する。

紅音「もう恥ずかしいよ!クラスの皆、全員お兄ちゃんの話するんだから!翠音、悪いんだけど家にお兄ちゃんの服取りに行って」

翠音「うぅ、判ったよぅお姉さま。しっかりお兄さまがクラスの子と仲良くならないよぅ見張っててね」

そう言って出ようとする翠音も、やはり女子高生にとり囲まれてしまった。

女子高生F「やだぁ紅音の妹さん!?めっちゃかわいいんだけど!」

翠音がここを出発するまででも、時間がかかりそうだった。

良く考えると翠音が帰って来るまでこのまま上半身裸というのも、間違いなく風邪を引くか変態さんの二つ名を引くかである。

俺は翠音を止め、片付けを頑張っている穂乃果ちゃんに頼み、Tシャツも高坂家から借りる事にした。

穂乃果「うん、いいよ!ちょ~っと待っててね!」

そう言いながら穂乃果ちゃんが持って来たのは、彼女がいつも朝練等に着ているのを良く見る、一面に大きく「ほ」の字が描かれたTシャツである。

俺がそれを着ると、にこ先輩が大笑いを始めた。

にこ「紫音、あんたそれ、穂乃果のコスプレね!」

その表現は承服しかねるが、ある意味事実なので笑われても返せない。

にこ「あんたがセミヌードになってからウブな子はみ~んな部屋に入っちゃって忙しくて大変だったけど、そのコスプレはウケるわ!許してあげる」

くっそー・・・悔しくなった俺はせっかくなのでこのままにっこにっこにーをしたらどうなるか、ちょっと実験したくなった。

が、体力的な問題もあるからやめておこう。

穂乃果「そのTシャツ、私だとだぶだぶだけど、しょーくんはぴったりだねえ!やっぱり男の子だなあ!しょーくんの分のお餅取ってあるから食べよっ!」

やっと食事にありつける・・・空いている丸椅子に座り、穂乃果ちゃんに薦められたいくつかの味付けの餅を口に運んだ。

自分が搗いた餅はやはり感動的に美味かった。

 

落ち着いたころ、海未ちゃんとことりちゃん、花陽ちゃんや亜里沙ちゃんも穂むらから出てきて、全員で餅を食べた。

醤油味の大根卸しや納豆に絡めたものまで美味しかったのは意外な発見である。

まあ餅の味以上に、皆の笑顔を見ながらの食事である事が一番美味しい理由に違いない。

凛「あーっ、なんかしょ~くんがニヤニヤしてる~エッチな事考えてない?さっきクラスの子に触られてニヤニヤしてたにゃ」

紫音「凛ちゃん、人聞きが悪い事言わないでよ。俺はね、夢が一つ叶ったから嬉しかったんだよ。幸せの微笑みって奴ね」

花陽「へ~、紫音さんの叶った夢って何ですか?」

花陽ちゃんが興味深そうに聞いてきた。

紫音「えーちょっと恥ずかしいな・・・それはね、ここに居る皆が参加して一つのものを作って、それに最後まで参加出来た事だよ。いつも準備は手伝うけど本番は応援するだけだから」

俺がそう言うと凛ちゃんが混ぜっ返す。

凛「ふ~ん、なんかしょ~くんがマトモな事言ってるー」

紫音「いや、この中では俺が一番マトモな人だから」

一同「それはない」

俺としては大変真面目に答えたつもりだったが、がなぜか全員にハモって即答された。

 

穂乃果「そっかぁ。今日食べに来てくれた子の中にも、μ'sが東京のトップになった事で夢が叶ったって子が居たよ」

雪穂「私も、マトモなお姉ちゃんが欲しいって夢叶ったよ!最近早起きするし計画的になったし可愛くしてくれるし~。去年の今頃は完全に牛みたいだったもん」

穂乃果「う~っ酷いよ雪穂~ばらさないでよー!」

高坂姉妹のいつものやり取りに、一同に明るい笑いが舞い降りた。

海未がまとめるように話し出す。

海未「私達の活動で夢を持って、それを叶えてくれる人がたくさんいるとは、嬉しいですね」

にこ「それがアイドルってモンよ!あんた達もようやくアイドルがどういうモノか、判ってきたわね!」

穂乃果「皆の夢を叶えるアイドルかぁ・・・う~ん、ちょっと違うなあ!ここまで出てるんだけどなあ!」

穂乃果ちゃんの何か考えているような物言いに、俺は反応する事にした。

紫音「穂乃果ちゃん、何か悩んでるみたいだね。俺は男だからμ'sにはなれないし協力出来る事も少ないけどさ」

皆を見渡しながら続ける。

紫音「μ'sと、それからここに居る愉快な仲間達と一緒に過ごせる時間も残り少ないけど、悩みが有るなら言ってね!穂乃果ちゃんのストーリーを最後まで応援したいからさ!」

穂乃果「何だかしょーくん、今日はいつにも増して、すっごく頼りになる!私のストーリーかぁ。でも私だけじゃなくて、これは皆のストーリーだよね!」

穂乃果ちゃんは皆を見回しその後もぶつぶつ何か言いながら、悩んでいるようだった。

 

