ラブライブ・メモリアル ~海未編~   作:PikachuMT07

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第43.5話 幕間5:純愛レンズ

紫音「じゃあみんな、ごめん!俺達まだ行く所あるから!花陽ちゃん、これで俺達の分も払っておいて!お釣りは紅音によろしく!バイバイ!」

言うなり紫音はお金を花陽の前に置いて、海未の背中に手を回して走り始めた。

希「あ~しもた!また紫音くんにやられてもうた・・・ウチ達、ケーキとお茶をたいらげんと移動できひん」

紫音くん、まだ海未ちゃんとやりたい事があるみたいやな・・・ウチ達にケーキが運ばれてからなんて、ずるいけど賢いわ~。

文句を言い合う凛と穂乃果、「手に手を取って逃げる二人、素敵ですぅ~」なんて暢気な感想を述べている花陽を見ながら、希は舌を巻いた。

ふとこの数日の出来事が頭に浮かんできた。

 

紫音の誕生日にμ'sとして、穂乃果の希望もありお金をかけない手料理を振る舞う、という事になったのはハロウィンイベントが終わり一段落ついた今週の始めだった。

キッチンと場所の関係でお弁当を公園で少人数で、と決まったまでは良かったのだが、本当に行きたいメンバーはにこの反対で選出されなかった。

実際のプレゼント担当者が海未と花陽に決まり解散した後、ことりが沈鬱な表情で希に相談に来たのは印象に残っている。

ことりの見立てでは紫音が好意を寄せているのは海未、穂乃果の順で可能性がある、と言うのだ。

・・・ことりちゃんにも充分、可能性があると思うんやけど・・・恋する女の子って、自分が一番だとは誰も思わんよね・・・みんな不安で一杯や。

しかもことりちゃんは自分に自信が持てなくて、バイトも始めたんやったよね。

この紫音のバースデーイベントに海未が選ばれた事で、決定的な差が開くとことりは考えたらしい。

その前にどうしても、紫音に自分の気持ちを伝えたい、というのがことりの希望だった。

 

健気な良い娘やん!ウチ、応援したるわ!と希は思う。

紫音が文化祭の事件で女の子達のハートをがっちりと掴んでしまったのは、希だって理解している。

実際その時は希だって穂乃果の事を少し羨ましく感じたのだ。

その後どういう方法を使ったのか、μ'sメンバーですらどうしようもなかったことりの留学を、空港で彼が阻止したのである。

まあ表向きは穂乃果が留学を阻止した事になっているのだが・・・荷物を送ってしまっている状態から航空券をキャンセルして学校に戻らせるなんて、精神面はともかく物理的に穂乃果に出来るわけがない。

紫音が魔法をいくつか使ったに違いない。

彼は凄い男の子なのだ。

 

希はタロットを取りだし、ことりの事を占ってみた。

しかし何度やってもことりに良い結果は出なかった。

穂乃果も凛もμ'sのメンバーで希に居場所をくれた大切な仲間であるが、その二人の意にはそぐわなくても、自分を頼って相談してくれたことりには、良い話をしてあげたかった。

海未は・・・女の子相手なら優しくて機転が利いて能力も高く頼りになるのだが・・・自分の事となると途端に頑固で意固地で、あんまり可愛くなくなってしまう。

素直で一途で頼ってくれる可愛いことりを、希は何としても元気づけてやりたかった。

しかし確かにタロットには、ことりが言うように「紫音の気持ちはことりには向いていない」と出てくるのだ。

それでも告白するとして、一番良い結果が出そうなのは、バースデーイベント前日の土曜という結果なのだが・・・それに失敗するとしばらく運勢は悪い方へ入ると出ている。

ウチ・・・その結果を言ったほうが良いのか、迷ってしもたんやったな。

だが占いは、諦める為にあるものではない。

占いが悪かったらどうすれば良くなるのか、それを考えるためにあるのだ。

最終的に、紫音が一番ドキドキする服を着て、明るく笑顔で告白するようにアドバイスをしたんやったっけ。

にこがいくら恋愛禁止と言ったって、年頃の女の子が恋しないでいられるわけがない。

しかも相手は紫音・・・彼の笑顔は希にすら輝いて見えるのだ。

ことりちゃんが幸せになるなら、彼じゃなきゃダメやん。

だから思い悩んでウジウジするより、思い切りことりが思いをぶつけられるように、希は応援したかった。

 

さらにことりは、自分の告白がダメだった時、紫音に海未とデートさせてあげたい、と希に言った。

紫音はいつもμ'sの中にいる海未に思うように話し掛けられないから進展しない、と言うのだ。

紫音にそういう機会を作ってあげれば、誰が好きなのかハッキリする、させてみせる!と、ことりの想いは強かった。

にこっちとえりちは頼れんし・・・二年生は当事者で、花陽ちゃんと真姫ちゃんにはちょっとまだ判らんやろうから・・・確かにこの相談ができるのはウチしか居らへん!

