ラブライブ・メモリアル ~海未編~ 作:PikachuMT07
「夏色えがおで1,2,Jump!」のPV撮影から数日が過ぎた。
夏休みはメンバーそれぞれに予定があるらしく朝練も少なくなったが、俺はほぼ毎日弓道場へ通っているのでμ'sの練習があれば必ず行き当たる事ができた。
にこ先輩は誕生日プレゼントにあげたハロパロが効いたのか、俺が顔を出すとPVの製作が順調である事を嬉しそうに話していた。
俺が撮影した事もありPVには期待していたのだが、ある日バイト後に夕食を摂りに実家へ戻ると、それがついに動画サイトへアップされたと紅音や翠音が先を争って伝えにきた。
さっそく食事もそこそこに、紅音の部屋で兄妹3人で動画を視聴した。
エロいかと言うと・・・正直俺には曲やダンスが素晴らしすぎてエロさはまったく感じられなかった。
とにかく出来が良い。
まずみんなの表情が良い・・・そして曲が最高に良い。
それはそうだろう。
現在のμ'sの活動状況では、今から更に新曲を作り衣装と振り付けを用意しPVを作成する事は難しく、2学期開始直後に文化祭がありそちらの準備もある。
すなわちこの「夏色えがおで1,2,Jump!」のPVでアイドルランク20位以内に入り、文化祭で更に認知度を上げ迫り来るライバルに打ち勝ち、ラブライブへの出場権を得なければならないのだ。
文字通りラブライブ出場をかけた大切な曲なのである・・・最高にいい曲を投入するのも道理だ。
おそらく真姫ちゃんはかなり前からこの曲を作りこんでいたに違いない。
それをにこ先輩にプレゼントしたというのは・・・意外に真姫ちゃんもにこ先輩の事、大好きなんだなと思った。
それはさておきこのPV、海未ちゃんが映ってるシーンが少ないぞ!誰だ撮影したヤツは・・・と本気でイラついてから気付いた・・・俺だった。
チキショー編集も俺がやるって言えば良かった・・・にこ先輩とケンカになりそうだけど。
■□■
翌日、俺が朝から弓道の練習に行くついでに神田明神を通ると、2年生の3人と花陽ちゃん、凛ちゃん、にこ先輩が朝練をしていた。
紫音「おはようございまっす!にこ先輩!!見ましたよPV!!素晴らしい出来でしたね!!」
にこ「おはよう、紫音。当たり前でしょ、宇宙ナンバーワンアイドルのにこがセンターなのよ!オーラ出まくりね!」
にこ先輩はこれ以上ないほどの上機嫌である。
にこ「そして紫音、あんたはいい仕事したわ。あれはエロいわ。このにこにーのカラダをあんたの嫌らしいカメラが隅々まで舐め回していたわね。褒めてあげるわ」
紫音「・・・若干納得できない表現もありますが、ありがたき幸せにございます」
にこ「今日中に5,000回の再生は達成できるわ!これがにこにーの実力よね」
凛「・・・自分でも必死で再生してたにゃ」
にこ「凛、何ですって?聞こえてるわよ!センターになれなくて悔しいなら、あんたはもう少し女らしさを出したほうがいいわね」
凛「ぶ~~!いいんだよ凛は~。端っこでひっそり踊れればいいんだもん」
唇を突き出して拗ねている凛ちゃんに、俺は優しく言った。
紫音「そんな事ないよ、凛ちゃん。凛ちゃんすごくかわいかったよ。笑顔がすごくキラキラしてたし手足が細くて長くてダンス決まってたし、イマドキの女の子って感じがしたよ!」
更に俺は凛ちゃんに近づき耳元で囁いた。
紫音「それに絶対胸だってにこ先輩より大きくて女の子らしいよ」
凛「はにゃっ!!」
凛ちゃんは慌てて両手で胸を隠した。
凛「もう!しょー兄ぃエッチにゃ~」
紫音「いやいや、とにかくあのPV見て凛ちゃんみたいなかわいい彼女欲しいと思う男、いっぱいいると思うよ。だから自信持ちなよ!」
凛「・・・紅音ちゃんのお兄さんに言われても説得力ないにゃ~」
花陽「ううん!私、凛ちゃんは絶対かわいいと思う!とにかくアイドルをたくさん見た私を信じて!」
花陽ちゃんは両手を握って腰を落とす力強いポーズで凛ちゃんを励ましている。
でも花陽ちゃんに言われても凛ちゃんの気は晴れないと思う。
紫音「凛ちゃん、μ'sの次の~次の~次くらいの新曲は、凛ちゃんがセンターになる曲来るよ。俺が投票してすごく楽しみに待つ!」
凛「次の数が多すぎるよっ!!逆に傷つくにゃ~。凛には永久にセンターなんて回ってこないよ~」
花陽「そんな事ないよ凛ちゃん!絶対私より先にセンターが来るよ!私も投票する!」
マジで凛ちゃんセンターの曲が来て欲しいものである。
そんな話をしていると穂乃果ちゃんが話しかけてきた。
穂乃果「ね~しょーくん、ちょっといいかな?今度の月曜なんだけど、バイト?」
