ラブライブ・メモリアル ~海未編~   作:PikachuMT07

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第34話 佳織ちゃんとすみれさん

凛ちゃんセンターで披露されたファッションショー翌日は、絵里先輩の誕生日である。

ことりちゃんの誕生日の時に絵里先輩がアクセサリーに興味を見せていた事を覚えていた俺は、紅音に相談し絵里先輩に似合いそうなアクセサリーを買ってもらっていた。

絵里先輩が喜ぶアクセサリーを俺が自分で選ぶというのは、難易度が高すぎるだろう。

気持ちが大事とは言っても同じ値段ならば、やはり使ってもらえるものをプレゼントしたい。

紅音はそういう点ではガチで頼れる妹である。

うっかりしていたのだが、昨日のライブ終了は夜も遅かったので、翌朝の階段トレーニングが休止になる事を先読みし、プレゼントを昨日渡しておけば良かったのだ。

サプライズを優先し当日にしようと思ったのが失敗で、本日は夕方の階段トレーニングがあるかも不明のため、プレゼントは翠音から亜里沙ちゃんを経由して渡してもらう事にした。

そして部活で汗を流し自宅に戻った後、絵里先輩には誕生日おめでとうメールを出した。

プレゼントしたアクセサリーは無事絵里先輩の手に渡り、気に入ってもらえたようである。

返信には、絵里先輩はアクセサリーを着ける事はもちろん、製作する趣味もあるのだと書いてあった。

返信からは絵里先輩がかなりプレゼントに対し恐縮していた様子が見えたので、もし時間があれば妹達にでもお返しを作ってあげて欲しいと返事しておいた。

受験があるので難しいとは思うが・・・。

返信のついでに絵里先輩に来年の事を聞いてみた。

目標としてはロシアと日本の架け橋になるような仕事をしたいようで、外交官を目指すと書いてあった。

法学系の大学で勉強し公務員試験を受ける流れとなりそうである。

センター試験は必ず受験する事になるため、絵里先輩は既に受験本番二ヶ月前なのであった。

生徒会長でもあったわけだし推薦の流れもあるとは思うが、より上位の大学を目指して受験するようである。

さすがだ・・・。

絵里先輩が勉強に打ち込めるように、μ'sのサポートは俺がきちんと務めたいと改めて思った。

 

     ■□■

 

その翌日、音ノ木坂学院の二年生が修学旅行から帰ってきたという一報があった。

ことりちゃんからのメールには「お土産を渡したい」と書かれていた。

あの娘達の顔は見たいが、凛ちゃんとのウェディングドレスだっこ写真の件は間違いなく突っ込まれる。

突っ込みとその言い訳のために、まとまった時間を取って受け渡しをしたたほうが良いが・・・今週末は試合だ。

俺は「お土産ありがとう。でも今週は弓道のほうをがんばりたいから来週時間がある時に」と返信した。

 

     ■□■

 

木曜、俺は少し学校が長引いてしまったため弓道場には行かず直接バイト先のミニストッパに向かった。

神田明神はどちらにしろ通過するため、俺は階段トレーニングを期待して明神様の階段を目指して歩いていた。

二年生の修学旅行で9人揃う事が数日間無かったため、今日はトレーニングしていると予想はしていたが、神田明神の階段の上に溜まっているμ'sは何故か9人とも制服を着ていた。

