ラブライブ・メモリアル ~海未編~   作:PikachuMT07

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第36話 ハロウィンイベント

弓道秋季大会の翌日、俺は考え抜いた結果、μ'sのアピールポイントを「9人の個性のぶつかり合い」と書いて送信した。

もちろんこれだけでは意味が伝わらないので具体例、要するに俺の思っている事を、ポイントの下に羅列した。

 

 俺の思っているμ'sの9人は、ケンカするけど協力もする。遠慮しないし命令もしない。ぶつかってもあきらめない。良い物を作るために最後まで努力し続ける。

 9人がやれる事を全部やれば3人のチームには負けない。9人がお互いを想いながらに作る曲や衣装や振りは、3倍のパワーがあるよ。

 奇をてらうよりも、いつも通りいちばんかわいいと思える事をやればファンはついて行くよ。少なくとも俺はついて行く。

 

今更選択肢を増やし揉めてしまうよりも、今ある物をブラッシュアップしていくのが、時間がない時のセオリーでもある。

迷って立ち止まる事も成長のためには悪くはないが、今はそのタイミングではないし俺の思うμ'sはやっぱり突き進んでいるから良いのだと思う。

そして変化を求める事だげが突き進む事ではないだろう。

 

     ■□■

 

海未ちゃんから渡された書類を見る限り、今週末の路上ハロウィンライブでの俺の役割は簡単かと思われた。

今回は路上イベントで朝から他のゲストの出演も続くため、リハーサルがない一発本番である。

よってリハーサル的なものは学校で行い、メンバーはアクセサリー以外の衣装を着たまま、上に薄手のポンチョのようなものを羽織って学校から移動し、準備テントに入る予定となっていた。

メンバーはイベントの進行状況が把握できないため、俺がそれを把握してμ'sがいつどこで待機しスタートすれば良いか指示するのである。

そこまでは簡単で、ライブが終わった後の撤収路の確保と誘導も仕事にあるが、それもそう大変だとは思えなかった。

今回は会場の設営や撮影等の作業はないし、楽に終わるだろうと俺はハッキリ言うと高をくくっていたのだった。

 

     ■□■

 

そんなわけでハロウィンライブの手伝いより、凛ちゃんの誕生日がライブ二日前の金曜にやってくる事のほうが、俺にとっては重大事だった。

絵里先輩の時と同じく、紅音にプレゼント選定の協力を依頼したが「凛はね、お兄ちゃんの事好き過ぎなのよ!良いプレゼントあげたら収集がつかなくなるわ!」との事で断られてしまった。

そこで部活を1日休み、バイトのない平日の放課後に翠音と上野の雑貨屋巡りをする事にした。

渋谷や原宿まで行けばあらゆるかわいいモノがあるのだろうが・・・そんなに選択肢があっても時間がかかるだけである。

しかも翠音は雪穂ちゃんと友達になったせいで、急速に秋葉原周辺の街の「かわいいお店情報」を仕入れており、上野はその範囲に入っていて充分に時間をかけて探せるのだ。

出かける前、翠音は大喜びで「やった!お兄さまと雑貨屋さん巡りぃ!」などとはしゃぎ、とても普段着とは言えない服を着て出かけようとするので、何とかなだめて大人しめの服にしてもらった。

それでも・・・オシャレ過ぎると思う。

秋らしい深緑色のベレー帽と、白のハイネックセーターにワインレッドのミニワンピを合わせているのだが、ウエストのベルトが翠音の華奢な体のラインを浮き立たせており・・・とても中学生には見えない。

あんまりかわいい格好をしないで欲しいというのは兄のわがままであろうか・・・。

それを言うと「お兄さまと外を歩くために買ったんだもん!」と逆にテンションを上げてしまうのであった。

翠音のこの喜びようは、最近部活やテストやμ'sのヘルプと色々あって構ってやれないせいもあるのかも知れない。

どちらにしろあまり俺に発言権はない・・・。

 