紫音「そう、だね。月曜はバイト。まあどうしてもなら次の日出れば、ずらしてもらえると思うけど」
穂乃果「う~んとね・・・ことりちゃん何やってるの?こっち来てよ」
ことり「え~・・・迷惑だよぉ」
穂乃果「うんとね、月曜日は江東花火大会があるのね。今年はμ'sの活動で隅田川の花火大会で遊べなかったから」
ことりちゃんは上目遣いで俺をチラチラ見ている。
穂乃果「そっちの花火大会に行きたい!って言ったらなぜかことりちゃん、今年はしょーくんと一緒じゃないと行かないって言うんだよ」
ことり「いいよ穂乃果ちゃん、迷惑だから。穂乃果ちゃんと海未ちゃんで行ってくればいいよお。ことりは今年は家でお針子します」
穂乃果「え~変だよ~毎年花火大会3人で行ってるじゃ~ん。何がイヤなの?」
ことり「イヤってわけじゃないけど・・・人がたくさんいるのが・・・ちょっと・・・」
そこまで聞いて俺は分かった。
この間のような酔っ払いに絡まれたりするのが恐いのだろう、かわいそうに・・・。
っていうかミナリンスキーは今や伝説のメイドなのだから、同じような事が起こる事も充分にありえる。
紫音「穂乃果ちゃん、分かったよ。ことりちゃんは俺じゃなくても誰でもいいから男の人と一緒に行きたいんだと思う。でもそういう人って候補が少ないから俺の名前を出したんだよね。了解、店長にシフトずらせるか聞いてみるよ」
ことり「・・・え~悪いよ~」
紫音「いやいや、何も悪くないよ。こっちだって誘ってもらえれば嬉しいし。じゃあ聞いてみてOKならメールするね」
俺は手を振ってその場を去りかけたが、じっと俺とことりちゃんを見つめていた海未ちゃんが気になり声をかけた。
紫音「海未ちゃん、その花火が終わったら、関東個人大会の約2週間前、だよね?一緒に決勝行こうぜ!」
海未「・・・はい、私もがんばります」
また俺、海未ちゃんに睨まれてる気がする・・・この前のことまだ怒ってるのかな・・・。
店長は渋い顔をしていたが、翌日に少し長めに出勤する事で了承を得た。
俺は早速3人にメールし江東花火大会に行くことになった。
■□■
花火大会当日。
紅音と翠音もことりちゃんが一緒と聞いて「どうしても付いて行く」と聞かず、連れて行く事となった。
紅音と翠音の服装は先月末の隅田川花火大会の時にも着たお揃いの、満開の花とそこから落ちる花びらが舞う絵柄が入った色違いの浴衣である。
紅音の浴衣は藍色の地に白い花の刺繍で、ピンクのラインが入った白い帯をしている。
翠音の浴衣は水色の地に黄色の花で、ブルーのラインが入った白い帯である。
二人とも髪をアップにし、かんざしで止めている。
母さん、よくこんな着付けができるものだよな・・・。
そして今日の俺は着流しというものを着ている。
隅田川花火大会に親父を含めた家族で出陣した際、俺がいつものTシャツとジーンズ姿だったのが大変不評だったため、母さんが買ってくれたのだ。
今年中に着れる機会がめぐってきたのは良かったのだが、浴衣と着流しの違いはなんだろう?帯かな?俺には良く分からない。
弓道をやっているので初めてでもなんとか着かたが判ったのは良かった。
着流しと共に買ってもらったこの下駄という履物も初めてだ。
かかとがパカパカするので走ったら危ないし、履き慣れないため違和感がすごい。
紅音と翠音はそれぞれ黒塗りにピンクとブルーの、帯に合わせた鼻緒が付いた下駄で、特に不自由なくカラコロと音を立てて歩いている。
俺の下駄も同じ音を立てていて風流なのは分かるのだが、風流以外のメリットがあるようには思えなかった。
アーカーベー劇場前に15時に集まると、穂乃果ちゃん、海未ちゃん、ことりちゃんの3人も浴衣姿であった。
3人とも良く似合っている。
特に海未ちゃんの和装は弓道で見慣れているはずなのに、ドキドキしてしまうのはなぜだろうか。
穂乃果ちゃんは髪をいつものサイドテールからアップに変えて赤い紐で止めている。
海未ちゃんとことりちゃんはいつもの髪型だが、やはり服装が違うと雰囲気は違うものである。
(スクフェス 高坂穂乃果SR<9月 浴衣編>未覚醒 参照)
(スクフェス 園田海未UR<9月 浴衣編>未覚醒 参照)
(スクフェス 南ことりSR<9月 浴衣編>未覚醒 参照)
俺は3人を褒めようとしたが、まず女子同士がお互いを褒める儀式が終わるまで発言権が回ってこない事は充分に把握しているので、焦らず観察しながら待った。
しかし妹達が和服を着る機会は七五三で有ったか無かったか・・・既にニューヨークに居たのでおそらく無かったはずだが、良く相手の浴衣を褒める事ができるものだ。
