甘い珈琲を君と   作:小林ぽんず

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①、②と章をつけました。
少しは読みやすくなるかと思います。
第三話、小休止の続きです。
ここからお話は動き出します。

では、今回もよろしくお願いします。


② きっと、誰しも等し並みに悩みを抱えている。
第三話 独白と久しぶり


 ねぇねぇせんぱい。

 

 お話ししたいことがいっぱいあるんです。

 

 せんぱいと一緒に行った場所を巡ったんです。

 

 一緒に卓球しましたよね。とっても楽しかったです。

 

 ラーメンも食べました。悔しいけれど、おいしかったです。

 

 お洒落なカフェにも行きましたね。写真は今でも宝物です。

 

 これが最初のデートでしたっけ?

 

 たしか、葉山先輩を理由に使って無理やり取り付けたんですよね。

 

 懐かしいです。

 

 それからも、何回もデートしてるんですよ?

 

 って、せんぱいは憶えてませんよね。

 

 でも、私にとっては全部がせんぱいとの大切な二人での思い出なんです。

 

 忘れたくない宝物なんです。

 

 そしてきっと、私の本物の一部なんです。

 

 本当は、せんぱいにとってもそうであってほしいんですよ?

 

 いつか、二人でその時のことを笑いあって話したいです。

 

 あんな事があったねって。

 

 そうやって笑いあって、一緒に幸せな時間を過ごしたいです。

 

 なんて、願ってもいいですか?

 

 いつか、二人でもっといろんな事をしたいんです。

 

 なんて、願う事は許されませんか?

 

 昔のせんぱいも今のせんぱいも好きです。

 

 だって、せんぱいはせんぱいだから。

 

 記憶がなくなってしまっても、私が好きになったせんぱいの根っこのところは何も変わっていないから。

 

 でもね、せんぱい。

 

 ちょっとだけ、ちょっとだけですよ?

 

 恋しくなっちゃったんです。

 

 会いたくなっちゃったんです。

 

 あのどうしようもなく捻くれてて、気持ち悪くて、嫌われ者の、そんなせんぱいに。

 

 また会いたくなっちゃったんです。

 

 あざといって、また言われたくなっちゃったんです。

 

 せんぱいはどう思ってますか?

 

 記憶、取り戻したいですか?

 

 私のことはどう思ってますか?

 

 私の知らないせんぱいの二年間は、どんなことがあったんですか?

 

 ねぇねぇせんぱい。

 

 ほら、聞きたいことがこんなにたくさんあるんです。

 

 それで、言いたいことはもっとたくさんあるんです。

 

 もっとたくさん、先輩と話したいんです。

 

 だからねせんぱい。

 

 はやく会いたいです。

 

 二日会えないだけでこんなに胸が締め付けられるんです。

 

 せんぱいの事を考えて、胸がいっぱいになるんです。

 

 一人でいる時は相手の事を想って幸せになれて、そして二人でいる時はもっと幸せ。

 

 なんて、そんなのが片想いなんですって。

 

 だけどねせんぱい。

 

 二人でいる時は幸せです。とっても幸せですよ?

 

 でも、一人でいる時は苦しいです。寂しいです。

 

 私は一人が怖いです。

 

 もう、一人ぼっちは嫌なんです。

 

 だって、二年も一人ぼっちだったんですよ?

 

 せんぱいが私をほったらかすから。

 

 急にいなくなっちゃうんですもん。

 

 でも、やっと見つけてくれた。

 

 だから、今回だけは許してあげます。

 

 今、私の世界に色はないけれど、せんぱいと居るときだけは暖かいせんぱいの色が私の世界にも届いて、私の世界はせんぱい色に染まるんです。

 

 たった数秒。小指と小指が絡まる夕暮れの瞬間、私の世界はせんぱい色で溢れるんです。

 

 明日からも、また染めてくださいね。

 

 なんて、こんな事考えてたらまた会いたい気持ちが溢れ出して止まらなくなっちゃいますね。

 

 じゃあせんぱい。

 

 明日、会いに行きますね。

 

 

  ☆ ☆ ☆

 

 

 時計の針は進んで欲しい時に限って進んでくれない。

 

 せんぱい。せんぱい。せんぱい。

 

 月曜日最後の講義が終わったのは三回目のせんぱいエンドを妄想し終わった後だった。

 

 ……二回目がベストエンドだったなぁ…

 

 妄想でにやけそうになった顔を引き締めつつ私は急いでノートを片付けて、早歩きでせんぱいの元に向かった。

 

 荒れた息を落ち着けて、乱れた髪を手櫛で整えて、ふぅっとはやる気持ちを抑えて店のドアに手をかける。

 

 カランカランというベルの小気味いい音と二日ぶりの珈琲の芳ばしい心落ち着く香りに心が弾む。

 

 カウンターに目を向けると、せんぱいはいた。

 

 やっとだよ!

