ラブライブ・メモリアル ~海未編~   作:PikachuMT07

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プロローグ&第1話 音ノ木坂学院の華たち

プロローグ

 

またこの夢を見ている。

耳を圧倒する大歓声、ドームを埋め尽くすペンライト、広大なステージを所狭しと駆け巡る9人の女性達。

彼女達が立ち、歩き、走っているその背後には、それぞれ別の女の子が張り付いている。

つまりステージには総勢18人の女の子が思い切り、歌って踊って、笑って泣いている。

どの娘も俺の知らない娘だ。

俺に判るのは、このライブが4月1日のファイナルライブという事だけだ。

何のファイナルライブなのか、あの娘達は誰なのか。

あの18人は、俺にとってとても大事な存在なのに・・・他の記憶はぼやけていて判然としない。

それでも、そのライブの価値が判らない俺にも、彼女達と大勢の観客の、最後を最後まで楽しむ気持ちが伝わってくる・・・「今が最高」という想いも。

だが俺には、これが本当に「今が最高」の状態なのか、判らない。

これは夢だと思う・・・その証拠に俺は一瞬にして、この広い会場のどこにでも移動し、彼女達を見る事ができた。

本当に今が最高なのか?そう疑問を持つといつも、急激に覚醒が始まる・・・ああ、夢が終わる。

名残惜しい夢だ・・・せっかくなのでここはやはり、スカートの中を見ておく事にしよう・・・。

そう思った俺は毎回、ステージの中央に寝そべる・・・。

 

 

 第一話 音ノ木坂学院の華たち

 

ここは東京・秋葉原。暖かな春の日差しがゆっくりと室内に届き始めた朝、春眠暁を覚えずとは誰の言葉だったろうかと考えつつ、答えが出ないままもう少し惰眠をむさぼろうと決意した。

ぬくい、ぬくいわ!この布団・・・う~むにゃむにゃ・・・。

??「お兄ちゃん!!お兄ちゃん起きてるの?!」

どたどたどた・・・なんかウルサイ。

??「あ~!やっぱりまだ寝てる!!翠音(みおん)!手伝って!お兄ちゃんを起こすの!!」

翠音「お姉さま・・・お兄さま幸せそう・・・」

??「翠音ダメよ、そんな甘やかしちゃ!今日は新しい学校の入学式・・・なのは私だけか。あなたたちは転校初日で、絶対に遅刻しちゃダメなんだから!!さあお兄ちゃん起きて!!日本じゃ美少女妹二人に起こされるなんて、究極の幸せって書いてあったわよ!!」

