ラブライブ・メモリアル ~海未編~   作:PikachuMT07

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第37話 ことりの告白

ハロウィンイベントが終わった翌週、俺は平常運転に戻り部活とバイトに精を出していた。

弓道の東京都高校新人大会が迫っており、今回も女子と男子の日程は別れているため、俺は約3週間、海未ちゃんは2週間しか余裕が無いはずだ。

これが終わると大会は来年4月まで無いので、高校二年生としては最後の試合となる。

なんとか結果を残したい。

 

     ■□■

 

そんなある日、俺は学校が職員研修とやらで早めに終わったのを良い事に、早い時間から弓道神田道場に入った。

着替えて練習を始めようとした時、指導員の先生から声をかけられた。

指導員「桜野くん、練習前にちょっと申し訳ないんだけど、そこのゴミを道場裏に置いてきてくれないかな?ちょっと最近腰が痛くて」

紫音「はい!判りました。裏のゴミ置き場に置いてくればいいんですね?」

見るとゴミというのは古くなった(何年使ったか判らないような)小さめの箪笥で、弓道具の手入れ用品や備品、救急セットが入っていたものだ。

木製で中は空のためそんなに重くはなく、俺はそのまま抱え上げ、靴を履いて道場の裏へ運んで行った。

箪笥は少し高さがあるので前は見づらい。

ゆっくりめに歩き道場の角を曲がった所だった。

??「ラブアローシュート!!」

何かかわいらしい声が聞こえた後、俺の袴に何か当って落ちた。

俺は箪笥を地面に降ろし、落ちているものを拾って見ると・・・先が吸盤になったおもちゃのダーツである。

よく見るとプラスチックの的が道場の角の張り出したところに付いている・・・俺は前を見た。

そこには制服姿で腕を前に出したままの海未ちゃんが居た。

紫音「あれ、海未ちゃん、おっす!こんにちは・・・どうしたのそんな所で??何してるの?」

海未ちゃんは足がふるふると震えている・・・というか全身わなわなと震えていると言ったほうが正しい。

海未「・・・あ、あなたは・・・なぜこんな所にいるのですかっっ!!」

また偉い剣幕で怒っている・・・。

紫音「え~となぜって・・・練習に来たら指導の先生にゴミを片付けるよう言われたんだよ・・・ごめん、なんか練習の邪魔しちゃった?」

俺はダーツを海未ちゃんに返し、再度箪笥を持ち上げてゴミ置き場まで運んだ。

海未ちゃんは何故か、そっぽを向いているが・・・頬は朱くなっていた。

紫音「・・・え~と確かラブアローシュートって、新曲の歌詞だっけ??いつかどこかで見たような・・・」

海未「ち・・・違います!!と、とにかくあなたに教えるなんて無理です!ではなく・・・え~と・・・もう!弓道の練習をします!」

海未ちゃんは良く判らないがとにかくプリプリと怒り、的を片付けて道場に行ってしまった。

「ラブアローシュート」は確か1ヶ月ちょっと前に海未ちゃんの歌詞ノートに書いてあった言葉のはずだ。

おそらく歌詞の事を考えていたのを邪魔してしまったのに違いない・・・仕方ない、後で丁寧に謝っておくか。

 

どうもその日は音ノ木坂学院も職員研修のようなものがあったらしく、部活が停止だったようである。

海未ちゃんは弓道の大会に合わせた練習をするため道場に来たようだ。

いつもの俺なら海未ちゃんにカッコイイ所を見せるために弓を引くのだが、今日はやはり大会での優勝を見据えた練習をした。

今日海未ちゃんの背中を見るのを我慢し大会で優勝したほうが、間違いなく認めてもらえるだろう。

損して得取れとはこの事である(ドヤ顔)。

 

夢中になって練習しているといつの間にか日は落ち、道場の照明が的を照らし始めた。

今日はバイトがないので、俺は19時半まで練習した。

なかなか集中して良い練習ができたと思う。

俺が片付け始めると海未ちゃんもなぜか片付け始めた。

着替えのために更衣室へ入る時、声をかけられた。

海未「紫音さん・・・その・・・私が着替え終わるまで待っていて頂けますか?」

紫音「はい・・・いいよ」

なんだろうと思いつつ俺が待っていると、制服姿に戻った海未ちゃんが現れた。

外はもう大分暗い。

紫音「何かお話?そしたら歩きながら話そうか。俺海未ちゃんの家まで一緒に歩くよ」

海未「ありがとうございます・・・助かります」

 

