【A/Z】蛍へ~銃と花束を~   作:Yーミタカ

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バレバレなまま引っ張り続けてましたけど、やっとこさ『あのお方』登場です。


第六話 古戦場 種子島

「愚昧下劣な蛮族の凶矢に伏した余が孫娘アセイラムに大公位を追号し、哀悼の意を捧げる。

 

 かつての征伐より15年、余の温情によりこの宇宙に存在を許されたる地球の蛮族共の返礼がこの度の暴挙である。先帝ギルゼリアの地球征伐は正しかったのだ、言を解さぬ者共の蒙を啓くことはアルドノアの光こそなしうるものなり。

 

 ヴァース帝国皇帝レイレガリア・ヴァース・レイヴァースの名をもって、忠勇義烈の軌道騎士団に命ずる。野蛮なる地球の土民共を焼き払い、いにしえの偉大なるヴァース帝国が神聖なる大地をアルドノアの輝きにて満たすがよい!!」

 

騎士ブラドの海軍葬を終えたわだつみに、強制的な割り込み、すなわち電波ジャックで昨日、休戦の布告を発したヴァース帝国皇帝、レイレガリア・レイヴァースが新たな布告を発したのだ。

 

今度は地球に対してでなく軌道騎士団に発せられた布告であるが、これによって地球に対しても火星ヴァース帝国本国のスタンスが明確にされた。

 

ヴァース帝国は地球連合との休戦から15年で築かれた民間交流ならびにグレーゾーンで認めていた国交も全て白紙にし、前星間戦争で主張した『地球全土の領有権』を大義として地球全土に対し宣戦布告・・・正確には『地球は無主の未開地であるからヴァース帝国の威光をもって啓蒙せよ』と軌道騎士団に命じたのである。

 

 

 

 わだつみの艦橋でこれを聞いたマグバレッジ大佐に、今、起こったことを納得できない不見咲中佐が静かに尋ねる。

 

「・・・艦長、これは一体・・・」

 

「どうもこうもありませんよ、現時点をもって、ヴァース帝国皇帝を僭称するドクター・レイヴァース率いる武装勢力と地球連合軍は正式に交戦状態に入りました。」

 

マグバレッジ大佐は地球連合軍の公式記録に記載されるであろう言い回しを使って答えた。

 

「そんな!?休戦だと言ってまだ一日もたっていないんですよ!?」

 

「バカ野郎!あんなもん、信用できるか!!」

 

操舵手とレーダー手が口論するのを、マグバレッジ大佐は一喝する。

 

「静粛に!!あなた方が動揺してどうするのですか!?」

 

艦橋にいるのは実戦経験こそないものの、士官課程を終えた正規の軍人である。

 

ブラド襲撃前にライエが話していたようなこと・・・すなわち、『休戦の布告など何の意味もなさない』ことなど理解していたし、一日もたたずに外交スタンスが180°変わったことが意味することも理解していた。

 

ただ、最初に騒ぎ始めた操舵手は休戦の布告を信じたかったのだ。

 

「あの叛徒の首魁が何を言ったとしても、我々の任務は変わりません、この艦に乗る民間人を連合軍本部へ無事送り届けること。そしてその障害になるものは排除すること。この二つは決して忘れてはいけませんよ。」

 

叛徒の首魁ことヴァース帝国皇帝の実質的な宣戦布告は地球全体で見れば晴天の霹靂であったが、わだつみのように休戦の布告を無視した攻撃を受けた者や、各国政府高官、政治家、地球連合軍上層部にとっては容易に予測できたことであった。

 

そして予測できた者、できなかった者の区別なく共通した認識が持たれることになる。

 

朝令暮改という言葉があるが、まさしくヴァース帝国の外交スタンスがこれであろう。

 

一日もたたずに主張が180°変わる集団など誰が信用できようか。

 

「ところで、例のカタフラクトはどうなっていますか?」

 

「ただいま、界塚准尉の弟君が、敵本隊の情報を盗み見できないか調査しているとのことです。データのバックアップは取らせてからですから、問題はありませんかと。」

 

マグバレッジ大佐が不見咲中佐に聞きたかったのはそういうことではない。

 

「不見咲君、君がもてない理由を教えましょうか?」

 

「必要なことは全て用意するのがよろしいかと。」

 

「相手が望んでいないものをいくら集めても無駄な努力になるのですよ。」

 

マグバレッジ大佐が聞きたかったのは経過ないし結果であったのだ。

 

そしてそれは、格納庫からの連絡で知らされることとなる。

 

「か、かかかかか艦長、大変です!!ハッキングが火星で撃沈をフェリーが・・・」

 

「落ち着きなさい!」

 

何を言いたいのかわからない整備班長をマグバレッジ大佐が一喝すると、伊奈帆が通信を代わり、

 

「すみません、界塚伊奈帆です。」

 

「伊奈帆君ですか?おそらく、ハッキングの結果のせいだと思いますが、何がわかりましたか?」

 

「早急に目的地を変更してください、ウラジオストクが制圧されました。」

 

「な、何ですって!?」

 

マグバレッジ大佐が声を荒らげると、艦橋にいた者達は一斉に振り向く。

 

「コホン、失礼。詳しくお願いします。」

 

伊奈帆はマグバレッジ大佐に知り得た全てを伝えた。

 

まず、アルギュレはパスワードすらかけておらず、『ハッキング』などという手段を用いる必要すらなかったことを伝える。

 

これは前置きなのだが、同時にヴァース帝国側、クルーテオ伯軍は一機カタフラクトを撃破されているにもかかわらず、二度は無いと高をくくっていたか、非正規戦における事故と考えてアルギュレが撃破ないしろ獲されることなど考えてすらないと、伊奈帆と、報告を受けたマグバレッジ大佐は考えた。

 

次に、ウラジオストク陥落の報を伝えるが、これが厄介であった。

 

ウラジオストクを制圧したのは、正確にはクルーテオ伯でなく、ケテラテッセ伯なる軌道騎士の軍であったのだ。

 