何か作戦会議でもあったのだろうか・・・そう思いながら階段の下から呼びかけようとした時だった。

??「しおん先輩!!」

突然声とともに俺は背中を叩かれた。

紫音「うぁっ・・・と」

思わず声が出てしまった・・・振り返ると御茶ノ水駅からほど近い女子高の制服を着た佳織ちゃんがいた。

制服は東京の女子高生の例に漏れず、かなりのミニスカートである。

佳織ちゃんは長めの髪を頭の後ろで束ね上向きに広がるように留めており、小顔が引き立っている。

髪留めも鮮やかな青空と星をあしらったかわいらしいもので、イメージにピタリとはまっていた。

制服姿は初めてではないが・・・外で会うとまた印象が違うものである。

紫音「なんだ佳織ちゃんかぁ・・・びっくりさせるなよ~驚いたなあもう!」

佳織「ふふっ先輩、驚いちゃった?佳織、一応後ろから声かけたんですよ~!」

紫音「・・・ぜんぜん聞こえなかった・・・ごめんね。追いかけてくれたの?」

佳織「そうですよ~!一緒にバイト行きましょうよっ!」

俺達は歩き始めたが、佳織ちゃんは歩いている俺の周りを衛星のようにくるくると回ってから、俺の左手を握った。

佳織「先輩、意外と手、大きい~!こんな手でハロパロを上手に作るのって佳織、いつもすごいなって思ってたんだ~!・・・あれ、先輩の手、ここ固いよ?」

佳織ちゃんは俺の手を取り、しげしげと眺めながら言った。

紫音「ああ俺ね、実は弓道部部長なんだよ。部員は俺しかいないけど。で、これは弓道のタコ。練習するとなっちゃうんだよね」

佳織「へ~先輩、弓道部なんですか~!すごい!かっこいいっ!!佳織、ちょっと見てみたいなあ~!」

佳織ちゃんは俺の左手を取ったまま一緒に階段を上り・・・いつの間にか俺達は明神様の境内に入っていた。

バイトの事を夢中になって話しながら歩いていた俺が、ふと目を佳織ちゃんから前方に向けると・・・恐ろしく攻撃的な視線が俺に集中していた。

μ'sの9人が、全員ジト目で見ているのである(あ、希先輩だけニヤニヤしてる)。

ハタと気付く・・・俺、もしかして佳織ちゃんと手をつないで歩いているように見えるのだろうか?

紫音「か・・・佳織ちゃん・・・俺、ちょっと恥ずかしいなあ・・・手を離していい?」

佳織「何言ってんですか先輩~!いつも佳織がハロパロ作る時くるくる回すのヘタだから、手を握って一緒に回してくれるじゃないですか~今更ですよっ」

海未ちゃんの言葉が脳裏を掠める・・・「お付き合いしていない女の子に触るなど!破廉恥です!!」だったっけ?

俺・・・大ピンチ!!

