ラブライブ・メモリアル ~海未編~   作:PikachuMT07

26 / 69
第25話 文化祭2日目

文化祭二日目は嫌味のように爽やかな、かすかに秋すら感じさせる気持ちの良い晴天だった。

この天気が一昨日からあれば・・・神田明神を雨の夜中走っていた穂乃果ちゃんをどうして止められなかったのか、俺は悔しさを抱えながら翠音と音ノ木坂学院の屋上へ行った。

屋上にはμ'sの3年生3人と亜里沙ちゃんが待っていた。

紫音「おはようございます」

翠音「おはようございます」

絵里「ショーン、おはよう。悪いわね、来てもらっちゃって」

紫音「いえいえ、それで穂乃果ちゃんは・・・」

挨拶もそこそこに容態を尋ねる。

希「穂乃果ちゃんは今日はお休みや。明日は学校が休みやけど、たぶん火曜も休むと思う。μ'sの文化祭ライブは・・・中止やね」

紫音「・・・そうですか。意識は戻ったって聞きましたけど」

絵里「そうね、意識はあるけどまだ高熱が出ていて絶対安静だわ。あなた、一昨日の夜、穂乃果が走っているのを見たの?」

紫音「はい、バイトの帰りに・・・声かければ良かったんですけど、暗くて気付いたらすれ違ってて」

絵里「・・・ううん、あなたを責めてるんじゃないわ。穂乃果がそれほど思いつめていたって事に気が付かなくて・・・私たちも後悔してるの」

絵里先輩の美しい眉が、悲しみにゆがんでいる。

希「ウチたちがしっかり全員の気持ちを考えて、計画を立てて進行させてたらな、と思たら・・・悔しいけど、ウチもよう気付けんかった」

絵里「こんな事があって・・・理事長からはラブライブへの出場は許可できないって言われたの。海未や1年生にもさっき言ったわ」

ええ~!穂乃果ちゃんすっごいがんばってたのに・・・気付けば横のにこ先輩が、今にも泣き出しそうな顔をしていた。

翠音「えぇ!?・・・すっごい残念ですぅ・・・ね、亜里沙ちゃん」

亜里沙「うん・・・」

翠音の声にほとんど反応を返せない・・・亜里沙ちゃんの落ち込みも酷い。

希「紫音くん、ごめんな。せっかくこんな立派なステージ作ってくれたんに、1曲しか使えんで・・・申し訳ないんやけど、片付けお願いできる?」

紫音「・・・わかりました。完全にライブは中止ですかね。じゃあ分解します。板は演劇部のとアイドル研のに分けますね。畳は・・・干さないとクルマに載せられないので、午後まで干します」

絵里「本当に・・・ごめんなさい。私たちは生徒会の仕事もあるから、悪いけど行くわね。翠音さん、亜里沙と遊んであげて下さい。楽しい出し物があると思うから校内を回ってみてね」

翠音「はい、ありがとうございますぅ。お兄さま、翠音は亜里沙ちゃんとお姉さまのクラスに行ってきます」

紫音「おう、行ってきな~。亜里沙ちゃん、翠音をよろしくね」

亜里沙「・・・はい、行ってきます」

絵里先輩と希先輩、亜里沙ちゃんと翠音は元気なく屋上から去って行った。

 

後にはにこ先輩が残った。

紫音「にこ先輩・・・残念ですね」

にこ「・・・仕方ない・・・仕方ないって判ってるけど・・・悔しいの。ライブを、したかったの。私の曲を、皆の曲を、思い切りやりたかったの・・・最後の文化祭なのに・・・ラブライブまでダメになるなんて」

確か、にこ先輩は穂乃果ちゃんに誘われるまで一人でアイドル研をしていて、文化祭などの発表もした事がなかったと聞いた。

にこ「ライブは・・・穂乃果が元気になればまたできるわ・・・でも文化祭は、もう終わっちゃうじゃない。結局にこは3年間、文化祭では昨日の1曲だけしか、アイドル活動ができなかったの・・・」

紫音「にこ先輩・・・」

俯いたにこ先輩の目から、涙がポロポロと床に落ちていくのが見える。

にこ「どうして・・・どうしてこんなに・・・ツイてないの?にこが悪いの?楽しくライブしちゃいけないの?」

にこ先輩は小さな体を更に小さくして震えていた。

見ていられない。

俺は決心した・・・俺がやれる事なんて、一つしかないじゃないか。

紫音「にこ先輩、ライブやりましょう!このステージ、片付けるの俺ですよ。片付ける前に1曲やったって良いでしょ!文句なんて言わせませんよ!」

にこ「紫音・・・あんた・・・」

俺はアンプ、照明の電源を入れた。

曲はまだプレーヤに入っている。

ステージにかかっていたブルーシートを取り払う。

紫音「さあ、やっちゃいますよ!観客、俺しかいないけど、俺一生懸命、応援します!」

にこ「うん・・・うんっ!!やってやるわ!やるわよ紫音!」

曲はもちろん「夏色えがおで1,2,Jump!」である。

 

