ラブライブ・メモリアル ~海未編~ 作:PikachuMT07
爽やかな秋晴れの日差しがゆっくりと室内に届き始めた朝、今日の集合時間は10時だったろうかと考えつつ、まだ余裕があるからもう少し惰眠をむさぼろうと俺は決意した。
ぬくい、ぬくいわ!この布団・・・う~むにゃむにゃ・・・。
紅音「お兄ちゃん!!お兄ちゃん起きてるの?!」
どたどたどた・・・なんかウルサイ。
紅音「あ~!やっぱりまだ寝てる!!翠音!手伝って!お兄ちゃんを起こすの!!」
翠音「お姉さま・・・お兄さま幸せそう・・・」
紅音「それは女の子とデートなんだから幸せでしょうね!許せないわ・・・でも恥をかくのはもっと許せないんだから!」
翠音「お兄さま・・・入るよ~(ごそごそ)」
足腰に何か柔らかいものが絡み付いてくる・・・むむむ・・・あれそういえば朝っていうのは確か大事な息子が・・・!
俺「ぬわ~~~!!ちょっと翠音!!お兄ちゃんの布団に入っちゃダメ~!!!」
ってこの起こし方、なんだか懐かしいぞ。
俺はベッドに上半身を起こし、眠い目をこすりながら妹達を見た。
紫音「おいお前ら今日日曜だぞ・・・しかもまだ7時じゃねえか。弓道の練習だって道場は10時からだっていうのに、何しに来たんだよ?」
ちなみに妹二人はミニスカートのトレーニングウェアである・・・テニスにでも行くのかな?
紫音「何お前ら、かわいい格好して・・・どっか運動でも行くのか?」
紅音「行かないわよ。お兄ちゃん起こしにくるのにネグリジェで外歩けないから着ただけよ!さあ起きて!」
紫音「起きないよ。今日の集合時間、10時だぞ?早すぎる」
翠音「お兄さま、お姉さまは本気だょ」
紫音「何が本気なんだよ・・・?」
俺が寝ぼけ半分にそう聞くと、紅音は今度こそ眠気がぶっ飛ぶ一言を告げた。
紅音「お兄ちゃん・・・今日、園田先輩と・・・デートなんですってね?」
俺はがばっと跳ね起きた。
紫音「なっ!!何でお前がそれ知ってんだ!!」
紅音「やっぱりそうじゃない!!凛がそわそわしてたから問い詰めたのよ!まったくお兄ちゃんたら私に黙って・・・!」
紅音は腕を組んで仁王立ちしており、迫力がやばい。
紅音「許せないけど約束しちゃったものは仕方ないわ。そして!園田先輩にお兄ちゃんがダサいとか思われたら私、死ぬほど恥ずかしいの!」
翠音「そうだよぉそれはお姉さまが正しいょ。翠音もいやだもん」
う~む読めてきたぞ。
紫音「それで、まさかと思うけどお前ら、俺の服装とかチェックしに来たの?」
紅音「それだけじゃないわよ!トータルコーディネートよ!絶対に園田先輩にお兄ちゃんをバカにされたくないんだから!さあ早く起きて!準備よ!」
う~む・・・仕方ない、起きるか。
俺はいつものロングTシャツとリーパイス501を着て実家に向かった。
妹達の視線は大変冷ややかである。
俺は実家で小さなハムエッグサンドを一つ頬張っただけで、まず風呂に入らされた。
髪をドライヤーで乾かした後、セットスプレーで後方へ流し、固める。
それから爪を切らされ(俺はいつも爪は短いのだが、さらに切らされた)、鼻毛を切らされ、髭(そんなに無いんだけど)を剃らされ眉毛も整えさせられた。
歯も念入りに磨かされる。
その次は服装である。
紅音「お兄ちゃんのバースデープレゼント、服にしておいてホント良かったわ」
翠音「お兄さまとまたケアルカフェに行く時、カッコイイ服を着れるようにね、お姉さまと選んでおいたの」
瑠璃音「そうよ紫音、紅音も翠音も結構おこずかいを貯めて、あなたのプレゼントを買ったのよ。母さんも少し出したんだけどね」
母さんにそう言われると、そこまでしてもらわないとダサいままの自分が、なんか申し訳なくなる。
まず翠音が買ってくれたデーゼルのミリタリーロングシャツと、母さんが買ってくれたリーパイスの510を着た。
これは両方とも黒で、確かになんか違う。