そしたらウチ、ことりちゃんの想い、全面的に賛成する。

ことりちゃんの恋が届いたら、ウチも嬉しいんよ。

ことりちゃんの気持ち、届いて欲しい・・・本当にそう思った。

 

 (スクフェス「純愛レンズ」プレイをおすすめ!)

 

でも昨日の夜、泣きながら希に電話してきたことりの話を聞いて、希は少し紫音が憎くなり・・・逆に信頼度は上がった。

タロットカードが示す通りやけど・・・ことりちゃんをこんなに泣かして・・・でも海未ちゃんを好きなうちはことりちゃんと付き合えないってやっぱり真面目な男の子やね。

そう思った。

しかも話には続きがあり、紫音は海未に想いを告げる事に同意し、その結果海未を諦め切れたら、ことりと付き合うと言ったそうなのだ。

これは・・・えりち、にこっち、花陽ちゃんや真姫ちゃんじゃ役不足やわ。

二年生と凛ちゃん、紫音くんのペンタグラム、その行く末を見届けるのはやっぱりウチしか居らんで!

穂乃果からデートを尾行する連絡が来た時、二つ返事で同意したのは、そんな想いからだった。

 

     ■□■

 

花陽「私のですぅ誰か助けて!」

花陽の叫びで希は我に返った。

海未と紫音が先に立ち去った焦りか単に食欲か、穂乃果と凛は花陽のケーキを「早くぅ!私が手伝ってあげる!」「凛も手伝うにゃ!」などと言いつつ半分くらい奪っていた。

希「穂乃果ちゃん凛ちゃん、大丈夫だよ、きっと見つかる。ウチが保証するよ。ゆっくり食べさせてあげて」

花陽「希ちゃん、ありがとうございます~みんな取られちゃう所でした~」

ふふ、花陽ちゃんかわええな!連れ去りたくなるわ。

3人を見ているのも楽しいが、今日は希にも目的がある。

 

花陽がケーキと紅茶を何とか食べ終え会計まで終わったのは、二人が去ってから10分以上経過した後だった。

紫音と海未はさすがにもうパレット街には居ないだろう。

しかしあの二人、いつの間にあんなに仲良くなったのだろう?

ウェディングドレスにもびっくりやけど・・・あの海未ちゃんが人前で男の子からあ~んするなんて・・・穂乃果ちゃんでなくても焦るわ~と思う。

高校生としては美男美女のカップルだから見ればすぐ判ると思うのだが・・・人も多く空は暗くなってきて、探すのは困難を極めた。

 

18時になり、4人は疲れた顔を見合わせた。

穂乃果「全然見つからないよ~・・・どこに行っちゃったんだろう?」

凛「凛、もう疲れたにゃ。しょ~くんと海未ちゃんは心配だけど・・・ちょっと今日は無理そうにゃ」

花陽「そう・・・かな。でも紫音さん、何だか凄い機転ですね。見事に消えてしまいました」

希「そやね・・・残念だけど、今日はもう諦めて帰ろか」

希が3人の顔を見回すと、穂乃果が言った。

穂乃果「じゃあ私、最後に海未ちゃんの家に電話してみるね」

穂乃果は携帯を取り出して園田家に電話した。

穂乃果「あ、おばさんこんばんは。私です、高坂穂乃果です。いつもすみません、海未ちゃんは・・・はい、え?道場で弓道の練習を少しして帰る?はい!ありがとうございます!失礼します!」

穂乃果は希達を見回し、にやっと笑った。

もちろん穂乃果の電話を聞いていた3人にも、力が戻って来た。

まだまだ、ウチにも運が残ってるようやな。

 

     ■□■

 

4人が通りの角から弓連神田道場を見張り始めてすぐ、道場の明かりが消え中から海未と紫音が出てきた。

どうやら間に合ったようやな。

時間はもう19時になりそうである。

しかし二人はその場で別れず、前後に並び歩きはじめた。

どこに行くんやろ?

