ラブライブ・メモリアル ~海未編~   作:PikachuMT07

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第33話 Love Wing Bell

水曜から喜び勇んで沖縄修学旅行に行った穂乃果ちゃん達だったが・・・到着した直後、台風が直撃した。

かわいそうに・・・穂乃果パワーも台風には勝てなかったようだ。

今頃どうしているだろうと思っていると、おそらくホテルで缶詰にされている海未ちゃんから、メールが来た。

「紫音さんこんにちは。こちらはせっかくの修学旅行なのですが台風であまり楽しめません。ところでババ抜きの必勝法を知っていたら教えて下さい」

何の事だろうか・・・ババ抜きに必勝法?・・・う~ん。

俺の返事は「海未ちゃんこんにちは。台風残念だね。俺は来週の大会の練習がんばってる。ババ抜きの必勝法って・・・相手の後ろに鏡を付ける、かなあ?ズルになるけど」とした。

すると比較的素早く「私の後ろに鏡はありませんでした。私の手札が判る何かがあるのでしょうか?」と返事があった。

申し訳ないが俺は正直に「判らない」と返事した・・・海未ちゃんとババ抜きをやれば判るのかも知れない。

 

     ■□■

 

次の日、木曜日にはことりちゃんから大変な連絡が来た。

台風のため飛行機が飛ばず修学旅行の日程が押し、日曜日に帰って来れないというのだ。

これはツイてない・・・ことりちゃんはファッションショーを楽しみにしていたのに・・・。

俺が撮影をがんばって、美しい記録を残すしかない。

 

     ■□■

 

日曜、やはり二年生からは東京に戻れるという連絡はなく、俺は自分の責任を重大に感じながら制服で秋葉原駅に向かった。

雪穂ちゃんと亜里沙ちゃんが一緒なのは良いのだが・・・何がどうなったのか、紅音と翠音も一緒である。

秋葉原駅には制服姿のμ's1年生と3年生が待っていた。

凛「あ!しょー兄ぃ、紅音ちゃんも来たぁ!」

紫音「お、凛ちゃんおっす。皆さんすみません、どうしても妹が二人とも来たがっちゃって・・・」

絵里「いいのよ、亜里沙も来たがってたし。こちらこそ弓道の試合一週間前に悪いわね。ありがとう」

翠音「絵里さん、こんにちはぁ!今日もすっごく楽しみです!亜里沙ちゃんと応援してますぅ」

翠音はそう言うと早速、亜里沙ちゃん雪穂ちゃんと3人でおしゃべりを始めた。

俺が紅音を見ると・・・目が合った紅音は少し慌てて言った。

紅音「いいでしょ、私も来たって!μ'sの現リーダーの凛に誘われたんだから!」

紫音「現リーダー??」

びっくりした俺はオウム返しに聞くと絵里先輩が注釈を付けてくれた。

絵里「・・・穂乃果がいない間、暫定リーダーを凛にお願いしたのよ」

紫音「へ~~!!凛ちゃんがリーダー!!それはおめでとう!今日はよろしく、凛ちゃん!」

凛「・・・しょー兄ぃ・・・ありがとう。よろしくにゃ」

紫音「・・・あれ?なんかテンション低いね、凛ちゃん?」

凛「そ、そんな事ないにゃ!元気元気!」

凛ちゃんは大きな声でそう言って、先頭を切って改札を抜け、ホームへ走って行った。

予定の全員が集合していたので俺達もホームに上がり、来た電車に乗る。

目的の駅はそう離れてはいない。

俺の横に立っていた花陽ちゃんが俺に話しかけてきた。

花陽「紫音さん、いつか、覚えてますか?凛ちゃんのセンター曲が来るように私達で投票するって」

紫音「もちろん覚えてるよ!俺マジで穂乃果ちゃんに要望を言ったもん」

花陽「今回穂乃果ちゃんからは凛ちゃんがリーダーで、今日の曲も凛ちゃんがセンターでっていう話だったんです」

紅音と話していた凛ちゃんは耳ざとく会話に割り込んできた。

凛「いいんだよかよちん!いいの!かよちんのほうがかわいいからいいんだよ!」

花陽ちゃんはなんだか淋しそうな顔をしている。

見回すと真姫ちゃんも先輩方も、困った表情をしていた。

ちょっと状況が飲み込めず、俺は紅音の顔を見たが・・・紅音も良く分からない模様で首を横に振っている。

紫音「花陽ちゃん・・・今回ウェディングドレスって聞いてるけど・・・曲もそういう感じなんでしょ?」

花陽「そうです・・・ドレスは結婚式本番で着るようなロングのタイプではなくて、膝上のミニドレスなんですけど・・・曲も衣装もウェディングを意識してます」

紫音「その・・・俺は男だから良くわからないけど、デザイナーさんは女子高生に着てもらいたいと思ったんだから、女子高生が憧れるような、イマドキのドレスなんじゃない?」