伊奈帆が見つけたのはケテラテッセ伯からクルーテオ伯への通信で、さも世間話でもするかのようにウラジオストク制圧を自慢していたのである。

 

その時に送られた映像によると、ケテラテッセ伯はヴァース皇帝の『休戦の布告』を無視してウラジオストクに進軍していた。

 

時刻はブラドのわだつみ襲撃とほぼ同時刻、新芦原から最後に出港したフェリーが入港していた時に、ケテラテッセ伯軍が急襲、無誘導ロケット弾や榴弾の嵐が吹き荒れ、それがやむと光のムチを装備したカタフラクトが単機で切り込み、アレイオン、戦闘車輌、防衛施設を破壊すると、火星側の戦闘機隊が上空を押さえ、飛び立った、あるいは飛び立とうとしていた地球側戦闘機を撃墜、破壊し、カタフラクトに続いて来た歩兵戦闘車輌から降りた歩兵隊が港湾をはじめとする交通の要所、連合軍防衛司令部、市庁舎のような軍事、政治の中枢を制圧した。

 

結果としては、地球連合軍は降伏する間も無く全滅、ウラジオストクとその近郊はケテラテッセ伯領となったのであった。

 

そして、その映像が格納庫で再生された時、映っていたある一隻の沈み行く船によって大騒ぎになったのだ。

 

その船は新芦原を最後に出港した避難船のフェリーであったのだ。

 

ロケット弾の流れ弾が直撃し、折れるようにして沈没したのである。

 

この時、連合軍海軍も砲撃を受け大多数が炎上、轟沈し、基地施設が受けた砲撃によって流出した燃料などと共に海面が炎上、避難船に乗っていた民間人の生存は絶望的である。

 

この報は燎原の火のごとくわだつみ中に広がってしまっており、箝口令はすでに無意味となっている。

 

「すみません、情報の管理が甘かったみたいです。」

 

伊奈帆はうかつに映像を整備班長をはじめ他の兵士に見せてしまったことを謝罪する。

 

「あなたが謝ることではありませんわ。整備班長らに監視を言いつけたのもこちらですしね。とりあえず、極東一帯における、軌道騎士団の勢力範囲はわかりますか?」

 

「・・・ええ、まずは東京に降下したクルーテオ伯ですが、本州北端から大阪までを支配下に収めてます。そしてケテラテッセ伯は朝鮮半島南端から黄海側はソウル、仁川まで、日本海側はウラジオストクまでを制圧したもようです。そして香港に降下したフェミーアン伯なる軌道騎士が大陸側は上海まで、そして台湾、沖縄本島までを制圧したと・・・あ・・・」

 

伊奈帆が報告の途中で言葉をつまらせる。

 

「どうしました?」

 

「こちらの覗き見が露見、回線を向こうで切断されました。」

 

伊奈帆が見ているアルギュレのホログラム式ディスプレイには『DISCONECT』と表示され、操作を受け付けなくなってしまったのだ。

 

クルーテオ伯の揚陸城で、アルギュレの撃破に感付かれたのである。

 

しかし、マグバレッジ大佐が必要な情報はすでに伝わっていた。

 

「わかりました、必要な情報は得られましたからよしとしましょう。お疲れ様でした。」

 

マグバレッジ大佐はそう言って伊奈帆をねぎらって通信を終えると、指揮を飛ばす。

 

「当艦の航路を変更します。まず、関門海峡を通過し、種子島基地にて補給、整備を行い、東シナ海、黄海沿岸が完全に制圧される前に天津へ入港。その後は陸路にて連合軍本部を目指します!!」

 

この時、あと一時間も進んでいればケテラテッセ伯の索敵網に入っていたところで、間一髪の進路変更であった。

 

 

 

 一方、伊奈帆がアルギュレをいじっていたころ、蛍はラウンジで鞠戸大尉から出された命令無視の罰を片付けていた。

 

始末書はすでに書いたのだが、それよりも彼は大きな問題にぶつかっているのである。

 

「えっと・・・わかんね!だいたい、三角形のこの線の長さが出せたからって何なんだよ!?」

 

学科の課題である。

 

隊の訓練で近接格闘、体力作りをこなしたあと取りかかっているのだが鍛練と比べて一向に終わる気配がない。

 

そこへニーナが通りかかり、蛍に話しかける。

 

「蛍くん、書類のお仕事・・・じゃないよね?」

 

「ん?あぁ、コレ、あのクソジジィから出された課題でな。しっかし、最近の中坊、難しいことしてんだな・・・」

 

「そこね~、答え15だよ。」

 

「・・・え?」

 

蛍はニーナが暗算で簡単に答えを出してしまったことに驚く。

 

「ピタゴラスの定理で、出せるでしょ~?」

 

「スゲーな、もしかして全部余裕なんじゃね!?代わりにやってくんねぇか?」

 

「ダ~メ!それと、コレ、小学生の内容だよ?」

 

ニーナは他の問題も見ながらそう言った。蛍がもしかしてと思い表紙を見ると、そこには『算数ドリル 小4』と、書かれていた。

 

「ナメてんのか!?あのジジィ!!」

 

「でも~、解けてなかったよね?」

 

ニーナにそう言われ、蛍はぐうの音も出ない。

 

「ホント、よく受かったよね~、ウチの高校。」

 

「入試の時はできたんだよ、コンチクショー!」

 

ラウンジにはある程度人が集まっていて、二人の様子を遠巻きに、一部はクスクスと笑っている。

 

「・・・ワリィ、話しがあるなら場所変えるぜ?」

 

「え?でも~、いいの?」

 

「数字の見すぎでじんましんできそうなんだ、休憩くれぇ構わねえだろ?」

 

そう言って蛍は算数ドリルと筆記具を片付け、ニーナを伴ってラウンジを出た。

 

 

 

 ラウンジを出た二人は、人の少ないところを探しているうちに甲板に出る。

 

甲板は整備員の清掃、修理によってすでに昨日の戦闘の痕跡は消え去り、潮風が全通甲板の上を吹き抜けていく。

 

「ここなら大丈夫だろ?」

 