俺と翠音は2時間ほど上野の雑貨屋を回り、最終的に猫がデザインされたティーカップ、ソーサー、スプーンのセットを2客と、同じ猫のデザインのクッションを購入した。

クッションは翠音から凛ちゃんへのプレゼントだ。

ティーカップもソーサーも、縁から猫の耳が飛び出るようにデザインされ、取っ手は尻尾がデザインされているという凝りようである。

これはなかなかいい買い物をしたとほくそ笑んでいると、同じメーカーのティーカップで羊だかアルパカだかのもこもこの動物がデザインされたものが俺の目に止まった。

もこもこな動物と言えばことりちゃんが大好きである。

そういえば俺がことりちゃんの誕生日であげたプレゼントは、留学が消えたのであまり意味が無いモノに成り下がっているな、と俺は思い至った。

せっかくなのでもこもこデザインのティーカップとソーサーも1客、購入した。

 

     ■□■

 

11月1日、凛ちゃんの誕生日は平日金曜であり、μ'sは週末のハロウィンイベントに向け部室や屋上で歌とダンスの練習になるため、神田明神には来ない事を俺は知っていた。

仕方なく割れ物だという事を充分に注意した上で、凛ちゃんのプレゼントは紅音に託した。

その日の俺は、今年度のラストである弓道の東京都新人大会があと3週間ちょっとに迫っているため、短い時間だが道場で練習してからバイトに向かった。

バイトが終わり携帯を見ると凛ちゃんから熱烈なメールが届いていた。

「しょー兄ぃ!プレゼント、本当にありがとう!紅音ちゃんに聞いたんだけど、凛としょー兄ぃは今日から一週間だけ、同じ16歳にゃ!」とある。

紅音め、しゃべったな・・・まあしゃべらざるを得ないとは思うが。

「それで16歳同士だから・・・しょー兄ぃじゃなくてしょーくんって呼びたいんだけど・・・いいかな?」とあった。

これは穂乃果ちゃんの影響だろうか。

最後には「いつも凛にかわいいって言ってくれて、女の子として見てくれて、本当にありがとう。すごく自信がついたの!感謝してます。大好きにゃ!おやすみなさい」と結ばれていた。

うう・・・かわいいなあ。

俺は凛ちゃんに好きなように呼んでいい事、凛ちゃんはかわいいから正直にかわいいって言ってるだけ(花陽ちゃんと同じセリフだ)だと返信した。

送信後、なんとか凛ちゃんを俺の妹にする手段はないものかと必死で考える俺なのであった。

考えてもどうにもならんのだが・・・。

 

     ■□■

 

その週の日曜は、秋葉原商店会のハロウィンイベントの最終日である。

予定ではμ'sは15時からの歩行者天国中央ステージ(といっても普通に路上)へ出演予定で、その後は同じ場所でA-RISEがライブを行ってから閉幕となる。

A-RISEの前座、という意識が俺の中にもメンバーの中にもあって、そんなに注目はされないだろうという思い込みがあった。

俺はイベントの進行確認のために本部テントから出て歩行者天国の中央を偵察し・・・びっくりした。

歩行者天国に集まった人は・・・もちろんA-RISEのファンなのだろうが、大群衆と言って差し支えない状況となっていた。

良く考えるとA-RISEの生ライブを無料で近くで見られるのであるから、これは人が集まらないわけがない。

μ'sのライブ後にA-RISEが出るので、μ'sのライブ前からA-RISEのために場所を確保しているファンが大勢いるのだ。

妹チームもその辺にいるはずだが・・・今は人ごみに紛れ見えない。

これはμ'sの過去のライブでは経験した事のない観客数である。

俺は急いでμ'sのいる準備テントに戻った。

 