翠音「お姉さま、自分で美少女って言ってる・・・」

??「いいじゃないの、家なんだから!お兄ちゃん!時間なくなるわよ!!起きて!」

翠音「お兄さま・・・入るよ~(ごそごそ)」

足腰に何か柔らかいものが絡み付いてくる。

むむ?・・・あれ、そういえばさっき見ていた夢もあるし、朝一番っていうのは確か大事な息子が・・・。

俺「ぬわ~~~!!ちょっと翠音!!お兄さまのベッドに入っちゃダメ~!!!」

翠音「え~・・・あれ、お兄さまの布団・・・なんか入ってるょ」

俺の布団から顔を出しつつ翠音が言った。

俺「み、見ちゃいけません!!紅音(あかね)!!そこのズボン取って・・・」

紅音「きゃーっ!!お、お、お兄ちゃん何で今日はパンツ一丁なの!?み、見せないで!!」

紅音は顔を真っ赤にして手で自分の視線を隠しながらズボンを取ってくれた。

お約束通りちょっと指に隙間があったような気もするが、今はそれを言う余裕はない。

俺「そういえば昨日の夜暖かかったからパジャマ脱いでしまったんだった・・・おはよう、二人とも。お前らこれから毎日、起こしにくるの?」

翠音「おはよう~お兄さま。うん、お姉さまと交代でくるよ~」

紅音「おはよう、お兄ちゃん。そうよ!お兄ちゃん一人なんて心配だから起こしにくるの!じゃあ早く着替えてマンションのほうに来てよ!朝ごはんもうできてるんだからね!」

翠音「お兄さま、早く来てね。一緒に学校行こう~。あとエッチな本と一緒に寝たら本が折れちゃうよ」

翠音は俺のベッドで四つんばいになり、布団から雑誌を掘り出してきた。

ヤンマガだった。

紅音「お!お兄ちゃん!!これは何!エッチな本じゃないの!」

え~?ヤンマガはギリギリセーフだよな?普通に考えると・・・だって表紙の娘は水着なんだし・・・。

しかし紅音の目は強烈な嫌悪感と疑惑で満たされている。

俺「紅音さん?これはマンガ雑誌でございまして、決してエッチなものでは・・・」

俺が言い訳をしようとしていると、翠音は乱れた髪を直しつつ布団から出てきた。

ベットに一旦座ってから片膝を立てて降りようとしたため、短い制服のスカートの中身が少々見えた。

翠音「お兄さま、いま翠音のパンツ、見たでしょ?エッチ。でもお兄さまならいいよ」

今日の翠音はニーソを履いており、制服のミニスカートとの間で織り成す健康的な絶対領域には確かに魅力があるのだが・・・エッチな本疑惑の釈明中の俺には、不利なだけだった。

俺「あはは!み、見てないよ~!さ、みんなで朝ごはんを食べに行こう!!俺は着替えるから出て行っておくれ!起こしにきてくれてありがとう!!」

俺がなんとかそう言うと、ふるふると震えながら顔を真っ赤にしていた紅音は「ママに言いつけてやるんだからね!」と息巻いて翠音と出ていった。

「翠音もやりすぎ!」と怒りながら遠ざかる声はご近所迷惑の大騒ぎだ。

やれやれ・・・とりあえず早く着替えよう。

 

     ■□■

 

我が桜野(さくらの)家は先月、ニューヨークからこの秋葉原に引越してきた。

親父は貿易会社のプロジェクトリーダーでニューヨークと東京を行ったり来たりしている。

母さんはピアノの調律師で、ドイツメーカースタインウェイのマイスター資格を所有しており、さらに日本製ピアノも扱える技術も習得している。

そして俺と年子の妹が二人の5人家族だ。

ちなみに親父はアングロサクソン系と日本人のハーフ、母親は日本人なので俺達兄妹はクォーターという事になる。

俺の髪は黒に近い茶で瞳は青みがかっている。

妹二人はさらに色素が薄く、抜けるような白い肌とライトブラウンの髪、コバルトブルーの瞳を持っている。

親父と母さん、紅音と翠音が住んでいるマンションは秋葉原駅からもそこそこ近いマンションだ。

親父の給料では、この立地で子供部屋3つと両親の寝室を確保できる4LDKを借りるのは社宅補助が出ていても現実的ではなく、俺だけ築40年、風呂なしトイレ共同6畳一間2万円の部屋を借りている。

だから俺はメシとフロの際は約200m離れた実家マンションまで帰らなければならない・・・面倒だ。

 

瑠璃音(るりね)「あら紫音(しおん)、おはよう。顔は洗ったの?早く食べてよ?今日からみんな学校なんだから。紅音と翠音が早めに起こしに行ってホント良かったわ」

紫音というのは俺の名前だ。

ニューヨークの友達はシオンと発音ができずみんなショーンと呼んでくれた。

俺もそう呼ばれたほうがシックリ来るような気もするが、母さんはしっかりと日本名で呼ぶ。

俺の家族は全員日常英会話は問題ないが、家では日本語を使うという決まりがある。

紫音「母さん、おはよう。俺一人でも起きれるよ・・・だから紅音たちを寄越さなくても・・・」

瑠璃音「あら?二人からは熟睡していたって聞いてますけど?しかも水着の女の子の写真と寝ていたらしいじゃない?母さん心配だわ。起こされるのがイヤなら二人より先に食卓につくことね」

紅音「そうだよママ、お兄ちゃんったら絶対昨日、あの水着の女の子の写真を見てエッチな事考えてたんだから。お兄ちゃんがヘンタイになる前にこっちに戻すべきよ。部屋は私と一緒でいいわ。見張ってあげる」

翠音「あ、お姉さまズルイ。翠音も見張る~」

瑠璃音「ダメよ。あなたたちの勉強ができないじゃない。もちろん紫音も。話し合って決めたんだから1年はこのままよ」

むう・・・毎朝あのような起こされ方は困るな・・・せめて写真集系はキチンとしまってから寝ないと・・・ではなく、紅音たちが来る前に起きるべきなのか?