「うん・・・そのね、昨日のことだけどさ・・・あんまり気にしちゃダメだよ?」

 

ニーナの口から出た『昨日のこと』という単語に、蛍は表情を曇らせる。

 

この言葉が指す事件はただ一つ、蛍がアルギュレを破壊し、パイロットの騎士ブラドを独断で処断したものだ。

 

「あんなことになって、帰って来てからずっと元気なかったでしょ?ずっと気になってて・・・」

 

「・・・な~んだ、そんなことだったのかよ!?大丈夫だ、あんなザコ、何匹来ても俺が全部ぶっ殺してやるからよぉ!」

 

蛍の答えはニーナにとって予想外のものであった。

 

彼の答えは、到底、人を殺した人間のものではない。

 

「ちょ、ちょっと、蛍くん?まさか、昨日のこと、覚えてないの!?」

 

ニーナは蛍がショック性の記憶欠落を起こしていると考えてそう尋ねるが、そう簡単に起こるものではない。

 

「何言ってんだ?火星人って害獣駆除しただけだろ?ゴキブリひねり殺すのと大差ねぇよ。向こうの親玉が直々にケンカ上等っつってんだ、ちょうどいいぜ。」

 

悪びれる様子もなく答えた蛍に、ニーナは戦慄をおぼえる。

 

「(どうして?・・・違う、蛍くんは・・・)」

 

蛍の瞳をジッと見つめるニーナの思考は、甲板に出る階段の下で、大声で話していた兵士によって中断させられる。

 

「大変だ!!ウラジオストクが制圧された!!」

 

「待てよ!じゃあ最後に出港したフェリーはどうなったんだよ!?」

 

「火星人に撃たれて沈められたらしい・・・生き残りはいねぇってよぉ・・・」

 

「・・・クソォ!!あの船にゃお袋と妹が乗ってたんだぞ!!許さねぇ、ヤツら、皆殺しだ!!」

 

フェリー撃沈の報を聞いたニーナは魂が抜け出たかのように全身から力が抜けた。

 

フェリーにはクラスメイト達が乗っていたし、何より、本来優先避難であった彼女の家族も乗っていたのだ。

 

彼女の両親はもともと住んでいたイタリアの有力者で、新芦原に避難してきてからも避難民の代表的地位から、日本国籍を取得して地方議員になっていた。

 

そのため、優先避難が可能であったが、彼女の父は

 

『トップが我先に尻尾をまいて逃げては示しがつかん。』

 

と、新芦原に残って避難民の誘導指揮、本来知事の仕事であるが先見の明が弱い知事が宣戦布告前に辞任してしまったため代行することにした連合軍の陣地設営許可などを行い、最後のフェリーで避難することになったのだ。

 

ニーナは救助に出るとき、両親と大喧嘩をして出てきていた。

 

止められるのも当然だろう、すでに戦場となった新芦原に取り残された民間人が生きている可能性など本来なら皆無だ。

 

それを振り切って救助に出た結果、ニーナは生き残り、家族を全員失った。もう、謝ることもできない。あまりのことに倒れそうになったニーナを抱き締めるように、太い腕が回され、分厚い胸板に顔が押し付けられる。

 

「・・・気持ちがわかるだとか、薄っぺらいことは言わねえよ・・・だから・・・何だ、お前のしたいようにしな。」

 

腕の主は蛍だ。

 

人の気持ちなど本人でなければわかるはずがない。

 

そして彼は、できもしないことをさもできるかのようにして何もしないのは偽善だと考えている。

 

だからこそ、できることを彼なりに考えた結果こうしたのだ。

 

ニーナは蛍の胸に顔をうずめて泣き始めた。

 

無論、どれだけ泣いても家族が生き返るわけがない。

 

しかしニーナは、蛍の胸で自分の嗚咽を隠しながら泣き続けた。

 

「・・・ゴメンね、蛍くんだってずっと・・・」

 

「俺のことは気にすんな、どうせ物心つく前のことだからよ。それより、落ち着いたか?」

 

「うん・・・ありがと・・・」

 

ニーナは蛍から顔を離し、涙をぬぐってそう言った。

 

悲しみに暮れているのは彼女だけではない、わだつみに乗る者ほぼ全てが嘆き悲しんでいたが、そのために足踏みしていてはこの艦も同じ運命をたどることとなる。

 

わだつみは涙の海、悲嘆の荒波を越えて、前星間戦争唯一の地上戦が起こった古戦場、種子島にその舳先を向けて進んでいく。

 

 

 

 ヴァース帝国の宣戦布告から三日がたち、わだつみは種子島補給基地に到着した。

 

舵を握るニーナがおっかなびっくりわだつみを着岸させ、投錨すると蛍の所属するスカウト部隊、伊奈帆、韻子達が所属するカタフラクト戦闘隊が艦を係留し、カームが所属する整備班、武器班、需品班が基地から物資を搬入し始める。

 

前大戦とエンジェル・フォールによって荒野と化したこの島は連合軍管理のもと、補給基地が置かれているだけである。

 

さして重要でないこの拠点は最低限のデータ破棄をしただけで施設そのものは問題なく使用することができ、スムーズに補給作業が進められていく。

 

そんなわだつみの乗組員、特に新たに入った者達を甲板から見ながらマグバレッジ大佐はため息をついた。

 

「仮にも大佐ともあろう御方が、そんなことじゃいけませんぜ。」

 

マグバレッジ大佐が軽口を叩く男の方に振り向くと、そこには鞠戸大尉が立っていた。

 

「大尉・・・どうしてこちらに?」

 

「麗しい天使の吐息が聞こえたから・・・じゃあダメか?」

 

「からかわないでください!」

 

マグバレッジ大佐が怒るが、鞠戸大尉はわるびれることなく微笑み、その姿がマグバレッジ大佐の記憶の中にある『ある人物』と重なった。

 

「・・・肩の力、抜けたみてぇだな。まぁ、何を気に病んでたかは大体わからぁな。大方、民間人を徴募したことだろ?」

 