俺が作ったステージのセンターに、たった一人でにこ先輩が立つ。

音ノ木坂の制服のにこ先輩は、それでもステージに立っただけで、まるで泣いてなどいなかったかのように優しい微笑みを浮かべポーズを取った。

曲が始まると俺は叫んだ。

紫音「サマーウィーーングッ!!!」

両手を大きく回し、小柄だが遠くからでもキチンと判るダンスを、にこ先輩は踊る。

にこ先輩の単独ライブである。

昨日聞いた「No brand girls」は最高だったが、俺はこの曲も大好きだ。

正直に言おう。

にこ先輩は制服だったから当然アンスコなど履いておらずスカートは9人の誰よりも短いため、大きく動くたびに下着がチラ見えするのだった。

しかしにこ先輩にはそんな事はどうでもいい事なのだ。

アイドルとして、ステージに立ち曲が流れ始めたら、どういう状況でも全力を尽くす。

それがにこ先輩の矜持なのである。

俺も下着が見たくてにこ先輩を応援しているわけではない。

にこ先輩は歌いながら、踊りながら、笑って俺にウィンクしてくれるのである。

下着を見ている場合ではない。

必死でエールを送らねばなるまい。

紫音「ワンツージャ~~ンプっ!ばけ~しょ~~ん!!ワンツーラァ~ブっ!熱いから~~!楽しいね~~!さまーでいい~~~ぃ!」

サビは俺も歌ってしまった。

間奏ではコールしまくった。

楽しい。

いつしか俺もにこ先輩も、汗だくで満面の笑みを浮かべていた。

 

5分に満たない、アイドルとファン、二人だけのライブが終わった。

息を切らせているにこ先輩に、俺は猛烈な拍手を送った。

紫音「宇宙ナンバーワンアイドル!!にこ先輩、最高でした!!」

にこ「はあはあ・・・悪くないわね。上出来だったわ。あんた、ほんとラッキーね。このにこのソロライブを、一人で見るなんて」

紫音「マジで最高でしたよ・・・感動しました」

にこ「・・・あんた、私のパンツ見たでしょ?まあいいわ。あんたの目見てたら、ちゃんと私と目が合うんだもの。パンツが少しくらい見えたって構わないわ。ちゃんと応援してくれたから」

紫音「はは・・・すみません」

にこ「別に謝らなくていいわよ。でもにこはかわいかったでしょ?パンツは抜きにしてもね!・・・それにしてもあんた、かわいい所あるのね。アイドルは特定のファンを好きになったらアウトだけど、これだけ応援されたらグッときちゃうわね」

紫音「はは、何言ってんですか!こんなにかわいいにこ先輩を応援しないわけ行きませんよ!まじ、オーラ出てたっす!」

想像以上に楽しいライブをしてくれたにこ先輩を、ここぞとばかり持ち上げようとする俺に、にこ先輩は笑いながらも嫌味を言う。

にこ「ふふ、にこのパンツであんたが興奮したらもっとかわいいんだけどね!仕方ないか、あんたの妹かわいいもんね。にこのパンツじゃ今一つか」

紫音「いやまあ、あいつら確かに風呂の後下着でウロウロする事ありますけどね、所詮は妹、にこ先輩の下着のほうがぜんぜん興奮しますよ!」

やはり持ち上げるために言った言葉だったが、にこ先輩は笑いながらやり返してきた。

にこ「あんたやっぱり私のパンツ見たんじゃない!しかも興奮するとか、このロリヘンタイクズ男め!あんたはファン失格!!」

紫音「そ、そんなあ!!にこ先輩、ウソです!何も見てないですよ!!俺をにこ先輩のファンでいさせて下さい!」

俺も笑いながら、にこ輩に懇願した。

にこ「ふふ、ウソよ!かわいいわね紫音!いつまでも私のファンでいていいわよ!」

紫音「ありがとうございます!マジで、ほんっとに感動しましたよ、明日からがんばって生きるための活力をもらえましたよ!もちろん下着じゃなくてライブで、ですよ!!」

にこ「当たり前じゃない!こっちこそ応援してくれてありがとう!パンツもまた機会があれば見せてもいいわよ」

紫音「それはもう遠慮します。汚いもの見せないで下さい」

にこ「なんでよ!!」

俺達はアハハと笑いあった。

さて時間も時間だし、にこ先輩と和んでいる場合ではない。

無念だが片付けよう。

 

