ラブライブ・メモリアル ~海未編~   作:PikachuMT07

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第48話 雪の中で

翌日以降もバイトが無い日は一緒に勉強する約束をしていた俺達だったのだが・・・結局3人揃って勉強出来た日は、最初を入れて3日程度しかなかった。

というのは最初に勉強した日の翌日に、真姫ちゃんがラブライブ東京決勝用の新曲を書き終えたからである。

期末テストが終わってからでは衣装が間に合わないので、ことりちゃんは真姫ちゃんの仮歌を聞いてイメージを作り、衣装のデザインをするため勉強会を欠席した。

デザインを決め生地を買う所までは、最低でもテスト前に終わっていなければならない。

海未ちゃんも振り付けとフォーメーションを決める手伝いと、テスト後にある学校説明会(決勝当日!)の生徒会の準備があり、勉強会ができる日は減っていった。

ことりちゃんが欠席のため海未ちゃんと二人だけの勉強会に期待したのだが・・・残念ながらそういう日は1日しかなく、時間も短かった。

さらに海未ちゃんはテスト直前には穂乃果ちゃんにも詰め込みをせねばならない。

図書館で穂乃果ちゃんを入れて4人で勉強するのはリスクが高く、俺が穂乃果ちゃんの部屋に入るのは絶対ダメと言われ、海未ちゃんを穂乃果ちゃんに取られる格好になってしまった。

それでもたった1日でも、学校帰りに待ち合わせをして二人で会って勉強するというのは、恋人気分を味わうのに充分な力があった。

俺が古文や現代文の質問を海未ちゃんにする事の方が多かったが、穂乃果ちゃんに教え慣れている海未ちゃんは的確に教えてくれた。

時々目が合うと頬を染めて俯く海未ちゃんは、可愛いかった。

 

     ■□■

 

お蔭様で期末テストは何とか乗りきる事が出来た。

俺の英語の知識は少し彼女達の手伝いが出来たかな?という所だが、やはりこの時期に勉強を見て貰ったのは負担をかけてしまったと思う。

次は俺がお返しする番だ。

 

     ■□■

 

Linerのμ'sグループの発言はテスト一週間前から大分減っていた・・・もちろん俺が見れる発言は、である。

おそらく皆勉強と自分の衣装の作成、歌とダンス、フォーメーションの詰め込みで大変なはずだ。

少なくなった発言から判る事は、まず絵里先輩と希先輩が受ける大学入試センター試験まであと1ヶ月を切っている点だ。

次に、にこ先輩は短大へ進学するようで入試のタイミングが少し違うらしい点。

3年生は受験対策で期末テストがある教科は絞られているため、にこ先輩が3年生全員の衣装を作っている点だ。

今までもこのようなタイトスケジュールが多かったし、μ'sなら期末テスト終了からラブライブ東京決勝までの数日で間に合ってくれるとは思うのだが・・・俺が手伝える事は何もない。

決勝は一曲だけだが、あのお姫様達は毎度、ハラハラさせてくれるのである。

 

     ■□■

 

12月23日ラブライブ東京決勝の日は、皆の祈りにも関わらず前夜から大雪が降っていた。

翠音と母さんは午前から連れだって、音ノ木坂学院の学校説明会に出かけて行った。

学校説明会は生徒会と選ばれた係の生徒だけが登校して手伝うので、紅音と俺は今日から冬休みスタートである。

予定は16時からのラブライブ東京決勝の応援しかないので、家で二人でのんびりしていた。

 