明日の朝からどうしたものかと考えながら朝食を終え、時計を見ると8時10分前だった。

そろそろ出ないとマズイ。

翠音「お母さま、ご馳走様でした。お兄さま、一緒に行こう~」

紅音「ず、ズルイわよ、翠音!私だって一緒に行ってもらいたいわ!」

俺は今日から神田電機高校の2年生、紅音は音ノ木坂学院高校の1年生、翠音は地元の中学校の3年生である。

偶然にも音ノ木坂学院の入学式と、俺の高校及び地元中学校の始業式の日が重なったのだった。

音ノ木坂学院は国立で、周りと若干タイミングが異なり入学式が1日早いためだろう。

俺の高校へ行く経路は音ノ木坂高校、地元中学校のどちらを通過する事も可能だが、さすがに時間的に両方は無理である。

さて俺は・・・

 

音ノ木坂学院周りルート = にこ、希、海未、ことり、花陽、真姫、凛ルート(○選択)

地元中学校周りルート = 穂乃果、絵里ルート

 

 

紫音「そうだな・・・やっぱり翠音は初めての転校だからな。母さんが学校の中までついて行ったほうが安心だろう。友達もまったくいないわけだし。その点紅音は新入学生だから周りに同じような初めて学校に来る子がいっぱい居るだろうし、案内もあちこちに出ているだろうから、俺が校門まで送れば問題なさそうだ。ごめんな翠音、そういうワケで今日は紅音と行くから母さんと一緒に行ってもらえ。明日は一緒に行こうな!」

翠音「え~~~!!」

紅音「やった!お兄ちゃん大好き!!」

瑠璃音「そうね、それも正しいかも。それじゃ紫音、紅音の高校生新入学の晴れ姿を写真に撮ってきてね!パパにも見せたいから」

そういえば親父は長女の高校初舞台たというのに、朝早くから出勤して行った。

日本とニューヨークの本来の時間差は14時間だが、現在ニューヨークはEDT(日本ではサマータイムと言うらしい)で動いており13時間差に狭まっている。

よって日本の朝8時に会社に行けば、ニューヨーク支社は前日の19時であり、ギリギリ居残っている社員に連絡ができるのだ。

そんな事より娘が高校生になる事のほうが重要な気がするのだが。

紅音「お兄ちゃん、早く行こう!!翠音ごめんね!明日は譲るからね!」

イッキに機嫌が全回復した紅音が俺の左腕に絡みつきながら言う。

翠音は頬を膨らませながら恨みがましい視線を送っていたが、母さんが白い上着を羽織り完璧なスーツ姿の美人ママになると、それはそれで嬉しいようで、笑顔を見せていた。

俺達は2組に分かれマンションを出た。

 

     ■□■

 

暖かい春の日差しが差し込む秋葉原の朝を、紅音と二人で音ノ木坂学院へ向かって歩く。

紅音は身長こそ日本人女性の平均値ほどだが、顔立ちは兄の俺から見ても完璧に整っている。

まず頭が小さいせいか目が大きい。

群青色の瞳は臆する事なく相手をまっすぐに見るが、目尻は優しく丸みを帯びているため威圧するような感じは少ない。

この瞳と透き通るような白い肌と明るい髪は、日本ではすれ違う人が振り返るような目立つポイントである。

モデルのように見えるのかも知れない。

もっともニューヨークの学校ではこの程度の美人は何人か居て、特に紅音だけが突出して男子にモテるという事はなかった。

髪が黒ければ、エキゾチックガールとしてモテたかも知れない。

そんな紅音が朝から男子高校生の制服を着た俺の腕にぶら下がらんばかりに掴まって歩いているのだから、これは目立たないわけがない。

紫音「おい紅音、いい加減に離れろよ・・・。ニューヨークでは兄妹が腕を組むのは当たり前だけどさ、ここは日本だぞ。あまりに朝から目立ちすぎだろ・・・」

紅音「だって~嬉しいんだもん!もう少しだけ!ね」

日本からニューヨークに引っ越した時、俺は7歳、紅音は6歳、翠音は5歳だった。

俺も英語が話せるようになるまで友達が居なかったが、妹二人はキンダーガーデン(日本語だと幼稚園、か?)で英語の習得ができるまで半年以上かかり、それまでは両親不在の際は俺の後ろをいつもくっついて来て、一緒に遊んだものである。