「え、えぇ・・・できれば、彼らには何事もなく本部にたどり着いてほしかったのですが、こうなってしまいました・・・」

 

地球連合に関する条約にもとづき、地球連合軍は連合に対する有事の際、部隊、艦における最高位の軍人の『裁量をもって』、『教練を受けた者』を『徴募することができる』。

 

法律等はたいてい、このように解釈のしようがいくらでもある書き方をする。

 

たとえば『教練を受けた者』とは普通、教練を修了して予備役に入った高校卒業者を指すが、『教練中の学生』とも読み替えることができる。

 

そして『裁量をもって』、『徴募することができる』というのは、何か問題が起こってもその責任は地球連合にはなく、あくまで現場指揮官、現在ならばマグバレッジ大佐の責任となる。

 

そうであるにも関わらず、地球連合軍の方針としては、『有事の際は積極的に民間人を徴募せよ』となっているのだから、組織というのはおかしなものである。

 

「なぁ、何を今さら気にしてンだ?」

 

「今さらとはどういう・・・」

 

「ウチのクソガキを軍に入れたろ?」

 

「な!?彼は志願兵ではありませんか!?それに、あなたも許可したことでしょう!?」

 

マグバレッジ大佐はそう反論する。

 

「まぁ、そのとーりなんだがな、大佐殿も採用しなけりゃよかったろ?」

 

「で、ですが、今は人材不足で・・・それに、遅かれ早かれ徴募することになったでしょうから・・・」

 

「ほら、それだよ。理由あんだろ?」

 

マグバレッジ大佐は自分が口にしたことに気づいて口を押さえるが、もう遅い。

 

彼女にとってそれは言い訳に過ぎないのだ。

 

「そりゃあな、俺だってあのガキが軍に入るのは反対だわな、けどな、んなこと言ってらんねぇってのはわかってんだよ。」

 

「えぇ・・・」

 

「ま、こういうのは考え方の問題ってヤツだ。まずは俺たちの作戦目的は?」

 

鞠戸大尉にそう問われたマグバレッジ大佐は、

 

「この艦に乗る民間人を連合軍本部へ無事送り届けることですね。」

 

と、即答した。

 

「なら、最悪の事態は?」

 

「民間人の全滅です。」

 

新たな問いに答えたマグバレッジ大佐に、鞠戸大尉は首を横に振った。

 

「そいつはまだ最悪じゃねえ、本当に最悪なのは『この艦に乗る全ての者が死ぬこと』だ。民間人の全滅はその次、そして、死にたかねぇが俺たちが全滅しても民間人は無事に本部に着く、降伏したとしても命が保証されていればまだマシか。」

 

鞠戸大尉は考えうる事態を悪い方から挙げていく。

 

「ま、何が言いてぇかっていうと、早い話がまだ最悪の事態には程遠いんだから、気に病むこたぁねえってこった。」

 

そう言って励ます鞠戸大尉に、マグバレッジ大佐はクスッと吹き出すように笑った。

 

「うらやましいですわ、そんな風に考えられるのは。まさか、それを言うために甲板へ?」

 

「まさか、ちょっと精進揚げにな。」

 

そう言って鞠戸大尉はポケットから小さな酒瓶とドッグタグ二つを取り出した。

 

タグの鎖を瓶に巻き付けながら鞠戸大尉は誰にとでなく呟く。

 

「宿里曹長、ヒュームレイ・・・そして連隊の皆。ここへ来るのに15年もかかっちまったが、許してくれよ。」

 

そう言って鞠戸大尉がドッグタグと酒瓶を投げようとしたのを、マグバレッジ大佐は彼の手をつかんで止めた。

 

「お待ちください・・・コレ、兄さんの!?」

 

ヒュームレイのドッグタグを見て、マグバレッジ大佐はそうこぼす。

 

「大佐どの、まさかアンタ・・・」

 

「鞠戸大尉・・・もしかしてあなたが『M少尉』だったのですか!?」

 

マグバレッジ大佐も『種子島レポート』のことは知っていた。

 

しかし、他の言語に訳された際、宿里曹長のことは『S曹長』、鞠戸大尉のことは『M少尉』といった具合に匿名にされていたのだ。

 

マグバレッジ大佐は鞠戸大尉を、『種子島での戦闘で、生存者は複数いた。』と考え、『M少尉』ではないと思っていたのだ。海外においてM少尉のその後は諸説あり、行方不明になった、保護施設に入所した、謀殺されたなど多岐に渡り、いまだに軍に残っていることは、日本に駐留している者以外には知られていないのである。

 

この様子を、甲板にあがってきた一人の下士官が目撃した。

 

不見咲中佐がマグバレッジ大佐に作業完了の連絡をしようとしたのだが、マグバレッジ大佐が気づかなかったため、伝令に走らされたのだ。

 

彼には二人の会話は聞こえておらず、見ようによっては口論しているようにも見える。

 

そのため、話しが終わるまで待つことにしたのである。

 

 

 

 一通り話が終わるとその下士官は二人に話しかけた。

 

「マグバレッジ大佐、不見咲中佐より作業完了の報告です。」

 

敬礼してそう言った下士官は蛍であった。

 

マグバレッジ大佐と鞠戸大尉は居心地が悪そうに目を泳がせる。

 

「い、今のお話し、お聞きになりましたか?」

 

「いえ、自分は今、来たばかりですから何のことか・・・」

 

「なら、構いませんわ、忘れてください。」

 

マグバレッジ大佐はそう言って、通信機を見ると、その電源がオフになっていたのだ。

 

これでは受信できない。

 

「フフッ、大佐どの、気をつけないといけませんぜ。」

 

鞠戸大尉がそう言うと、マグバレッジ大佐は顔を赤くして艦内に戻って行くのであった。

 

マグバレッジ大佐が徴募した民間人の中で、蛍と面識がある者は次のとおりである。

 

まず、伊奈帆と韻子はカタフラクト戦闘隊・・・わだつみの主力部隊である。

 

ニーナ、祭陽先輩、詰城先輩はブリッジオペレーターの交代要員、カームは整備班に配属された。

 