窓の外は若干吹雪の様相を呈していた。

決勝大会、本当に出来るのか心配になってきた午後2時半、紅音のスマフォがLinerの発言を告げた。

紅音「お兄ちゃん!大変大変!電車が止まってるんだって。それでことり先輩達、丸の内まで走るから雪かきしてって!」

紫音「・・・おいおい紅音、お前何言ってんだ?確かに山手線と京浜東北線はこの雪じゃ止まるかも知れん。しかし地下鉄は雪関係ないだろ。しかも走るって意味判らない」

紅音「えー・・・だってLinerにそう書いてあるんだもん」

紫音「今日、会場は東京駅の前だろう?丸ノ内線で大手町まで乗れば良いから神田明神から御茶ノ水駅まで走るって意味かな?」

俺は地下鉄の路線図を頭に思い描きながら言う。

紅音「うー、なんか神田橋に向かって走るんだって」

紫音「神田橋って俺の学校のほうだなぁ。まああの娘達、いつも走ってるから体力的には問題ないだろうけど、転んで怪我したら大変じゃんか」

紅音「だから雪かきしろって事なんじゃない?」

紫音「えー?走る所全部?無理あるなあ・・・汗かいたらちゃんとしないと風邪引くし、そもそもマンション暮らしの我が家に雪かき用スコップってあるのか?」

紅音はとことことベランダに歩いて行き、窓を開けて見回し・・・何か見つけたようだ。

紅音「お兄ちゃん、ビニール袋持って来て」

紫音「はいよ・・・うおっ寒っ!」

紅音は母さんがベランダ菜園で使っている小さめのシャベルとスコップ、塵取りをビニール袋に納めて、俺に渡してきた。

紫音「えーと、紅音さん?これは?」

紅音「もちろんお兄ちゃんも雪かきするのよ!私着替えるからお兄ちゃんも早く着替えてね」

ことりちゃんには大変協力的な妹なのであった。

仕方ない、男手があった方が良いだろう。

俺も着替えて出撃するか。

 

紫音「これマジでおかしい!吹雪いてないか?」

紅音「う~っ寒いよう!お兄ちゃん、頑張って~」

やめろと言ったのに紅音は「暖かい生地だから平気!」と強行にミニスカート+ニーソを身につけた。

その上にフェルト生地のフード付きコクーンコート(ミディアム丈)を羽織って出発し、最初は俺の腕にぶら下がっていた紅音だったが、今は後ろで俺のコートに掴まって歩いている。

そんな俺達に時折風が強烈に吹き付ける。

普通に考えて風がこのままなら、屋外会場である決勝は中止になるはずだ。

もし地下鉄がない地域の学校が決勝に残っていれば、そもそも出場校が会場に辿り着かない。

雪かき後に中止になったら目も当てられないし、丸ノ内線以外にも千代田線や銀座線もあるのだから地上を行く経路は最短に出来るはずだ・・・と俺は心でぼやいた。

 

俺達は苦労して歩き、神田橋までやって来た。

途中営業している店舗の前は雪かきも進んでおり、俺達は誰も担当しないであろう神田橋近くの雑居ビル前の雪かきを始めた。

他に紅音にLinerを送った女生徒も数名雪かきをしている。

風が収まってきたので、俺はここぞとばかりに除雪モードを発動した・・・とは言ってもただ単に速度を上げただけだ。

一回り小さいシャベルなので回数を多くしないと捗らない。

20分ほど働くと、その一帯は小走りくらいはできるようになった。

紅音はスコップで塵とりにチマチマと雪を溜めて歩道脇に持っていく事を繰り返していたが・・・どちらかというと雪遊びに近かった。

 