ニューヨークで迷子になると危険なので、俺がかなりの期間、妹の面倒を見ていたのだった。

学校は今日からでまだ日本の友人が居ないので、その時を思い出しているのかも知れない。

紫音「紅音、そろそろ音ノ木坂学院じゃないか?もう離れろよ」

紅音「もう仕方ないなあ~また今度ね!」

ようやく紅音と距離が取れた。

もう紅音と同じ音ノ木坂学院の制服を着た少女達が前方にチラホラ居る。

その時、俺達兄妹の後ろから、何やら声が近づいてきた。

栗色の髪の娘「んも~う、無理だよ~走れないよ~」

長い黒髪の娘「だからあれほど昨日、早く起きて下さいと言ったじゃないですか!ことりはもうとっくに行ってるんですよ!」

栗色の髪の娘「だいたいさ~在校生が入学式の準備で20分も前に登校するって制度が間違ってるんだよ~」

長い黒髪の娘「去年私達もやってもらったでしょう!新入生の案内と講堂の準備が私達のクラスに割り当てられたんですから、それをこなさないといけないんです!」

栗色の髪の娘「ぶ~!!もう分かったよ~そんなに怒ってると海未ちゃんなんかオデコシワシワになるんだから!」

長い黒髪の娘「ほ~~の~~か!誰のせいだと思ってるんですか!!」

傍目にも仲の良さそうな女子高生が俺達の横を駆け抜けて行く。

横目で見ると栗色の髪の娘は溌剌とした爽やかな空気をまとった少女で、柔らかそうな髪の右側にちょこんとついたお下げ(サイドテールというに違いない)をぴょんぴょんと揺らす姿は、紅音よりも幼くも見える。

なかなか可愛い娘である。

対照的に黒い髪の娘は色白の顔立ちこそ幼さを残しているが、それをピシッと伸びた背と凛とした表情で消し、清らかな空気をまとっている。

背の中ほどで綺麗に揃ったクセのないストレートな黒髪はさらりとまとまっている。

その髪を穏やかに揺らしながら早足に栗色の髪の娘を追いかけて行く姿は、ため息が出るような憧れの和風美人である。

高い声の娘「お~い!穂乃果ちゃん海未ちゃ~ん!早く早く!遅刻するよ~」

ようやく見えてきた校門前から高い声でそんな二人に呼びかけてくる娘が居た。

かなり明るめにブリーチした長い髪をやはりサイドテールにした娘で、小顔に大きな目がクリクリと動いてこちらを見ている。

栗色の髪の娘「ことりちゃんおはよ~~!待っててくれたんだ~」

高い声の娘「穂乃果ちゃんおはよ~~!でももう急がないとホントにまずいよ~」

長い黒髪の娘「ことり、待ってくれていたのですか。本当にすみません。早く行きましょう!」

いかにも仲良し三人組という感じの娘たちが合流し、おしゃべりしつつ校門に入っていくシーンを俺は何気なく目で追った。

だがその娘が視界に入った瞬間、雷に撃たれたような衝撃が俺を襲い、その3人を見ることは出来なくなってしまった。

音ノ木坂学院の校門の脇に、もの凄く美しい娘が立っている。

少し足を開いてまっすぐに立つその娘は、輝くゴールデンブロンドヘアーを高くポニーテールに結い上げているせいで、身長は紅音よりせいぜい2cmほどしか高くないと目されるのに、スーパーモデル級の身長があるように見える。