伊奈帆と韻子は教練の成績が優秀であったためカタフラクト戦闘隊へ、ニーナ、祭陽先輩、詰城先輩はオペレーターとしての機器の取り扱いに長けていたため艦橋へ、カームは教練をサボりがちで成績が悪く、ギリギリで整備班に配属されたのだ。

 

なお、セラムは妹のエデルリッゾの言で、『体が弱くて小学校すら通えず、一切の教練を受けていない』ため、徴募されず、エデルリッゾはまだ13歳で、徴募そのものが違法である。

 

そしてライエは、『家庭事情で学校に通えなかった』と、自己申告して徴募に応じなかった。

 

 

 

 わだつみの係留、物資の積み込みが終わると、鞠戸大尉率いるフェンリル隊は任務を受け、基地周辺の偵察に出た。

 

再編の終わったフェンリル隊は現在、一個小隊ほどの構成員を抱えている。

 

中隊としては定員割れしているが、とりあえずの形にはなったこの隊で鞠戸大尉が直接指揮している分隊にいる蛍が、任務中にもかかわらず鞠戸大尉に話しかけた。

 

「なぁ、オッサン・・・」

 

「何度も言ったろ。『隊長』か『大尉』な?」

 

鞠戸大尉にそう言われ、蛍は不機嫌そうに目をそらす。

 

「失礼いたしました、『大尉どの』、この島に到着した際、甲板でマグバレッジ大佐と何やらお話しされていた時、尋常でないご様子でしたので気になった次第でして。」

 

鞠戸大尉の方が正しいため、蛍はせめてもの仕返しとばかりにわざと慇懃無礼な話し方で尋ねた。

 

これそのものはよくあることで、鞠戸大尉はにべもなく、

 

「お前には関係ねぇ。」

 

とだけ答え、周りの兵士達は非難するような目で蛍を見ている。

 

新芦原事件から第二次星間戦争までの間で、わだつみの兵士も火星カタフラクトの現物を見たため、仮に本人が嘘だと『認めていた』としても、『種子島レポート』を信じざるをえなくなり、鞠戸大尉を腰抜け、敵前逃亡者扱いしていた者達でさえ手のひらを返し、今では鞠戸大尉を慕う者の方が多い。

 

二人が『義理の親子』でなければ蛍は袋叩きにされているであろう。

 

そんな会話が交わされた後、鞠戸大尉率いる分隊も分散し、付近に火星の陣地が無いかを探る。

 

台湾に降下した『フェミーアン伯』が、沖縄から種子島まで上陸している可能性があるからだ。

 

 

 

「(・・・ここで親父達が戦って、戦死したのか・・・)」

 

偵察しながら蛍はこの島で15年前起こった戦いに想いをはせる。

 

『鞠戸大尉のせいで』実父を失った彼が、今は軍に入り戦っている。

 

月日というのは長いようで短いものだ。

 

そんなことを考えながら偵察をしていると、妙な場所を見つけた。

 

雑木林の中に、畳一枚より一回りほど広いくらいの地面を、周囲の枯れ草より不自然に長い草が覆い隠しているのである。

 

蛍がバイクを降り、しゃがみこんで確認すると、それは草むらにカモフラージュするための『偽物の草』であったのだ。

 

そして蛍は気づいていないが、この雑木林だって不自然である。

 

15年前、焦土となった土地に生えた木にしてはどれも幹が太く背が高い。

 

樹齢は短く見積もっても30年ほどの木ばかり、明らかに『植樹』されているが、そのわりには木の種類は雑多で自然林に見える、『人工的に作られた自然林』なのだ。

 

そのようなものを作ったのはなぜだろうか。

 

普通に考えれば、『荒れ地を再生するため』だろうが、残念ながら種子島にそのような計画は無い。

 

『草によるカモフラージュ』の上に、『人工の自然林による掩蔽壕』を作っているのだ。

 

「大尉どの、妙なモンを見つけた!」

 

蛍が鞠戸大尉に通信を入れると、後方で何かが地面に降り立つ音がした。

 

もしこれが15年以上前ならば、打ち上げと着陸の違いはあるがロケットの噴射音と考えたであろうが、今の種子島は地球連合軍管理下で、ロケット発射は行っておらず、そもそも、かつて種子島から打ち上げていたのは人工衛星打ち上げ用の使い捨てだ。

 

着陸などあり得ない。

 

蛍が振り向くと、林の外にたくさんの腕を持つカタフラクトが立っていた。

 

もちろん、地球連合軍に所属しているカタフラクトではない。

 

まだ距離はあるが、蛍は今、偵察バイクとカービン銃、45口径ピストル、そしてサバイバルナイフくらいしか持っておらず、戦いを挑むのは無謀以外の何物でもない。

 

もともと、ヴァース帝国軍が陣地を設営しているという想定で偵察に出ていたため、装備はあくまで巡回中の歩哨との遭遇線しか想定しておらず、作戦行動中のカタフラクトと遭遇するのは想定外であったのだ。

 

隠れるにしても、サーモグラフィを使われれば見つかるだろうし、バイクで逃げればわだつみまで道案内するようなものだ。

 

身動きが取れなくなった蛍はその場にぼう然と立ち尽くしてしまう。

 

「オイ、蛍!宿里伍長!!」

 

そんな蛍の元へ、鞠戸大尉が駆けつけた。

 

遠くからカタフラクトを確認し、バイクでは気づかれる可能性があるため乗り捨てて、姿勢を低くして走ってきたのだ。

 

「クソッ!シャキッとしろ!!」

 

鞠戸大尉にすら気づいていなかった蛍を平手打ちして正気に戻すと、蛍は

 

「何しやがんだ!?」

 

と、いつもの調子を取り戻して鞠戸大尉にかみつく。

 

「まぁ、今はそれでいい、とにかく伏せろ!」

 

鞠戸大尉はそう言って蛍の後ろ襟を掴んで伏せさせる。

 

こうすればレーダーにもかかりにくいし、サーモグラフィでも野生動物と誤認しやすくなる。

 