     ■□■

 

板を外し畳を並べて干す。

蓋を開けてみると畳はそんなに水を吸ってはおらず、すぐ乾きそうだった。

机は40個あるが軽いので、すぐに所定の教室へ片付けた。

板の半分を演劇部、残り半分をアイドル研の部室、畳は乾いたら校庭の隅の指定の場所へ置くだけである。

俺がいそいそと働くのを眺めながら、にこ先輩がつぶやいた。

ちなみにこに先輩は片付けをまったく手伝わず、ステージが解体され始めてからはずっと座り込んでボケっと俺の作業を見ているだけだった。

にこ「紫音、あんたさあ。ハッキリ言って、昨日ですごい株を上げたわよ。凛とことりはあんたにメロメロね。凛は絶対あんたにお姫様抱っこしてもらうって息巻いてたわよ」

は~っとにこ先輩はため息を吐きながらなおもつぶやく。

にこ「ことりはもっと重症ね。あんた達が花火大会で撮った写真を携帯に出してずっとはあはあため息吐いてるの」

ああ~それは、たぶん留学の件だなあ・・・今日は確定日だからなあ・・・結局穂乃果ちゃんには言えず仕舞いか・・・とそこまで考えて俺は気付いた。

あれ?留学の事海未ちゃんにしか言ってないの・・・やばくね?

にこ「他のメンバーもあんたの事、好きになっちゃった子、いるかもね。ま、にこはファンの子と恋愛関係になったりは絶対にしないけど!」

屋上とはいえまだ暑さを感じる空を見上げながら、にこ先輩は尚もつぶやく。

にこ「あ~あ、ラブライブ、出たかったな・・・でも穂乃果のお陰でこの4ヶ月、夢が見れたんだもんね。それがなくなっても、穂乃果には感謝しなきゃね」

にこ先輩は俺を優しく見つめて言った。

にこ「さっきのソロライブ、あんたがオーディエンスで良かったわ。悔しい気落ちも、だいぶ薄まったわね」

そして少し淋しげな微笑を浮かべるのだった。

にこ「にこはダメだけど、かわいい後輩達をラブライブに出して、そして勝たせるのがにこの新たな目標よ。選抜外総監督ってやつね」

紫音「はは、にこ先輩~それはいいですけど、少しは片付け・・・部室に持って行く机だけでも、手伝って下さいよ~」

にこ「嫌よ。にこはアイドル、そして今後の総監督なんだから歌って踊って監督するのが仕事。あんたはファン兼スタッフなんだから。ちゃんと働きなさい」

確かにそれはそうだ・・・仕方ない、一人で片付けよう。

しかしことりちゃん、留学の事、いつ発表するんだろう?

 

干した畳以外は全部片付け終わり、俺はにこ先輩を文化祭見学に誘ってみる事にした。

紫音「にこ先輩、腹減りませんか?ちょっと文化祭見に行きましょうよ」

にこ「・・・あんた、アイドルの私をデートに誘おうって言うの?いいじゃない、受けて立つわよ。その代わり、あんたが全部奢るのよ」

紫音「うげっ!まあいいか・・・安いのにしてくださいよ~」

そんなやり取りの後、俺とにこ先輩は連れ立って1年生の教室に行った。

1年生の出し物は最近どこの文化祭、学園祭でも必ずある「メイド喫茶」である。

いや、表現に間違いがあった。

少なくとも俺の高校は男子高なので絶対にない(あっても困る)「メイド喫茶」だ。

お昼時とあってメイド喫茶は盛況だった。

しばらく並び、ようやく入る事ができた。

俺とにこ先輩が向かい合って座ると、めっちゃくちゃかわいいメイドさんが注文を取りに来た。

顔を見てビックリである。

真姫「お帰りなさいませ、ご主人様・・・ご注文を伺わせて・・・ああっ!!」

にこ「なっ・・・真姫!!あんた・・・なんてかわいいカッコしてるの!!」

真姫「にこちゃん・・・い、いいでしょ、クラスの出し物なのよ!!紫音さんも!あんまりジロジロ見ないで!」

(スクフェス 西木野真姫SR<カフェメイド編>未覚醒 参照)

俺は真姫ちゃんのあまりのかわいさに言葉を発する事が出来ない。

写真、撮らせてくれないかな・・・。

にこ「・・・ていうか、真姫!あんたメイド服着て店に出るなんて、一言も言ってなかったじゃない!!」

真姫「だ、だってにこちゃん、文化祭はμ'sのライブに集中したいから、出し物はどこも見ないって言ってたじゃない・・・」

凛「あ~っ!!!しょー兄ぃ!来てくれたのにゃ~!!」

凛ちゃんが俺達のテーブルの騒ぎを聞いて駆けつけてきた。

どっは~~!!かわいい!!