テントではμ'sメンバーがそれぞれの衣装を身にまとい、着けたアクセサリーをお互いにチェックしあっていた。

穂乃果「しょーくん!お疲れ!イベントはどぅお?」

紫音「穂乃果ちゃん、皆おっす!イベントはほぼ予定通り進行してる。で、すっごい数のお客さんがいる・・・早目に行動したほうがいいね。もう待機場所に入ってもいいよ」

凛「しょ~くん!どう?凛、この衣装・・・似合うかな?」

凛ちゃんは俺に駆け寄り、上目遣いで俺を見た。

凛ちゃんは白を基調としたミニドレスで、アクセントに薄い緑色のコルセットや胸元にリボンをあしらい、小さめのシルクハットにも同じ色のリボンが付いている。

ミニドレスは後ろはある程度長いが・・・前は限界まで短い。

やばっ・・・かわい過ぎる・・・。

紫音「凛ちゃんすごい、めっちゃくちゃかわいいよ・・・ちょっと他の男には見せたくないくらいかわいい・・超似合ってる・・・」

凛「ホント!?やった!でも今日の衣装はみんなかわいいから・・・しょ~くんには凛以外、見てもらいたくないにゃ」

俺は周りを見渡し・・・今回の衣装の素晴らしさに目を見張った。

穂乃果「・・・ふ~ん、しょーくん、ね・・・凛ちゃんばっか褒めてさあ・・・私を最初に見なきゃいけないんじゃないの?しょーくん??」

穂乃果ちゃんにジト目に見られつつ、俺は一人ずつ急いで観察する。

今回は全員の衣装が限界まで短いミニスカートで・・・しかもほとんどがニーソだ。

残念ながら海未ちゃんは俺が見たとたん、手で前を覆ってしまった。

花陽ちゃんの背中には小さい翼が付いており、真姫ちゃんの頭には悪魔っぽいデザインのコウモリの耳が付いている。

穂乃果ちゃんは伝統的な海軍提督のような服を赤とピンクにデザインし直した衣装で、帽子も提督っぽいデザインなのだが、スカートが・・・短い!

3年生の3人もにこ先輩は猫、希先輩は魔女、絵里先輩は海軍提督だが、皆とにかく大胆に太ももを出している。

さてはことりちゃん・・・A-RISEとの勝負でお色気勝負なのかな?あざとい。

紫音「そ、その・・・皆すっごいかわいいよ・・・あ、先輩方もめちゃくちゃかわいいです。俺、ちょっと待機場見てきます!」

自分の顔が紅潮するのを意識して、俺はその場から逃げ出した。

情けないがそのままでは冷静でいられなくなりそうである。

あまり見れなかったが海未ちゃんの、海賊を模した頭にバンダナを巻いた颯爽とした出で立ちは、スカートがヘソ出しの超ミニで素晴らしくかわいかった・・・だが良く本人が着る事を承諾したものだと思った。

ことりちゃん、攻めてるよな・・・俺は心中で感謝を捧げた。

ありがとうございます、ご馳走になります。

 

俺の合図で待機場から出たμ'sメンバーは、歩行者天国中央のステージでポーズを取った。

ネズミーランドにあるホーンテッドキャッスルのような影絵がスポットライトから映し出された後、ライブスタートである。

 

(スクフェス「Dancing Stars On Me」プレイをおすすめ!)

 