紫音「このリーパイスさ、501と510って・・・かなり細さが違うよね?」
紅音「そうよ、お兄ちゃんは細身だから501じゃすこし余ってカッコ悪く見えるの。ウエストは今の501と同じサイズだし、お兄ちゃんはお尻とか大きくないから入るはずよ」
う~む、筋トレのせいで太ももは結構キツイが・・・ストレッチ性があるので入らなくはない。
紫音「母さんこれ、裾上げしてないの?」
瑠璃音「してないけど大丈夫よ、どうしても余ったら少し折ってもオシャレだわ。細身のジーンズだからね」
翠音「これはお姉さまが選んだんだよ~」
翠音の持ってきたものは赤いスニーカーで、デザインがかなり凝っており少し踵も厚みがあり背が高くなる。
靴のサイドは青や白といったラインが入っていて、軽快さと精悍さを演出している。
これらを着ると・・・確かにちょっと、俺ではない人間になった気がする。
店頭のマネキンがかっこよく着てそうなコーデだ。
最後に母さんが持ってきたのは、ロルフラーレンのデニムジャケットである。
11月で今日は晴れているとはいえ、夜が遅くなったら寒い場面もあるかもしれない、という事で持たされた。
これは親父が会社で何かの記念にもらったものだが、デザインが若すぎて着れないという事で一回も使われず仕舞ってあったものである。
ちゃんと防虫剤のニオイなども取れているのがびっくりした。
今日は日曜で親父も寝室に居たので「親父、これバースデープレゼントという事でもらって行くよ!サンキュ!」と声をかけておいた。
全部着た後、紅音はハンカチにバーバーリの「週末for男」という香水を一吹きし、ジャケットの胸ポケットに入れてくれた。
紅音「この香水なら、高校生が付けててもそう変な風には思われないわね。体に吹くのはダメね。ハンカチくらいがちょうどいいの」
翠音は俺の周りを一周して・・・そのまま俺にがばっと抱き付いて言った。
翠音「お兄さま・・・かっこいぃ。翠音とお出かけして」
紅音は翠音の首根っこを掴み、俺から引き剥がしなが言った。
翠音「はわゎ・・・ぶ~」
紅音「翠音、悔しいけど今日は行かせるしかないわね・・・今度3人で行きましょ」
紅音の合格サインが出て出撃準備完了である。
それでも時計を見るとまだ9時前だった。
俺は思いついた事があり、家族全員にお礼を言って早めに出発した。
昨日ことりちゃんからもらった肩掛けバッグも忘れない。
■□■
10時3分前に俺は秋葉原駅に着いた。
中央改札からUTXビルのほうへ目を移動して探すと・・・不安そうな顔をした海未ちゃんが小さいショルダーバッグと大きいトートバッグを抱えて待っていた。
少しだけ観察する。
海未ちゃんの私服は過去に一回だけ、穂乃果ちゃん説得の日に見た事があった・・・それとは違う服だが、今日もかわいい。
(スクフェス 園田海未SR<ハロウィン編>未覚醒 参照)
あれだけミニスカートを嫌がっていたのに、今日はタイトミニだった。
そしてベレー帽が・・・とても似合う。
靴もいつもの学生用ローファーではなく・・・ヒールが5cm以上ありそうなファーが付いたショートブーツだ。
海未ちゃんの脚は細いので5cmのアップでも、恐ろしく脚が長く見えた。
紫音「海未ちゃん・・・おはよう。待った?」
海未「はい・・・?」
海未ちゃんは俺を見て・・・口をぱくぱくさせた。
大きな目をいっぱいに開いている。
あ、瞳が落っこちそう。
海未「あ、あの・・・おはようございます。いえそれほど待っていません」
紫音「良かった。そのバッグ・・・ずいぶん大きいね。俺持つよ」
俺は海未ちゃんから有無を言わさずトートバッグを奪い取った。
紫音「海未ちゃん・・・ベレー帽すっごくかわいいね。似合ってる。あとそのスカート・・・かわいい。セクシーだね」
俺が褒めると海未ちゃんは瞬時に顔が真っ赤になり、右の拳を握り締めた。
やべ・・・腹パンチ来るかな?
