【A/Z】蛍へ~銃と花束を~   作:Yーミタカ

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幕間 クルーテオ卿揚陸城にて

 スレインと伊奈帆が共闘してヘラスを撃破するより数日前、トリルラン卿操るニロケラスが蛍とライエによって破壊された時のことだ。

 

スレインは被弾した輸送機の応急修理を終えて空に飛び立つと、ちょうどトリルラン卿が『処刑』されるところを遠くから見ていた。

 

彼は軌道騎士達を『真にアセイラム皇女の遺志を踏みにじる者』として嫌っていたが、だからと言ってなぶり殺しにされるのをよしとは思っていない。

 

すぐに地球側の増援が到着し、トリルラン卿の遺体を遠くから見ているだけしかできなかった彼は、地球連合軍の装甲車から降りてきた者のうち、二人の少女を見て目を丸くした。

 

「(あの子はたしか姫さまの侍従の子・・・その隣の・・・似ている・・・姫さまに・・・)」

 

 

 

 エデルリッゾとセラムを見つけたスレインはいてもたってもいられず、即座にアセイラム皇女が宿泊していた、航宙船発着場付近に建っているヴァース帝国所有の邸宅に輸送機を無理矢理着陸させ、中に駆け込んだ。

 

殺害されたはずのアセイラム皇女が生きていて、なぜか名乗り出ずに、変装して潜伏しているのかを調べるためだ。

 

スレインは知識としてアセイラム皇女が使っていた『変装用ホログラム装置』を知っている。

 

もし、何も見つからなければ自分の気のせいだと考え、新芦原事件直後の、この邸宅内の様子を映した映像を確認した。

 

 

 

 働いていた者は皆、我先にと逃げ出しており、誰もアセイラム皇女を確認したりしていない。

 

そんな者達が一通り逃げ出したあと、邸宅にアセイラム皇女らしき人物が入ってきた。

 

肩から失った左腕を止血帯で縛り、ももから失った左足の代わりに金属製の棒を義足のようにくくりつけて、杖をつきながら歩いてきたのだ。そのアセイラム皇女は自室の扉に寄りかかり、中に呼びかける。

 

「姫さま・・・お逃げください・・・」

 

その声の後、扉が開き、エデルリッゾと私服姿のアセイラム皇女が部屋から出てきた。

 

部屋から出てきたアセイラム皇女は、開いた扉の縁に手をついてやっと立っているボロボロのアセイラム皇女を横たえさせ、血まみれの右手を握る。

 

「しっかりしてください、すぐにお医者様をお呼びになりますわ!エデルリッゾ!!」

 

アセイラム皇女は、血まみれの皇女が助かるはずもないことはわかっていてもそう呼びかける。

 

「それは・・・なりません・・・叛徒共は、暗殺に成功したと・・・思い込んでおりますゆえ・・・」

 

血まみれのアセイラム皇女は光に包まれ、茶髪の少女に姿を変えた。

 

スレインも何度か顔を合わせた、アセイラム皇女の身辺警護をしていた女性騎士だ。

 

姿はアセイラム皇女が変装していた『セラム』にそっくりである。

 

「暗殺?それに叛徒?どういうことですか!?」

 

「これを・・・」

 

影武者であった騎士は変装用ホログラム装置とSDカードのような記録媒体をアセイラム皇女に渡すと、最後の力を使い果たして事切れた。

 

「姫さま、大変です!!この邸宅、誰もおりません!!」

 

この時になってアセイラム皇女は自分が置かれた状況をおぼろ気ながら理解した。

 

何があったかまではわからないが、自分達は見捨てられたのだと。

 

「・・・エデルリッゾ、お医者様はもうよろしいですわ。この方は今、息を引き取りました。」

 

アセイラム皇女は影武者の右手を体の上に、もう片腕があれば組ませるような形にして乗せ、祈りを捧げる。

 

「まず、毛布か、無いようでしたらシーツを、それと外の様子がわかるものと、これを再生できるものをお願いします。」

 

アセイラム皇女はSDカードをエデルリッゾに渡し、エデルリッゾが言われたものを探しに行っている間に影武者の表情を整える。

 

しばらくするとエデルリッゾが毛布とすぐ近くにある応接間のテレビのリモコン、そして再生機能付レコーダーを持ってきた。

 