俺にもその褒めるコツを教えて欲しい。
そんな事を考えていると、穂乃果ちゃんがいたずらするような笑顔で近づいてきた。
穂乃果「ところでさ~しょーくん、すっごいかっこいいじゃ~ん!なんか胸とかチラ見せしちゃってさ!海未ちゃん筋肉が大好きだから喜んでるよ!」
海未「ほ、穂乃果!!何を言い出すのです!変な事言わないで下さい!」
海未ちゃんは顔が真っ赤である。
紅音「お兄ちゃん、胸がはだけてるよ、だらしないからちゃんと襟合わせて」
穂乃果「あかねちゃん、しょーくんはかっこいいからね、少しくらいはだけてセクシー路線でも全然OKなんだよ」
紅音の不満そうな表情には気付かず、穂乃果ちゃんは俺の横に密着した。
穂乃果「ねぇしょーくん!穂乃果も少しはだけていい?ちょっと暑くなっちゃった」
穂乃果ちゃんはそう言いながら手を胸に当てた・・・残りの4人は大変である。
海未「穂乃果!!」
ことり「穂乃果ちゃん!!」
紅音「お兄ちゃん!!」
翠音「お兄さま!」
前回の二の舞になる前にフォローしようと思うのだが・・・うまく言葉が出ず、俺は正直に穂乃果ちゃんを褒めた。
紫音「ほ、穂乃果ちゃん・・・浴衣すっごく似合ってるよ・・・今日は髪型もうなじが出て色気あるし。だからこれ以上色気出されたら俺、いろいろヤバイ」
穂乃果「ふっふっふ~それはそうだよね、穂乃果、すっごく色気出てるでしょ?」
穂乃果ちゃんは俯き加減の流し目で俺を見て言った。
穂乃果「なんったって穂乃果はみんなよりお姉さんだから~!ヤバイくらいの大人の色気でしょーくんを誘惑できるんだよね!」
海未「・・・穂乃果、16歳が17歳になっただけで色気が出るわけはありません。紫音さんをからかうのは止めなさい」
紫音「ええ~と、穂乃果ちゃん、17歳になったの?」
穂乃果「そうだよ!私ね、一昨日、誕生日だったんだ~!!」
紫音「へ~!お誕生日おめでとう!穂乃果ちゃん!」
紅音「え~すご~い!穂乃果先輩、おめでとうございます!」
翠音「穂乃果さん、おめでとうございますぅ」
穂乃果「ふっふっふ、今日はね、花火が主役かもしれないけど、私だって主役だよ!だからね、しょーくんを後で独り占めするもんね!ちょっとこの襟を着崩して・・・うぉっと」
ことりちゃんは穂乃果ちゃんの首根っこを引っ張りながら言った。
ことり「・・・ふふ~それは誕生日と関係ないよね~穂乃果ちゃん!」
穂乃果「・・・それはしょーくんが決めてくれるよねっ!しょーくん!!」
穂乃果ちゃんにウインクされた・・・穂乃果ちゃんのテンション、マジで高い。
紫音「はは、じゃあ穂乃果ちゃん、後で二人きりになれるといいね(まず無理そうだけど)。ところで皆さん、写真を撮りませんか?」
穂乃果「撮る撮る!!」
紅音「私も!」
翠音「翠音も~」
紫音「はいはいそれじゃ並んで並んで・・・」
μ's二年生の浴衣姿を写真に収めない手はない。
5人はまず横並びで1枚、次にことりちゃんの両腕に紅音と翠音が絡みつく1枚。
海未ちゃんに穂乃果ちゃんが抱きつく1枚、μ's二年生で1枚。
桜野兄妹で1枚、俺の両側に穂乃果ちゃんとことりちゃんが並ぶ1枚。
最後に女子5人で並びもう1枚撮った。
俺としてはまだ海未ちゃんの単独写真が撮れておらず、ここで撮影会が終了すると困るので焦って言った。
紫音「ね、海未ちゃん、最後にもう1枚撮ろうよ、こっち向いて」
海未ちゃんはこちらをジト目で見た。
海未「・・・嫌です。もう行きますよ」
紅音「お兄ちゃん、園田先輩、イヤだって。ほらもう行くよ」
・・・悔しい。
末広町駅で銀座線に乗ってから海未ちゃんとことりちゃんの浴衣を褒めようとしたのだが、穂乃果ちゃんのテンションが高すぎて俺はなかなか会話に割り込めなかった。
銀座線から東西線に乗り換えて南砂町駅へはトータル20分ちょっとである。
まだ穂乃果ちゃんの浴衣しか褒めていないので、なんとしても海未ちゃんの浴衣姿を褒めておきたい・・・帰りのチャンスに賭けるとしよう。
駅を出るとさすがの混雑ぶりで浴衣の人もわんさか歩いており、屋台もずらっと列を成していた。
ちなみに家族で行った隅田川花火大会の時は、これ以上のあまりの人の多さに危険を感じ、俺はたこ焼きとイカ焼き、妹達はりんご飴とわた飴だけ買って帰ってきたのだった。
ニューヨークでは毎年独立記念日にハドソン川で花火大会があり、良く家族で見に行ったものだが、人が多すぎて見れないという事はなかった。
確かにこれだけ人出があるとそれだけ危険人物の数も増えるかも知れず、混んでいて警戒もしづらく、恐いかも知れない。
