ラブライブ・メモリアル ~海未編~   作:PikachuMT07

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第44話 お兄ちゃんを好きじゃない人

海未ちゃんに逃げられ告白に失敗した俺は、ノロノロと帰宅した。

妹達は興味津々で俺を待っていたようだが・・・俺の顔を見て察してくれたらしい。

トートバッグに入っていた弁当箱を洗い、返せるように片付けてくれた。

俺は夕食もそこそこに短くシャワーを浴び、自分の部屋に戻った。

さすがに明日、弁当箱を紅音に持って行かせるのは酷なので、気乗りは一切しないが音の木坂学院まで一緒に登校する約束をした。

ベッドに腰掛け携帯を取り出す。

海未ちゃんにメールを送るべきだろうか?

しかし・・・先ほどのあの反応からして、余計怒らせるという可能性も充分にある。

逆に「あれだけ怒らせておいてお詫びの一つもない」と、送らない方が火に油を注ぐような気もする。

考えた末、簡単なメールを入れる事とした。

文面は「今日はありがとう。無事に帰れた?今日、俺はキミに一つも嘘は言ってないよ。楽しかった」だ。

送信ボタンを押すのに5分ほど躊躇したが、結局送信した。

返信は夜中近く、もう寝るという時間に来た。

「こちらこそ、ありがとうございました。すみませんが、もう少し時間を下さい」と書かれている。

俺はどういう立ち位置なのだろう?執行猶予という言葉を思いつき悶々と眠れぬ夜を過ごすのかと思ったが、疲れていたのか俺はいつの間にか寝てしまっていた。

 

     ■□■

 

翌朝俺はμ'sメンバーと会いたくなかったので、紅音を急かし、朝練には被らなそうな早い時間を選び音ノ木坂学院に向かった。

校門前でトートバッグを紅音に預け、速攻で退散する。

登校中紅音にも散々突っ込まれたが、話したくなかったので誤魔化し続けた。

まあどうせ凛ちゃんと花陽ちゃんから詳しくばれてしまうのであろう・・・とはいえ情けないがさすがに俺も、もう少し時間が欲しい所である。

 

     ■□■

 

放課後、今日はバイトがあるので本来は弓道場のトレーニングルームで筋トレ後、バイトに向かう流れである。

いつもならわざと神田明神を通過して行くのだが・・・今日は避けて別の道で道場に入る事とした。

・・・しばらくこの道を使う事になりそうだ。

バイトはありがたい事に佳織ちゃんもすみれさんも出勤で、3人で楽しく仕事した。

もうすぐ仕事終了という21時15分前、なんだかやけにオシャレな女子高生が来たと思ったら、紅音だった。

紅音は店にある一番高いプリンを持って、わざわざ俺のレジに並んだ。

紅音「はい、このお金、花陽から預かって来たわよ。お駄賃でプリン奢ってもらうわね」

紫音「な、お前何で店まで来るんだよ・・・お金はここレジだから、一旦普通にお釣り出すから。後で返せよ」

失敗した事に俺は「いらっしゃいませ」を言わなかったので、佳織ちゃんに気づかれてしまった。

佳織「あ、紫音先輩、その子すっごくかわいい子じゃないですか!もしかして、彼女さんですか?」

あ~その間違いは・・・盛り上がるパターンである。

紫音「あ~違うよ佳織ちゃん・・・こいつは俺の妹で・・・」

紅音「桜野紅音です!いつもお兄ちゃんがお世話になってます!で、お兄ちゃん?バイト先の女の子がこんなにかわいくて、しかも二人も居るなんて、私、聞いてないんですけど?」

彼女に間違われた紅音はかわいい声で挨拶したが・・・俺への追求には棘がある。

佳織「え、あかねちゃんって言うの?やだ、佳織はそんなかわいくないけど・・・紫音先輩、佳織は弓道の試合も見に行ったんだから!遠慮せず家族の人に紹介して下さいよ!」

あ、あはは~またこの娘は会話に火をつけるの上手だなおい!