アセイラム皇女はまず影武者に毛布をかけ、遺体をさらさないようにする。

 

アセイラム皇女はテレビの使い方がわからず、エデルリッゾが代わりにニュースをかける。

 

『緊急速報 新芦原にて大規模テロ』

 

ニュースのテロップにはそう書かれており、今は現場からレポーターが中継している。

 

『この先が事件現場ですが、ただいま規制線が張られており、中の様子はうかがい知れません!』

 

パレードがあった道路は破壊された車の残骸、半壊ないし全壊した建物、搬送される重傷者、怪我の手当てを受ける者、収容された犠牲者の入った死体袋を運ぶ軍人で埋め尽くされていた。

 

『現場からあり・・・あ!ただいまスタジオに新たな情報が届きました!繋ぎます!!』

 

スタジオに一度カメラが戻り、『犯行声明』が画面に映し出される。

 

黒覆面で顔を隠し、アサルトライフルを携えた男が、

 

『我々は『憂星防衛軍』である。手下を引き連れた火星の皇女を名乗る頭の足りぬ女は我々が始末した。火星にて皇帝を名乗る狂人に告げる。可及的速やかに地球の財産たる星を明け渡さぬのならば、貴様も同じところへ逝くことになるだろう。』

 

と、犯行声明を宣した。

 

それを聞いたエデルリッゾは床に手をつき、涙を流す。

 

「そんな・・・姫さまが本国からはるばる地球までいらしたというのに地球人のこの仕打ち・・・やはり奴らは信用ならない野蛮人です!!」

 

それとは対照的に、アセイラム皇女は冷静に今までの話を整理する。

 

「・・・このお話、おかしくありませんか?」

 

テレビは今、事件最中の映像・・・影武者が乗るリムジンとその護衛の車列にミサイルが降り注ぐ瞬間を映している。

 

「先ほどの『憂星防衛軍』なる組織は非合法組織でしょう?そのような者達がどうやってこれだけの装備を?それに、彼女はなぜ『叛徒』と?これは『暴徒』ではありませんか?」

 

「それは・・・」

 

エデルリッゾは涙を袖で拭いて答えようとするが、明確な答えが出せない。

 

「先ほど、彼女が持ち帰ったもの、再生できますか?」

 

「え?はい、すぐに!」

 

エデルリッゾはアセイラム皇女から預かったSDカードをレコーダーに挿し込み、再生ボタンを押す。

 

どうやらパレードの最中にリムジンの中で録音されたもののようで、窓越しでも歓迎の声が聞こえてくる。

 

そんな中、車内のホットラインがコールされた。

 

『軌道騎士団直通回線デス』

 

『繋いでください。』

 

影武者がそう言うと、軌道騎士との通信が繋がる。

 

『ご機嫌麗しゅう、アセイラム皇女殿下。』

 

『どうしました?今は多忙ですので、手短に。』

 

影武者はなるべくアセイラム皇女に似せて受け答える。

 

すると、通信してきた男は嬉しそうに話し始めた。

 

『いえいえ、大変悦ばしいこの日のご挨拶をと思いまして、このトリルラン、通信にて失礼させていただきました。』

 

これ以上なく『無礼』な行動であるが、影武者は若い騎士が喜びのあまり勇み足を踏んだものと考えたのであろう、たしなめるにとどめる。

 

『トリルラン卿、お気持ちは大変嬉うございますが、これは緊急用回線ですので、このような使用は慎んでいただきたく・・・』

 

影武者がそう言うが、トリルラン卿は自分の言葉に酔って話すのをやめない。

 

『いえいえ、この喜びはすぐさまお伝えしたかったのですよ。ザーツバルム朝ヴァース千年帝国始まりの日を、そのいしずえとなるアセイラム皇女殿下へ!!』

 

『待て!!それはどういう・・・』

 

すでに通信は切れており、ミサイルの爆音がその答えとなった。幾多の轟音の後、かすれた小さな声で、

 

『このことを・・・姫様にお伝えしなくては・・・』

 

と、影武者が呟いたのを最後に再生が終了する。

 

「そんな・・・こんなもの、地球の工作です!!」

 

エデルリッゾは事態に頭がついていかずにそう言ったが、アセイラム皇女は考えられる限り全てを考える。

 