ことりちゃんはあんな事件の後では恐いだろうと素直に思った。
しかし会場に到着した事で穂乃果ちゃんのテンションはついにMAXとなった。
穂乃果「これこれ!この雰囲気だよ!お祭りだぁっ!」
ことり「穂乃果ちゃん待って!はぐれちゃうよ!」
何も決めず走っていこうとする穂乃果ちゃんを、ことりちゃんがなんとか捕まえた・・・ナイスだ。
江東花火大会は隅田川花火大会に比べ打ち上がる花火の数は5分の1であるが、夏休みなので人出は多い。
はぐれないように俺は翠音の右手を左手で握った。
紫音「海未ちゃん、いつも穂乃果ちゃんとことりちゃんと行くとき、はぐれないようにしてる事、あるの?」
海未「いえ・・・毎年毎年、今年こそははぐれないように、はぐれたらどうするか決めてから行動しよう、と思ってはいるのですが・・・誕生日と重なる事もあって穂乃果は放たれた矢のように飛んでいってしまうので、回収が大変なのです」
この海未ちゃんの弓道に絡めた文学的な表現、わかる。
そんな話をしているうちに、もう穂乃果ちゃんは見えなかった。
翠音の手を引きつつ海未ちゃんと探すと、穂乃果ちゃんは紅音とことりちゃんを引っ張っていたので割とすぐ見つかった。
海未「穂乃果!!ちょっと止まって下さい!」
穂乃果「ふぁに~ふひちゃん?」
穂乃果ちゃんは既にチョコバナナを口に咥えている。
紫音「穂乃果ちゃん、俺達兄妹、日本のお祭りほぼ初参加なんだよ。ゆっくり一緒に歩いてくれると助かる」
穂乃果「そうかあ初めてかぁ!よぉ~~っし!この穂乃果ちゃんに任せてよ!」
海未「穂乃果、いいですか、次の店に行きたくなったら必ず6人全員いる事を確認してから移動して下さい。はぐれたら一番背が高い紫音さんのところへ必ず戻ってきて下さい。携帯持ってますね?」
穂乃果「うんわかったわかった持ってる持ってる。あかねちゃん次行くよっ!」
海未「分かってないじゃないですかっ!!」
・・・とても心配だ。
穂乃果ちゃんを追いかけつつ歩いていると汗が出る。
時間は16時になる所で日も傾いてきてはいるが、東京の夏はやはり暑い。
俺は屋台の間に出張ジェラート屋さんを見つけた。
海未ちゃんに一言残し翠音と覗きに行く。
翠音「お兄さま、これ美味しそぅ~」
色とりどりのジェラートが15種類以上ある。確かにこれは旨そうだ。
紫音「翠音、食べたいのどれだ?今日だけ奢ってやろう!」
翠音「わ~いお兄さま大好き~!」
俺は自分の分でピスタチオとキャラメルラテのダブル、翠音の分でサクラカマンベールとチョコミントのダブルをコーンで注文した。
もちろんここは海未ちゃんにも買って行く一手である。
海未ちゃんには和風ジェラートにしようと思ったが、胡麻にするか柚子にするか小倉にするか抹茶にするか30秒ほど迷い、最終的に胡麻と小倉のダブルジェラートにした。
海未ちゃんの所に戻りジェラートを手渡す。
紫音「はい、海未ちゃん、どうぞ!穂乃果ちゃん見つかった?」
海未「見つかりません・・・なっなんですかこれは!?」
紫音「なんですかって・・・ジェラートだけど。嫌い?」
海未「いえ、むしろ大好きですが・・・受け取れません。あなたに奢ってもらうわけには・・・」
穂乃果「うわ~~っ!美味しそう!3人ともずるいよ~っ!!私にもちょうだい!!」
穂乃果ちゃんは突然現れ、まず俺が食べていたジェラートを俺の左腕ごと引き寄せてがぶりと食べた。
穂乃果「う~~ん!!うま~い!!これ何味?ダブルなの!こっち何味?」
さらに反対側のジェラートもほおばる。
穂乃果「う~んんんん!こっちも美味しい!!海未ちゃん、そっち何味?」
穂乃果ちゃんは海未ちゃんが口を付けていないジェラートもがぶがぶと食べる。
穂乃果「海未ちゃんウチのほむまん大好きだもんね!でもこの小倉味はウチのまんじゅうの勝ちかな。でもこっちの胡麻アイス!濃厚~~ぅ!美味しいよ!あ、みおんちゃんのは何味?舐めさせて!」
翠音「え~とこれはサクラとチョコミントですぅどうぞ~」
穂乃果ちゃんは舌を出して大胆に舐め取った。
穂乃果「ありがとう!!んま~いよ!これも!チョコミント大好き!みおんちゃん私達気があうよっ!」
嵐のように穂乃果ちゃんは俺達3人のジェラートの半分近くを飲み込んで、次の店に行こうとしている。
そこへ、はあはあ言いながらことりちゃんと紅音が戻ってきた。
ことり「ほ、穂乃果ちゃん早いよ・・・もっとゆっくり見ようよ・・・」
紅音「穂乃果先輩・・・どんどん先に行っちゃって・・・あ、お兄ちゃん何食べてるの?」