紅音「あっ、ことり先輩達来た~」

その声に顔を上げて見ると、神田側からμ's二年生がマラソンで、大手町側からは一年生と三年生の6人がいつの間にか迎えに来ていた。

穂乃果ちゃんは俺達の前を通り過ぎ、絵里先輩にガバッと抱きついて大泣きを始めた。

間に合わないと思って心細かったのだろう。

現生徒会長の飾らない涙に、貰い泣きしている女生徒もいる。

荒い息のことりちゃんと海未ちゃんを避け、俺は近くで腕を組んでいる真姫ちゃんに聞いた。

紫音「ねえ真姫ちゃん・・・どうして地下鉄に乗せなかったの?走ったら転ぶかもだし汗かいて風邪引くし・・・」

真姫ちゃんは小さな溜息を吐く。

真姫「私だってそうLinerしたわよ。でも『走る!間に合わせる!』って書き込みの後、3人とも見てくれないのよ」

・・・そりゃまあ傘を持って雪の中を駆けつつスマフォを見て返信できるようなら、スクールアイドルよりもっと向いているものがありそうだ。

武装探偵は無理でも横浜の女子高生迷探偵になら、弟子入りくらいは出来るかも知れない。

紫音「それでも、今日屋外会場でしょ?悪天候じゃ中止になるんじゃないの?」

真姫「決勝は出場校が4校しかなくて、リハーサルが有るから他の学校は午前中から来てたのよ」

そこで真姫ちゃんは切れ長の大きな目を俺に向けた。

真姫「それに会場を新たに押さえるのは無理だから、よほどの悪天候じゃない限りやるんだって。雨じゃ中止だけど少々の雪ならやるって事ね」

とは言ってもさすがに吹雪なら中止だろう・・・この後、先程までのような荒天にならないよう祈るしかあるまい。

真姫「穂乃果達が遅れるって判ってから、4校のうち出演の順番を一番最後にして貰ったの。A-RISEの後ね・・・でも結局9人でのリハは出来ないわね、この時間じゃ」

紫音「A-RISEの後かあ・・・まあでもこれは実質日本一決定戦みたいなモノだし、リハーサル出来なかったのは痛いけど、頑張るしかないね」

俺がそう言うと、真姫ちゃんは紅音と同じ歳とは思えない色気が漂う微笑みを浮かべた。

真姫「今日の曲は私達が9人になって、お互いを大切に想いながら全員で作った記念の曲なの。でも、きっとそれだけじゃない感情を持っている子がいるわ」

真姫ちゃんは俺の肩をポンと叩いた。

真姫「私達はもちろんA-RISEに勝つつもりで歌うわ。けれど勝ち負けよりもこの曲は大事なの。これが最後になっても良いように、9人が一つになれた奇跡への感謝を表現する歌なのよ」

真姫ちゃんはいつにない熱い言葉と共に、ウィンクを寄越した。

真姫「それプラス、誰かさんから誰かさんへ、溢れる気持ちを伝える歌なの。だから応援も嬉しいけど、ちゃんと聴きなさいよね!」

・・・なんだか、意味深である。

 

穂乃果ちゃんは雪かきで集まったメンバーに感謝を述べた。

俺はとっくに息を整えた海未ちゃんに、なぜ地下鉄に乗らなかったのかこっそり聞いた。

「雪かきされ靴まで用意されて空気的に」との事だった。

まあ転ばなかったし間に合ったんだから、もう良いだろう。

μ's9人が仲良く、控え室があるビルに歩いて行くのを見守った俺は、スマフォの画面で時間を確認した。

そろそろ俺達も会場でベストな応援ポジションの確保に当たらねばなるまい。

 

     ■□■

 

東京ミレナリオンは丸ノ内にある通りを一本丸々使い、芸術的にライトアップしたエリアにある。

そのイルミネーションはクリスマスというよりも技術的な限界への挑戦に感じられ、宗教的に必要な飾り付けのレベルを遥かに超えていた。

だがそれは第一回ラブライブ優勝チームであるA-RISEには相応しいステージであり、この会場での優勝チームが第二回ラブライブ優勝も高確率で狙えるため、全国大会としてもマッチした会場に思えた。

俺としては寒い中会場設営を手伝わずに済み、大変ありがたい。

 

雪穂ちゃん、亜里沙ちゃん、翠音の中学生チームも合流し俺達は中央のステージ近くという絶好の位置でA-RISEのライブを楽しんだ。

最後の出場チームはμ'sである。

 

9人はちらほらと雪が舞う中、それぞれの想いをしっかりと抱いた表情で横一線に並び、会場の雰囲気にも臆さず、真っすぐに顔を上げていた。

もちろん勝ちたい気持ちも有るだろうが、それよりも表現したい、伝えたい想いが在ることが俺には判った。

 

新曲は「Snow halation」である。

イントロはピアノだった。

雪が降る中、降って湧いたような気持ちを歌う、今日という冬を感じる日にぴったりの歌詞だった。

やがて曲は優しいながらもリズム感を増して行く。

歌詞に導かれ、あの娘に初めて出会った弓道場が胸に浮かんだ。

あの時俺は何を想っただろうか?

二番の歌詞に入る頃には俺にも判っていた・・・これはラブソングだ。

運命が廻ったことりちゃんの告白が頭をよぎる。

いつの間にか大きくなった真実の気持ち・・・その次のメロディーでステージ上の9人が全員、俺を見た気がした。

 

その歌詞に、俺は胸を打たれた。

「μ'sが終わるまで待って欲しい」と言った彼女の苦しみがストレートに伝わってきた。

勘違いしても良いだろう。

あの娘は9人から言葉を集め、俺との事を考えながらこの詩を作ったのに違いない。

いつしか俺の目には大量の水分が集まって来ていた。

 

ギターソロの間、9人はそれぞれの想いが溢れる動きをしながら中央に集まっていった。

その中心で穂乃果ちゃんは顔を上げ、他のメンバーは後ろを向いて、曲はラストスパートに入った。

ステージ奥から連なる光の門が、白からオレンジに変わって行く。

その瞬間、穂乃果ちゃんは世界中で一番輝いている女の子になった。

穂乃果ちゃんの切なくも甘く力強い歌声に、俺の涙腺がついに決壊した。

やべえ、最後になるかも知れないライブなのに・・・良く見えない。

何やってんだ俺・・・早く見ないと。

だが拭いても拭いても俺の目には雲がかかったままだった。

9人の全力の歌声が聴こえる。

でも見えない。

肝心な時に役に立たない、使えない目だ。

まったく残念としか言いようがない。

 

 (スクフェス「Snow halation」プレイをおすすめ!)