この考えにて決定したことは、外の様子を知らなかったとはいえ、今も逃げ出さず側に仕えるエデルリッゾの生死、そしてアセイラム皇女を助けるために瀕死の重傷をおしてこの情報を伝えた影武者の遺志を達せられるかがかかっている。

 

「(憂星防衛軍なるものの犯行声明は信用できるのでしょうか・・・)」

 

これは先ほど不審な点が上がっていたため、『憂星防衛軍が出した犯行声明の真偽』はさておき、実行犯の可能性は限りなく低い。

 

「(トリルランなる軌道騎士の犯行声明は信用できるのでしょうか・・・?)」

 

アセイラム皇女はトリルラン卿を一切知らないため、通信に出た男の声がトリルラン卿か断定できない。

 

だが、ザーツバルムという名前には覚えがあった。15年前の星間戦争でヴァース帝国の総司令官であった彼女の父にして前皇帝ギルゼリアの参謀総長を務めたのが先代ザーツバルム卿で、その子息が現在、軌道騎士37家門の頂点に君臨しているとアセイラム皇女は聞いている。

 

そして、その二代目ザーツバルム卿はアセイラム皇女の母の兄・・・彼女から見れば伯父にあたる。

 

『自称トリルラン卿』が、『伯父を首謀者』として今回の事件を起こしたと声明を出していることとなり、それをアセイラム皇女はにわかに信用できなかった。

 

いや、身内がそんなことをしたと信じたくなかったのである。

 

しかし、軌道騎士団とのホットラインを使うことができるのは軌道騎士団だけで、『トリルラン卿が本物か否か』、『ザーツバルム卿が首謀者であるということの真偽』はさておき、軌道騎士団に今回の事件を起こした首謀者、ないし実行犯がいるのは間違いない。

 

この録音をアセイラム皇女が聞いたのは偶然なのだから偽装工作の可能性は排除できる。

 

「(この二点から考えて、無事を伝えるべきは・・・地球側!!)」

 

アセイラム皇女はそう決意し、影武者が持っていたホログラム装置を持って自室に入った。

 

エデルリッゾはそれを追いかけ、二人が出てくるとアセイラム皇女は白いドレスに着替えていた。

 

自分の正体を明かしたときに信用してもらうためにドレスに着替えたのである。

 

そして最後に、ホログラム装置のスイッチを入れ、影武者に似せた姿になったのである。

 

「エデルリッゾ、行きますわ。」

 

「ええ、姫さまにでしたら、どこまででもお供いたします!」

 

エデルリッゾはどうやら着替えている間に説得したらしく、二人はそのまま邸宅を出ていった。

 

 

 

 その一部始終を見たスレインは、先ほど遠くから見た少女がアセイラム皇女だと確信し、同時に当惑する。

 

「姫さまをトリルラン卿が暗殺・・・いえ、ですが、彼はクルーテオ卿の配下、あのザーツバルム卿とは何の関係もないはず・・・」

 

当然だが、スレインに見えていたのはアセイラム皇女、エデルリッゾ、影武者三人の様子と、テレビの映像、そして録音データだけで、アセイラム皇女の考えなどはわからない。

 

考えても仕方ないとスレインは輸送機に乗り、新芦原を飛び立ってアセイラム皇女達を探そうとしたが、その直後に隕石爆撃が新芦原を焼き払い、アセイラム皇女の行方を完全に見失ったスレインはやむを得ず自分が仕えるクルーテオ卿の揚陸城へ帰還したのだ。

 

その後、アセイラム皇女を探すため、出撃をクルーテオ卿に嘆願したが聞き入れられず、最後には輸送機を奪って脱走し、最後に新芦原を脱出した軍艦がウラジオストク陥落の事実を知って向かうであろう場所を戦略価値の低い種子島と当たりをつけて向かったところ、ちょうどフェミーアン伯とわだつみの戦闘中に鉢合わせたのである。

 

 

 

「・・・ここは・・・?」

 

「やっと目を覚ましたか、地球のイヌめ!」

 

スレインは長い夢を見ていた。

 

アセイラム皇女生存を知ってから種子島で撃墜されるまでの長い夢を。

 

意識がはっきりしてくると、自分が置かれている状況を徐々に思い出す。

 