俺達は間を30cmほど開けて、並んで歩き始めた。

紫音「・・・で、どうしたの?何かまたμ'sの頼みごと?」

海未「・・・まあそうであるといえばそうなのですが・・・ちょっと違うと言いますか・・・」

なにやらハッキリしない。

紫音「俺、公認スタッフだから。遠慮せず言ってよ」

俺がそう言うと海未ちゃんは決心を固めたようで、ゆっくりと話し出した。

海未「・・・もうすぐ、あなたの誕生日があります」

紫音「ああ、そうか紅音が凛ちゃんに言っちゃったからか・・・」

海未「希だけは、まだあなたと知り合う前に誕生日が終わってしまったのですが、他の子は皆あなたから何らかのものを貰っています」

紫音「え~と、花陽ちゃんと海未ちゃんにはあげてないよ。真姫ちゃんは・・・俺の家に来ただけ」

海未「真姫には紅音さん達が色々したそうですし、花陽は1月17日、私は3月15日ですから当たり前です。そこで・・・μ's全員で考えたのですが・・・」

紫音「うん」

海未「・・・あなたに・・・その・・・私達の手料理を食べてもらおう、という事になりました」

その言葉は男子高に通う俺にとって、伝説のアイテムを手に入れた時の感動に似ていた・・・当面の間、無敵になった気さえする。

紫音「おおおおお!それはなんだか・・・ちょっと恐い気もするけど・・・もの凄く楽しみ!!」

海未「・・・つっ・・・つきましては今週の日曜、お時間は空いておりますか?」

紫音「あ・・・ああ、まあ試合2週間前だけど・・・それくらいならOKだよ!1日中は練習しないし。あれ、でも海未ちゃんが試合1週間前じゃない?」

海未「そ、そうです・・・私が試合前なのですが・・・色々ありまして・・・」

紫音「海未ちゃんも時間作ってくれるんだ・・・俺のためにわざわざありがとう!で、どこに何時に行けばいいの?」

海未「日曜10時に・・・秋葉原駅にお願いします」

紫音「了解っ!!」

なんか楽しみだな!でも・・・ぜんぜん言い淀むような内容じゃないと思うのだが・・・搾り出すように話してたのは何なのだろう?

 

     ■□■

 

11月8日は俺の誕生日である。

携帯には雪穂ちゃん、亜里沙ちゃんも含めおめでとうメッセージが大量に届いた。

こんなに女の子からおめでとうメールが届くというのは人生初だ・・・嬉しい。

凛ちゃんからは紅音経由でマフラーが届いた。

穂乃果ちゃんが生徒会長になってから神田明神の階段トレーニングはあまり行われていないため、手渡しが難しいという判断だろう。

メールでも連絡があり「これから寒くなるから巻いて欲しい。手編みじゃなくてごめんにゃさい」との事であった。

ありがたく使わせてもらうとしよう。

またことりちゃんからのメールには「明日、バイト先に行ってもいいかな?」とあった。

いつもはメールなしで突然来てたけど?と、一瞬だけ不思議に思ったが、深く考えず土曜は21時にバイトが終わる事をメールで返信した。

 

     ■□■

 