 

曲が終わった。

雪が舞う中、万雷の拍手が湧いた。

紅音と翠音にはバレバレだが、雪穂ちゃんと亜里沙ちゃんにはばれないよう、ハンカチで急いで涙を拭う。

視力を回復させ中学生チームを見ると、4人も感極まった所があるようで目には涙が光っていた。

投票は本日の24時まで、明日の午後には結果が出るはずだ。

素敵なクリスマスプレゼントになって欲しい。

いや、絶対になると思う。

そう確信できる。

 

     ■□■

 

μ'sは着替えや大会運営とのミーティングがあるようで、寒い中待って風邪を引いてはいけないと思い、俺達はそこで帰宅した。

自分の部屋でリラックスできる体制を作り、スマフォを取り出す。

さてLinerになんと書こうか・・・とりあえず「最高だった、A-RISEを超えた」と書こう。

泣いてしまった事は隠しておくべきだろうな、うんうん。

そんな事を思っていると、やがてLinerに多数の発言が上り始めた。

穂乃果ちゃんの「ありがとう」発言に思わず俺は「穂乃果ちゃん、世界一かわいかったよ」と書き込んでしまった。

すると「鈍過ぎるにもほどがある」「天才的鈍さ」「普通だったらとっくに気づくレベル」「残念」などと恐ろしい量の発言があっという間に飛び交った。

何気に紅音と翠音も「お兄ちゃんに女の子の気持ちは判りません」と攻撃的なのも傷つく。

男子校の俺にそんなモノが判るはずがない・・・と開き直りたい。

穂乃果ちゃんだけは「しょーくん正直だなあ!でも私、明日から東京のトップスクールアイドルだからさあ~告白されてもすぐ付き合えないよ~」と呑気だった。

しかし褒めると怒られるというこの展開は俺の人生にはとても多いシーンである。

俺は落ち着いて言い訳を開始する。

「書き込み遅くてごめん。最初にリーダーの穂乃果ちゃんを褒めたの。順番に全員褒めるつもり」

若干発言が鎮静化したタイミングで急いで残り8人の褒め言葉を考え、発言していった。

絵里先輩の振り付け、ことりちゃんの衣装デザイン、真姫ちゃんのメロディー、希先輩と花陽ちゃんは胸・・・ではなく歌声を、凛ちゃんはダンスのキレを、それぞれ褒め言葉を尽くして書き込んでいく。

にこ先輩は宇宙一なので地球人の俺には褒められない、とでもしておこう。

 

さて最後は海未ちゃんだが・・・俺のために書いた歌詞と言って良いのだろうか・・・さすがに全員が見ているグループスレッドに書くのは憚られる。

考えているとにこ先輩から「紫音、あんたねえ、他に言うことあるでしょ?サイドストーリーばっか進めてんじゃないわよ」と書き込まれてしまった。

更に海未ちゃんの発言もあった。

曰く「私を褒めては下さらないのですか?」である。

うーむ、さすがに「あの曲、俺にプレゼントしてくれたんだよね?」とは聞けない。

聴いている最中はそう思ったのだが・・・自室で冷静になって普通に考えると、図々しいし自惚れ過ぎに違いない。

熟考の末、「今日みたいな雪の日にぴったりの冬のラブソングだったね。素敵な詞でした。恥ずかしがり家の海未ちゃんがμ'sのためにすごく頑張った事が判った」と書き込んだ。

皆様の反応は「頑張ったって」「海未、Never give up」、「頑張らねば~」、「頑張ら粘」、「粘粘ギブアップ」と変換ミス?から微妙な空気の会話になっていった。

俺が返答に困っているとそこで、亜里沙ちゃんが良い娘ぶりを発揮した。

「でも紫音さん、二番のサビくらいから号泣してましたよ?素敵なんて表現では足りない気がします」

良く見てる・・・誤魔化しでは女の子には勝てない事が骨身に染みた俺であった。

 

 (スクフェス「ラブノベルズ」プレイをおすすめ!)


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