甘い珈琲を君と   作:小林ぽんず

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お久しぶりです。
皆さんこんな作品の事忘れてしまった頃だとは思いますが、こんなタイミングでさらに本編に関係ない話を投稿する事をお許し下さい。

これからの事についてあとがきにそれなりに長々と書きたいと思います。ヒントは僕が受験生だと言う事です。

ついでに羽休めかつ練習がてら三人称視点文を初めて書いてみました。もしよかったら改善点など教えてくれると嬉しいです。
それでは、今回もよろしくお願いします。


幕間 一色いろはと物足りない珈琲

 人もまばらな地方都市の住宅街の外れにある駅。

 金曜日という事もあり、あと一時間もすれば帰宅ラッシュと飲み会で賑わうのだろうが、今この瞬間は二人を除いて駅前に人はいなかった。それは偶々電車の発着時間でもないタイミングだったのか、それとも運命めいた何かがその状況を作ったのか。

 駅舎から洩れる灯りにーーーその儚げで頼りないスポットライトのような灯りに照らされた彼はともすれば消えてしまいそうな、そんな顔を浮かべていた。

 それを見て彼女、一色いろはは何を思ったのだろう。

 きっと、ただ心配だったのだ。笑っていてほしかったのだ。

 好きな人には笑っていてほしい。

 昼間の親友への相談によって多少なりとも気持ちが軽くなり、いつもより彼の様子をしっかりと見る事が出来た彼女は何かに思い悩むような顔を浮かべたと思ったらすぐに取り繕ったような笑顔を浮かべる彼を見てそう思ったのだ。

 だから、笑っていてほしい。彼の悩みを知る機会が欲しい。親友が今日自分にそうしてくれた様に。たったそれだけの理由で何気なくかけた一言。

 それが今の彼にとってはまさに急所を撃ち抜く様な一言だったのは、それこそ運命めいた因果なのかも知れない。ひとえに勝ち目の薄い片想いを抱き続け、その恋が実るのが絶望的になった後でも心の何処かで彼を数年間ひたすら想い続けていた彼女へのラブコメの神様からのプレゼントだったのかもしれない。

 とにかく、彼女が何気無く、それでいて彼を心から想って放った一言は彼が心の底で欲していた言葉だったのだ。

 

 そんな彼がとった行動は彼女にとって予想外としか言いようが無かった。

 彼女には自分の一言が彼にとってどれほど価値のある言葉で、また心の底で欲していた言葉だったのかを正確に理解出来ていないのだから。

 

 そんな彼女、一色いろはのそれからの様子を語ろう。

 あれから彼女は上の空といった様子で家に帰り、毎日していた一通りの勉強も手に付かず、お風呂に入っている間もあの場面がリフレインし続け、遂にはのぼせかけ、そして普段なら就寝する時間になっても眠れずにいた。

 ベッドに横になり、思い出しては悶え、枕に顔をうずめたりその足をバタつかせてみたり、身体の熱を冷ますかのようにガバッと起き上がってみたり、そして最後にはまた彼が恋しくなって思い出してはにやけて見たり。かれこれ三十分ほどおよそ健全な人間がその様子を見たら精神科に通う事をお勧めするような奇行を彼女は繰り返していた。

 別に本当におかしくなっただとか、そういう訳ではない。ただ彼の行動の意図を図りかね、それでも喜びと幸福感に包まれ、かと思いきや無性にその身を恥ずかしさが襲う。というスパイラルを繰り返していただけである。

 

 ………寝れない。

 そうぽしょっと呟いた彼女はいそいそとベッドから降り、キッチンに立っていた。

 先程からの奇行で体力を消耗し、うっすらと汗をかき、そして喉が渇いていたのだ。完全にアホの子である。

 

「…ほんとに、あの人はせんぱいの五倍はあざといんだから気を付けてほしいよ…まったく。おかげで寝れないじゃん」

 