「で、妙なモンってのはあのカタフラクトか?」

 

「ちげぇよ、コイツだ、この足元の。」

 

そう言って蛍が足元のカモフラージュを示すと鞠戸大尉は蛍にアイコンタクトして、二人でナイフを使ってカモフラージュをはがす。

 

すると、金属製の扉が姿を表した。横にはカードキーの認証装置があり、軍のIDカードが鍵になるようである。

 

鞠戸大尉が自分のIDを通してみるが、

 

『ビーッ』

 

と、エラー音が鳴り、扉は開かない。

 

ここまで厳重に掩蔽されている扉だ、間違いなく秘密基地である。

 

入ることができる人間が限られているのだ。

 

鞠戸大尉のIDが使えないならば、まず間違いなく新兵である蛍のIDが使えるはずがない。

 

「チッ、行けるか?」

 

鞠戸大尉は舌打ちしてナイフをリーダーに差し込み、ショートさせるとロックが壊れ、手動でも開くようになる。

 

「よし、やるぞ、蛍。」

 

「オウよ、せぇの!!」

 

手動とは言っても扉そのものが重く、馬鹿力の鞠戸大尉と蛍二人がかりでやっと開く。

 

「っしゃあ!行くぜ、オッサン!」

 

「待て、その前に連絡だ。」

 

鞠戸大尉は通信機で偵察隊とわだつみに連絡する。

 

「こちらフェンリルリーダー、所属不明カタフラクト発見、数1、フェンリル中隊はすみやかにわだつみに帰投せよ。」

 

そう伝えてカタフラクトの写真を撮って送り、

 

「走れ!」

 

と、蛍に声をかけて扉の中に駆け込んだ。

 

すると、所属不明カタフラクトの背中に背負われた腕が飛翔し、扉を叩き潰す。

 

通信そのものは暗号化されているため解読はできないが、それに比べて発信したということを観測するのは比較的容易である。

 

その発信元をカタフラクトは攻撃したのだ。

 

二人は間一髪、秘密基地に飛び込み事なきを得る。

 

「なぁ、蛍・・・生きてるか?」

 

「ハッ、クラインやアリアーシュみてぇな美人と一緒なら諦めがつくけどよぉ、くせぇオッサンと一緒にくたばるなんざ死んでもゴメンだよ!」

 

「ケッ、俺もテメェみてぇな生意気なクソガキと一緒にくたばるなんざ願い下げだ!」

 

軽口を叩き合う二人は自分達が入ってきた入り口を見る。

 

完全に崩落し、重機でもなければ道を開くことは不可能だ。

 

「・・・どぉすんだよ、コレ?」

 

蛍は瓦礫を足で蹴りながら鞠戸大尉にそう尋ねる。

 

「ま、とにかく、先に進むしかねぇな。」

 

鞠戸大尉は蛍にそう答えながらライターの火をつけて、道を照らすと、最近まで使われていたらしいきれいな通路が小さな灯りに照らされた。

 

少し歩いた先にあった部屋に入ると、書類が散乱し、コンピュータが破壊され、HDDが完全に壊されているのを見つける。

 

「徹底してんなぁ・・・なるほど、補給基地の物資がそのままなのはこの中身に気づかれないようにするためってわけか。」

 

鞠戸大尉が部屋の惨状からそう推理していると、蛍が一枚の紙と懐中電灯を拾い上げ、懐中電灯を点けて内容を見る。

 

「やったぜ、地図だ!ライトも生きてるぜ!!」

 

「デカした!見た感じ、乾ドックみてぇだな・・・にしちゃ、規模がデケェ。空母?いや、それでもデケェな。とにかく、このドックを通って港に出よう。」

 

鞠戸大尉が地図の内容を確認すると、基地がグラグラと揺れる。どうやら戦闘が始まったらしい。

 

「なぁ、オッサン、通信は!?」

 

「・・・ダメだ、こっからじゃ電波が届かねぇ。」

 

二人は顔を見合わせ、ドックに急ぐ。

 

 

 

 通路から乾ドック部分に出ると、洞窟になっていた。

 

洞窟に足場を作り、横穴を掘って基地にしていたのである。

 

そこで鞠戸大尉は港に繋がる橋から下を見下ろし、驚く。

 

「コイツは・・・どうしてここに!?」

 

蛍が鞠戸大尉にならって下を見下ろすと、そこには地球で使われているカタフラクトより大きく、奇怪な形状をしたカタフラクトが保管されていた。

 

「何だ、コレ?」

 

「15年前、俺がこの島で戦ったカタフラクトだ。ろ獲してたんだな・・・で、コイツを元にあそこの戦艦みてぇなの作ってたってところか?」

 

鞠戸大尉が今度は橋の先にある船を指してそう言った。戦艦とは言っているが、その見た目はSF作品でよく見られる『宇宙戦艦』に似ている。

 

「ンなことより、港だ!すぐだろ!?」

 

「あぁ!」

 

蛍に促され、鞠戸大尉は港につながるドックの入り口を目指して走った。

 

 

 

 ドックの入り口は岩盤で塞がれており、覗き窓のような小さな穴と、入渠用ドックに外からの海水を入れる穴があるだけだ。

 

二人が覗き窓から外を見ると、わだつみから煙があがっており、甲板ではスレイプニールが一機と、アレイオンが多数、先のカタフラクトのものと思われるロケットパンチをHE弾で弾き飛ばしているところであった。

 

ロケットパンチは頑丈な作りらしく、高威力のHE弾や、大口径のショットガンによるスラグ弾(一発弾)のHE弾すら受け付けない。

 

それでもわだつみを守れているのは、伊奈帆がロケットパンチの側面にかすらせるように当てて軌道を反らすという対処法を考えたからだ。

 

しかしそれでも最初に受けた攻撃でわだつみは機関部に大きなダメージを受け、長距離の航行はできなくなっている。

 

「クソッ!!オッサン、さっきみてぇに出られねぇのか!?」

 

「バカ、行ってどうなる、何もできねぇだろうがよ!」

 