俺は正面ではなく、少し横から見ていたのだが・・・かわいい。

いつも通り曲もいい。

正直「ユメノトビラ」ほど魂を揺さぶる曲ではないが、今日のこのハロウィンイベントで「ユメノトビラ」をやってもあまり意味がない。

そういう点でこの「Dancing Stars On Me」はハロウィンイベントに本当にマッチしていて・・・感動した。

こういうイベントでオーダーメイドのように曲や衣装を合わせてくるところは、小さなスクールアイドルならではの利点だと思う。

部員が何十人もいるようなチームや、新曲のリリース時期がきちんと計画されているチームには、難しいだろう。

最後は胸を揺らしながら希先輩が中央に来て、全員でその場で一回転しポーズを取って終了した。

周りから拍手以上に歓声が上がる。

これまでは黄色い歓声が圧倒的だったのだが・・・今日の歓声は半ばドス黒い。

A-RISE目的で来ていたはずの男性ファンが、μ'sのレベルの高さに気付いた、という所だろうか(希先輩と絵里先輩の胸?)。

ステージが終了したメンバーは、観衆に手を振りながら待機場へ戻ってきた。

するとこれは初めての事だが、カメラ小僧や空気を読まないにわかファンが周りを囲んだ。

どっと迫ってきた大量のファンに、俺は危険を感じた。

待機場は簡単なカーテンで目隠しされているので、入ってしまってから衣装と顔を隠せば脱出はそう問題なさそうだが・・・入るまでに何かあったら大変だ。

俺はできるだけメンバーが俺の体で隠れるように動き、スタッフらしく「出演者通ります!」と大声を上げた。

触ろうとする人、携帯で撮影しようとする人、呼びかける人など・・・そういった観客から、縦に長い1列になっているμ'sの周囲を俺は前後に忙しく動きまわり、護衛した。

体は一つしかないのでとにかく素早い移動と大声を駆使し、なんとかメンバー全員を無事に、待機場に入れる事ができた。

最後にテントに入る海未ちゃんの後ろ姿は、かわいらしい細い足首と健康的な白い太もも、細い腰が大変印象的であった。

何事もなく移動できたから良いものの、誰かに触られでもしたら海未ちゃんは震え上がってしまうか逆上するか・・・その前に俺がブチ切れてしまうかも知れない。

μ'sを安全に誘導するのが俺の役割なのに、観客に囲まれた際の移動について想定していなかった甘さを、つくづく反省した。

 

     ■□■

 

本日のμ's公式スタッフの役目は山場を越えたと見て良いだろう。

俺は待機場のカーテンをめくらずに中へ向かって少し大きな声で呼びかけた。

紫音「みんなお疲れ様!素晴らしかったです!10分後にA-RISE始まるんで、始まったら準備テントに移動して下さい!」

絵里「は~い!ショーンはどうするの?」

カーテンの向うから絵里先輩の声が聞こえる。

紫音「俺、妹達とA-RISE見てきます!皆さんは基本これで解散です!商店会の報告はやっておきます!あ、ことりちゃん、ちょっと準備テントで待っててくれると嬉しい」

俺がそう呼びかけると、ことりちゃんから「は~い」という声が聞こえた。

 

俺は妹チームを探した。

少しの時間で紅音、翠音、雪穂ちゃん、亜里沙ちゃんの4人が中央ステージを良く見わたせる正面近くに居る所を発見した。

紫音「おっす!もうすぐA-RISE始まる?」

雪穂「あ、お兄さん、こんにちは!今日もお役目ご苦労様です!」

紫音「雪穂ちゃん、亜里沙ちゃんこんにちは。まあなんとか無事に終わったけど、今日はμ'sのファンになった男いっぱい居たと思うよ。ちょっと危険を感じた」

亜里沙「こんにちは~!亜里沙もちょっと見てたけど・・・紫音さんのガードが効いてましたよ!」

紫音「それなら良かったけど・・・やっぱりこれだけ人がいると、女の子だけじゃ恐いね。今までで一番、俺が役に立った気がする」

紅音「ほら、お兄ちゃん!A-RISE始まるよ!」

紅音に呼びかけられ、俺はステージに注目した。

注目したタイミングだったのだろうと思うが・・・俺は自分の背後にサングラスやマント(ポンチョ)を着けた一団が並んだ事には気付いていなかった。

 