 そんな聞く人が聞けばお前が人をあざといと形容するな。と突っ込まれそうな独り言をブツブツと言いながらも手元は器用に作業をこなしていく。といっても彼女が用意しているのはただの珈琲なのだが。

 彼の事を考えていると何処からか珈琲の香りがするのだ。そして無性に珈琲が飲みたくなる。元々珈琲がそんなに好きでは無い彼女ももうすっかり珈琲に染められていた。珈琲というより比企谷八幡に染められていた。

 そんな彼女は口元に微笑みを浮かべながら習った通りの手順で珈琲を淹れていく。以前彼に教わった『家でも出来る美味しい珈琲の淹れ方』を実践しているのである。因みに使っている珈琲豆はその時に彼にオススメされた物である。この女、もしも比企谷八幡から壺を勧められたら買ってしまうのでは無いか、と思うほどには彼にべた惚れであった。

 家でも出来る、と言っても特殊な器具も道具も何も無い彼女の家で出来ることなど限られており、美味しい珈琲の淹れ方と言っても精々彼の店で飲む珈琲に近付ける方法を聞いただけである。出来る事なんて本当に少ない。抽出する豆の量に気を使ったり、お湯の温度を気にかけたり、しっかり蒸らすという工程を踏んだり、精々その程度である。けれどもその程度でも、彼女にとっては大切な手間であった。彼の事を想い、彼との時間を思い出しながら丁寧に珈琲を淹れる。彼の店で飲む珈琲と少しでも近い味になれば、きっと一人で飲む珈琲も幸せだから。だから彼女はゆっくりと愛しむ様に珈琲を淹れた。「好きです。今も昔も」そんな本人の前では言えない事を心の中で呟きながら。美味しくなれ。と願いながら。

 

 たった一杯の珈琲を淹れただけで、部屋中に珈琲の香ばしい独特の香りが漂っていた。その香りは彼を思い出させる。その香りは丁度彼の腕の中に包まれて、その胸板に体を預けた時に鼻腔をくすぐった、彼のエプロンに染み付いた珈琲の香りであったから。

 それだけで幸せだった。幸せだったのだがやはりあの瞬間を思い出して一気に顔が熱くなる。それを冷まそうと彼女は淹れたての珈琲をぐいと勢い良く口に運んだ。淹れたての珈琲を、だ。

 

「……あっつ!」

 

 およそ女性の出す声では無かった。

 

「……にが」

 

 そして流れるような二連コンボだった。

 熱い珈琲によって攻撃を受けた唇を軽く手で押さえ、半分涙目になりながら牛乳と砂糖を用意する。その姿はやはり完全にアホの子であった。どうやら彼女は一人の時はどうしようもないらしい。よく一人暮らしを一年間もやってこれたものである。

 

 ミルクと砂糖を適当に珈琲の色が何時もくらいになる様に入れ、ふーふーと冷ましながら飲む。やっと落ち着くことができた。香りを楽しみ、昼間に飲んだ珈琲とは違うけれど、似た様な風味の珈琲を口に運ぶ。

 さて、しかし、である。彼女は言って仕舞えば彼に会えるのが喫茶店だから珈琲を飲んでいるだけであり、珈琲の違いなんて分からない。それまではたいして珈琲を飲んだ事も無かったのだから、当然と言えば当然だ。

 ましてミルクと砂糖を入れた状態でどちらの珈琲が美味しいかなんて分かるはずもない。実際は当然彼の店で飲む珈琲の方が良い物なのだが、そんな事は分かるわけなかった。それでもなんとなく珈琲が飲みたくなり、そして飲んでみたら彼と一緒に飲む珈琲の方が美味しいと感じてしまうのは彼女が恋する乙女だからであろう。

 ほぅ。と落ち着きながらも鼻腔をくすぐる珈琲の香りが不意に彼を思い出させ、少しだけ淋しくなった。彼を感じる為に淹れた珈琲が皮肉にもより淋しさを感じる切欠になってしまった訳だ。

