ラブライブ・メモリアル ~海未編~ 作:PikachuMT07
ミナリンスキーさんのサインをもらった翌週の土曜夜、俺はバイトを終えミニストッパを出た。
するとちょうどその時携帯にことりちゃんからメールが来た。
「紫音くんよっす(^^ゞ今日交替の人が遅くて今までバイトしちゃった(-_-;)これから穂乃果ちゃん家に行くんだけど、なんて言い訳したらいいかな(>_<)」とある。
俺はすぐに「そろそろバイトの事、素直にバラしたら?きっと穂乃果ちゃんは許してくれるよ」と返信した。
するとまたすぐに返信があった。
「穂乃果ちゃんは怒らないけど、あの子に言うと他の人にバレそう(^_^;)お母さんにバレると困るの~(T_T)」とある。
確かにそれはありそうだ・・・すると言い訳を考えなければならない。
俺は現在のことりちゃんの位置を予測した。
ケアルメイドカフェから穂むらまではそんなに離れていない・・・ことりちゃんの足でも10分前後だろう。
すると・・・今俺がいるところの近くを通る。
それなら、と俺は「俺の店でハロパロ大盛り頼んで、食べるの時間かかったって言い訳を言っていいよ。口裏合わせる」とメールした。
歩きながらメールしているのだろう、またすぐ返事があった。
それには「(^_-)-☆それいい!だけど・・今日はダメ。だって遅くなったからお店の服、着て来ちゃったの(*^。^*)」と爆弾宣言が書いてあった。
な、なんだって~~!と一瞬思ったが、良く考えると秋葉原は道を歩けばメイドさんに当たるくらい、メイドは多いのだ・・・普通か。
しかしその服装で穂むらに行けば100%、穂乃果ちゃんにはバレバレである。
そう思い「それだと誤魔化しきれないのでは?俺、一緒に行ってあげようか?ちょうどバイト終わって近くにいるし」と返事した。
しかし即返ってくると思ったメールは1分ほど遅滞があった。
しかも内容は「恐いたすけ」で切れていた。
これはおかしい・・・何かあったのだろうか?
俺はかなりの速度で走り出した。
神田明神下の通りを渡りアンダラケの角まで来てあたりを見回す・・・さすがにドンピシャというわけにはいかないか。
しかしケアルカフェから穂むらに向かうのなら、必ずここを通ったはず。
よく見るとクレーンゲーム店の角を曲がってくる人が、一様に同じところを見ているのに気がついた。
俺は全速力で駆けつけた。
見慣れたケアルメイドカフェのロングドレスのメイド服の娘がオッサン二人に囲まれていた。
ことり「ち・・・違います。私はそういう店のメイドじゃ・・・ないんです」
オッサン1「何言ってんだよ、お前の店だって酒くらい出すんだろうがよ。俺が行ってやるから酌くらいしてくれんだろ」
オッサン2「なかなかかわいい顔してんじゃねえか。ボトル入れてやるからよ、そしたらちょっとくらい触ってもいいんだろ、メイドってのは」
ことり「・・・すみません、ホントに急いでるんです・・・通してください・・・」
かわいそうに・・・ことりちゃんが小さい声で反論しているが、まったく効果がない。
しかもオッサン二人は壁際にことりちゃんを追い込み脱出できなくしていた。
こんな光景あるんだな・・・時間が遅いとやはり秋葉原でも女の子には危険なのだ。
俺はすばやく救出案を考え、何通りかの案からラノベ作戦を選んだ・・・要するに口車誘導である。
まずことりちゃんの携帯に電話をかけると、彼女のメイド服のポケットから場違いな明るいメロディーが流れ始めた。
それを確認し俺は大声を出した。
紫音「ミナリンスキーさん!!ミナリンスキーさん!!どこですか!!ミナリンスキーさん!!」
俺は携帯を耳に当て、わざわざ左右に向かってデカい声をあげながら、オッサンたちの背後から近づいていく。
紫音「ミナリンスキーさん!!もう、どこまで行ってんだ・・・電話出ないし!ミナリンスキーさん!!」
ことり「紫音くん!」
俺の声に反応してくれた・・・いいぞ!
