ラブライブ・メモリアル ~海未編~   作:PikachuMT07

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第42話 デート その5

さすがに顔は半分以上見えないとはいえ、あの姿の俺達の映像が流れる場所に長居はしたくない。

俺達は急いでAqoursCityを出た。

紫音「すっごいドキドキしたね、海未ちゃん。ありがとうね、わがまま聞いてくれて・・・」

海未「いえそんなお礼を言われるほどでは・・・あなたのお誕生日会ですし。それから・・・どきどきなどという程度では、ありません!ええと・・・そう、ばくばくです。心臓がばくばくしました」

紫音「そっか~海未ちゃんも心臓ばくばくしてくれたんだ・・・良かった!俺一人がドキドキしてたらバカみたいだと思って」

海未「いえそんな事は・・・でも・・・それだけどきどきしながらも、その・・・写真の出来が良かったので撮影して良かったです・・・その、あなたと写ったからではなく、写真の出来が、ヨーロッパの町並みが良いという意味です」

また「あなたと写りたくなかった」というような言い方に、俺はちょっと拗ねた声で返してみた。

紫音「ああそう、俺と写ったのはイヤなんだよね、海未ちゃんは!心臓がばくばくしたって言うからさ、少しは俺の事、意識してくれてるのかと思ったのに・・・それならその写真の俺の顔をマジックで消したら良いよ」

すると海未ちゃんは凄く困って慌てたように見えた。

海未「い、いえあの・・・決してあなたと一緒が嫌という意味ではなく・・・綺麗な写真が撮れて良かった、というのがあなたと一緒だから良かったと勘違いされないように・・・と」

紫音「海未ちゃん・・・俺の事、嫌い?」

海未「・・・とっ突然何を言うのですか!あなたはその・・・頼りになって弓道もがんばっていて、優しいですし・・・でも誰にでも優しくて軽薄で、気安く女の子にかわいいと言ったり触ったり、さっきは私をくすぐるし・・・そういう所嫌いです!」

・・・やっぱり嫌いなのかな。

判ってはいたが・・・傷つくな。

紫音「・・・ごめんね、嫌いな男とウェディングの写真を撮らせちゃって・・・でももう少し、一緒に居てもらってもいいかな?」

海未「・・・ち、違います・・・その嫌いと言ったのは、嫌いな部分があるという事で・・・全体的にはす・・・た、頼りにしています」

紫音「いや、いいよ。誕生日会だからフォローしてくれてるんだよね・・・ごめん気を使わせて・・・でもせっかくだからもう少し、友達同士って事で歩こうよ」

俺がそう言うとなんだか海未ちゃんは暗い顔になってしまった。

せっかく一緒に居るのだ、海未ちゃんにもう少し、楽しい時間を過ごしてもらいたいが・・・俺には方法がまったく思いつかなかった。

 

俺達はAqoursCityを出て富士TVの脇を抜け、台場一シティまで歩いて来ていた。

斜め後ろの海未ちゃんを気にしながら(手でも繋げば良いのだろうが、絶対に彼女は拒否するだろう)歩いていたので気付くのが遅れたが、歩道橋に上がり周囲を見渡した俺は、またしても奇妙なオブジェを見つけた。

オブジェって言うのかあれ?