(スクフェス 星空凛UR<カフェメイド編>未覚醒 参照)

凛「ねえ!ねえしょー兄ぃ!凛ね、昨日、ホントに感動しちゃったんだよ。しょー兄ぃすっごくかっこ良かった!凛もね、ああいうのされてみたいの・・・凛、男の子っぽいから笑うかも知れないけど・・・」

真姫「ちょ、ちょっと凛。ここお店よ!そういう個人的なの無し!さあご主人様、お嬢様、ご注文をどうぞ!」

紫音「・・・いや、ちょっとビックリして声も出ないんだけど、二人ともすっごくかわいいよ・・・良く似合ってる・・・こっちこそ感動した」

真姫「なっ・・・そ、そういうのはいいの!早く注文しなさいよ!」

凛「ありがとうにゃ!しょー兄ぃに言われると、照れるけど・・・嬉しいにゃ!」

1年生二人は褒めると対照的な反応を見せた・・・ちなみににこ先輩はジト目で無言である。

俺はメイドラブカレー、にこ先輩はメイクラブオムライスを注文した。

しばらくの後、予想通りのメイドさんがやってきた。

(スクフェス 小泉花陽SR<カフェメイド編>未覚醒 参照)

花陽「あ、あのっ・・・お待たせ致しました。メイドラブカレーとメイクラブオムライスですっ!」

にこ「花陽、あんたも裏切らないわねえ・・・。悔しいけどかわいいわ・・・この下どうなってんのよ?」

にこ先輩は花陽ちゃんの短いメイド服のスカートをめくった。

まだ両手に料理を持っている花陽ちゃんはスカートを押える事ができない。

花陽「いやあああ!ダメですにこちゃん!!紫音さん見てますぅ!だ、誰か助けて~~!」

紫音「み、見てない見てない、大丈夫花陽ちゃん、見てないから落ち着いて!」

紅音「お、お兄ちゃん!!何してるの!!」

すっとんで来たメイドさんは、これも予想通りと言えばその通りなのだが紅音である。

紅音「お嬢様っ!メイドには手を触れないようにお願いしますっ!」

言いながら紅音は俺の目を背後から覆い、俺の頭を自分の胸に抱え込んだ。

紅音「花陽ちゃん、早く料理置いて!」

後頭部で感じた紅音の胸は・・・少しイメージより大きいかな?真姫ちゃんとちょうど同じくらいか・・・。

紅音「お兄ちゃん、家に帰ったら覚悟しておいてね」

うう、なんで俺が怒られるのか。

紫音「花陽ちゃん、絶対めくった所見てないからね!メイド服似合ってる!かわいいよ!痛い、紅音!押えすぎ!」

 

大騒ぎしながら料理はようやく運ばれ、食事にありつく事ができた。

俺のカレーにはチーズで「ラブ」と書かれ、にこ先輩のオムライスにはケチャップで「にこちゃん大好き」と書いてある。

ベッタベタだが味が良いから企画としては成功、だろう。

すくなくとも男子高でこれをやったら1学年100人しかいなくても500食くらい出そうである。

なかなか満足度の高い食事を摂り俺とにこ先輩は立ち上がった。

にこ先輩は本当にお金を払う気は無いようで、仕方なく俺が全額払った。

真姫「ありがとうございました、ご主人様・・・またのご帰宅をお待ちしております」

しかしこの真姫ちゃんのメイド服、誰が考えたんだ?かわいすぎるぞ・・・。

紅音も含め、俺の知っている1年生は全員神メイドとなっていた。

デザイナーさん、本当にありがとう。

 

     ■□■

 

ところで海未ちゃんとことりちゃんはどこに行ったのだろうか・・・。

穂乃果ちゃんのお見舞いかもしれない。

にこ先輩は後夜祭に参加するとの事でクラスへ戻っていった。

俺は乾いた畳を片付け、音ノ木坂学院を出た。

会えないとは思うが、穂むらに寄って帰る事にしよう。

月見団子を買う約束もあるからだ。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。