穂乃果「みんな、行くよ!」

花陽「あ、あの、もうすぐ夜7時になってしまうので・・・私、そろそろ帰らないと・・・」

穂乃果「えっ7時!?まずい・・・お店の片付けを手伝う当番があるんだった・・・」

凛「凛も・・・こんなに遅くなるなんてちょっと思ってなかったかも」

希「・・・どうする?やめておく?」

穂乃果「う~ん、あとちょっとだけ!もう家近いし!」

穂乃果の言葉に4人はもう少しだけ、という制限を付け、尾行を再開した。

だが尾行は程なく終わりを告げた。

二人が入ったのは希のバイト先、神田明神だった。

いつもμ'sがトレーニングしている階段の辺りで、二人は向かい合った。

この距離じゃ盗み聞きはできひんな・・・かといって倉庫の陰まで4人で近づいたら、すぐに見つかってまう。

穂乃果「あの二人、何か話してる・・・ねえ希ちゃん、ここからじゃ聞こえないよ?何か良い方法ない?」

希「う~ん、社務所に行ってこの時間に倉庫の鍵を借りるのは・・・ウチでも難しいんよ。ごめんね穂乃果ちゃん」

凛「あの二人・・・なんか言い合いしてるよ・・・・ケンカかな?」

花陽「あんなに仲良かったのに・・・ケンカするのかな?」

穂乃果「弓道でしょーくんが海未ちゃんをコテンパンにしちゃった、とか?」

凛「あ、それで海未ちゃんをバカにするような事、言っちゃったのかな?」

う~んさすがにそれくらいでケンカなんてせえへんはずや。

だってことりちゃんの話では、紫音くんは海未ちゃんが一番好きなんやもん。

ことりちゃんを振るほど海未ちゃんが好きなんやから・・・しかも今日は告白するはずなんや・・・ケンカなんておかしいやん。

希がそう考えていると、紫音は自分のバッグの中をごそごそと漁り始めた。

すると海未は・・・何かを叫んだ(いけない!と聞こえたような?)後、突然振り向いて走りだした。

穂乃果「あ!海未ちゃん、走って帰っちゃうよ!」

凛「本当にゃ・・・あ、しょ~くんも走り始めたけど・・・見失っちゃったみたいだね」

花陽「紫音さん・・・追わないみたいですね・・・本当にケンカかもしれないです・・・あ、あの、私そろそろ・・・紫音さんも帰るみたいですし」

希「そうやね。ならここで解散にしよか・・・ウチ、追いつかへんと思うけど、一応海未ちゃんを探してみるわ」

希は3人を解散させ、元気なくとぼとぼと帰って行く紫音の背中を見た。

ウチの勘が正しければ、あれはケンカじゃのうて・・・告白やん。

 

     ■□■

 

1学期、ことりのバイトが発覚した日、アイドル写真屋からメイド服で逃げ出したことりを希は先回りして捕まえる事ができた。

秋葉原の裏道、抜け道は熟知している希ではあるが、今日はその能力を使わなくて良さそうだ。

海未は・・・仮に逃げなければならなかったとしても、自宅まで全力疾走という事はないだろう。

別に怪物に襲われているわけではないのだし・・・しかも今日海未が履いている靴は高いヒールがあるブーツなのだ。

そしてタイトスカートは走るとまくれ上がってしまうし、とても長く走れる服装ではない。

おそらく、その辺で曲がって隠れていて・・・紫音が立ち去ったら息と身だしなみを整えて、自宅に帰るに違いない。

そこまで考えれば神田明神でバイトしている希には、どこを探せば良いかすぐに判った。

 

宮本公園を一周すると、階段の陰で涙を拭いている海未を見つけた。

希「海~未ちゃん」

海未「の・・・希・・・う、うわあぁぁん」

せっかく拭いた涙が、希と視線が合うとまた海未の大きな目からポロポロとこぼれ出した。

そのまま海未は、希に抱きついてきた。

希は優しく抱き止め・・・サラサラストレートの黒髪をゆっくりと撫でた。

希「どうしたん、こんな所で泣いて・・・今日、楽しくなかったん?」

海未を抱きしめていい子いい子しながら数分、ようやく落ち着いてきた頃に希は海未をあやすように聞いた。

海未「楽しかったです・・・今まで一緒に居た誰より・・・楽しかったです・・・でも!でも最後に・・・あの人、私を酷い言葉でからかって・・・」

希「からかう?何て言われたん?」

海未「・・・私の・・・私の事が好きだって・・・正式にお付き合いをしたいって・・・あの人は他に好きな人がいるのに・・・私を騙そうとして」

希「海未ちゃんの事が好きって言うたん?かっこいいやん彼・・・それで何て答えたん?」

海未「・・・あんな顔で、からかって・・・かっこ良くなんてない、悪い人です・・・信じないって言ってやりました・・・」

あっちゃ~・・・紫音くん、めっちゃ傷ついたろうな・・・。

希「・・・でもおかしいやん。紫音くんがからかったなら、いつもの海未ちゃんなら彼のお腹ぐーぱんちしてるはずやん・・・なんで泣いてるん?」

海未「だって!だって!!今日楽しくて、私にだけ優しくしてくれて・・・私の事、少しでも好きなら嬉しくて・・・でもそれが嘘って思ったらすごく悲しくなって・・・」

希「・・・なんで彼が海未ちゃんを好きって言うたの、嘘になるん?」

海未「嘘です!絶対嘘です!あの人の周りは、かわいい女の子がいっぱいいるんです!私は胸も小さくて・・・何より暴力的で性格が悪い女で・・・あの人が私を好きになるはずがないんです!」