紫音「おい?おいおいおいおいおい!!な、なんだあれは~~!!」

俺が大声を出すと海未ちゃんも下ばかり見ていた顔を上げた。

海未「あ、あれですか・・・。あれはガンザム、だと思います」

紫音「ガ・・・ガンザーーム!!でかっ!!すげえ!!海未ちゃんごめん、俺、写真撮りたい!!」

俺は海未ちゃんの返事を待たず走り出した。

ガンザムの足元に辿り着き、見上げる。

紫音「うおおおおおお!!すっげええ!!かっこいい!!マジですごい!すごいぞ日本人!うおお!!」

俺はイチイチ「うおお」と言いながら夢中で携帯のシャッターを押した。

この自然についた汚れ!各モールドに施されたコーションマーク!バーニア!ビームセーバー!すべてに感動しているとその時、合図の音がした。

紫音「なっ!!こ、こいつ!動くぞ!!」

俺はガンザムの1話を見たことが無かったが・・・その時は自然とそのセリフがこぼれてしまった。

そのガンザムは単なる立像ではなく・・・首が動くのである。

俺はガンザムを見上げながら、よりかっこよく見える位置を探して右往左往した。

そうしていると急に腕を引っ張られた。

海未「し、紫音さん、上ばかりでなく周りを見て下さい!小さな子供が居ます」

俺ははっと立ち止まり、なんとかその子にぶつからずに済んだ。

俺の足元に居たのは・・・3歳か4歳くらいの女の子である。

紫音「お、ごめんね。大丈夫?」

女の子「うん、大丈夫。お兄ちゃん、これ好きなの?」

紫音「うん大好き!かっこいいよね!」

女の子「うん、かっこいい。みあのパパも大好きなの」

紫音「みあちゃんって言うんだ。パパはどこ行ったの?」

みあ「ガンザムのプラモデル買いに行った」

何!?それは俺も欲しい。

紫音「そっか、じゃあここに居れば戻ってくるんだね。お兄ちゃんみたいな男の人に潰されないようにパパを待つんだよ」

みあ「うん、おにいちゃん優しいね。この人おにいちゃんの彼女?」

みあちゃんが指したのは・・・海未ちゃんである。

紫音「う~ん・・・残念だけど彼女じゃないんだよ~。今がんばってるところ」

みあちゃんはにま~っと笑って言った。

みあ「あは、がんばってるんだ!がんばってね!ガンザムばっかりじゃ、ダメだよ!あ、パパ来た!」

みあちゃんは走ってパパの所へ行き・・・俺達にバイバイと手を振ったので、俺も振り返した。

紫音「海未ちゃん、止めてくれてサンキュ。危うくあの子を踏むところだった。ねえ、もう少しガンザム見て良い?」

俺はみあちゃんの忠告を、まったく聞く気がなかった。

海未「それは構いませんが・・・あんな小さい子にまで優しいとは、感心します。しかしその・・・さきほど『がんばっている』と言ったのは、何のことです?」

紫音「え?俺そんな事言った?ごめん、もう少しガンザム・・・」

俺は一応周りを注意しながら撮影したのだが・・・日曜で子供や俺みたいな写真撮影の人も多く、あちこちでぶつかりそうになった。

その度に海未ちゃんは俺の腕を引いて止めてくれた。

海未「あ、すみません・・・紫音さんこっち・・・そっちではありません!」

海未ちゃんはいちいち俺の服を引っ張って止め、ぶつかりそうになった人に謝ってくれ・・・しかし俺はそんな事はガン無視で必死で撮影し、全身像の撮影が終わるとガンザムの足元に戻り、海未ちゃんに「ガンザムのパンツ!」などと言いながら上を撮影して喜んだ。