紫音「あ、あはは、か、佳織ちゃん・・・そういう事は恥ずかしいから外で言わないでよ・・・ね?」

佳織「何ですか先輩、恥ずかしがり屋さんですね~!佳織たちの話なんて~誰も聞いてないですから、大丈夫大丈夫!!」

いや聞いてるよ、すっごく聞いてる・・・9人も。

佳織ちゃんはまたもや俺の周りをくるくる回り、最後に正面から俺の左腕を取った。

佳織「佳織ね、バイトの先輩が恐かったらやだなあ!って思ってたんですよ~!でも紫音先輩、優しいしかっこいいから続けられそうです!ほんと感謝してるんですよっ」

佳織ちゃんはそう言って俺の左手を握ったまま、俺達はμ'sメンバーの前を通過した。

これはもう逃げるの一択である。

紫音「は、はは、ははは~そうだね、いや後輩に優しくするの普通だよ!普通普通!わはは!じゃあバイト行こう!」

俺はもう後ろばかり意識していたので前をよく見ずに走りだそうとした。

佳織「きゃっ」

佳織ちゃんは俺の左手を握りながら後ろ向きに歩いていたため、俺の移動速度が少し変わった事に対応できず・・・つまづいた。

・・・というのは俺の主観だが、もしかしたら俺が普通に歩いていても彼女は転んだのかも知れない。

紫音「・・・おっとごめん」

まだ走りだしていなかった俺は右手のカバンを放り出し、佳織ちゃんを抱きとめた。

彼女は俺の左手を掴みっぱなしだったので、俺は左手に力を入れるだけで彼女が掴まれたのも大きい。

佳織「・・・先輩・・・すごく反射神経いいんですね・・・佳織、なんにもない所でもよく転んじゃうんで・・・ありがとうございます・・・」

紫音「いや、なんか俺も急に走ろうとしちゃって・・・ごめんね。大丈夫だった?」

俺は佳織ちゃんを立たせてからカバンを拾った。

とっさの事態で頭から飛んでいたが・・・そこで視界に入った光景に、俺は自分が何故走ろうと思ったのかを思い出した。

μ'sの視線・・・すごい。

もうあと1週間で10月も終わるという涼しい日にも関わらず、俺は冷や汗が滝のように背中を流れるのを意識した。

佳織「ねえ先輩、なんか表情固いですよ?佳織、転ばなかったし気にしないで下さい!じゃあバイト行こうっ!」

結局俺はμ'sには一言も発する事ができず、最後まで佳織ちゃんに左手を引っ張られながら神田明神を後にした。

どうやって言い訳しようか・・・古文のテストより難解かも知れない。

 

バイト中も俺は大層悩んでいたが・・・ミニストッパの自動ドアが開き、悩むなんて生易しい状況は突然終了した。

紫音「いらっしゃいま・・・せっ!!」

店内に入って来たのは・・・μ's二年生3人と凛ちゃん、にこ先輩である。

5人は一見普通だが・・・俺を見る時だけとんでもなく目つきが鋭い・・・更にことりちゃんの視線は悲しそうだ。

5人は佳織ちゃんのレジに並び、ハロパロを5個注文した。

佳織ちゃんは店長大絶賛のかわいい笑顔で会計を済ますと、番号札を5人に渡しハロパロを作り始めた。

が・・・やっぱり俺のほうを見るので仕方なく回すところは手を握って手伝った。

俺と佳織ちゃんがハロパロを作っていると、すみれさんのレジに会社員風の中年男性が並んだ。

すみれ「いらっしゃいませ~!」

すみれさんの透き通るような声は大好きである。

中年男は何やら紙をいっぱい出した。

税金と公共料金とチケットの引き換えのようだ。

すみれさんはバーコードを通しハンコを押してがんばっていたが・・・チケットの処理が判らず俺を見た。

ハロパロ作りを佳織ちゃんに任せ、俺は今度はすみれさんを手伝った。

処理が終わるとすみれさんはかなり俺の近くに寄って上目使いで俺を見た。

すみれ「紫音くん・・・いつもありがとう。お客様の前だとあがっちゃって・・・ダメね私」

すみれさんは小さな声でそう言って、手をグーにして自分の頭をちょこんと触り首をかしげウィンクしながら小さく舌を出した。

肩より少し下でゆるふわカールになっている髪が揺れる。

紫音「・・・あはは、慣れですよ慣れ!」

俺は破壊力抜群の萌え攻撃をなんとか笑って誤魔化す事に成功した。

背後からのプレッシャーがなければ危うく精神を持って行かれるところである。

そこで佳織ちゃんがハロパロ5個を完成させた。

佳織「できたっ!紫音先輩、すみれさん、運ぶの手伝って~」

すみれ「はい!」

俺は佳織ちゃんの顔を見て・・・噴き出した。

紫音「佳織ちゃん、鼻にソフト付いてるよ!」

佳織「・・・やだ~っ!もう佳織のドジ!」

俺とすみれさんはくすくす笑った。

佳織ちゃんはペーパーで鼻を拭き、3人でハロパロをμ'sの5人に運んだ。

佳織「お待たせ致しましたっ!」

すみれ「お待たせ致しました~」

この二人の笑顔は本当にまぶしいくらいかわいくて、誰でも笑顔になってしまうのだが・・・。

俺は最後の一つを、運が悪い事に海未ちゃんの前に置く役目となってしまった。

・・・笑ってないな~この人たち。

紫音「お・・・お待たせ致しました・・・」

海未「・・・ずいぶん楽しそうなアルバイトですね・・・」

海未ちゃんは低い声でそう言った。

紫音「・・・あははは・・・ごゆっくりどうぞ~」

俺はそそくさとレジに退散した。

そこからは生きた心地がせず、俺はレジを二人に任せ飲み物の品出しをする事にした。

うう・・・誰か助けて・・・。


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