紫音「お帰り、紅音。何ってジェラートだよ。うまいぞ」
俺は穂乃果ちゃんに形を崩されバランスが悪くなったジェラートを舐めて円錐状にする作業をしていた。
紅音「お兄ちゃんずるい!私も欲しい!」
紅音は穂乃果ちゃんと同じように俺の左腕ごと引っ張って俺のジェラートを引き寄せて食べた。
ああまた形が・・・。
紅音「!美味しい!これダブル?もう一つの味は?」
紅音は味が気に入ったようで、コーンごとジェラートを奪っていった。
仕方なく俺は、呆然と様子を見ている海未ちゃんの手にあるジェラートを優しく借りた。
紫音「海未ちゃん、一口もらうね!おお~~これも俺が選んだながら当り!特に胡麻、うまいなあ」
俺は二種の味を一口ずつ小さく食べ、ジェラートを海未ちゃんに返した。
次に翠音のジェラートをもらって一口食べた。
翠音は紅音から俺のジェラートを受け取って食べている。
ことり「あ~いいなあ!兄妹がいるってそういう取りかえっこできるのがいいよね~うらやましい!」
紫音「はは、とりあえずことりちゃんもジェラートどうぞ!」
俺は翠音から帰ってきた俺のジェラートを舐めて形を整え、ことりちゃんに手渡した」
ことり「いいの?頂きます~ん~おいし~~い!」
海未「・・・こ、こっ、ことりまで!!あなたたちそれはその・・・間接・・・」
ことり「あ、海未ちゃん間接キスを気にしてるの?女の子同士で私達だって今までやってたじゃない」
海未「だ、だって今日は紫音さんがいるんですよっ!女の子同士じゃない・・・です」
紫音「・・・翠音、間接キスってなんだ?」
初めて聞いた単語だったので、俺は横にいた翠音に聞いてみた。
翠音「え~と、同じ食べ物を食べることで、食べ物や食器を伝って、キスするイメージを持つこと・・・ですぅ」
う~ん?良く分からない。
紅音「お兄ちゃん、間接キス知らないの?いい?日本人はね、家族とかでもそんな簡単にキスしたりしないの。キスは恋人だけに与えられた甘い愛の誓いなの」
紅音は少し得意げである。
紅音「私達はアメリカにいたから、家族ではキスするのが当たり前で友達でも頬っぺたにキスしたりするけど、日本人は愛する人同士しかキスしないから、たとえ食べ物や食器越しでも唇が触れ合うと、好きな人だって意識があるって事なの」
紫音「・・・ほほ~、なんとなく分かった。お前、物知りだな」
ことり「私は紫音くんもみんなも大好きだし、気にしないんだ~!海未ちゃんは気にするの?」
紫音「あ、海未ちゃんごめん、好きでもない人が食べたアイスは食べられないって事だよね・・・ごめん知らなくて・・・新しいの買ってあげるよ」
海未「い、いえいえち、違うんです、そ、そうじゃないんです・・・ももちろん気にしません!べ、別に嫌いってワケじゃないすし・・・そ、その・・・間接キスを気にしないでいいくらいには、す・・・」
最後のほうは良く聞こえなかったが、海未ちゃんは俺が買ってあげたジェラートを恥ずかしそうに食べた。
そのうち胡麻ジェラートの濃厚さと小倉の上品な甘さが気に入ったようで、普通に食べてくれた・・・慣れ、ですかね。
俺達がそんなやり取りをしている間にも、穂乃果ちゃんは屋台を何軒か回って戻ってきた。
すかさずことりちゃんが捕まえる。
ことり「穂乃果ちゃん・・・もう、一人で行かないで~!」
穂乃果「たっは~今日も色んなお店があって!ごめんごめん!」
穂乃果ちゃんは左手首に光るブレスレット、背中に団扇とリラ熊のお面があり、明らかに来た時より装備が増えていた。
穂乃果「ねえねえ、この光るブレスレットさ、ライブの時にお客さんに配ってさ、手を振ってもらおうよ!ハイハイハイのところとか!あとこのリラ熊かわいいでしょう!団扇とセットだったんだよ!」
どれだけテンションMAXを維持できるのか、この娘は・・・。
ことり「穂乃果ちゃん、お母さんに誕生日にもらったおこずかい、全部使っちゃダメって言われたでしょう?ダメだよ!」
穂乃果「大丈夫大丈夫!お祭りのために貯めたんだもん!」
毎年誕生日とお祭りはかぶるんだろうから、ことりちゃんと海未ちゃんの苦労は想像して余りある。
紫音「穂乃果ちゃん今日はさ、ことりちゃんはあまり遅くならないうちに帰りたいみたいだからさ、花火が全部終わらないうちに帰ろうよ。だからここからはみんなでゆっくり行こう!」
穂乃果「え~そうなのことりちゃん!?仕方ないなぁじゃあゆっくりね!」
そう言いながら穂乃果ちゃんは走っていこうとするのだった・・・ダメだこりゃ。
俺が「誕生日プレゼントに穂乃果ちゃんにジェラートを奢る」と言うとうようやく穂乃果ちゃんは止まってくれた。