その時は夢中で気付かなかったが・・・良く考えると我ながら最悪の男である。

更に俺はガンザムの足元で腕を組んでポーズを取り、海未ちゃんに撮影してもらった。

紫音「海未ちゃんありがとう!これニューヨークの友達に送ったらすっごい喜ばれるよ!じゃあさ、中行こう、中」

海未「紫音さん・・・こんなにはしゃいで。まるで子供ですね・・・私の弟と同じ反応です。男の子はこういう所、かわいいんですよね・・・あ、ちょっと待って下さい!」

俺はその時海未ちゃんの話を聞いておらず・・・先ほどのみあちゃんのパパが買いに行ったというプラモデルがどうしても見たくて、急ぎ足になった。

海未「んもう!待って下さい・・・今度は穂乃果みたいです!」

海未ちゃんは走って俺に追いつき、俺の左手の袖をちょこんとつまんだ。

紫音「ああ、ごめん」

しかし俺は謝りつつも上の空で、袖ごと海未ちゃんを引っ張って歩き、エスカレータもずんずんと上りガンザムの区画に入った。

紫音「のわわ!!」

すみません、侮ってました。

そこに広がっていたのは学校の教室くらいの部屋に所狭しと並べられたプラモデルである。

100や200じゃきかないだろう。

そこは男ばっかりで女性はほとんど居なかったのだが・・・俺はまったくそんな事を判断している余裕が無かった。

所狭しとならぶ古今東西のガンザム・・・モビルトルーパーを俺は素早く、注意深く見て行った。

表に飾ってある巨大ガンザムは設定のサイズと等身大で、その1/100や1/144と書いてあるプラモデルが数多く展示されている。

デザインも過去のものは武骨なものが多いが、最近のモノになるにつれ細く尖っていく傾向がある事が判った。

さらに飛行形態や強化形態に変形したり、追加武装や支援パーツが付いたり、色もトリコロールだけでなく戦場ごとに違う仕様がある事も分かった。

紫音「海未ちゃん・・・これカッコイイね!飛行形態はウェイブマスターって言うんだって・・・こっちは右手と背中の輪が光ってるよ」

海未「はい、飛行機は美しいです。これは・・・仏教で言うところの光背でしょうか・・・悪魔のようなコウモリ型の翼が付いたガンザムもありますね」

紫音「この一つ目の青いの、強そう。盾にガトリング砲が付いてるよ」

海未「・・・はあ。この恐ろしげなものは・・・私の趣味ではありません。こっちの茶色でしゃがんでいるもののほうが・・・なんとなくかわいいです」

俺達は20分ほどかけて展示場を一周した。

ガンザムのアニメは一本も見た事が無いが、好きなデザインのメカがたくさんあって興奮した。

海未ちゃんは展示室の中で唯一と言っていい女性だったが・・・俺のわけの判らないかっこいい談義を飽きもせず聞いてくれ、ちゃんとコメントをくれた。

俺が我に返ったのは1/144HGUCガンザムmkⅡを買ってほくほくしていた時である。

紫音「あっ・・・ごめん海未ちゃん・・・デートなのに女の子すっぽかして、俺一人で盛り上がっちゃって・・・ホントごめんなさい」

海未「デ、デートではありませんから!!そ、それに今日はあなたの誕生日会で、私はあなたに喜んでもらう為に来たのですから・・・気にしないで下さい」

海未ちゃんはそう言うが・・・俺は呆れられたかと不安になってしまった。

紫音「いや俺とした事が紳士にあるまじき失態・・・とりあえず海未ちゃんトイレは大丈夫かな?」

俺は海未ちゃんをトイレに行かせ、自分も用を足して冷静さを取り戻しつつ、考えた。

なんと言うか・・・海未ちゃんは楽しそうとは言わないが、俺がガンザムを見ている間・・・自然についてきてくれていなかったか?

俺は仮説を考え付いた。

俺が紅音や翠音と買い物に来て適当に返事をしているのが楽なように・・・海未ちゃんは穂乃果ちゃんに振り回されるのに慣れているから、この手の場所では自分から行動する事があまりないのではないか?という説である。

この仮説が正しいのなら・・・俺が今日は穂乃果ちゃんになって海未ちゃんを振り回す方が、盛り上がりそうな気がする。

よくよく考えると勝手に浅草へ連れていって船に乗せ、恩賜庭園で降ろしてお台場に連れてきて・・・ここまで相当振り回している。

ショッピングモールで海未ちゃんの見たい店に付き合ってあげたら喜ぶかな、と思った所から海未ちゃんが楽しくなさそうに見えてしまったのだ。

・・・もしかしたら最初から楽しくないのかも知れないが。

完全に自信がなくなってきてしまった・・・しかし落ち込んでいる場合ではない。

お台場に着いたら海未ちゃんの行きたい所に行こう、と思っていた俺は方針転換し、仮説に賭ける事とした。

 

考えがまとまった所でちょうど海未ちゃんが戻ってきた。

紫音「ね、海未ちゃん。この後行きたい所ある?」

海未「いえ、あまりこのような遊ぶ所は詳しくなくて・・・私には特に希望はありません」

やっぱりか。

紫音「じゃあさ!あっちのモールにも行ってみようよ!」

俺は海未ちゃんを促しパレット街へ向かう事にした。

パレット街もアパレルや雑貨の店が多いのだが、俺はそこにクラシックカーガレージがある事を知っていて、いつか行きたいと思っていたのだ。

何しろそこには伝説のタイムマシン、デロリアンがあるのだ。

実際に行ってみるとデロリアンだけではなく、コルベットスティングレイやマスタング、キャデラックエルドラードといった往年のアメ車が飾ってあり、俺はまたもや海未ちゃんをすっぽかしそうになった。

日本車もとても美しいデザインのものがある事が判ったのだが、やはり旧いアメ車には夢がある。

俺は嬉しくなって海未ちゃんをクルマの横に立たせ、何枚も写真を撮った。

触ったり乗ったりしていいクルマには海未ちゃんにも座ってもらい、ガレージ内のクラシックな雰囲気に仕立てられた風景を車内から見て楽しんだ。

いや、いい所だ。

 