短めのスカートからすっきりと伸びる筋肉質で細く美しい脚はとても長く、組んだ腕の上に見える胸は大きく膨らみ、ブレザーを着ていてもウエストはとても細い事が分かった。

ニューヨークに住んでいた頃はブロンドの髪の女性はそう珍しくなかったが、ゴロゴロいるというわけでもなかった。

特にゴールデンブロンドという輝きのある髪を持つ女性は、ニューヨークでもあまり見なかった。

ニューヨークでの友達であるリック、マイク、ジョニーと話した「俺達の理想のブロンド美少女」が目の前に立っている事実に、俺は一瞬我を忘れた。

あいつらがこの娘を見たら狂喜乱舞だろう・・・ゲームに出てくる美少女騎士は、この娘をモデルにしたのかと見まごうほどだ。

俺が0.5秒でこんな事を考えていると、その金髪の娘は先ほどの仲良し3人娘に話しかけた。

金髪の娘「あなたたち、二年生でしょう。ちょっと遅すぎるのではないかしら?遅刻ではないけれど、今日は入学式があるのだから在校生には各自仕事があるはずよ。急いでください」

栗色の髪の娘「は~い、すみませ~ん」

長い黒髪の娘「す、すみません・・・急ぎます」

高い声の娘「はわわ・・・すみませ~ん」

仲良し三人組はそそくさと校門内に消えていった。

金髪の娘は軽くため息をつく・・・美少女ではあるが表情は硬い。

すると金髪の娘の後ろにいた優しい瞳の娘が声をかけた。

優しい瞳の娘「エリチ、まだ3分前やから二年生にそこまで強く言わなくてもええんと違う?」

金髪の娘「希・・・いいえ、こういうのはきちんとしたほうがいいわ。来年は二年生が学校を仕切るのだし」

優しい瞳の娘「せやけど・・・やっぱりこういうのは自覚が大事なんと違う?他人から言われて直るんはちょっと違う気がするよ?ねえ~にこっち!」

優しい瞳の娘はいたずらを見つけたような顔になり振り返った。

その視線の先には小柄な女子高生が壁に張り付いてこっそりと横から校門に入ろうとしていた。

小柄な娘「げっ!希・・・わ、分かったわよ急ぐわよ!ちょっと朝色々あって手間取っただけなんだから!」

小柄な娘は他の娘より更に短いスカートと頭の高い所にまとめたツインテールをなびかせながら、超特急で校門内に消えていった。

今の小柄な娘もかなりの美少女だった気がする・・・さすがに女子高はかわいい娘が多い。

他にも見所のある娘・・・その娘自身が居るだけで「華」になるような娘が居ないものかと目を左右に走らせる。

紅音「お兄ちゃん??」

それにしても音ノ木坂学院の制服はなかなか可愛い。

明るい青のタータンチェックのスカートは爽やかさを演出しており・・・全体的に短い。

紅音「ちょっとお兄ちゃんてば?ねえ!」

日本のハイスクールガールはみんなミニスカートだと聞いてはいたが、本当なんだと俺は素直に関心した。

紅音「お兄ちゃんのエッチ!」

突如左わき腹に衝撃が走った・・・紅音の肘鉄攻撃である。

紫音「ぐほっ!!!ちょ・・・おま、何するんだ・・・」

紅音「私という妹をエスコート中に他の女の子を見るなんて!だいたい制服はみんな同じなんだから私を見ればいいでしょ、お兄ちゃん!」

紫音「わ・・・分かった、ごめんよ紅音。でも今のもう少し優しくできないか・・・?ほら、あのブロンドの先輩、すごい美人じゃないか・・・あのレベルじゃお兄ちゃんが見ても仕方ないだろ?」

俺はわき腹をさすりながら紅音に言い訳する。

紅音「マイクとジョニーとお兄ちゃんはホントにブロンド好きだよね・・・まあ確かにあの先輩はブロンドじゃなくてもすごく可愛いと思うけど・・・でもどうせお兄ちゃんには関係ないんだからね!」