A-RISEのライブは今回のハロウィンイベントの最後の出し物で最も集客力がある(と思われる)。

大歓声の中、「Shocking Party」のライブが始まった。

圧巻のパフォーマンス、そして生で優木あんじゅちゃんを見るのが初めてだった俺は、あんじゅちゃんの可愛さに・・・見惚れた。

紅音「ツバサさん・・・やっぱりかわいい!ダンスかっこいいっ!」

翠音「え~英玲奈さんだよぅ、お姉さま・・・すごい素敵・・・スタイルいいですぅ」

紫音「バカ、お前達どこ見てんだ!あんじゅちゃんを見ろ!!かわいいぞ~!!」

紅音「お兄ちゃん、あんじゅさんはお兄ちゃんみたいなヘンタイさんは嫌いです!」

紫音「なっ・・・なんでお前にそんな事判るんだよ!あんじゅちゃんは見た目が既にすっごい優しさで溢れてるじゃね~か!俺にも優しくしてくれるかも知れないだろ」

翠音「でもお兄さまには縁がないですぅ」

紫音「ぐっ・・・そりゃそうだけど、でもあんじゅちゃんかわいいんだ・・・ああいう娘が俺の彼女になってくれないかなあ」

雪穂「あら、お兄さん、そんな事言うとお姉ちゃんに言っちゃいますよ!」

紫音「あ、いやごめんそれはやめて下さい、雪穂様・・・冗談です。俺があんじゅちゃんに相手にされるはずがありません」

亜里沙「ふふっ紫音さん、態度が違~う!」

1曲目はそんな事を話しつつワイワイ騒ぎながら、妹チームとA-RISEを応援した。

紫音「いや~良いねA-RISE!さすがだね~あんじゅちゃん・・・すっげえかわいい!」

??「・・・も、もう我慢できません!!紅音ちゃん・・・翠音ちゃんもごめんなさい!前に入れてください~」

紅音「きゃっ」

2曲目の「Private Wars」が始まる前、俺達の背後に居たサングラスの一団の一人が、紅音と翠音の間に体を入れて前に出た。

紅音「・・・って花陽じゃない!・・・あ、凛・・・真姫まで!」

雪穂「あ、お姉ちゃんだったんだ!」

妹チームとともに俺は振り向いた。

サングラスで表情は良く見えないが・・・μ'sの面々がそこに居た。

穂乃果「ふ~~ん!しょーくん、あんじゅさんが好きなんだ・・・それは良かったね!!あんじゅさんかわいくて!」

どっき~ん!穂乃果ちゃんの声はかなり攻撃的である。

雪穂「お姉ちゃん・・・いつから居たの?」

穂乃果「A-RISEが始まる最初から居たよ!しょ~くん!最近さ~穂乃果の事なんっにも構ってくれないよね!凛ちゃんばっかり褒めてさぁ!次にあんじゅさんとか・・・私じゃ絶対かなわないじゃん!」

え~最初からって・・・俺らの会話、全部聞かれてたの?