ガレージの次は目に付いた雑貨屋に入ってみた。

無論俺にはかわいいモノは判らないのだが、その雑貨屋はアメリカのショットバーやプールバーを意識した店で、海外輸入の雑貨が多い。

例えばハロウィングッズの猫耳カチューシャがシャム猫風だったり、童話の本が英文の洋書であったりする。

俺はまたもや海未ちゃんのベレー帽を奪い、店に陳列してあったデビルカチューシャやヘッドドレス、ナース帽などを被せてみた。

海未「や、やめて下さい・・・そのようなかわいいものは・・・似合いません」

紫音「いやいやすっごく似合うよ!これデビルの耳だけど、海未ちゃんだと鬼の角に見えるとか」

ばしっ!腕を叩かれた。

紫音「うそうそ、このヘッドドレスは超似合うよ・・・性格が暴力的なのを直せば」

ぽかぽかっ!胸を叩かれた。

海未「もう!意地悪ばっかり言って!酷いです!」

俺は海未ちゃんにナース帽を被せ、自分はカリビアン船員の「ターバンにナイフが刺さって血が出てる」風の帽子を被った。

紫音「じゃあ俺の頭にナイフ刺さったから、かわいいナースの海未ちゃんが助けるってのはどう?」

海未「・・・嫌です。あなたのような憎たらしい方は助けません。頭にナイフが刺さったまま放置です」

紫音「そんなあ・・・海未ちゃんこそ酷いよ」

海未ちゃんは俺が泣きそうな顔をしたのが面白かったらしく、くすくす笑いながら何か雑貨を探しに行った。

俺も他に何か海未ちゃんをからかうグッズが無いか探していたのだが・・・先にくいくいっと袖を引っ張られた。

紫音「ん?どうしたの?何かあった?」

海未「し、紫音さん・・・それ!」

海未ちゃんが示す指の先には・・・!

紫音「うぉわあああああ!!う、海未ちゃんヘビ!ヘビだよっ!下がって下がって!!」

くそっこの東京の雑貨屋の店内になんでヘビがいるんだよ!!俺は海未ちゃんを背後に庇いつつ戦闘体制を・・・あれ?

海未「ぷっ・・・くっくっ・・・あはっうふふふふふ!」

紫音「ちょっと海未ちゃん・・・俺をハメたね?」

海未「だって・・・私をからかうから・・・お返しです。昔穂乃果にされたいたずらをあなたにしてみました・・・うふふ、こんなにうまく行くとは・・・ふふ思いませんでした」

ちくしょ~でもこのゴム製のヘビ、メイドインUSAだけあって出来が良い。

俺は不貞腐れた顔でヘビのおもちゃを展示棚に返した。

海未「うふふふ・・・でも、私をヘビから守ろうとしてくれた事は・・・ふふ、嬉しかったです!山などで本当にヘビが出たら、あなたの後ろに隠れますね!でも・・・驚いた顔が面白かったです」

俺はくすくす笑い続ける海未来ちゃんをジト目で睨んでやった。

ちくしょ・・・この女、どうしてくれよう・・・かわいいじゃねえか。

 

パレット街はショッピングモール内に噴水があったり天井に星が煌めいたりと、女の子と歩いても話題や雰囲気を提供してくれる初心者向けデートスポットであった。

モール内をあちこちと歩き回り、少し喉が渇いた俺の目に飛び込んで来たのは、店内通路にオープンカフェの体裁でテーブルを広げているケーキ屋である。

ここは「海未ちゃん、あの店でケーキ食べない?」と誘ってはダメだ。

俺は穂乃果ちゃんになりきって言った。

紫音「ねえ海未ちゃん!俺あの店でケーキ食べたい!行くよっ!」

海未「あ、もう、ちょっと待って下さい!」

俺は駆け足で店のテーブルに座り、海未ちゃんの意見を聞かずケーキセットを2つ頼んだ。

紫音「俺はね、ニューヨークチーズケーキとホットのミルクティーで!海未ちゃんは?」

海未「あ、この中のケーキから選べるのですね・・・迷ってしまいます。どれも美味しそうで」

紫音「じゃあ俺が決めちゃうよ?良い?」

海未「だ、ダメです!それくらいは自分で決められます!・・・やはり栗の季節ですからモンブランと紅茶でお願いします」

時間は16時を回ったところで店内はそう混んではいない。

クラシックカーガレージで見た印象的な展示や内装について話しているとほどなく、ケーキセットが運ばれて来た。

海未ちゃんが長い黒髪を押さえながら小さく切ったケーキを口に運ぶ様を見るのは・・・幸せである。

ああ、この娘が本当に俺の彼女だったら良いのに・・・と思う。

いつか海未ちゃん主導のデートもしてみたいものだが(μ'sのメンバーからは遠泳50kmとか山頂制覇とか言われてたっけ?)今日は俺が見たい海未ちゃんを、思い切り楽しんでしまおう。