花陽「そう!そうです、私もそう思います!!」

紫音「そしたらもちろん花陽ちゃんでも似合うと思うけど、凛ちゃんだってイメージぴったりで似合うと思うけどな・・・すっごく見てみたいよ、凛ちゃん」

俺はそう言って凛ちゃんの反応を伺う。

凛「・・・い、いいんだよ!しょー兄ぃは衣装を見てもいないのに!・・・余計な事言わないでいいの!凛はかよちんのかわいい所を引き立てられればそれでいいんだにゃ!」

紅音「あら・・・凛、ウェディングドレスなんて私達の年齢で着れるものじゃないわよ。ましてやお兄ちゃんだけじゃなくて、プロのカメラマンも来るんでしょ?私なら無理矢理にでも着たいし、着こなして見せるわ」

凛「・・・もう!紅音ちゃんはかわいいからそんな事言えるんだよ!いいの!この話はもう終わりにゃ!」

凛ちゃんは拗ねたような表情でそっぽを向いてしまった。

だが俺の意見はぜんぜん違う・・・ここは訂正する所だろう。

紫音「凛ちゃん・・・俺にとっては紅音は妹で、いつも見てるからさ・・・飽きた。凛ちゃんのほうが全然かわいいと思う・・・ぐはっ!!」

紅音の肘鉄が俺のわき腹に炸裂した。

しまった・・・ちょっと正直過ぎた。

 

会場は華やかなドレスを着たモデルの娘たち、それを見に来たアパレル関係やブライダル関連会社の社員、ショーを開催したファッションブランドのスタッフ、ファンの娘達とかなりの人で埋め尽くされていた。

俺は雪穂ちゃん亜里沙ちゃんの二人と、舞台中央を捉えられるベストポジションに陣取った。

紫音「あれ、紅音と翠音は?」

雪穂「あ、二人なら着替えに行きましたよ」

着替え??なんであの二人が着替える必要があるんだ?

ちなみに雪穂ちゃんと亜里沙ちゃんの二人も今日は制服ではない。

雪穂ちゃんは爽やかな薄い水色のミニワンピに白いニーソ、亜里沙ちゃんは紺色のゴスロリ風ミニワンピに白いリボンが付いた黒のニーソであるが、秋葉原では派手とは言えない装備である。

紅音と翠音も集合した時はいつも良く着ている服だったのだが、着替えとはどういう意味だろう。

紅音「お兄ちゃんお待たせ!」

翠音「お兄さまぁ待った?」

着替えてきた二人を見て、俺はあきれた。

紫音「おいお前ら・・・今日は、μ'sがファッションショーを盛り上げるイベントであって、お前らがオシャレする会じゃないぞ!」

現れた妹二人は、そのままダンスパーティに出席できるようなパーティドレスを着ていた。

紅音「だってこういうの着れるの、日本じゃチャンスがないんだもん!」

翠音「そうだよぉ去年までは結構あったのにぃ」

雪穂「うわっ!!翠音ちゃんかわいいっ!!」

亜里沙「紅音さんも素敵です!」

俺の指摘をものともせず、女子トークが始まってしまった。

紅音はウェストが絞られ胸が強調されるような肩出しデザインのミニパーティドレスで、色はパステルピンクだ。

翠音も同じデザインの明るいグリーンのドレスで、既に夜は寒くなっている事もありそれぞれ薄い紫と濃い紫ののストールをかけている。

確かにファッションショー、しかもブライダル系なので実際に花嫁が着るウェディングドレスや、招待された時に着るカクテルドレス姿の娘も会場には多数居るが、それはほぼ舞台上だ。

一般席にいる娘は皆「普段着ではないがドレスではない」レベルのオシャレ装備である。

それはそうだろう、モデルでない娘は衣装は着ないのである。

そう考えると・・・我が妹達はちょっと痛い娘に分類されてしまうのではないだろうか。

会場に居る人はこの手の服を見慣れている人ばかりのようで、妹二人が注目されないのが救いではあった。

 