「じゃあ見捨てんのかよ!?」

 

「そうは言ってねぇ、わだつみをこの中に避難させりゃいいだろ。」

 

鞠戸大尉はそう言うが、ドックの入り口をふさぐ岩盤を開く方法がわからない。

 

構造上、開閉できるようになっているが、先の扉と同じで鍵が必要だろうことは明白だ。

 

「・・・フェンリルリーダーよりスレイプニールパイロットへ、お前、界塚弟か?」

 

出入口付近まで来たことで、電波が届くようになり、スレイプニールから返答が入る。

 

『こちら界塚伊奈帆、鞠戸大尉、ご無事でしたか?』

 

伊奈帆の声が通信機からすると鞠戸大尉は小さくガッツポーズする。

 

「界塚弟、わだつみの12時方向、海面付近に洞穴があるの、わかるか?」

 

『・・・えぇ、・・・見えます。』

 

伊奈帆はロケットパンチを反らしながら答えているため、言葉が途切れ途切れになっている。

 

「そこは連合軍の秘密基地だ、ドックになってやがる、ここへわだつみを逃がせ。」

 

『了解しました、ドック入り口にいるようでしたら離れてください。』

 

それを聞いた鞠戸大尉は蛍を連れて入り口から離れる。

 

「ナオの字のヤツ、何て!?」

 

「じきにわかる!」

 

二人がそう会話を交わした瞬間、轟音と共に入り口の岩盤が崩落した。

 

伊奈帆が反らしたロケットパンチが岩盤に直撃して、開閉機構ごと崩落したのである。

 

「ナオの字、テメェ、俺たちを殺す気か!?」

 

『蛍?君もそこに?』

 

「あぁ、運悪くピンピンしてっけどよぉ!!」

 

『それはよかった、頼みがある、わだつみがそこに入ったらすぐに用意して。』

 

軽口を叩き合いながら、伊奈帆は蛍に必要なものと、それを使った作戦を伝える。

 

「・・・なぁ、『また』か?」

 

『今回は君が要になるよ。』

 

そう話していると、わだつみがドックに逃げ込み、スレイプニール一機とアレイオン二機がわだつみから飛び降り、ドックを出ると、わだつみが速射砲でドックの入り口上部を撃ち、入り口を封鎖した。

 

「ったく、また無茶を言うぜ。」

 

蛍がそう言うと、隣で通信を聞いていた鞠戸大尉は簡単なブリーフィングを始める。

 

蛍の階級は伍長、そして鞠戸大尉の指揮下にある。

 

伊奈帆が言った通りにいきなり動くわけにはいかないのである。

 

「これは戦争だ、安全な仕事なんざねえ。ただ、二つだけ約束しろ。まず、必ず生きて帰れ。」

 

鞠戸大尉の一つ目の指示に、蛍はうなずく。

 

「アンタに教わったのは『生き残り方』だろ?当然だ。」

 

「よし、二つ目は無益な殺しは絶対するな。前みてぇなことやりやがったら死んだ方がマシだって思わせてやっからな。」

 

二つ目の指示に、蛍はめんどくさそうに、

 

「今回使うのはC4だ。加減も何もねぇ。ただ、運がよけりゃ、敵も生き残るだろうよ。」

 

と、答えた。仮にC4でカタフラクトを破壊したとすれば、すぐに主力部隊が出張ってくるのは間違いない。

 

生きていたとして勝手に殺すヒマはないであろう。

 

「とにかく、この二つだけは忘れんなよ。じゃあ、行ってこい!」

 

そう言って鞠戸大尉は蛍を送り出すと、着岸したわだつみを降りたマグバレッジ大佐に話しかける。

 

「大佐、状況は!?」

 

「残念ながら、わだつみはこれ以上航行できません。放棄して、救援が来るまでこの島に籠城する他ありませんね。」

 

「その必要はねぇ、さっき奥で艦を見つけた。」

 

それを聞くと、マグバレッジ大佐は鞠戸大尉に案内を頼み、彼女のIDで蛍を外に出した後、先の戦艦まで艦橋要員を連れて行った。

 

 

 

 基地の外では伊奈帆達が囮になって敵カタフラクトのロケットパンチを弾きながら蛍の伝令を待っていた。

 

「まだか・・・」

 

伊奈帆がそう呟くと、敵カタフラクト近くの林の中から発光信号がなされる。

 

「作戦・・・開始。」

 

伊奈帆が発光信号を確認すると、僚機のパイロット、韻子とユキ姉に場所を指定してアンブッシュするよう指示し、上空を舞う黒い火星の輸送機に、発砲音で万国共通モールスを撃つ。

 

この輸送機は蛍と鞠戸大尉が基地の中を通って港に戻るまでの間に、何を考えているのかはわからないがわだつみを狙うロケットパンチを弾く手伝いをしていたのである。

 

敵カタフラクトは短距離だが自力飛行能力があるためか、蛍が発見したときには輸送機がいなかった。

 

そもそも、輸送機が飛んでいれば音で気付く。

 

つまり、この輸送機と敵カタフラクトは何らかの事情で敵対しているのだ。

 

「来い・・・乗せろ?いや、規格が違うからつかまるのが精一杯では?」

 

輸送機のパイロット・・・スレイン・トロイヤードは疑問を口にするが、輸送機でカタフラクトを破壊するなど土台無理な話であるし、彼の目的からすれば伊奈帆と協力する方が益になる。

 

スレインは輸送機を地面スレスレに飛ばし、スレイプニールはそれに飛び乗る。

 

やはり規格が違うために不安定だが、どうにか伊奈帆はスレイプニールを安定させて、接触通信回線を開く。

 

『無茶しないでくださいよ!!』

 

「敵カタフラクトの情報を知ってるかぎり全部。」

 

『こっちの話を・・・あぁ、もう!あのカタフラクトは『ヘラス』、フェミーアン伯の乗機です。武装はこのロケットパンチだけなのです・・・があああぁぁぁ!!!』

 