トリプルを奢らされたのは言うまでもない。
俺達は全員で手を繋いで行くことになった。
穂乃果ちゃんが先頭で海未ちゃんことりちゃん、紅音、翠音、俺の順である。
一番角が立たない順番だそうだ・・・トホホ。
ちなみに俺は肩に大きなトートバッグを下げており、両手とも手を握るのが難しいという理由もある。
先頭の穂乃果ちゃんは屋台のほとんどに頭を突っ込み、何かとコメントし海未ちゃんに注意されている。
大変だなあ、と思っていると穂乃果ちゃんはとある屋台で足を止めた。
俺達全員でその店に並んでいるものを見た。
出張アイドル生写真屋さんである。
ことり「あああ~~っ!!またある!!ダメって言ったのに・・・」
紅音「こ、これ!!お兄ちゃん、翠音!!これミナリンスキーさんだよっ!!」
翠音「わああぁ!!かわいい!」
紫音「おお、これは・・・」
穂乃果「ねえねえ、私達のも増えてるよ」
海未「え、何ですって?」
ことり「わっ本当だ~」
有名男性アイドル、女性アイドルの写真が所狭しと飾られている中の一角に、スクールアイドルのコーナーがあった。
当然ランキング上位の関東のスクールアイドルが売れ筋となるため、A-RISEを中心に写真が張り出されているのだが、その中にμ'sもあった。
新入荷のシールがあるのは全員がケアルメイドカフェのコスである。
秋葉原ホコテンのゲリラライブの時に撮影されたものに違いない。
あれだけ人がいる、しかも秋葉原のホコテンである。
プロ並みの撮影技術と機材を持った人が歩いていても何の不思議もない。
紫音「・・・こ、これは・・・」
俺は瞬時に決心した。
紫音「紅音、翠音、どれが欲しいんだい?お兄ちゃんが買ってあげるよ!」
紅音「え、ほんと!やった!!これ!ミナリンスキーさんとことりちゃん!」
翠音「お兄さま、亜里沙ちゃんの分も買っていいですか?同じものを2セットおねがいしますぅ」
紫音「おじさん!これとこれを4枚ずつ!あとここからここまでとこれからここまでを1枚ずつ!あとこれもう1枚!」
おじさん「はいよっまいどあり!」
う~む1枚400円とは高いが致し方あるまい。
バイトがんばろう。
俺は大量の写真を何枚かの子袋に分けて入れてもらい、カバンに入れた。
いや~今日はいい日だ。
なんだかんだと大騒ぎしつつも、俺達は荒川砂町水辺公園に辿り着いた。
時間がまだ17時で空も明るく、6人固まれる場所も楽に見つける事ができた。
俺は母さんから「必要なものはすべて入れておいた」と言われたバッグの中をがさごそと漁った。
レジャーシート、空気で膨らむクッション、空気入れ、十七茶の2リットルペットボトルとプラ製コップ、紙皿と割り箸、ウェットティッシュなどが出てきた。
女子達はレジャーシートを広げ、俺は足で空気入れを使ってクッションに空気を送り、横に長いクッションを二つ作った。
μ's二年生で一つ、兄妹で一つに座る。落ち着いたところで十七茶で乾杯した。
その内穂乃果ちゃんは座っているのに飽きたようで、紅音と翠音を連れて水風船とスーパーボールを掬いに行った。
帰りにはお好み焼きと焼きそばを持っており、みんなで紙皿で分けて食べた。
ことりちゃんだけ特別扱いはせず、俺は女子がトイレに行くときは例外なく付いていってトイレの前で待った。
何より俺の安心のためである。
ことりちゃんと歩いている時、裾が膝上にあるミニ浴衣を着ている女の子を見かけた。
ことり「あっ!あの短い浴衣、かわいい・・・動き易そうだし!紫音くんもミニスカート、大好きだもんね!」
俺が正直に頷くと、ことりちゃんは何かインスピレーションを得たようだった。
全員揃ってレジャーシートに戻り談笑していると、大きな花火が上がり始めた。
紅音「お兄ちゃん、翠音、綺麗だね・・・来て良かったね」
翠音「綺麗ですぅ・・・お兄さま、寄りかかっていいですか?」
俺の返事を待たずに翠音は俺の左肩に、紅音は右肩に頭を付けて花火を見上げている。
穂乃果「あ~ずるいな二人とも!私はこうしちゃおうかな」
穂乃果ちゃんは俺達の前のクッションにことりちゃんを左、海未ちゃんを右に従えて座っていたのだが、そのまま俺のほうへ寝そべった。
ちょうど穂乃果ちゃんの頭は俺があぐらを組んだくるぶしの上に来た。
穂乃果「お~こりゃ良く見える。しかもしょーくんのひざ枕、楽だ~!誕生日様様だね!」
他の女子4人の殺気にも似た雰囲気を肌で感じながら、俺は穂乃果ちゃんの柔らかい髪が脛に当たるのをこそばゆい気持ちで感じていた。
とても嬉しい・・・しかし家に帰ってからがマジで恐い。