まだ業務時間は少々残っており・・・俺は大変不安になった。

すみれ「はじめまして、私は神流すみれです。お兄さんには色々教えてもらってます。本当にかわいい妹さんね!紫音くん」

佳織「佳織もはじめまして、華宮佳織です!お兄さんにはすごく優しくしてもらってます!・・・もしかして私達って・・・同じ年?」

紫音「そう、キミら高1で同じ年!ちょっと!他のお客様来たから、紅音、お前はそこで待ってろ。引き継ぎもあるしすみれさん、佳織ちゃんも、もうちょっとがんばろう」

俺は会話が盛り上がる寸前で何とかその場を収め(収まってなかったという意見もあるが)、てきぱきと働き、夜番のおじさんバイトに引き継ぎを済ませ、本日の業務を完了させた。

 

すみれさんと佳織ちゃん、紅音と共に店の外へ出る。

すみれ「お疲れ様でした!ねえ桜野さん、紅音ちゃんって呼んで良いかしら?お店にもっと遊びに来てね。こんなかわいい妹さんじゃ紫音くんが隠したがる気持ちも判るけど」

佳織「お疲れ様でした~そうホントにびっくり!こんなに素敵な兄妹っているんだね・・・ね、紅音ちゃん!佳織と友達になってよ!」

とにかく彼女に間違われた紅音はいつにも増して機嫌が良かった。

紅音「うん、佳織ちゃん、だよね。もちろんです!どこの高校なの?」

二人がメアドを交換した後、佳織ちゃんが紅音の服装を褒めた為、すみれさんも巻き込み会話は恐ろしく盛り上がってしまった。

すみれ「良いなあ。私田舎に住んでたから高校の頃そういうかわいい服着れなくて・・・」

佳織「え~すみれさん、今でも全然女子高生の服着れますよ~絶対かわいい!」

紅音「そうですよ!今からでも遅くないです!あ、でもウチのお兄ちゃんの前では着ないで下さいね。すぐエッチな事されちゃいますから」

いきなり振られた俺はあたふたしながら言った。

紫音「な、なんつー事言うんだお前!俺はそんな事しねーよ!それからこの時間にそんなかわいい服着るなっていつも言ってるだろ!」

するとすみれさんはくすくす笑いながら言った。

すみれ「そう、紫音くんは紳士よ。私がかわいい服着てても、自信無くなっちゃうくらい何もしてこないの」

佳織「そう、紫音先輩ね、奥手だよっ?佳織も弓道の試合、割とかわいい服で応援に行って、帰り二人っきりだったのに~普通の話しかしないの」

紅音の視線が超鋭くなった。

紅音「お二人とも、それがお兄ちゃんの手だから。二人ともすっごくかわいいし、お兄ちゃん頭の中でやらしい事考えてるんですよ!絶対近づいちゃダメです」

紅音は何か汚らわしいものを見る目で俺を見ている。

紫音「ちょっ、紅音!お前酷いな!兄を変態みたいに言いやがって」

すみれ「ふふふ、紅音ちゃん、お兄ちゃんの事大好きなんだね~~良いなあ!私もこんなお兄ちゃん欲しかったなあ」

すみれさんがそう言うと、佳織ちゃんと紅音が一斉にしゃべりだし、訳が判らなくなった俺は堪らず言った。

紫音「み、皆さん盛り上がっている所悪いんだけど、ここ店の前だし時間も遅いから帰ろうか!な、紅音!」

佳織ちゃんと紅音はしゃべり足りず大層不満そうだったが、すみれさんの手助けもあり何とか解散することが出来た。

佳織ちゃんと紅音はすっかり意気投合したようで・・・俺にとってはろくでもないネットワークが出来てしまったようである。

大変不安だ。

 