土曜、俺はすみれさんと二人でレジをしていた。

20時半を回ったところでことりちゃんがやってきた。

珍しく制服ではないようだ。

夜番のおじいさんバイト二名に引き継ぎを済ませ、俺は一旦すみれさんと外へ出た。

紫音「すみれさん、お疲れ様でした!」

すみれ「紫音くん、お疲れ様!」

そう言った後、すみれさんは俺の耳元に口を寄せた。

すみれ「ね、あのかわいい子、紫音くんの友達?」

ことりちゃんはガラス越しに俺とすみれさんを気にしている。

紫音「あはは、ええ友達ですよ。なんか困った事があると相談に来るんです」

すみれ「いつだったかハロパロをお友達と食べに来たわよね!あの子以外にも、かわいい子が居たわ」

紫音「はは、あの子達もすみれさんの事超綺麗だって言ってましたよ。俺もそう思うし」

そう言うとすみれさんは俺の腕を軽く押し、笑いながら言った。

すみれ「いやね、お友達の前でそんなお世辞言って!あの子、今日の悩みは深刻そうよ。ちゃんと助けてあげてね!じゃあお休みなさい!お疲れ様でした」

すみれさんはウィンクしながら手を振って去って行った・・・俺が大学生なら速攻ですみれさんにコクる事は間違いない。

すみれさんを見送った後、急いで店内に戻った。

紫音「ごめん、ことりちゃん待った?」

ことりちゃんはふるふると首を横に振り、立ち上がった。

今日のことりちゃんはなんと言うか・・・いつもより更に顔色は白く蒼白と言ってもいレベルで、元気が無いように見えた。

体調悪いのかな・・・それとも重い悩みなのだろうか?

紫音「大丈夫ことりちゃん?ちょっと顔色悪いよ。体調悪いなら休んで行く?何か食べる?」

気遣いの言葉をかけるが、ことりちゃんは乗っては来なかった。

ことり「ううん、大丈夫。家まで送って下さい」

 

俺達はゆっくりと歩いてことりちゃんの家に向かう・・・はずだったのだが、なぜかことりちゃんは遠回りをするようで、穂むらの方へ、俺の少し前を歩いていく。

いつもことりちゃんが相談に来る時は制服だったのだが、今日の服装は私服で、しかもとんでもなくかわいい。

スカートが・・・短っ!!

めちゃくちゃ俺好みだ・・・誰だ俺の好み教えたの?まあ考えるまでもなく紅音と翠音に違いない。

 (スクフェス 南ことりSR<星座編>未覚醒 参照)