明日はどうなるか、判らないのだから。

楽しい今日が終わりに近づいているのを、俺は意識し始めていた。

紫音「海~未ちゃん、ちょっとちょうだい!」

俺は海未ちゃんの返事を待たず、モンブランに自分のスプーンを突き刺し・・・スプーン一杯分、貰った。

海未「あっ!ひ、酷いです!私のですよっ!!・・・そ、その・・・交換なら良いです」

紫音「交換?あ、俺のチーズケーキ食べたいの?じゃあこちらからどうぞ、間接キスで!」

海未「・・・紫音さん?さっきからずっと、私に意地悪していませんか?皆の意見と違って・・・ぜんぜん優しくありません」

紫音「ごめんごめん、男はさ、かわいい女の子はからかってみたくなっちゃうんだよ~じゃあこっちからね」

俺は自分のチーズケーキの、まだ食べていない後ろの部分を海未ちゃんの見てる前で自分のスプーンで掬い・・・海未ちゃんの口に運んだ。

紫音「はい、あ~ん」

海未「あ~~んって・・・できるわけないでしょう!は、恥ずかしい・・・」

紫音「大丈夫、すぐ、ぱっと食べちゃえ!」

俺がスプーンを差し出して待っていると、海未ちゃんはスプーンと俺の顔を交互に何回も見て・・・覚悟を決めたように目を閉じ、口を開けた。

すかさず俺はそこにケーキを入れる。

海未「あ。美味しいです」

紫音「海未ちゃん、俺のスプーンで食べたね。間接キスだよ」

そこで海未ちゃんは気付いたようで真っ赤になった。

海未「もう!!紫音さんの意地悪!!」

俺が笑いながら自分のケーキの残りを食べようとした時、その4人は隣のテーブルに座った。

穂乃果「お二人さん、いつの間にか、ずいぶん仲が良いんだね!!」

ごふっ!ごほっ!!俺は激しくむせた。

希「ふふふ~!ウチら見たよ!海未ちゃんがあ~ん!てしてるトコ!ええなあ!妬けるわぁ」

凛「もう、どんだけ探したと思ってるにゃあ!それなのに!あ~んとか!凛はショックだよ!」

花陽「す・・・すみません。楽しそうにお話されていたので、出て行くのは止めたほうが良いって言ったんですけど・・・みんなあ~んで歯止めが効かなくなっちゃって・・・」

・・・完全に油断していた。

俺も海未ちゃんも喉に詰りそうになったケーキをなんとか紅茶で飲み下す。

海未「・・・ほ、穂乃果!皆も・・・どうしてここにいるのですかっ!!」

穂乃果「ど~してじゃないよ海未ちゃん!μ'sはね、恋愛禁止だよ!それに違反してないか見張りに来たんだよ!なんかちょっと友達の枠をさ~飛び越えてない?あ~んって?」

・・・「あ~ん」が繰り返し、突っ込まれている。

凛「そうだよ!凛達見たんだからね!あ~んだけじゃなくてウェディングドレスも!お姫様だっこも!凛だけかと思ってたのに・・・酷いよしょ~くん!」

ぐ・・・ぐげえ!あの写真・・・見たの?

紫音「え、えっと~何の話かなあ~し、知らないよウェディングドレスなんて~他人のそら似じゃない?」

希「紫音くん、嘘つくのは堪忍してや!ウチらちゃ~んと店員さんに聞いたんよ!携帯で海未ちゃんの写真見せて!店員さんにデートじゃないって言うたんだって?海未ちゃん?」