紅音と二人で帰路に着く。

紅音「はい、お兄ちゃん。花陽から預かった昨日のお釣り。プリン代ここから払ったから。佳織ちゃんとすみれさん、超かわいいじゃない・・・どういう事よ?」

紫音「どういう事って・・・俺が雇ったんじゃないし、知らないよ。俺の方が半年早く入って教育係になっただけ」

俺がそう言うと紅音は形の良い唇を尖らせた。

紅音「ホントお兄ちゃん、男子校なのにどうしてかわいい子ばっかり周りにいるのよ!ちっとも安心できないわ!」

紫音「知らないよ。だいたいかわいい娘が居るだけじゃ意味無いよ。好きな娘に相手にされないんじゃね・・・」

俺がボヤくと紅音は瞬時に反応した。

紅音「・・・お兄ちゃん、良くそんな事が言えるわね!お兄ちゃん、一昨日ことり先輩の事、振ったんでしょ!」

それを聞いた俺は飛び上がるほど激しく動揺した。

紫音「ぐほっ!な、なんでお前がそれ知ってんだ!!ってか声が大きい!」

しかし紅音が俺を責める声は全く小さくならず、逆にエスカレートしていった。

紅音「ことり先輩から直接聞いたのよ!あのねお兄ちゃん!ことり先輩がどれだけお兄ちゃんの事好きだったか知ってるの!?私ほどじゃないけど、ことり先輩はすっごくお兄ちゃんの事好きなんだよ!」

紫音「ば、お前、声が大きいってば!」

紅音「お兄ちゃんだってことり先輩の写真を机に貼るほど好きだったじゃない!私はね、ことり先輩ならお兄ちゃんを取られても仕方ないって思ってたの!」

紫音「と、取られるって何だよ・・・あとお前、もう少し小さな声でだね・・・」

紅音「それなのに、どうして断るの!?それでまさかと思うけど・・・昨日凛ちゃん達がお兄ちゃんを見つけた時、園田先輩と逃げたんですってね」

うわ~やっぱり全部ばれてる・・・俺は一応抵抗してみた。

紫音「いやあれは逃げたのではなく、弓道の練習に・・・」

紅音「それならちゃんと会計して、練習だって言ってから帰れば良いでしょ!それでまさかお兄ちゃん・・・園田先輩に告白したんじゃないでしょうね?」

紫音「あ、あのね紅音ちゃん?もう少し小さな声で話そうか?ここは道路ですよ?」

しかし紅音は俺の頼みをまったく聞いておらず、路上だというのに言い聞かせるような口調で言った。

紅音「ねえお兄ちゃん、園田先輩はお兄ちゃんの事、そんなに好きじゃないよ。ことり先輩ほど好きになってくれないよ」

・・・俺の心に物理的に音を立ててナイフが刺さったような気がした。

さすがに俺も少し大きな声になってしまった。

紫音「お、お前な!俺だって傷ついてんだぞ!そうだよ、俺は昨日海未ちゃんに告白して・・・逃げられたんだよ!好かれてない事くらい判ってるよ!」

紅音「それなら、ことり先輩の事、見てあげて!私、お兄ちゃんの事を大して好きじゃない子にお兄ちゃんを取られたくないの!」

紫音「・・・お前な・・・さっきから取られるって言うけどさ、俺とお前は兄妹であってだな、俺に彼女が出来てもお前が大切な妹である事に変わりはないんだぞ?そんな事言ったらお前に彼氏が出来たら俺だって嫌だし、何もできないじゃんか」

紅音は立ち止まり、何か言いたそうに俺を睨みつけている。

俺は盛大にため息を吐いて言った。

紫音「紅音、そんな顔すんなよ。お前の意見は良く判ったけどさ、海未ちゃんに俺の気持ちをちゃんと判ってもらうまで、頑張りたいんだよ。な?」

 