にこ「紫音、あんたがA-RISEをそんなに好きだったとはね・・・穂乃果が怒るのも無理ないわ。あ、2曲目始まる」

うう最初からって・・・俺は背中を冷たい汗が流れるのを感じながら「Private Wars」をかなり控えめに応援した。

ライブが終わると周囲は大歓声に包まれた。

A-RISEが周囲に手を振りながら会場を後にすると・・・俺への追求が始まった。

凛「ねえ、しょ~くん・・・あんじゅさんと付き合いたいってホントにゃ?」

穂乃果「そ~だよしょーくん!私という者がありながら酷いよ!」

紫音「いやいや、それはですね、なんというか憧れ、でして・・・そうなったらい~な~っていう。宝クジで100万円当ったら良いな!ってのと同じ!」

俺は必死で言い訳する。

紅音「穂乃果先輩、大丈夫ですよ。お兄ちゃんはいつもかわいい女の子を見ると、毎回同じ事言ってますけど口だけです。男子校では口癖になるみたい」

紅音のセリフは俺をフォローしてくれているように聞こえるが、内容的には・・・助けられているのか不明だ。

その時夢から醒めた花陽ちゃんがこちらを見て言った。

花陽「穂乃果ちゃん、凛ちゃん!男の子は女性アイドルには憧れるものなんです!それがアイドルというものです!ましてやA-RISEなら当然です!」

にこ「花陽、それはそうだけど、コイツにはこんなに近くににこ達が居るのよ。それであのセリフは納得できないわね~」

??「あ、あれさっきの娘じゃね!?」

??「A-RISEの前にやった・・・ミューズだっけ?」

??「お、写真撮りてえ」

俺達が話しているとA-RISE前から居たギャラリーの一部が、俺達に反応し始めた。

これはマズイ。

紫音「みんな、ここじゃ目立つよ。テントに戻ろう。絵里先輩、先頭お願いします。俺後ろを守ります」

とりあえず話し合いを中断し、俺達は騒ぎにならないよう素早く移動を始めた。

俺は妹チームも使い、μ'sメンバーの背後をガードしながらしんがりを勤めた。

 

全員で準備テントに入る。

今日は現場での着替えはなく、μ'sの面々はこの服装のまま学校に戻ってから着替えるので、俺も居て大丈夫だ。

安全を確保すると早速花陽ちゃんが、想い出に浸り始めた。

花陽「は~んっ!!A-RISE・・・素敵でしたっ!」

絵里「そうね、生で見るのは先月の屋上撮影会のとき以来だけど・・・やっぱりすごいわね」

絵里先輩の発言に皆でうんうんと頷いていると、希先輩が妖しい微笑みを浮かべた。

希「そういえば~、紫音くん、ウチ達、優木あんじゅさんの連絡先、知ってるけど・・・いる?」

桜野兄妹「え!!!???」

その言葉に俺達兄妹は大声を上げてしまった。

紅音「東條先輩・・・なんで知ってるんですか!!もしかしてA-RISE全員・・・?」

希「それはそうやん。先月の撮影会で、UTXビルにお呼ばれした時、交換したんよ」

なるほど、それは当然そうだ・・・「ユメノトビラ」の時は俺に何も役目が無かったから気付かなかったが、そうしないほうが不自然である。

希「つまり、確かにA-RISEは凄いスクールアイドルやけど、ウチ達には友達って言い方もできるんよ?それを紫音くんが付き合いたい~!って言うたら・・・ちょっと妬けちゃう子もおるんよ」

ははは何言ってんですか希先輩そんな妬けるとかどうでもいいからさっさと連絡先下さい・・・と言おうとして、済んでの所で俺は周りの視線がどうなっているか、気付いた。

そんな事を言える雰囲気ではなかった。

紫音「は・・・はは。いや連絡先なんてもらっても、さっきも言いましたけど俺が相手にされるわけないですよ!あと花陽ちゃんが言ったように、あれは憧れですから」

自分の心が悲しみの涙を流している事が自分で判った。

紅音「東條先輩っ!お兄ちゃんには絶対教えないから私に教えて下さい!!」

亜里沙「お姉ちゃん・・・亜里沙も教えて欲しい・・・ファンレター書きたい」

うう、くっそ~・・・やっぱり俺もファンレター書きたいって言おうかな。

穂乃果「じゃあしょーくん、あんじゅさんと付き合いたいっていうのは・・・憧れだけって事だね?」

紫音「お、おう!当たり前だよ!男子校ではかわいい娘を見たらとりあえずそう言う決まりなんだよ」

あんじゅちゃんの連絡先欲しい!くれえ!と呪文のように心で唱えながら、穂乃果ちゃんに笑顔で答える。

凛「良かった・・・あんじゅさんと付き合いたいから連絡先が欲しい!って言ったらどうしようかと思ったにゃ」

凛ちゃんが安心したように言うのと対照的に、ことりちゃんはまだ不安な様子だ。

ことり「・・・そうだよ。ことり達が恋愛禁止だから他の子に興味出ちゃったのかなって思って・・・心配になっちゃった」

紫音「あ、あはは、そうか、そうだね。μ'sは恋愛禁止だから、俺は本当はあんじゅちゃんに彼女になってもらうのを目指すべき・・・なんだね。μ'sも男性ファンが増えるなら、男スタッフが居たら微妙だよね、ホントは」