最後の打ち上げラッシュに入ったところで、俺達は立ち上がった。
花火が完全に終わってから駅に行くと大変混雑し危険な上、時間も倍以上かかり効率が悪いと見越しての判断である。
穂乃果ちゃんは名残惜しそうだったが、機嫌は良かったため帰る事となった。
俺達は背後の満開の花火を振り返りながら歩き、南砂町駅から東西線に乗った。
20時半前には末広町に着くだろう。
東西線はお盆休みに入っている事と、平日夜の上り方向のため座席は空いていた。
女子達はトークに花を咲かせているので、俺は座席に座りバッグから今日の戦利品を取り出した。
μ'sメンバーのケアルメイドカフェコス生写真である。
いやまあホントは海未ちゃんとことりちゃんと絵里先輩だけでも良かったんだろうが、真姫ちゃんと穂乃果ちゃんもかわいいから欲しいし、そうなると凛ちゃんと花陽ちゃんも欲しいし、それなら希先輩とにこ先輩だって欲しい・・・。
それを瞬時に判断できた俺、なんだか成長したな・・・うんうん。
海未「紫音さん、何を買ったんです?ニヤニヤして」
紫音「へ、何ってμ'sの生写真だよ!今日から俺の宝モノだよこれ!!いやあ嬉しい」
そこで正直に言ってしまった俺、たぶんテンションが高かったんだと思う。
集合時に海未ちゃんの写真が撮れず残念だった気持ちが満たされた事も大きい。
海未「な!!ちょっと見せて下さい!!」
俺の横に座り海未ちゃんは9枚の写真を覗きこむ。
紫音「ね、よく撮れてるよね~かわいいよみんな!特に海未ちゃんの~おわっ」
海未「かっ返しなさい!!」
海未ちゃんは顔を真っ赤にして手を伸ばし9枚の写真を取ろうとする。
紫音「え~!なんで返すの!これ俺が買ったんだよ?」
俺は取られまいと席を立ち、写真を持った右手を高く上げた。
海未「ダメですっ!!世の中には・・・そう、肖像権という物があるのですっ!返しなさい!!」
海未ちゃんは背伸びして俺の右手を捕まえようとしている。
しかし俺と海未ちゃんでは身長差が20cm以上あり、まず物理的に無理である。
紫音「い、イヤだよ、返さない。俺が買ったんだもん。大事にするんだから。それにかわいい浴衣でそんなに背伸びして転んだら大変だよ?」
海未「だ・・・大事にするって・・・そもそもその写真を何に使うのです?どう大事にするのですかっ」
紫音「いや、これの使い方は無限大ですよ。まず9枚あるから最初は野球チームにして遊ぶ。ピッチャーは穂乃果ちゃん、海未ちゃんはキャッチャー・・・女房だから。先輩達3人は外野で~凛ちゃんはショートだ絶対」
俺の妄想は止まらない。
紫音「サッカーもいいな。雪穂ちゃんと亜里沙ちゃんを入れて11枚にして、絵里先輩のワントップで、キーパーは希先輩、運動量が多くても大丈夫な穂乃果ちゃん、凛ちゃん、海未ちゃん、雪穂ちゃん、真姫ちゃんをハーフにして~」
海未ちゃんはジト目で俺を見ながら写真を狙っている。
海未「・・・誰が、誰の女房なのですか?」
海未ちゃんの問いも俺の耳には入らない。
紫音「後はまあ日めくりカレンダーにも使えるし、枕の下に入れて夢が見れるか実験してもいいし、希先輩に占ってもらうとかもできそう」
海未ちゃんが俺の右手に何度目かの無駄な攻撃を出そうとした瞬間、地下鉄が急なカーブに入りガタンと揺れた。
海未ちゃんはバランスを崩し立て直そうと足を出したが、俺の下駄が大きかったため出した足が引っかかってしまい、完全にバランスを崩した。
紫音「おっと」
俺はつり革を掴んでいた左手を海未ちゃんの右の脇の下に入れ、片手で支えた。
海未ちゃんは俺の左腕に掴まって転ばずに済んだのだが・・・海未ちゃんの顔は、はだけた俺の胸にくっついてしまっていた。
たぶん1秒もないと思ったのだが、海未ちゃんの頬が瞬時に真っ赤になったのが分かった。
海未「きゃあああああ!!」
海未ちゃんの渾身の右ブローが俺の左脇に炸裂した。
これ、絶対この娘の得意技だと思う。
紫音「ぐはっ」
わき腹を押さえて体を折った俺の手から9枚の写真をもぎ取り、海未ちゃんは言った。
海未「そ、その・・・転ばないように支えてくれた事には感謝します・・・ですが触り過ぎです!それから写真は返してもらいますよっ!穂乃果、ことり、あなたたちも返して欲しいですかっ?」
トホホ・・・背中を一瞬しか触ってないと思うけど・・・。
ことり「う、海未ちゃん・・・紫音くんかわいそうだよ・・・返してあげなよ。私達のファンなんだよ?」
海未「ことり!あなただって最初アルバイトの写真を回収しようとしていたではないですか!」