紫音「ことりちゃん・・・今日『も』すっごくかわいいね!その服初めて見たけど・・・びっくりするほどかわいい」

俺は妹達を褒める時の経験を生かし『も』の部分を少し強調して言った。

これをしないとせっかく褒めたのに反撃を食らうという悲しい展開になる・・・と、心で解説をしてみたが、今日は反撃が返ってくるような雰囲気ではなかった。

紫音「ねえことりちゃん、ホントに大丈夫?元気ないよ?」

ことり「うん大丈夫。心配してくれて・・・ありがとう。ねえ、どうしてそんなに優しいの?」

紫音「え?別に優しくないよ。ことりちゃんが元気ないから心配なだけだよ」

ことり「・・・紫音くん・・・あのバイトのお姉さん、いつもあんな感じなの?」

紫音「あ、すみれさんの事?あんな感じって?・・・ああ帰り際に話してた事?あれはね、すみれさんがことりちゃんの事をすっごくかわいいって褒めてたんだよ」

俺は特に隠すこともないので正直に言った。

紫音「すみれさん、μ'sの事覚えてたよ~。さすが、頭の出来が違うよね!見た目は文句無い美人だし、神様がすっごいえこ贔屓してる感じだよね」

ことりちゃんはしばらく反応が無かったが、少し時間を開けて切り出してきた。

ことり「・・・じゃあ、じゃあ紫音くん、あのすみれさんって人が好きなわけじゃないよね?」

ええ?何でそうなるんだ?そういう質問になる理由が全く判らない。

紫音「あ~確かにすみれさん、すごい人だけど・・・俺なんかが好きになっても相手にされないよ。日本一の大学に現役で受かってしかもあの見た目だから・・・」

ことりちゃんは俺のセリフを遮って言った。

ことり「じゃあ、じゃあ紫音くんは誰が好きなの!?」

え?ええええええ??何だろう、この会話は。

紫音「ええ~っと、ことりちゃん・・・どういう事?俺、なんかした?」

俺とことりちゃんは歩いているうちに、穂むらにほど近い、神田川沿いまで来ていた。

ことりちゃんは俺の服の裾をつまみ、小さな公園に俺を引っ張って入った。

昌平橋公園という神田川が良く見える公園で、この時間は俺達以外、誰も居なかった。

ことりちゃんは照明の下で立ち止まり、立ったまま俺を振り返った。

ことり「紫音くん、お誕生日おめでとう。これ、ことりからのプレゼントです」

ことりちゃんは先ほどまでの会話の流れを放棄し、自分のバッグと一緒に持っていた紙袋を差し出してきた。

素直に受け取る。

紫音「お、ありがとう!これ、何だろう?」

俺が袋を開けようとするのを制し、ことりちゃんは言った。

ことり「紫音くん・・・明日の日曜、10時に秋葉原駅に行くんでしょ?」

紫音「うん、約束したから行くよ。ことりちゃんも来るでしょ?」

ことりちゃんは俺の質問が聞こえなかったかのように、しばらく黙り込んだ。

すらっとした脚は、少し震えている。

俺が心配になった頃にことりちゃんはようやく声を出した。

ことり「紫音くん・・・ことりの事、卑怯だと思うかもしれないけど・・・でもやっぱり、もう我慢できないから言います」

その時のことりちゃんは今までで一番、不思議な存在感で・・・儚く見えた。

ことり「紫音くん・・・あなたの事が好きです。ことりと付き合って下さい!」

 

返事「つきあう」 = ことうみハーレムルート

返事「つきあえない」 = 海未ルート(○選択)

 

俺の思考回路は完全に停止した。

何を言われたのか判らない。

紫音「ええ~っと・・・すみません、何を言われたのか・・・ごめん、良く判らなくて。え~っと付き合うって買い物に付き合うとか・・・そういう事じゃなくて?」

気が付くとことりちゃんは顔を真っ赤にして、涙を浮かべていた。

ああまずい・・・またことりちゃんを泣かせてしまう。

ことり「違うよ・・・ことりを紫音くんの彼女にして欲しいの・・・ダメですか?」

・・・逃げ場がない。

紫音「俺の彼女って・・・だってことりちゃんモテるじゃん・・・なんで俺なの?」

ことり「・・・やっぱりダメなんだね。もしかしたら優しいから、良いよって・・・言ってくれるかも知れないって・・・」

やっぱりことりちゃんは泣き出してしまった。

俺はことりちゃんをブロックを立てたような一人用のベンチに座らせ、自分はすぐそばで膝をつく。

紫音「えっと、たぶんことりちゃんの勘違いだと思うよ。あれでしょ、酔っ払いから助けた時とか穂乃果ちゃんを連れてきた時とか・・・ドキドキしてたから、つり橋効果ってヤツで」

ことりちゃんは泣きじゃくり、俺の左肩に顔を埋めた。

ことり「そんなの!そんなのことりだって何回も考えたよう・・・勘違いじゃないかって!穂乃果ちゃんや凛ちゃんを傷つけても・・・ホントに付き合いたいのかって!でも!だって本当に好きなんだもん!」

ことりちゃんが泣いている所は何回か見た事があるが、今までで一番激しく泣いてるかも知れない。

ことり「紫音くんが他の子と仲良いと・・・ことりの心の中が嵐になっちゃって・・・どんどん性格悪い事考えちゃって・・・彼女になれたら・・・そういう事なくなるって思って」

とりあえず俺は、あれ以来欠かさず持っているハンカチを取り出した。

ことり「お願いします・・・ことりを彼女にして下さい・・・お願い。恋愛禁止とか・・・ことりには無理なの。だってこんなに好きになっちゃって」

俺の左肩はことりちゃんの涙で結構濡れてきている。

それでも俺は・・・イエスと言えない。

ことり「どうしても・・・ダメなの?いつもあんなに優しいのに・・・彼女だけはダメなの?」

もう逃げる事はできない・・・俺は腹をくくった。

紫音「ごめん、ことりちゃん・・・。俺、ことりちゃんのこと大好きだよ。かわいいし、明るくておしゃれで・・・。でも俺、キミよりもっと好きな人がいて・・・その人を好きなまま、ことりちゃんとは付き合えない。二股かけるとか、最低だから」

そう伝えると、ことりちゃんは俺の返事が分かっていたのか、だんだんと泣き声は落ち着いていった。

ことり「やっぱり、そうなんだね・・・正直に言ってくれて、ありがとう。ことりは二股でも良いかなって思ってたんだ・・・だって絶対に振り向かせてみせるから。でも紫音くんは断るって思ってた」