 それでも今はその淋しさも心地が良かった。少しだけ軽くなった心で、今日初めて気付いてあげられた彼の悩みを抱えている姿。昨日までは気付いていなかったと言う事は、彼女もそれなりにいっぱいいっぱいだったと言う事の証拠であるのだが、そんな事実に彼女は気付いていない。ただ彼女の胸の中にあるのは彼への恋心と彼を心配する心、そして早く逢いたい。という思いだけであった。

 少しだけ物足りない珈琲を飲みながら、彼への想いを巡らす時間は中々悪い物ではない。これから彼女が自分で珈琲を淹れる度に彼の味に近付いて、同じ味が出せる様になる頃にはきっと彼との関係も進展しているだろう。そう思えば、今はこの物足りない珈琲で丁度いいのかもしれない。その分だけ自分達の関係も進展する余地があるのだから。

 

 まぁでも、初めて淹れた珈琲にしては上出来かな。

 今度、また色々聞いてみようかな。

 

 なんて、ちょっぴり自分に優しくそんな事を思いながら少しだけ物足りない珈琲をゆっくりと飲んでいく。

 その時の彼女の表情と言ったら、彼女の尊厳を守る為にも人には見せてはいけないと、おそらく彼女の親友がその姿を見ていたらそう思うであろうほどには力が抜けた表情であった。

 

 

 後日談と言うか、今回の落ち。

 

「…………でも、なんかちがう」

 

 淹れた珈琲を飲み終えた後、そう呟いた彼女はどうせ眠れないのだから、と何を思ったか無謀にも二杯目に挑戦。

 元々眠れなかった状態でのカフェイン摂取により、さらに眠れなくなった彼女は翌朝寝坊、そして親友との待ち合わせ時間に遅刻をしたのだった。それも盛大に一時間。その間親友からの着信で鳴り続けた彼女の携帯電話を彼女が携帯することはなく、朝目覚めた後焦って準備をしたばっかりに家に放置されたままとなるのであった。

 そしてそんな彼女が親友の怒りを鎮めるために親友にお昼ご飯を奢る羽目になったのは、言うまでもない。

 




読み辛かったですかね。だとしたらすみません。頑張って読んで下さい。

というわけで第四話のその後、金曜日の夜の話でした。
三人称視点でもいろはの可愛さが伝わっていたら嬉しいです。

そして本題。
一週間前にセンター試験が終わりまして、現在は国公立二次試験に向けて勉強をしているわけですが、流石に投稿をしていくことが難しくなりそうです。なのでしばらくはお休みさせてもらいたいと思っております。といっても三月の半ばにはどう転んでも結果は出るので、それ以降は投稿していけると思っております。
一応活動報告の欄でお知らせしようとも思ったのですが、どんな形であれ作品の投稿という形で皆さんにお知らせした方がこの作品を読んでくださっている方には伝わりやすいと思ったので今回の様な形にさせてもらいました。
なのでこの幕間は本当におまけみたいなものです。あまり気にしなくても本編にはそこまで関係がないので大丈夫です。

そして、その間連絡お知らせ近況報告等々できないのは心苦しいと思ったので、Twitterを用意してみました。あと単純に勉強が辛いので誰かラノベとかアニメのこと、当然俺ガイルの事お話しましょう。というアカウントです。
因みに僕は今は弱キャラ友崎くんにハマっています。三巻で本当に化けました。読んでみてください。そして僕をフォローして感想を言おう!

@ponzuHgir

というやつです。誰か現時点でフォロワー0のネット上でもぼっちな憐れな僕をフォローしてやってください。
では、長々と失礼しました。
またこの場に作品を投稿する事を楽しみに、構想をしっかりと練りながらそれなりに勉強して大学生になりたいと思います。
それでは、今回もありがとうございました。

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