紫音「むぐぐ・・・まあ確かに関係することはまずないだろうけどさ~あと俺はブロンドだけじゃなく、日本人らしい黒髪の女の子も大好きだぞ!あたっ」

紅音「もう!他の女の子の話ばかりして!お兄ちゃんはもうここでいいよ!」

俺の左手をつねりながら紅音が拗ねていると、金髪の娘が俺達に話しかけてきた。

金髪の娘「おはようございます、新入生の方と保護者の方、ですか?ご入学おめでとうございます。私は音ノ木坂学院の生徒会長で綾瀬絵里と申します。新入生の方は校門を入って頂いたら左に受付がありますからそこで名札と花をもらって、係に下駄箱の位置を聞いて下さい。保護者の方で入学式に参加する方は講堂へどうぞ」

紅音「おはようございます!ありがとうございます!」

紅音は声のトーンを上げて明るく挨拶する。

紫音「あ、お、おはようございます・・・いえ俺は保護者じゃなくて送りに来ただけと言いますか・・・」

情けないが俺はどもってしまった。

これだけの可愛い娘とはさすがにあまり話した事がない。

紅音「・・・兄はもうすぐ帰りますので大丈夫です!兄もこれから学校がありますから」

絵里「お兄さんでしたか。ではお兄さんは受付より先には立ち入らないようお願いします」

金髪の娘はそれだけ言って、他の新入生を見つけてそちらに行ってしまった。

いや~しかし近くで見るとため息が出るほど綺麗な娘である。

笑ったら本当に天使だろうなぁ・・・。

紅音「お兄ちゃん、デレデレしちゃって・・・こういうの日本語で鼻の下を伸ばすって言うんだね。勉強になっちゃった。もうお兄ちゃんは自分の学校へ行っていいよ」

紅音は拗ねた声で嫌味を言う。

紫音「いやいや待て待て。お前のかわいい写真を撮らねばならん・・・受付まで一緒に行こう!」

せっかくだ、紅音の機嫌は下がり気味だが女子高に入れるというのはなかなか稀有な体験であろう。

もう少し紅音に付き合おう。

俺達が受付まで歩いていくと、受付には先ほど三人組の一人、高い声の娘がいた。

高い声の娘「おはようございます!ご入学おめでとうございます!こちらの花を服に付けて、名札を受け取って下さい。名札に出席番号が書いてありますから、下駄箱は入って右側の1年生のところで、出席番号と同じ番号のところに靴を入れて下さいね!」