ことりちゃんは涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔を上げた。

それでもやっぱり、ことりちゃんはかわいかった。

俺はハンカチを渡した。

ことり「ふふっまたハンカチ借りちゃったね。ごめんなさい・・・ね、ことりより好きな人、誰ですか?ことりに教えて下さい」

ことりちゃんは涙を拭いて、俺が追加で渡したティッシュで鼻を拭き、小さな笑顔を作って聞いてきた。

なんて強い娘だろう。

紫音「・・・それは・・・ちょっと言えないよ」

ことり「ふふっ、隠してもダメだよ。ことりには判るもん。海未ちゃんでしょ?」

ああ、女の子、やっぱり恐い。

俺の顔を見て、ことりちゃんは確信したようだ。

ことり「卑怯かもって思ったけど、明日が来る前に告白しないとダメだって思ったの。でもやっぱりダメだった」

ことりちゃんは今度こそ本当に笑顔を見せた。

ことり「そのプレゼントの中に明日の事書いてあるから。ことりを彼女にしてくれないなら、ちゃんと海未ちゃんに態度を示して下さい。そうしないとことりだけじゃなくて穂乃果ちゃんも凛ちゃんも苦しいです」

言われている事は判る・・・だが俺にそんな事ができるのか?しかし・・・今日のことりちゃんの態度は立派だった。

ことりちゃんに出来て俺に出来ないというのでは、俺が好かれる理由がない。

紫音「判ったよ、ことりちゃん・・・ホントにごめん。キミが言う通り、俺は海未ちゃんが一番好きなんだ。でもちょっと出会いが違ってたら、キミが一番になってたよ。μ'sのメンバーは皆、その可能性があると思う」

ことりちゃんは笑顔で聞いてくれている。

紫音「ことりちゃんの気持ち、判ったよ。明日海未ちゃんに俺の気持ちを伝えて・・・たぶんフラれると思うけど、それで俺が海未ちゃんを諦め切れたら、キミと付き合うよ。それまでは今まで通り、友達って事でいいかな?」

そう聞くと、ことりちゃんの笑顔は一瞬輝いて見えた。

ことり「うん、友達だよ!今まで通りだよ!」

紫音「・・・ありがとう。じゃあ遅いから帰ろう。家まで送るよ」

俺はことりちゃんが立ち上がるのに手を貸した。

ゆっくりと歩き・・・俺達はことりちゃんの家の前で手を振って別れた。

別れ際もことりちゃんはやっぱり笑顔だった。

 

     ■□■

 

実家で夕食を摂り自分の部屋に戻ると、俺は早速ことりちゃんからもらったプレゼントを開けた。

肩に斜めにかけるタイプのスポーツバッグである。

赤と黒のデザインでかっこいい。

中を開けると手紙が入っていた。

 

 この手紙を紫音くんが読んでるって事は、ことり、振られちゃったんだね。残念だなあ。

 明日はね、海未ちゃんが一人で行きます。だからデートだよ。

 みんなの手料理を食べてもらうんだけど、全員集まって料理して食事してっていう場所と時間がないの。

 3年生は受験2ヶ月前だし、1年と2年だけでも紫音くんを入れると7人になるし、キッチンを借りる所ないし。

 お店には食べ物を持って入れないし。

 それで料理はみんなが作って持ち寄る事になったの。

 紫音くんに会うのは少人数でって事になって、穂乃果ちゃんと凛ちゃんとことりが立候補したんだけど、にこちゃんが恋愛禁止だからその3人はダメだって。

 にこちゃんはことりの気持ち・・・知ってたみたい。

 真姫ちゃんはピアノの練習で遠慮して、3年生は勉強だから、それで海未ちゃんと花陽ちゃんが二人で行くはずだったの。

 でもことりが花陽ちゃんにお願いして、海未ちゃん一人で行ってもらう事にします。

 にこちゃんは海未ちゃんが行くのも反対してたけど、絵里ちゃんが大丈夫だろうって。

 絵里ちゃん、そういう所はちょっと勘が悪いみたい。

 希ちゃんは、ことりのやりたいようにして良いって。

 だからね、海未ちゃんとのデート、楽しんで来てね!これが本当のバースデープレゼントだよ!ちゃお!

 ことり

 

なんつ~か・・・ことりちゃんの手の上感がハンパない。

にこ先輩も、なんて良く見てる人なんだろう。

希先輩も・・・たぶん全部判っているに違いない。

まあとにかく明日は、がんばるしかない。

ことりちゃんと、付き合いたかったなあ・・・泣かしちまったよ、俺のバカ。


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