裏を取られてる・・・。

海未「あ、あれはその・・・店の宣伝の為に安くすると言われ・・・紫音さんもやりたいと言うので・・・」

穂乃果「え~!だって普段の海未ちゃんなら頼んだって絶対あんな服着ないじゃん!しょーくんにかわいいって言ってもらいたかったんでしょ!ずるいよ!」

海未「ち!違います!そんな事はありません!園田家は角隠しでの結婚式になるかも知れず、その場合ドレスを着る機会がないかも知れなくて・・・」

凛「それだってわざわざしょ~くんと一緒の時にしなくたって・・・凛のを見てしょーくんのタキシードをかっこいいって思ったんでしょ!?それでやる気になったのにゃ!」

あああ海未ちゃんが総攻撃に・・・。

紫音「違うよ。俺がどうしても海未ちゃんのドレス姿が見たいってお願いしたの。でも海未ちゃんに綺麗だって言ったら殴られたんだよ俺。だから海未ちゃんは俺の事嫌いなんだけど、誕生日会だから仕方なく着てくれたんだよ」

希「・・・相変わらず紫音くんは優しいなあ・・・ならそういう事にしとこか!ほなウチ達もケーキ食べよ~」

ふう・・・希先輩にはバレバレか・・・でもあとは流れを別の話題に差し替えれば・・・。

店員が4人分の注文を聞いて下がったので、俺は素早く話題を転換した。

紫音「希先輩、ボルシチ美味かったですよ!気持ち伝わりました!凛ちゃんの卵焼きも甘くて美味しいね。また食べたい。花陽ちゃんごめん、俺梅干食えなくて・・・でもそれ以外はしっかり食べたよ!新米はやっぱりいいね!穂乃果ちゃんのほむまんは・・・愛がこもってた」

穂乃果「・・・しょーくん、なんでほむまんは味を言ってくれないの?あれ私が一生懸命作ったんだよ!感動するほど美味しかったでしょ!」

紫音「はは、ほむまんはいつも美味しくて感動してるよ。穂乃果ちゃんの気持ちこもってたから・・・味は同じだけど密度が倍になってたね」

花陽「紫音さん・・・梅干・・・ダメだったんですか・・・すみません知らなくて・・・梅干はどうしたんですか?」

紫音「花陽ちゃんが謝る事ないよ、俺が苦手なのが悪いんだし。梅干だけ海未ちゃんに食べてもらった」

穂乃果「あ~そこでも間接キスとか『あ~ん』とかしたんじゃないの?まったく海未ちゃんも隅に置けないよ」

海未「し、してません!箸を使って梅干だけ取ったんです!」

凛「・・・ムキになる所がな~んか怪しいにゃ!」

海未「凛!ほ、本当です!ちゃんと全部二人分あったから・・・してないんです!」

穂乃果「どうだか怪しいよね!『紫音さん、からあげです~あ~んして』とかやってたんだよ!」

海未「ほ~~の~~か~~!!それ以上言うと許しませんよ!」

ああ・・・これではいつものノリだ。

まあ穂乃果ちゃんが来た時点で、場の雰囲気は決まってしまうのだから仕方ない。

しかしことりちゃんとの約束もある・・・俺にはまだ、海未ちゃんと二人きりでいる必要があるのだ。

俺は机の陰で海未ちゃんに「海未ちゃん、俺まだ二人でやりたい事ある。逃げよう」とメールを打った。

穂乃果ちゃんといつもの掛け合いをしていた海未ちゃんの携帯から、軽やかなメールの着信音がした。

紫音「海未ちゃん、携帯鳴ってるよ?ことりちゃんじゃない?」

俺が促すと海未ちゃんは携帯を確認し・・・俺のほうを見て・・・頷いてくれた。

よしっ。

ちょうど4人にはケーキセットが運ばれてきたところである。

4人は歓声を上げながらそれぞれのケーキの感想を言ったり写メにしたりしている。

俺と海未ちゃんはそっと、カバンを持った。

俺は財布から2千円抜き、花陽ちゃんの前に置きながら言った。

紫音「じゃあみんな、ごめん!俺達まだ行く所あるから!花陽ちゃん、これで俺達の分も払っておいて!お釣りは紅音によろしく!バイバイ!」

言うなり俺は海未ちゃんを促して走り始めた。

凛「あ~~っ!しょ~くん逃げる気だ!」

穂乃果「う~~~!うぅいおぅ!ん~~!!」

穂乃果ちゃんは既にショートケーキを口いっぱいに頬張っていた。

希「あ~しもた!また紫音くんにやられてもうた・・・ウチ達、ケーキとお茶をたいらげんと移動できひん」

花陽「わ・・・私熱いの・・・頼んじゃいました・・・」

まあ最速で食べ終わるのは穂乃果ちゃんだろうが・・・それだって3分は稼げるはずだ。

ごめんねみんな!

 


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