彼はスレイプニールに撃墜された後、捜索に来たクルーテオ卿の部隊に回収され、輸送機とヘラスの残骸から回収されたデータによってスレインが地球連合軍と共闘していたことが明らかになり、スパイ疑惑をかけられたのである。

 

それ以後、ムチ打ちに電気ショックの拷問を受け、何度も気絶しては水をかけられて起こされ、再び拷問を受けるのを繰り返していたのだ。

 

「さあ吐け、貴様は何を隠している!!」

 

また電気ショックが始まり、スレインは喉を壊さんばかりに悲鳴をあげた。

 

そんな時に、拷問部屋にクルーテオ卿がさる人物とだけ繋げている直通回線が開いた。

 

ザーツバルム卿である。

 

「クルーテオ卿よ、貴殿の部下から聞いたが、いつぞやの地球人が、敵と通じておったとか?」

 

「ザーツバルム卿!お恥ずかしい限りだ、飼い犬の躾もできぬ始末で・・・」

 

「・・・あまりやり過ぎるなよ、何も得られぬまま死なせては目も当てられぬ。何なら、我が揚陸城にて引き取っても構わぬが?」

 

「心配には及ばぬ、殺す前に全てを吐かせてみせよう。」

 

ザーツバルム卿はそれを聞くと通信を切った。

 

クルーテオ卿は拳銃を抜き、電気ショックのせいで肩で息をするスレインに銃口をくわえさせる。

 

「さあ、死ぬ前に言い残すことはあるか?吐くならば楽に殺してやろう。しかし、吐かぬなら・・・」

 

「モガ!?モガ・・・モガ・・・」

 

「どうした?やはり言い残したいことがあるのか?」

 

クルーテオ卿はそう言って銃口を外させると、スレインは朦朧とした意識で呟く。

 

「クルーテオ卿・・・あなたはアセイラム皇女殿下に忠誠を誓っておりますか・・・?」

 

「何を言いだすかと思えば・・・当然であろう。であるからこそ、こうして殿下のため、地球に降下したのではないか!」

 

それを聞いたスレインは鼻で笑う。

 

「嘘だ・・・姫さまは・・・平和を望んでいらっしゃった・・・あなたは姫さまの死を・・・利用している・・・」

 

「・・・口を慎め、下郎!!よし、よくわかった、貴様はすぐには殺さぬ!!最低でも一年はこの部屋で飼ってやろう!!」

 

「かまいません・・・どの道、あなたにもすぐ天罰が降ることでしょう・・・トリルラン卿のように・・・」

 

それを聞いたクルーテオ卿はスレインを打とうとしたムチを止める。

 

以前、スレインからトリルラン卿は不届きな味方による隕石爆撃に巻き込まれたと報告を受けていたからだ。

 

「天罰?どういうことだ?トリルラン卿は隕石爆撃に巻き込まれたと言っていたではないか!?」

 

「次元バリアを装備したニロケラスが・・・ですか?残念ながら彼は・・・地球人のゲリラに機体を破壊され・・・処刑されたのです・・・同情はしますが・・・姫さまを謀り、殺そうとした報いです・・・」

 

これを聞いたクルーテオ卿はスレインが隠していたこと、そして自分に対するスレインの勘違い、トリルラン卿の正体に気付いた。

 

「ヤツ・・・いや、この騎士を下ろせ!そして医療班の準備を!!」

 

拷問部屋の操作をしていた兵士にクルーテオ卿がそう命じ、吊るされていたスレインはゆっくりと床に下ろされ、クルーテオ卿がそれを抱き止める。

 

「ご安心を・・・たとえ叛徒だとしても・・・お優しい姫さまは・・・丁重に弔ってくれることでしょう・・・」

 

完全に意識が混濁しているスレインはうわ言のようにそう呟き、クルーテオ卿はスレインを優しく床に横たえた。

 

「今までの非礼を謝罪しよう。お主こそが真の騎士だ。姫さまがご存命なのを知り、我々にそれを隠しているゆえを知ったお主は、ただ一人で姫さまをお救いしようとしていたのであろう。」

 

スレインは気を失っており答えないが、クルーテオ卿は構わず続ける。

 