希は小さくため息を吐いた。

せっかく告白したのに・・・これじゃ誰も、幸せにならへんやん。

ウチがなんとかせなあかん・・・何しろことりちゃんの告白にGo出したんはウチなんやもんね。

希「海未ちゃん・・・今からホントの事言うよ・・・驚かんといてな」

海未は希の肩に頭を預け、髪を撫でられたまま、時折洟をすすりながら大人しく聞いている。

希「彼のお誕生会、海未ちゃんと花陽ちゃんで行ってもらうって決めた日、ことりちゃんがウチに相談に来たんよ・・・紫音くんを海未ちゃんに取られる前に、告白したいって」

海未「・・・え?」

希「占いはあまり良く出なかったけど、昨日ことりちゃんは紫音くんに告白したんよ。結果はダメやったん。紫音くんは海未ちゃんが好きだから、ことりちゃんとは付き合えないって、断ったんよ」

海未「・・・なっ!!」

海未は顔を上げ、涙で汚れた顔で希を見た。

希「今日紫音くんが海未ちゃんに告白した事、ウチからことりちゃんに言うとくな。信じないで逃げたんは黙っとく。今日の事、ことりちゃんに相談しても良いけど、言葉は慎重にな。ことりちゃんもかなり傷付いてるんよ」

海未「・・・では、私は・・・私は・・・」

希「ウチな、μ'sの二年一年は全員、妹だと思ってん。だからことりちゃんが傷つくの見たくないんよ。でもな、だからと言って海未ちゃんが遠慮して、自分の気持ちを殺す所も見とうない」

海未「・・・うわあああああん・・・!」

海未はまた激しく泣き出した。

希「もし海未ちゃんが彼を好きなら、ことりちゃんに譲ったりしたらあかん。正々堂々、がんばって紫音くんに選んでもらうんよ。ことりちゃんだって彼だって、他人から譲られた恋じゃ、本気で夢中になれへんもん」

希は優しく海未の髪を撫でる。

希「μ'sは全員、すっごく魅力的なかわいい子が揃ってる。ウチの自慢の仲間やもん。誰が紫音くんに選ばれたっておかしくない」

だからホントは皆幸せになって欲しいけど・・・恋ばっかりは無理な相談やね、と希は思う。

希「だから海未ちゃん、もっと自信を持って素直にならなあかんよ。彼は今日、海未ちゃんが大好きだってサインをいっぱい出してたはずやん。信じてあげて」

海未のショルダーバッグには見た事のない金色の弓矢のキーホルダーが揺れていた。

希「そうしないとウチかて、紫音くんにコクるかもしれんよ~?」

冗談と判るように明るくそう言うと、それを聞いた海未はようやくすすり泣きをやめ、希の顔を正面から見て・・・笑顔になった。

海未「ふふっ、希、それは絶対ダメです!」

 

     ■□■

 

海未を帰宅させ自分も自宅でシャワーを浴びた後、希はできるだけ気を遣ってことりに報告をした。

だが翌日の月曜、やっぱりことりは意識が半分以上飛んでおり、まさに上の空だった。

そらそうや・・・初めての告白は成功とは言えへんし・・・好きな彼が親友に告白したんやもんね。

しばらくことりちゃんは、恋煩いに悩まされそうやな・・・生徒会の書類仕事、間違えたりせなええけど・・・心配や。

逆に海未は月曜だけが元気が無かったが、その後はだんだんと元気を取り戻し、吹っ切れたのか希には生き生きしているように見えた。

μ'sの練習の際には穂乃果と花陽のダイエットプランも作るし、生徒会の仕事も精力的にこなしているようだ。

何かに集中してるほうが悩まないで済むちゅうあれかな?何かあれば、次は頼って欲しいな!海未ちゃん!

 

受験生でもある自分に、高校3年の最後に本当に楽しいこんな生活が回ってくるとは、希の得意なタロットカードでも判らなかった事である。

μ'sのメンバーを見ていると感謝の気持ちが沸いてくる。

希の心に一つの希望が生まれた。

この9人全員で、思い出に残る一曲を作りたい。

紫音の気持ちを知った海未と今のμ'sなら、素敵なラブソングだってできるはずだ・・・そう希は確信する。

その曲でステージに立てたら・・・絶対素敵やろな!紫音くん、ほんまにありがとな!ウチもキミが大好きや!


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