俺は腹筋に力を入れて衝撃に備えたが、パンチは来なかった。
海未「そ、そうやって急に褒めないで下さい・・・ただでさえ恥ずかしいんですから!い、一応お礼は言っておきます・・・ありがとうございます」
海未ちゃんは俺から目を逸らしながら言った。
海未「あ、あなたも・・・いつもと全然違います・・・私のためにして下さったのですか?」
俺は紅音が言った事をヒントにして返してみた。
紫音「そりゃ海未ちゃんが、俺と一緒に歩いて恥ずかしく感じる服装じゃ申し訳ないから・・・釣り合うようにしてみたよ。これなら海未ちゃんの横を歩いても、良いかな?」
海未「いえ、その・・・ありがとうございます。あ、その服でないと私の横を歩いてはダメ、という意味ではなく、普通の服で歩いて良いのですが・・・気を使ってくれた事に感謝します」
う~む・・・相変わらず海未ちゃんの言葉は難解だ。
海未「あ、あと穂乃果の時に後悔したので、できるだけ手は出さないようにしますが、変な言動をしたらぶちますからね」
だからさっき、拳を握っても殴らなかったのか・・・思わず苦笑した。
紫音「はい、了解です。それで海未ちゃん、今日はどこへ行くの?」
聞くと海未ちゃんの目は困ったように左右に揺れた。
海未「・・・ごめんなさい。その、今日まで色々と忙しくて・・・行き先は決まっていないのです。そのバッグの中のお弁当が食べられる公園に行きたいのですが・・・良い所を知りませんか?」
これは願ったり叶ったりである。
紫音「そうなんだ。じゃあ俺に考えがあるからさ、行こうよ!」
俺は先頭を切って歩き始めた。
紫音「このバッグ、中はお弁当なんだ!すっごく楽しみだよ~」
海未「その・・・一応味見したので、大丈夫だと思います。皆、がんばってくれました」
歩き始めてから俺は気がついた・・・やばっ、今更だけど驚いておいたほうがいいかな?
紫音「えっとμ'sの皆が俺のために料理して持ち寄ってくれたんだよね?それでどうして海未ちゃん、一人なの?他にヒマな人、居なかったの?」
海未「・・・3年生は受験勉強、真姫はピアノです。穂乃果とことりと凛は・・・その、にこから恋愛禁止と言われて・・・」
若干海未ちゃんも歯切れが悪い。
海未「花陽は今朝、凛と私の家に来てお弁当作りを手伝ってくれました。それで凛は帰って花陽は来る予定だったのですが・・・凛を裏切れないと言い出して、花陽も残る事になりました」
なるほど、そういう事か・・・ちょっと実験で言ってみようかな。
紫音「そっか~残念だけど仕方ないね。μ'sで俺の誕生日を一緒に祝ってくれるのは海未ちゃんだけか。でも嬉しいな。これって今日はデートって事だよね?」
言い終わった瞬間、腹に強烈なグーパンチが炸裂した。
まあ予想してたので腹筋に力を入れておいたけど。
紫音「ぐほっ」
海未「ち、違います!これは断じてデ、デ、デートなどではありません!お誕生日会が皆の欠席により、二人になってしまっただけです!!」
俺は腹をさすりながら言った。
紫音「い、痛いよ海未ちゃん・・・なにもそんなに強くぶつ事ないじゃん・・・俺、今日は誕生日の主役だよ?あ、判った!海未ちゃん、もしかして俺に触りたいとか?」
今度は肩を強烈にパーで叩かれた。
海未「そっそんなのではありません!!人をヘンタイみたいに言わないで下さい!!失礼です!!」
めっちゃくちゃ怒ってる・・・。
紫音「ご、ごめん嘘だよ海未ちゃん・・・そんな事思ってないから。二人だから嬉しくてちょっとからかいたくなっちゃったんだよ・・・ごめんね」
海未ちゃんは真っ赤な顔で俺を睨んでいたが・・・ようやく歩き始めてくれた。
俺達は末広町から銀座線浅草方面のホームに並んだ。
地下鉄が来ると海未ちゃんはこちらにさっと視線を寄越し「先に乗ります!」と言ってさっさと乗り込んでしまった。
その小さな背中を追って俺も乗り込む。
さあ初めてのきちんとしたデートの始まりだ。
海未ちゃんは絶対認めないと思うけど。