紫音「あ、ミナリンスキーさん!!もう、なんでこんなところまで・・・スタッフ総出で探してますよ。あ、お客様ですか、すみません、ミナリンスキーはこれからメイドカフェマップの撮影がありまして・・・今日はもう店に出ないんですよ。ごめんなさい。ほらミナリンスキーさん、行きますよ、みんな待ってます」
俺は携帯を切る演技をしつつオッサン二人の間に体を入れ、ことりちゃんの左手をぐっと握った。
紫音「すみません、失礼します・・・お~い、山田!!ミナリンスキーさん見つかったぞ!!!やまだぁ!」
俺は通行人に向かって山田山田と騒ぎながらことりちゃんの手をぐいぐい引っ張って早歩きを始めた。
アンダラケまで戻り神田明神方向へ曲がる。
曲がったところで足を止めことりちゃんを背中に隠し、角から来た通りを見て確認する。
どうやら追ってきてはいないようだ。
安堵しながらことりちゃんに声をかけた。
紫音「ことりちゃん、大丈夫??」
ことり「ふ・・・ふぁ~~ん・・・」
ことりちゃんは顔をくしゃくしゃにして泣き始めた。
そして俺の胸に顔を押し付けてきた。
深く考えず、紅音や翠音が同じ事をしてきた時のように頭をなでてやる。
紫音「うん、恐かったな・・・よくがんばったね」
通行人の目もあるので、俺はことりちゃんの頭を左手で優しく抱え、ゆっくりとバイト先のミニストッパへ歩き始めた。
ことりちゃんはかなり泣いている。
ミニストッパ前まで来て俺は足を止め、再びことりちゃんの頭を自分の胸につけてなでてやった。
さすがに号泣状態で店内に入るのは憚られた。
ことり「恐かったの・・・恐かった・・・」
紫音「大丈夫だよ、もう恐くない。俺しかいないよ」
残念なことに俺はハンカチを持っていなかった(弓道の時のタオルは一旦家に帰った際置いてきてしまった)が、神に祈りながらポケットをまさぐると、丸まったポケットティッシュが出てきた。
ちょっとかっこ悪いが背に腹は替えられない。
俺はティッシュを丁寧に広げ、綺麗に折ってから言った。
紫音「ほら、ことりちゃん顔上げて。かわいい顔が台無しだよ」
手に持ったティッシュで涙を拭いてあげる。
かわいそうに目は真っ赤になり鼻水ダダ漏れである。
俺は次々とポケットティッシュを出し、ことりちゃんに渡した。
ことりちゃんは何とか自分で鼻をかみ、涙をぬぐって落ち着いてきた。
ことりちゃんの手を引いてミニストッパに入る。
トイレの前まで連れて行き、ことりちゃんを中へ押し込んだ。
そしてペットボトルの紅茶と十七茶を買い、店内のテーブルに座って待つ。
ほどなくことりちゃんがトイレから出てきて、俺の前に座った。
顔を整えてきたことりちゃんだったが・・・目が合うとことりちゃんの大きな瞳からはまた、ポロポロと涙がこぼれ落ちた。
これは・・・しばらく落ち着きそうにない。
俺はことりちゃんの横に座り、顔を見ないようにして自分の肩にことりちゃんの頭を寄りかからせた。
努めて明るく言う。
紫音「仕方ないなあ!がんばったことりちゃんに、特別に今日は定価のものを奢ってあげる。μ'sのみんなには言うなよ~特に穂乃果ちゃんと凛ちゃんとにこ先輩。あの人たちすぐ自分も奢られようとするから。ね、紅茶とお茶、どっちがいい?」
ことりちゃんは涙を拭きつつ、黙って紅茶を選んだ。
俺は余った十七茶を飲み始めたが・・・ことりちゃんは飲み物も喉を通らないようで、彼女が2口飲む頃には、十七茶は空になっていた。
飲み物が喉を通らないなら甘いアイスだ・・・季節はばっちりだし、ギャグのネタにも使える。
遅番のバイト先輩(65歳)に頼み大盛りハロパロを作ってもらい(もちろん自腹)、届いたタイミングでネタを発動した。
紫音「やったぁハロパロ来た!これさ、やっぱりウマイよね!これ穂乃果ちゃんホント美味しそうに食べるんだよね!でも真姫ちゃんはこれ食べててもムスっとしてる。海未ちゃんは怒るんだよね。穂乃果!だらしがないですよっ!」
ハロパロを持ち海未ちゃんの物まねで、変な声を上げた・・・このネタがウケないと辛い。
ことりちゃんはやっと俺の必死の顔を見た。
ことり「ふふっ、似てる~」
ようやく笑ってくれた・・・良かった・・・だが時刻はもう22時に近かった。
紫音「さ、ことりちゃん、帰ろう。家まで送って行くよ」
俺がそう言っても、ことりちゃんはふるふると首を横に振った。
ことり「・・・ダメ。お店の服、着替えてから帰らないと・・・お母さんに見られちゃう」
・・・確かにそうだ・・・これは困った。
ことり「元々は穂乃果ちゃん家で着替えるはずだったの・・・コスプレとか言って」
ミニストッパのロッカールームには監視カメラが付いているし部外者が入るのは難しく着替えには適さない。
ケアルメイドカフェのメイド服は丈が長いためトイレで着替えるのも大変だ。
考えた末、俺はこう切り出した。
紫音「もし良かったらだけど、俺の部屋で着替える?大丈夫、絶対変な事しないから。あそうだ、紅音に来てもらって・・・」
ことり「うん、大丈夫。紫音くんの事信じてる。お部屋貸して下さい」
俺とことりちゃんは俺のアパートまでやってきた。
アパートの鍵をことりちゃんに渡し、俺が外から開けられない状態でことりちゃんに中から鍵をかけてもらった。
ふ~っと俺はため息を付いた。
これは女の子を連れ込んだことになるのだろうか・・・イヤならないだろ、たぶん・・・。
今さらではあるが、ことりちゃんが中で着替え始めてから、部屋の中に何かマズイものを置いてないか不安になった。
まあ妹達が起こしに来る対策は常にとっているので大丈夫だろう、と思いたい。
待っている間に俺はことりちゃんに一声かけ、穂乃果ちゃんにメールした。
内容は「ことりちゃんは穂乃果ちゃんの家に行く途中で気分が悪くなり、ミニストッパで休んでたけど回復せず帰った」である。
ミニストッパにいる間にもことりちゃんの携帯が何回か音を発していた・・・みんな心配しているのだろう。
音ノ木坂の制服に着替えたことりちゃんを、俺はことりちゃんの家まで送っていった。
途中ではにこ先輩の物まねをした俺を海未ちゃんが「気持ち悪い」と斬って捨てた話を面白おかしく聞かせた。
ほどなくことりちゃん家に着き、俺達は手を振って別れた。
なんとか最後には笑ってくれたし、最終的には何も無かったわけだし、明日は元気になって欲しいと思う。
そしてケアルのバイトも続けて欲しい。