楽しい時間は過ぎ、三年生が帰る時刻となり全員で後片付けをした。

三年生の帰り際、μ's9人は輪になり、俺を含む愉快な仲間達はそんな9人を外側から見守る。

全員がお互いの顔を見た後、やがて穂乃果ちゃんが切り出した。

穂乃果「絵里ちゃん、希ちゃん、にこちゃん、入試頑張って。しばらく会えないけど、淋しかったら会いに来てね」

絵里「会いに行くわ」

ことり「嬉しい時も会いに来て欲しいな。ことり達も行くから」

希「会いに行くよ。会いに来てよ」

にこ「そんな気持ちにもなるわよ。この半年以上ずっと一緒だったんだもの。進む時も、悩む時も」

真姫「大丈夫、繋がっていられるわ。少しくらい会えなくたって、ずっと心は繋がってる」

海未「だから絵里、にこ、希、あなた達の本気で夢を、明日を掴み取って来て下さい」

凛「きっと出来るにゃ!凛の大好きな先輩達なんだもん!」

花陽「もし勉強が辛くて迷いそうになったら、たまにはゆっくり、絵里ちゃん達のペースでやりたい事を見つめてみて下さい」

そこまで聞いて、俺は思わず口出ししてしまった。

紫音「そうですね、その後全力で頑張って下さい!そうやってモチベーション上げれば気が晴れて、空に舞い上がるほど効率は上がりますよ!」

穂乃果「どんな時だって、絵里ちゃん、希ちゃん、にこちゃん、私達はずっと見つめてるよ!だから頑張ってね!」

絵里「この半年、楽しい時も悲しい時も、皆そばに居てくれたわね。ずっとそばに居て欲しいけど、勉強は私達個人の戦いだから。ありがとう。皆大好き。ずっと伝えたかった」

希「えりち、そういう時は何も言わず抱きしめるんよ。ウチはちょっと志望校高くて苦い刺激になるかも知れんけど、皆で励ましあえばきっと叶う、て思うてんよ」

にこ「そうよ、私達だけじゃなくて、全員で全力で頑張るのよ!にこの未来には、ラブライブでキラキラ輝きながら歌うってのが入ってるんだから。新曲頼むわよ!」

真姫「判ったわよ。新曲はしっかり作るから。だからにこちゃんも強くなって、自分から逃げないでしっかりと勉強するのよ?」

穂乃果「焦らず、受け入れて、そして全力で頑張って。お互いに私達はずっと見つめてる」

しばらく練習日が無いμ'sメンバーの、お互いを励まし再会を誓い合う言葉は微笑ましい限りだ。

俺も一人の部活じゃなかったら、弓道団体に出れるチームだったら、こんな仲間と出会えたのだろうか・・・。

いや、このメンバーだからこそ、こういう言葉が出るのだと思った。

 

 (スクフェス「どんなときもずっと」プレイをおすすめ!)

 

絵里「・・・ねえ、明日、朝練しない?ねえ、希、にこ、良いでしょう?」

希「えりちが良いならウチは付き合うよ!にこっちも来るでしょ?」

にこ「にこは構わないけど・・・あんた達、テスト勉強もしっかりやりなさいよ!終わってから後悔なんてしないでよ!明日の朝練で本当に一旦終わり。その後は・・・」

絵里「その後は二次試験後に衣装合わせと曲と振り付けを貰って、合格発表後に練習再開よ」

希「テスト合間の登校日は他の部活も無いから校庭で練習しても良いやん。あとこの9人で遊ぶ日くらい欲しいし」

にこ「はいはい、じゃあとりあえず今日は解散よ。明日は最後の朝練ね。皆、今日はお疲れ様!紫音、妹達、お手伝いありがとう。助かったわ」

紫音「いえ、餅搗き初めてだったんで楽しかったです。先輩達、入試頑張って下さい。じゃあ俺、弓道の練習行くんで、これで失礼します」

 

楽しい想い出を残し、三年生は笑顔で手を振って帰っていった。

妹チームと一年生はカラオケ屋に遊びに行くようである。

妹チームも高校受験まで1ヶ月を切っている受験生なので、俺は紅音に妹達を早めに帰らせるよう言い含め、荷物を持って弓道の練習に向かおうとした。

穂乃果「おーいしょーくん!忘れもの!海未ちゃんを忘れてる!」

穂乃果ちゃんの声を聞いた海未ちゃんは、機敏に反応する。

海未「なっ!?なぜ私があの人の忘れものなのですか!?」

焦る海未ちゃんに穂乃果ちゃんは照れ笑いしながら言った。

穂乃果「いやあ、しょーくんは雪かきもしてくれたのに今日すっごい量のお餅搗いて貰ったからさ、お礼に弓道の練習に海未ちゃんを付けるって言っちゃったんだよ」

海未「はあっ?また人の許可を得ず勝手に!いい加減にして下さい!」

それを聞いていたことりちゃんが手を挙げた。

ことり「あ、じゃあ海未ちゃんが行きたくないならことりが行きます!弓道の事はあんまりだけど、一生懸命お手伝いします!」

海未「い、行きたくないとは言っていません!わ、私が行きます」

ことり「いいよ、海未ちゃん疲れてるでしょう?紫音くん、行こう!」

ことりちゃんがそう言って歩き出そうとすると、穂乃果ちゃんが服を掴んで止めた。

穂乃果「ことりちゃん、ゴメン・・・ことりちゃんは、私の冬休みの宿題を見て欲しいんだけど・・・」

ことり「ええ!?い、嫌だよ!やんやんっ!穂乃果ちゃん、宿題は自分でやってよ~」

穂乃果「ゴメンねえことりちゃん・・・ほら、宿題の事言うと海未ちゃん怖いから」

海未「穂乃果、聞こえてますよ?ことり、申し訳ありませんが穂乃果をお願いします。私は今日のお礼に、μ'sの代表として!彼に弓道の指導をします」

ことりちゃんは穂乃果ちゃんに首根っこを引っ張られ、泣きながら穂むらに連れ込まれていった。

ことりちゃんにも俺の射る姿を見て貰いたい気持ちはあるが・・・ここはやはり海未ちゃんとの練習の方が間違いなく上達すると思う。

 


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