凛「しょー兄ぃ・・・」

俺が妹とその友人達で盛り上がる女子トークを放ってカメラの準備をしていると、制服姿の凛ちゃんがやってきた。

紫音「あ・・・あれ?凛ちゃん、まだ着替えてないの??」

凛「・・・かよちんが・・・やっぱり私がセンターだって・・・ねえしょー兄ぃ、凛、似合うかな・・・本当にウェディングドレスなんて・・・着てもいいのかな?」

凛ちゃんの目は不安で一杯で、励ましと助けを必要としている事は誰が見ても明白だった。

紫音「何言ってんだよ凛ちゃん!デザイナーさんは女子高生に着てもらいたくて作ったんだよ。それに凛ちゃんはすっごいかわいい女の子なんだから!誰もが憧れる花嫁さんになっても全然おかしくない」

そう言ってもまだ、凛ちゃんはもじもじしている・・・仕方ない。

紫音「・・・判った。じゃあね、俺から凛ちゃんに、お願い。俺が!俺が凛ちゃんの花嫁姿を、ど~うしても見たい!将来凛ちゃんと結婚式したらって想像したいから!俺のために、ドレス着てくれないかな?凛ちゃん」

そのまま頭を下げると・・・凛ちゃんは少し驚いたようで、俺を真正面から見つめた。

俺は顔を上げ、笑いながら凛ちゃんの頭に手を置く。

紫音「凛ちゃんファンからのお願い、だよ。大丈夫!似合わないなんて言うヤツいたら、俺がぶっ飛ばしてやるから!『俺の凛に失礼な事言うな!』ってな」

その言葉で凛ちゃんの瞳に綺麗な光が戻り、キラキラと輝き出すのが判った。

凛「うんっ!うんっっ!!わかったよしょー兄ぃ!凛のウェディングドレス、絶対目をそらさないで!良く見ててよ!」

そういい残し、凛ちゃんはダッシュで控え室に戻って行った。

良かった、やれやれ、ふ~・・・あんなに顔が輝いた凛ちゃん、初めてかもな・・・今日は絶対にかわいい凛ちゃんの、素晴らしい画が撮れそうだ。

そう考えながら俺はカメラに戻ろうとした・・・が、そこに4人の娘が立ち塞がった。

もちろん妹二人と雪穂ちゃん、亜里沙ちゃんである。

紅音「・・・お兄ちゃん・・・誰が凛とけっ・・・結婚するですってえ!!」

翠音「お兄さま・・・凛さんがいったい誰のものなんですかぁ?少なくともお兄さまのものではないですぅ!」

雪穂「紫音さん・・・うちのお姉ちゃんにもなんか『付き合うかも』って言ったらしいじゃないですか・・・私が見てる前で凛さんにあんな事言って・・・」

亜里沙「・・・亜里沙・・・ちょっと感動しました。亜里沙も言われたいです。『俺の亜里沙』って言って欲しいです」

亜里沙ちゃんだけちょっと立ち塞がる理由が違った。

紅音は雪穂ちゃんを、翠音は亜里沙ちゃんをにらみつけた。

紅音「なっ!雪穂ちゃん!!お兄ちゃんが穂乃果さんに付き合うって言ったの!?」

翠音「亜里沙ちゃん・・・お兄さまは色んな女の子にそういう事言ってるから、調子に乗せたらダメですぅ」

とりあえずカメラが壊れないよう、穏便にトークをすすめて頂きたい。

 

ファッションショーの最後に、ウェディングドレスを着た凛ちゃんとタキシードを着たμ's1年生、3年生が現れた。

曲は「Love Wing Bell」である。

 (スクフェス「Love Wing Bell」プレイをおすすめ!)

準備期間も短くフォーメーションも急遽6人となり、センターも今しがた確定したばかりの凛ちゃんだ。

よって振り付けはいつものμ'sに比べ穏やかではあるが・・・相変わらず曲がいい。

そして中央に立つ凛ちゃんは・・・若さ迸るショートカットのかわいらしい花嫁に、完全になりきっていた。

男の俺が見ても「花嫁って幸せだなあ」と思うのである。

俺のそばの妹チームは全員、両手を握り合わせる祈りのポーズで目をキラキラさせながら凛ちゃんを見ているのだった。

凛ちゃん、綺麗だ・・・すごく、かわいい。

素直にそう思った。

花嫁姿は女の子が一生で一番、綺麗になる瞬間である。

母さんがそう言ってたっけ・・・。

凛ちゃんは間違いなくこの会場で一番かわいい女の子であった。

それはそうだ、ただでさえかわいいのに一生で一番かわいい姿になっているのだから。

さっきの不安そうな時にこのセリフを言ってやれば良かった・・・俺のバカ。

 

