弱者が転生したのは間違っているだろうか   作:あーーaaa

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視点や話がいきなり変わりますが出来るだけ気にしないでください


もう一人の転生者

私の名前は白崎 詩音(しろざき しおん)、そこら辺にいるようなただの学生。

 

一週間前、私の通っている高校で、ある女子高生が自殺した。四階建ての校舎から飛び降りたそうだ。これはニュースになり、毎日のように報道されている。しかし、死んだ女子高生の遺体を調べると不可解な点が多かった。

 

まずひとつ、殴られた痕や、切られた痕が身体中にあったことだ。この事から虐められて自殺したのでは?と言われていた。

 

次に、亡くなった子の親が悲しみもせず当たり前のように生活していると言うこと。これは虐待をされていたと言う証拠にはならないためすぐになかったことにされたそうだ。

 

最後に、これだけ生々しい傷痕があり、つい最近付いたものもあるのに周りの学生は皆そんなことはなかったと口を揃えていっていると言うこと。

 

学校でもいじめは無かったと、学生からも無かったと証言され、証拠もないため虐待と言う線も消え捜査は手詰まりになっていた。

 

率直に言うと先生も学生も皆、手を組んでいたのだ。いや、実際に手を組んでいた訳ではないが、利害が一致していたのだろう。学生はバレたら一大事になり、世間に曝される。教師は責任を執らされるとあの子の死から逃れたのだ。例え誰かがばらしても認知していなかったと言えばそれでおしまい。多少の責任はとらされるがそれだけだ。

 

私は、それが許せなかった。あの子は苦しみながら辛い思いをしてまで生きて、それを人の気まぐれで奪われたのに、その罪から逃れようとしている。

 

かといって私があれは自殺ではなく殺人だ(・・・・・・・・・・・・)と言っても証拠は無いためただの出任せだと蹴り飛ばされて終わりだ。例え渚ちゃんが突き落とされているところを見ていたとしてもだ。

 

だから、私が言えることができるのはただ1つ、

 

「今まで、ごめん、助けてあげられなくて。ごめん。」

 

私が助けると言うのはただの傲慢かもしれない。でもそれをわかっていながら見て見ぬふりをしたのは事実だ。大粒の雨に打たれながら私は屋上の縁に立ち、目を瞑ってあの子と出会った時のことを思い出した。

 

 

 

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体育館の裏で私が見たものはボールの様に蹴り飛ばされているあの子の姿だった。

 

一瞬、頭が真っ白になった。あの子は鳩尾を蹴られたのか、苦しそうにもがきながら小学校で出ていた給食を吐き出していた。その姿を見て、ゲラゲラと笑う上級生。私は怖くて見つからないように隠れながらそれを観察していた。

 

怖い、と言う感情は在ってもあのときの私は好奇心の方が上回ってしまい先生に通報することなく、その現場をずっと見ていた。

 

それから数十分蹴られ続けたあの子は横に倒れ、立ち上がれないようになっていた。その立ち上がれないあの子の長い髪を引っ張り、ズルズルと引き摺りながら冬場の間一切使われていない緑色に染まったプールに連れてこられていた。

 

上級生数人はあの子の服を強引に脱がしてその緑色に染まったプールに投げ飛ばした。

 

冬場でさらに薄く氷の張ったプールに投げ飛ばされたあの子は汚い水を飲んでしまったのか、ゲホゲホと咳き込んでプールの中に嘔吐していた。さらに冷たい水が蹴られ続けて裂けた皮膚から沁みているのか傷口を押さえ縮こまっていた。

 

それでもやはり菌の繁殖したプールに居続けるのは不味いと思ったのかすぐに出ようとする。しかし、上級生の男の子があの子、渚ちゃんの顔に足を押し付け、押し飛ばす。手すりから手が離れ、背中からプールに落ちた渚ちゃんはプールの中にあった緑のヌメヌメを身体中に付けていた。それをみてまた笑い出す人達。渚ちゃんの顔は遠くて見れなかったけど恐らく泣いていた。

 

すると一番に笑いの渦から抜け出した人が渚ちゃんにこっちに来るように命令していた。その命令に多少震えながら悴む体を動かす。渚ちゃんが寄ってくるとそのヌメッとした髪を掴み、しゃがむ要領で思いっきり渚ちゃんを沈める。また起きる大爆笑。幼かった私には彼達が狂っているかのように見えた。

 

ブクブクと緑色のプールからあふれでてくる気泡。一度出なくなると顔を水面から出して酸素を取り込ませる。渚ちゃんは上手く酸素を取り込めず、ゲホゲホと咳き込むがお構いなしにまた沈められる。それを何回も何回も繰り返していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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あの日が私と渚ちゃんが出会った日。出会い方は最悪だった。あのひから私は少しずつあの子に接するようになっていた。でも今思えば救おうとせずただ話しかけられるだけなんて邪魔だったのかもしれない。話かけるごとに少し困った顔をして私のいった通りにやる。あれは友情なんてものよりも忠誠心のような感じだった。あの子は自分以外はすべて上だと思っていた。だから私が話していても常に敬語だった。同い年にもかかわらず。

 

結局私は自分を押し付けていただけ。あの子にとってはいい迷惑だったのかもしれない。私はせめて、あの子が傷付かずにいられるようにしてくださいと今まで信仰してきていなかった神様へ祈りながらあの子の死んだ場所へと落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~薄暗い裏露地で~

「あの、大丈夫?」

 

倒れていた猫人(キャット・ピープル)に話しかける薄灰色の髪をお団子に纏めたヒューマンがいた

 

 




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