「なぜご存命であることを我々に伝えぬのかは想像に難くない。かの新芦原事件は地球の暴徒によるものではない、我ら軌道騎士の中に叛徒がいるからだ。その一人がトリルランであった・・・」

 

言うべきことを言ったクルーテオ卿は立ち上がり、揚陸城指揮所との通信を開いた。

 

「全ての戦闘行為を中止!地球連合軍に停戦を申し入れよ!皇女殿下暗殺を企て、我らを謀った反逆者を、この手で血祭りにあげてくれるわ!」

 

この宣言によって揚陸城全体に衝撃が走った。混乱はするものの、言われたとおりクルーテオ伯軍に戦闘停止を通達し、連合軍と回線を開こうとする。

 

「スレイン、トリルランの正体を見抜けなかった非はこちらにある。しかし、これだけは信じてほしい。このクルーテオ、ヴァース皇帝、アルドノアの輝き全てに誓って、皇帝陛下、皇女殿下に忠誠を誓っている。」

 

通信を終えたクルーテオが気絶したスレインにそう言い残し、医療班と交代して指揮所に移ろうとしたその時、揚陸城に大きな衝撃が走った。感情的な衝撃ではない、物理的なものである。

 

「敵襲!?もう一度だ、我々に敵意がないことを・・・」

 

『クルーテオ卿!地球連合軍ではありません!!攻撃を仕掛けてきたのは友軍・・・ディオスクリア、ザーツバ・・・』

 

そこまでで指揮所からの通信は途絶えた。その次の瞬間、クルーテオ卿がいた階層の天井が吹き飛ばされ、彼は襲撃者を肉眼で確認する。

 

黒を基調とした火星では旧型の部類に入るカタフラクト。

 

背部の大きな大気圏内飛行用スラスターが特徴的な、15年前の前星間戦争にも投入された古兵。

 

その名は・・・

 

「ディオスクリア・・・ザーツバルム卿なのか!?まさか、この事件の黒幕は・・・誰か!我がタルシスをここに・・・」

 

全てを言い終わる前にディオスクリアが手に持つアルギュレのようなプラズマブレードでクルーテオ卿は蒸発させられ、司令官を失い、主動力炉であるアルドノア・ドライブが停止した揚陸城をディオスクリアは一方的に蹂躙した。

 

そして最後に、倒れているスレインをコクピットに回収して飛行機のような形に変形して空へ飛び去っていく。

 

 

 

 ディオスクリアに連れ去られたスレインが次に目を覚ましたのは綺麗な寝室であった。

 

調度品の趣向などはスレインにはわからないが、受けた印象は、クルーテオ卿やアセイラム皇女よりもはるかにセンスの良い人間が用意したのだろうといったものである。

 

「目覚めたか、スレイン・トロイヤード。」

 

スレインは自分の名を呼んだ男の方を振り向く。

 

男は本を読みながら横目でスレインを見ていた。

 

「あなたは・・・ザーツバルム侯爵閣下?」

 

「そう固くなるな、卿で構わぬ。」

 

「では、ザーツバルム卿・・・あなたが助けてくださったのですか?」

 

ザーツバルムは本を閉じ、スレインに向き直る。

 

「いかにも・・・」

 

「では、トリルラン卿が言っていた『ザーツバルム朝ヴァース千年帝国』などというのは虚言だったのですね!!」

 

スレインとしては、トリルラン卿はクルーテオ卿の部下、つまりクルーテオ卿も叛徒の一味で、それを制裁したであろうザーツバルム卿は叛徒ではないと考えたのだ。

 

スレインはやっと味方に会えたとばかりにそう言ったが、ザーツバルム卿は首を横に振った。

 

「我が朋友クルーテオは、頭は回らぬが、真に忠を尽くす男であった。」

 

これを聞いたスレインは天国から地獄に叩き落とされたような気分になる。

 

「そう、このザーツバルムこそ、悪逆非道の叛徒が首魁・・・」

 

トリルラン卿は一切、嘘をついていなかったのだ。




アルドノア・ゼロ本編を視聴した時感じた違和感なんですが、
1.アセイラム皇女、証拠もなく軌道騎士を犯人と断定
2.トリルラン卿、うろたえすぎ
というのから、私なりに構成してみました。
キノコがいらん犯行声明出してたらあそこまでうろたえるのもやむなしかと。

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