曲が終わると会場は万雷の拍手に包まれた。

凛ちゃんは恥ずかしさと嬉しさがミックスされた笑顔で手を振っていた。

良い表情だ。

その後μ'sはデザイナーさん、一緒に舞台に出たモデルさんたち、イベント役員の方々と次々に写真を撮った。

主催者側の撮影があらかた終わった後、妹チーム4人を入れた10人と、μ's6人だけの写真を俺も撮影した。

今日のイベントはだいたい終わりかと思った時、リーダーの凛ちゃんがまるで穂乃果ちゃんのようにわがままを言い出した。

凛「ねえ!しょー兄ぃの写真撮った?しょー兄ぃと写りたい!」

俺は困って皆を見ると、それを聞いた希先輩が大きな目をくりくりと動かし、一瞬で何かを考え付いたようである。

希「・・・そうだ!判ったよ凛ちゃん!ちょっと待ってなー!」

希先輩は何やらニヤニヤしながら舞台袖へ消えて行った。

俺達が顔を見合わせながら待つと、2分とかからず戻って来て、俺の左手を持ちぐいぐいと引っ張った。

希「ね、紫音くん!ちょっと来てくれへん?」

有無を言わさず俺が引っ張られて到着したのは、男性用控え室である。

そこには白いタキシードと白い靴、白いネクタイがあった。

これは・・・まさか?

希「さあ~紫音くん!着替えて着替えて!!」

紫音「ええ!!マジですか!!」

希「きみ、スタッフさんやろ!文句言わない!アイドル先輩の命令やん!」

希先輩は俺がパンツ一丁になるのも構わずどんどん脱がせ、どんどんと着せてくれた。

希「紫音くん・・・やっぱり肩の筋肉とかすごいね・・・かっこいいやん!」

希先輩は俺の体を褒めつつ、服の折り目やネクタイの形などを自ら正しく直してくれ、賞味5分ほどで着替えた俺を見て、弾んだ口調で言った。

希「うん!ええやん!やっぱウチの直感は当たるな!」

 

希先輩と二人で舞台に戻った時の、メンバーと妹チームの表情を俺は忘れない。

みんな目を見開き口を半開きにして硬直していた。

・・・さすがにこれは恥ずかしい。

そしてやはり、凛ちゃんの強い希望があり、俺はウェディングドレス姿の凛ちゃんをお姫様だっこする事になった。

前回の穂乃果ちゃんと違い凛ちゃんはしっかりと俺の首に手をかけて掴まってくれたので、背筋で凛ちゃんの体重を支える事ができ、自分でもかなり格好良く持てたと思う。

プロのカメラマンが俺達のカメラのシャッターも押してくれた。

凛ちゃんの顔は・・・真っ赤である。

でもとてもいい笑顔だ。

もちろん耳元で「すっごくかわいいお嫁さんだね」と言っておいた。

紅音と翠音は大層機嫌が悪くなり・・・仕方ないので一人ずつお姫様だっこし写真を撮ってもらった。

妹二人の機嫌が回復したところで凛ちゃんは言った。

凛「あのねしょー兄ぃ、さっき凛と結婚する所想像したいって言ってくれて・・・嬉しかった。凛ね、あと12日で16歳になるから、そしたら結婚できるから・・・もうちょっと待って」

あはは、えらい事言ってるぞ、この娘。

紫音「り、凛ちゃん・・・それはちょっと気が早いんじゃ?それに大変申し訳ないが、俺まだ16歳。男が結婚できるの、18歳だから。あと1年ちょっと経たないと結婚はできないよ・・・まあそういう問題でもないけど」

凛「・・・そ、そうだったにゃ~~~!」

凛ちゃんの叫び声は会場全体に木霊した。

 

     ■□■

 

μ'sと別れ妹達と家路を急ぐ途中、俺の携帯からはメールの着信音が鳴りまくっていた。

誰かがμ's二年生に今日の写メを送ったに違いない。

ヘタをすると桜野兄妹を除く全員かも知れない。

部屋に戻った後、恐る恐る俺は携帯をチェックした。

予想通り、二年生からはかなり激しい内容のメールが届いていた。

「ちょっと!しょーくん!私という者がありながら酷いよ!浮気だよ!<`ヘ´>言い訳考えておいてよ!」と穂乃果ちゃん。

「紫音くん・・・かっこいいです・・・でも・・・でもことりは喜べません」とことりちゃん。

「紫音さん、私以外の女の子に手を出したらどうなるか言っておいたはずですよね?覚悟して下さい」と海未ちゃん。

言い訳の返信をしようと文章を打っている間にも、次々と恐ろしい内容のメールが届くのであった・・・。

ううう、じゃあどうすれば良かったんだよ・・・あそこで凛ちゃんを断れないだろ普通・・・。

俺は「修学旅行から無事に早く帰って来て!キミが居ないと凛ちゃんがかわいく見えちゃうんだよ」と3人とも同じ文章で返信しておいた。

効果のほどは甚だ疑問である。


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