俺がそう言うとメンバーの半数が息を飲むのが判った。

にこ「あんた・・・判ってるとは思うけど、あんたは私達のファン兼スタッフなの。彼女を作りたいならμ'sじゃない子に興味を持つ、って意味よね?スタッフを辞めたりする事はできないわよ?」

紫音「・・・そ、そうです。判ってます」

にこ「・・・にこ達もあんたには悪いと思ってるわ。でも大事な時だから許してね。さあそれじゃいつまでもこの格好じゃ自由が利かないから帰るわよ」

にこ先輩がそう言うと、メンバーは各自、しゃべりながら荷物をまとめ始めた。

凛「凛はしょ~くんに彼女作って欲しくないにゃ。μ'sと一緒に居て欲しい。穂乃果ちゃんと付き合うなら凛も仕方ないと思うけど・・・でも他の子は嫌にゃ」

紅音「凛・・・あのね、お兄ちゃんはこことバイト以外、全然女っ気ないわ。そこは保証できる。でもいつも言ってるけど、お兄ちゃんはとにかく気が多いから、やめたほうがいいわ」

穂乃果「そうだよ!しょーくん皆に優しいから、ちょっと心配なんだよね~。あのバイトの子がしょーくんに告白したら、しょーくん一瞬でOKしそうじゃない?」

穂乃果ちゃんにそう言われると、ちょっと自分でもそんな気がしてくる。

・・・いやいや待て待て、俺が好きなのは海未ちゃん海未ちゃん・・・。

またもや心で呪文を唱えながら海未ちゃんを見ると、一瞬目が合ったがすぐ、逸らされてしまった・・・悲しい。

翠音「・・・お兄さま、皆さま帰るようですよ。ことりちゃんに渡さなくていいの?」

紫音「はっ!!翠音、お前は素晴らしく気が利く妹だな・・・サンクス!ことりちゃん?」

意気消沈しかけていた俺は翠音のフォローに大事な事を思い出し、ことりちゃんと目を合わせた。

ことりちゃんは帰り支度をせずに突っ立っていた・・・あれ、ずっとこっち見てた?

俺は背中に背負ったバックをがさごそと漁り、目的のモノを取り出した。

紫音「ことりちゃん、これさ、凛ちゃんの誕生日プレゼントと同じだけど、ことりちゃんが喜ぶと思って。ことりちゃんの誕生日にあげたヤツ、留学しないとあんま意味ないから、改めて」

ことり「わああ!ありがとう!開けていい?」

包みを開こうとすることりちゃんを絵里先輩が注意する。

絵里「ことり、もう学校に戻るわよ。ごめんなさいねショーン」

紫音「いえいえ。ことりちゃん、知ってると思うけど、それ割れ物だから家に帰って開けてね」

ことり「うん、一昨日凛ちゃんのプレゼント、みんなで開けて見たから・・・ありがとう!大切にします!」

ことりちゃんにお礼を言われると、こちらこそいつもかわいい衣装を見せてくれてありがとう!と感謝を述べたくなる。

弓道着の海未ちゃんも大好きではあるが、ことりちゃんの衣装は海未ちゃんの魅力を150%くらい引き出している・・・と思う。

しかしそれをここで口に出せば、間違いなく海未ちゃんにグーで殴られ「どうせ私はことりの衣装がなければ見るに耐えない女です!でもあなたにそれを言われる筋合いはありません!」などと罵られるに違いない。