海未「紫音さん」

その声を聞いて文字通り、俺は飛び上がった。

紫音「うわあああっ!う、海未ちゃん!どうして、じゃなくていつからそこに!?」

いつの間にか、俺達の後ろには制服姿の海未ちゃんが居て・・・紅音も目を大きく見開き不意の声に驚いている。

海未「・・・その、お二人の話を盗み聞きするつもりはありませんでした。これを渡そうと思ってお店に行ったら、皆さん楽しそうで話かけられず・・・」

海未ちゃんの手には何か長細い袋があった。

俺が言葉を選んでいると、先に紅音が棘のある固い口調で言った。

紅音「・・・じゃあずっと聞いてたって事ですか?それなら、私の気持ちも判りましたよね?お兄ちゃんを好きじゃない人には、お兄ちゃんを渡せません!」

俺は慌てた。

紫音「ばっ馬鹿、紅音、失礼な事言うな!俺が一方的に好きなんだよ!海未ちゃんは関係ないんだ!」

海未ちゃんは紅音を辛そうに見ていたが・・・結局そのセリフにはコメントせず、用件を切り出した。

海未「紫音さん、昨日は仰る通り逃げてしまい、すみませんでした」

紫音「えっと・・・あはは、聞いてたら誤魔化せないから言うけど・・・結構傷ついた」

俺は何とか笑顔を作り、明るく言った。

しかし海未ちゃんは固い表情を崩さない。

海未「・・・まずこちらは、昨日お約束した扇子です。紅音さんと翠音さんの分もあります」

海未ちゃんが差し出した巾着袋をとまどいながら受けとる。

紫音「あ、ありがとう。覚えててくれたんだね・・・」

海未「それからお弁当箱を洗わせてしまい、すみませんでした。ありがとうございます。紅音さんも花陽に渡して頂き、ありがとうございます」

紅音「・・・・・」

紅音はいつの間にか俺の右腕に掴まり海未ちゃんを睨んでいる。

海未「それから確かに、私はことりがどれくらい紫音さんを好きなのか、知りません。それも含めてもう少し時間を下さい。今日はそれだけです・・・では」

海未ちゃんは俺達に背を向け、帰ろうとした。

紫音「ちょ、ちょっと待って海未ちゃん・・・遅くて帰り危ないから送るよ!な、紅音、少し良いだろ?」

しかし海未ちゃんの返事はそっけない。

海未「結構です。一人で帰れます」

紫音「ダメだって。じゃあ俺達、海未ちゃんの家まで勝手について行くからね」

いつかのことりちゃんの事もあるし・・・海未ちゃんも紅音も、一人で帰させるわけにはいかない。

不満そうな紅音を右腕にぶら下げ、俺は海未ちゃんが自宅に着くまでついて行った。

 

昨日あんなに楽しかったのが嘘のように、俺達は黙って歩いた。

海未ちゃんは自宅の門の前で振り返り、ようやく声を出した。

海未「ありがとうございます、遠回りさせてしまい、すみませんでした」

俺は溜まらず言った。

紫音「俺、今週の試合、見に行くよ!頑張ってね!」

海未ちゃんは表情を変えず・・・会釈だけして門の内側へ消えて行った。

 

再び紅音と二人きりになり、俺達は呪いが解けたように話し始めたが・・・会話が弾むはずもない。

紅音「お兄ちゃん、これは・・・ダメじゃない?」

紫音「うん・・・俺もそんな気がする」

俺が認めると紅音はもう俺がことりちゃんと付き合うようになると思ったらしく・・・なんだか少し機嫌を回復したようだった。

俺は・・・当然のごとく沈んだ。

 

     ■□■

 

帰宅後、巾着袋を確認した。

海未ちゃんに貰った扇子はとても綺麗な桜が描かれていたが・・・これは散るって意味なのか、と深読みして暗くなる俺であった。

・・・ため息しか出ない。

いくらことりちゃんに頼まれたとは言え、やはり告白すべきではなかったか。

好きな女の子に冷たくされるのがこんなに辛いとは、知らなかった。

机に置いたガンザムmkⅡの箱も、俺のテンションを上げるにはパワー不足だった。

ゼータガンザムのほうがパワーが上だったかな、と俺はぼんやり思った・・・海未ちゃんと友達にすら戻れなかったら?と考えると、ショックは大きく、心は果てしなく沈んでいくような気がした。


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