ことり「そ、それはそうだけど・・・もう紫音くんはお金を出して買ったんだよ、写真・・・」
うう、ことりちゃんもう一声。
ことり「ねっ海未ちゃん、紫音くんはそんな変な事に写真を使ったりしないよ。だから返してあげて」
海未「・・・だ、ダメです!し、信用できるまでしばらく私がお預かりします!」
うう、ことりちゃん、ありがとう。
キミの気持ちはとても暖かく届いたよ。
海未ちゃんは9枚から自分の写真を抜き、8枚を返してくれた。
紅音「お兄ちゃん、仕方ないわね。女の子が返して欲しいって言ってるんだから返すべきよ。それから年頃の女の子は体触られたりしたら超恥ずかしいんだから、掴むとしても腕か肩。腰はダメよ。後で私で練習してもいいわよ」
翠音「お兄さま、あとで翠音がいい子いい子してあげる~」
穂乃果「みおんちゃん、大丈夫!この後17歳の穂乃果さまが傷付いたしょーくんにすっごく優しくしちゃうから」
女子4人「それはダメ!」
トホホ・・・。
大騒ぎしているうちに地下鉄は末広町駅に到着した。
時刻は20時半、ちょうどよい。
俺達は楽しかった礼を言い、穂乃果ちゃんと海未ちゃん、俺達兄妹とことりちゃんの2チームに別れて帰途についた。
先に実家のマンションに着いたので紅音と翠音を帰し、俺はことりちゃんを送って行った。
ことり「・・・今日楽しかったね!ホントについてきてくれてありがとう!バイト休ませちゃって・・・ごめんなさい」
紫音「いいよ~俺も超楽しかったし!それにしても穂乃果ちゃんは元気だね~!毎年ああなの?」
ことり「そうだよ~お誕生日とお祭りが毎年重なるから、お誕生日プレゼントもお金にして、おこずかいも全部お祭りで使っちゃうの・・・お祭り大好きの江戸っ子なんだよね」
紫音「そうかあ~でもすっごい楽しいよね~一緒に居て飽きないっていうか・・・ずっと退屈しないで済みそう」
ことり「・・・紫音くん、穂乃果ちゃんみたいな子も好きなの?」
紫音「いや~穂乃果ちゃんは、ある意味男の理想だと思うよ~。明るくて屈託がなくて、隠し事できないし甘えてきてくれるし・・・この娘のためにがんばりたいって思うもんね」
ことり「そ・・・そっか~・・・そうだよね・・・じゃあ海未ちゃんとどっちが好きなの?」
紫音「え~!それは難しいところ聞いちゃうね!う~んとね~・・・もし恋人になったら、穂乃果ちゃんのほうが楽しくて優しくしてくれそうだと思うけど・・・」
俺は考えながら言った。
紫音「海未ちゃんが恋人だったら厳しいしうるさいし殴られたりしそうだけど、正しい事や間違ってる事をちゃんと言ってくれるし人間的に成長できそうなんだよね・・・どっちも良い所あるからちょっと選べないかなあ」
俺の心の中では最初は海未ちゃんと決まっていたのだが・・・改めて口に出してみると確かに難しいかも知れない。
ことりちゃんは神妙に聞いていた。
ことり「そっか・・・今日は、海未ちゃんがごめんね、せっかく買った写真だったのに・・・私達の事好きになってくれたのに、あれは酷いよね」
紫音「はは、きっと恥ずかしかったんだろうね、海未ちゃん。そういうところかわいいんだけど、素直じゃないから怒るんだよね・・・まあそれもかわいい所なのかな~」
ことり「・・・紫音くん、そういう風に言えるのすごいよ。そこは普通なら誰でも怒る所だと思う。ことり、写真代を立て替えます。いくらですか?」
ことりちゃんは海未ちゃんが奪っていった写真の代金を財布から出そうとしている。
紫苑「はは、大丈夫大丈夫ことりちゃん、実はね~」
俺はバッグからμ'sの8枚の写真が入った子袋と、それ以外にもう一つ子袋を取り出した。
そちらにはミナリンスキーの写真と海未ちゃんの写真が1枚ずつ、入っていた。
紫音「ヒロタカから教わったんだ!大事な写真はね、保管用と閲覧用で2枚買うのが基本なんだよ。だから海未ちゃんとことりちゃんのは2枚ずつあるんだよ!海未ちゃんのは1枚になったけどね!」
ことりちゃんは初め大きな瞳をまん丸にして見ていたが、その内くすくすっと笑った。
ことり「なんだ紫音くん、抜け目ないね!じゃあことりのはミナリンスキーも入れて4枚買ってもらわなくちゃ!」
紫音「うん、がんばってバイトする!」
二人であはは、と笑いあった。
紫音「ことりちゃん、今日は浴衣、マジで似合っててかわいかった。足の爪も、ペディキュアだっけ?オシャレだね。それじゃおやすみ、今日はありがとうね!」
俺達はことりちゃんの家の前で手を振って別れた。
いやあ、今日はいい日だった・・・さっそく海未ちゃんの写真を枕の下にでも入れて寝るとしよう。