そのプランもちょっと面白いどつき漫才となり得るかもだが、果たして・・・などと妄想しているうちに、メンバーの帰り支度は整っていた。

絵里「じゃあショーン、今日も助かったわ。特にあれだけの人に囲まれた時、私達だけじゃやっぱり困るわね。あなたが居てくれて良かった」

真姫「そうね、最近出待ちのファンも多いし、あれだけの人数に囲まれて写真とかねだられると主催者にも迷惑だし・・・私達が断ると人気にも影響あるし。スタッフの紫音さんが居て正解ね」

希「ありがとうな、紫音くん。あんじゅさんのメルアド、やっぱり欲しいなら言ってな!」

穂乃果「希ちゃん、それは余計だよぅ!しょーくんはそんなのいらないの!しょーくん、じゃあね!」

凛「しょ~くんありがとにゃ!バイバイ!」

そんな事を言いながら絵里先輩を先頭に5人と雪穂ちゃん、亜里沙ちゃんはテントから出て行った。

ことりちゃんと花陽ちゃんも今日の成果に満足だったようで、にこにこしながら手を振って帰っていった。

次ににこ先輩がテントを出る前に口を開いた。

にこ「紫音、今日もありがと。ただあんたはA-RISEを応援しないでいいわよ。このにこ様とμ'sを応援するのね。商店会への報告頼んだわよ。じゃあね」

そう言ってにこ先輩は俺にウィンクして出て行いった。

最後は海未ちゃんで、明らかに一言も無しに出て行こうとしていた・・・が、寸前で足を止め、振り返った。

海未「絵里も言っていましたが・・・あなたが居てくれて今日も助かりました。ありがとうございます。あとこれは私ではなく!凛の希望ですが・・・かっ、彼女など作らないで・・・いえ!作る事自体、許しません!凛が泣いてしまいますから!」

海未ちゃんは最初恥ずかしそうに小さい声だったが、最後はなぜか怒っていた。

紫音「はは、海未ちゃん今日もすっごくかわいかったよ。まあ彼女欲しいけど、出来ないと思うよ。凛ちゃんの事心配してるんだね~さすが後輩思いだね」

俺がそう言うと海未ちゃんは顔を真っ赤にして・・・何か言いたそうだったが、そのまま何も言わずに出て行った。

紫音「じゃあね海未ちゃん!」

俺は慌てて挨拶を送った・・・聞こえただろうか?

 

     ■□■

 

俺は妹二人と商店会イベント本部テントに行き、μ'sのメンバーが撤収し準備テント内の整理も終わった事を報告して帰宅した。

紅音と翠音は早速A-RISEにファンメールを出していた・・・うらやましい。

全国1位のA-RISEであってもファンから直接メールができるこの気安さは、スクールアイドルの良い所だろう。

 

自分の部屋でのんびりしていると、ことりちゃんからメールが来た。

やはりティーカップはアルパカがデザインされていたようで、大変感謝された。

俺は「喜んでくれたのなら良かった」という内容の返信をした。

すると今日の会話の続きと思われるメールが返ってきた。

「ねえ紫音くん。彼女、欲しいの?」と書かれている。

俺は正直に「そりゃ欲しいよ!クラスでも少ないけど恋人がいるヤツいるし。すごくうらやましい」と返事をした。

返信は「そうだよね。ことりも恋人、欲しい(*^。^*)じゃあね、お休み(-_-)zzz」だった。

きっと恋愛禁止の事を言ってるのだろう。

にこ先輩は、スクールアイドルではないメジャーアイドルである、秋葉原が地元のアーカーベー48をかなり意識している。

それゆえに「恋愛禁止」というルールを設定したのかも知れないが、意識しなくても、2ndラブライブ出場をかけた大事な時期、普通は恋愛禁止になるだろう。

それについては決まった事であり、あまり深く考えても意味がない。

俺も寝よう・・・あんじゅちゃんが俺の彼女になる夢が見られると、きっと楽しいだろうと思う。

海未ちゃんとの夢は、殴られてばかりかも知れない。


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