 

 やっと会えた!

 

 つい抱き着きたくなる衝動を抑える。

 

 せんぱいの顔を見た瞬間に高鳴りだす胸が、大きくなる心臓の音が、私の居場所はここだと告げる。

 

「お久しぶりです。一色さん」

 

 そう言って笑うせんぱいの声は耳を優しく撫で、私の心をじんわりと溶かした。

 

「お久しぶりですって、二日しか経ってませんよ?」

 

「その二日が長かったんですよ」

 

「……そうですか」

 

 顔が紅くなるのが分かった。

 

「一色さんはどうでしたか?二日間。短かったですか?」

 

「なんでそんなこと……まぁ…長くないこともなかったですけど……」

 

「ふふ、そうですか。それはよかったです」

 

 また悪戯に成功した子供のような笑顔を見せるせんぱい。

 

 この人はなんでこんなに…変わりすぎじゃない?変な人にでも会ったんじゃないの?

 

 ……はるさん先輩とか?

 

 ……だったらせんぱいがこんなSっ気があるのも頷けるかも…

 

 ……いやないな。ないと信じたい。

 

 あんな人に今のせんぱいが会ったら危ないよ。

 

 カウンターの席。せんぱいがいる場所の正面の席に座る。

 

 注文しなくても出されるブラックコーヒー。

 

 ミルクとお砂糖を入れて飲んでいると、目の前にクッキーのお皿が出された。

 

 今日は別に待ってないのにな?

 

 今日もちゃんとお皿に載っているメモ用紙を見る。

 

『さっき、照れてましたね』

 

 ……ほんとにこの人は………

 

 カウンター越し、少し奥には洗い物をしながら私の反応を見て笑いを堪えているせんぱいの姿。

 

 なんだかすっごく悔しいんですけど…

 

 まぁ、楽しそうだし、楽しいし、許してあげますか。

 

 ……ちょっとだけやり返してやるけど。

 

「ほら、比企谷さん。お客さんもいないんでしょう?隣どうぞ。クッキー食べましょうよ!」

 

 そうやってせんぱいを隣に座らせる。

 

 今日は、いつもより少し、一緒の時間が長くなりますね。

 

 隣に座ったせんぱいの耳元でそう囁いてやった。

 

 ビクッとして顔を真っ赤にするせんぱいに

 

「ふふ、お返しですっ!」

 

 そう返してウインクをしておいた。

 

 そんな事したのは何年ぶりだろう。

 

 ただ、やっぱりせんぱいにはこうやってするのがしっくりきた。

 

 

 ーーーあぁ、染まる。

 

 せんぱいの声が横からする。

 

 せんぱいの笑顔を近くで見れる。

 

 だから私も繕わないありのままの私でいられて、自然な笑顔を浮かべられる。

 

 そして、私の世界はせんぱいの色に染められる。

 

 そんな時間を少しでも長く味わっていたいと、そう強く思った。

 

 

 ねぇせんぱい?

 

 私は幸せです。

 

 せんぱいといる時間が。

 

 せんぱいといる時間だけが。

 

 私は苦しいです。

 

 せんぱいと会えない時間が。

 

 せんぱいの事を想っている時間が。

 

 私は辛かったです。

 

 せんぱいに会えないと思っていたあの時間が。

 

 でも、もう大丈夫ですよね?

 

 せんぱいと会えました。

 

 今、せんぱいは私の前にいて、せんぱいの前には私がいます。

 

 二人だけの店内で、珈琲の香りに包まれて、一緒に少し苦い珈琲を飲んで、甘いクッキーを食べて。

 

 そんな時間は、終わりませんよね?

 

 でも、せんぱいには一度前科がありますもん。

 

 だから約束です。約束してくださいね。

 

 これからも、一緒にいてください。

 




というわけで②きっと、誰しも等し並みに悩みを抱えている。スタートです。

このタイトルは原作アニメ一期第二話からの流用です。
原作リスペクトです。パクリではありません。パクリではありません。

というわけで今回のお話から物語の本当のスタートですね。

彼女の独白と過去。そして三つの時間。
彼の時間が終って、そして彼女の時間は止まりました。
そして彼女はそんな彼と再会します。

さて、ではその空白の二年間は?

そんな所が主題になると思います。
今回のお話にヒントを入れておきました。
色々考えてみてくれると嬉しいです。

第三話-another-は1/1か1/2かに投稿します。多分後者です。
八幡視点。彼の土日と二日ぶりの彼女との時間。
そんな事を書いていきます。
そんなところからもこのお話が見えてくると思います。

ちょっと痛々しく長々と書いてしまいました!
では、今回もお読みいただきありがとうございました!
今年もどうぞ宜しくお願いします!
皆様どうぞよい一年をお過ごしください。

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