声の高い娘は親しみやすい明るい笑顔で教えてくれた。

誰にでも好かれそうな印象を持った娘である・・・かわいい。

紅音が名札と花を受け取る間に、俺は受付の横の桜の木の下で新入生と保護者が写真撮影をしているのを見つけた。

俺達もあそこで撮るか。

紫音「紅音~、あの子たちが終わったら俺達もあそこで写真撮ろう」

紅音「は~い、お兄ちゃん、かわいく撮ってよ?」

俺達の前にはショートカットの新入生が二人、母親二人と写真を撮っていた。

活発な少女「かよちん、か~わいいにゃ!今度は凛が後ろから抱きつく写真!」

メガネ少女「り、凛ちゃん・・・ちょっと恥ずかしいよ・・・みんな見てるし・・・」

二人はそれぞれの単独と二人きりの写真、母親を交互に入れた写真を撮った。

すると活発な少女がカメラを持ち、並んでいた俺に近づいてきた。

活発な少女「お兄さん!!すみません、シャッターを押してもらえませんか!?」

近くで見ると綺麗な肌をした小顔の美少女である。

ショートヘアなので一見少年のようにも見えるが、歩くだけでも俊敏な小鹿を思わせる華奢な体は少女の体付きである。

もちろん俺は快く応じ、カメラを受け取った。

活発な少女とメガネ少女、それぞれの母親がその後ろに立って4人で俺を見つめる。

紫音「はい~それでは行きますよ~・・・」

小柄な娘「はいっ!にっこにっこに~~!」

4人「にっこにっこに~!」

突如俺の背後から沸いた声に動揺しつつも、4人が揃って改心の微笑みを浮かべたため、俺は思わずシャッターを押した。

そして背後を見たがもう声の主は消えている。

紅音「お兄ちゃん・・・あの小さな先輩、走って逃げていったわよ」

う~む、なんだったのだろうか・・・有名なかけ声だろうか。

不思議な言葉に首をひねりながら活発な少女にカメラを返すと、次は俺達の番である。

紅音は桜の下で正面、右前、左前、見返りとポーズを決め、俺は次々とシャッターを切った。

紅音「お兄ちゃん・・・私、お兄ちゃんと並んで写真撮りたい」

紫音「む・・・確かにな。しかしそれにはシャッターを押す人が・・・」

俺が当たりを見回すと、先ほどの活発な少女と目が合った。

活発な少女「お兄さん、写真撮って欲しいのかにゃ?」

紫音「お、ありがとう、助かるよ」

俺と紅音は桜の木の下に並んだ。

活発な少女「まかせるにゃ~!ハイっねこニーニー」

俺達「ねこニーニー」

活発な少女の明るい声につられ俺達が「ニー」と言ったタイミングでシャッターは切られた。

にーと言うと自然に会心の笑みが出るのか、勉強になるなあ~などと思いながら俺は少女にお礼を言った。

紫音「ありがとう。助かったよ!おい紅音、お前もお礼を言えよ。今日からクラスメートだろ?」

先ほど受付に記載があったのだが、今年の音ノ木坂学院の1年生は1クラスしかないとの事である。

つまり新入生は全員同じクラスだ。

紅音は若干こわばった声で挨拶する。

紅音「あ、ありがとう・・・ございます・・・」

活発な少女「あかねちゃんっていうのか~!あなたすっごくかわいいね!こんな子が同じクラスなんて嬉しいにゃ!!それにそれに、あかねちゃんのお兄さん、すっごくカッコイイね!優しいし!!凛は今でもお兄さんがすっご~く欲しいから、とってもうらやましいにゃ~。あ、あたしは星空凛!凛って呼んでいいよ!あっちにいるメガネの子はかよちん・・・小泉花陽ちゃん。ね、一緒に教室行こ!」

紅音は初め不満そうに聞いていたが、俺の評価を聞いて機嫌を回復したようだ。

紅音「星空、凛ちゃんて言うのね。あなただってかわいいじゃない!しかも目が高いわ!私は桜野紅音。あかねでいいわ。これからよろしくね!」

凛「よろしくにゃ~!!かよちんかよち~~ん!!さっそく友達できたよ~!あかねちゃんっていうんだって!」

メガネ少女「あ・・・凛ちゃんすごい・・・わ私はこ、小泉花陽です・・・」

おお、なんか友達できそう・・・凛ちゃんというのか。

良い子に巡り合えたようで兄としても嬉しい。

 

さてそろろろ俺も自分の高校へ向かわないとマズい時間だ。

そう思って校門を見ると、外に黒塗りのベンツSクラスが静かに止まるのが見えた。

助手席のドアが開き、そこから音ノ木坂学院の真新しい制服を着た娘が降り立った。

これまた目を見張るほど綺麗な娘である。

柔らかそうな髪は肩より少し下でウェーブがかかっていて、その娘はその部分を手でクルクル巻いてはほどくのがクセのようだ。

いかにもお嬢様らしい雰囲気は、運転席から紳士が降りてきて大切そうに話しているところからも伝わってくる。

紳士はお嬢様的な娘の肩に手を置いてからベンツに戻ろうとすると・・・その娘は背伸びし、紳士の頬にキスをした。

日本でもこういう慣習はあるのだな・・・と思ったが、ニューヨーク暮らしで慣れている俺は特に気にせず、紅音に別れを告げた。

紫音「じゃあな紅音、入学式しっかりやれよ!」

紅音「お兄ちゃん、待って!」

紅音はそう言うとたたたっと走りよってきて俺の首に巻きついて頬にキスをした・・・キスした!?

紫音「ちょ、ちょっと紅音!!ここ日本だから!ダメって言ったでしょ!!」

紅音「じゃあね!お兄ちゃんこそ新しい高校でしっかりね!」

凛ちゃんや花陽ちゃん、お嬢様的な娘も目を大きく開いて俺達を見ている・・・俺は恥ずかしくなってそそくさと音ノ木坂学院を飛び出した。

登校時間10分前か・・・俺はそのままダッシュに移行する。

これから1年の間に巻き起こる俺の人生を変える大きな出来事の、これが最初の1ページであることが、その時の俺にはまったく予想できていなかった。

 


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