フェミーアン伯が乗機『ヘラス』のロケットパンチが輸送機に迫り、スレインは捕まりそうになるギリギリで避け、ロケットパンチの握り拳を作っていたものがスレインの輸送機を捕まえようと手を開いていたものにぶつかり、手を開いていた方が破損し、炎に包まれて墜落していく。

 

『ふぅ・・・ご覧の通り、制御が難しいらしく、ロケットパンチを飛ばしている間、本体は身動き取れないようです。』

 

「ん、実演ありがとう。」

 

『実演じゃありませんよ・・・それで、このロケットパンチなんですが、単分子化することで『ダイヤモンド並みの硬度を持つチタン合金』みたいになっているそうです。破壊はまず不可能ですよ。』

 

「大丈夫、壊せないことはない。」

 

伊奈帆達がそう言ったとき、またもやロケットパンチが一機、輸送機を捕まえようと手を開いてきた。

 

伊奈帆はその手のひらにアサルトライフルを撃ち込む。

 

すると、ロケットパンチはいともたやすくバラバラになり、残骸が夜の闇にオレンジ色の尾を引いて消えていく。

 

『・・・どうして?』

 

「ダイヤモンド並みの硬度のままじゃ手を開けない。開いた瞬間は元に戻ってるんだよ。」

 

伊奈帆達がスレインに種明かししているとき、フェミーアン伯はヘラスの中からスレインの輸送機に乗る伊奈帆のスレイプニールを睨み付けていた。

 

「おのれ地球人め・・・よくもわらわの眷属を・・・」

 

うち、一機は自分でやったのは棚にあげてそう言ったフェミーアン伯の目の前にはホログラム式ディスプレイが六つ並んでおり、うち二つは黒い画面に『LOST』と書かれている。

 

残る四つにはロケットパンチから転送されてくるカメラ映像、その回りに様々な計器の表示がなされている。

 

一つ動かすだけでも大変だろうに、四つとなっては見るだけで大仕事である。

 

そのため、全天球型スクリーンによって背後や真下、真上も見渡せるにもかかわらず、クモのようにヘラスをはい回る影に、彼女は気付くことができなかった。

 

ヘラスをはい回る影はヘラスの腰部に彼が持つ最後のC4を仕掛けると、タイマーをセットした。

 

起爆時間は10分、そのタイマーが動き始めたのを確認して、彼はヘラスからバンジージャンプをするように滑り降り、離れたところで上空に発光信号を出した。

 

『トラ、トラ、トラ』

 

発光信号を確認したのは伊奈帆とスレインであった。

 

しかしスレインは信号の意味がわからず、

 

『発光信号『トラ、トラ、トラ』?何でしょうか?』

 

と、伊奈帆に尋ねる。

 

「まったく・・・これ多分、僕じゃないとわかんないよ。『我、奇襲に成功せり』の意味。」

 

『地球連合軍の暗号ですか?』

 

「違う。大昔にこの国で使われてたヤツ、今は知らない人の方が多いよ。」

 

伊奈帆はそう言いながらまた一つ、ロケットパンチを落とし、ユキ姉達がアンブッシュしている近くに誘導してエンジンを破壊させる。

 

「あと10分、逃げ切って。」

 

『無茶な注文を・・・これ、一応輸送機なんですよ!』

 

スレインはそう言いながらも曲芸飛行でロケットパンチ二つを避け続け、五分を切ったあたりで伊奈帆が一機撃墜、残った一機を韻子がエンジンを狙撃して撃墜した。

 

その結果、フェミーアン伯が見ていたディスプレイは全て『LOST』と表示されている。

 

「ボティス、マラクス、ロノウェ、ハルファス、ラウム、ヴィネ・・・うぬらの仇、わらわの奥の手をもってして討ち果たそうぞ!!」

 

フェミーアン伯はヘラスを飛行形態に変型させる。

 

その姿は、『巨大なロケットパンチ』であった。

 

弾体が大きいせいかスピードはロケットパンチに比べれば遅いが、それでもスレインの輸送機を追うには十分である。

 

「何、あれ?」

 

こんなものを見ても冷静な伊奈帆に、スレインは

 

『わ、わかりませんよ!僕も全部知ってるわけじゃありませんから!!』

 

と、大慌てでスロットルを全開にする。

 

しかし、元々規格の違うスレイプニールを落とさないようにするためあまり大きな機動は出来ず、じわじわと距離を詰められていく。

 

脆い輸送機では片翼をかすっただけでも折られて墜落してしまう。

 

「あと10秒、一回落として。」

 

『10秒って何ですか!?それに拾う自信は・・・』

 

「いいから。」

 

伊奈帆はそう言うと、ほとんど自分からスレイプニールを飛び降りさせ、スレインは輸送機を戦闘機のような急旋回させてヘラスの体当たりを回避し、すばやく自由落下するスレイプニールを拾った。

 

「・・・3・・・2・・・1・・・0。」

 

伊奈帆がカウントダウンを終える。

 

しかし、何も起こらない。

 

『な、何も起こらないじゃないですか!?』

 

「・・・マズイことになったかも・・・韻子、ユキ姉、聞こえる?」

 

伊奈帆は接触回線を一時切断し、韻子とユキ姉につないだ。

 

『ね、ねぇ、アイツ、ヘマやらかしたの!?』

 

「いや、蛍はちゃんとやったと思う。ただ、あの変形は想定外だったんだ。多分、起爆装置が変形に巻き込まれて壊れたんじゃないかな。」

 

『ちょっと、ナオ君、それじゃ今、あなたが一番危ないんじゃないの!?』

 

「大丈夫、信管は生きてるだろうから、一発でも起爆させたら連鎖するはず。」

 

『わかったわ、とにかく、撃ってみる。』

 

韻子がそう言ってヘラスに射撃を開始すると、伊奈帆はあらためて接触回線を開く。

 

『急に切らないでくださいよ!!どうするんですか!?』

 

「あの三面六臂にはさっきロケットパンチを撃ってきていた間に仲間が取り付いてC4を仕掛けた。信管は生きてるはずだから、撃てば爆発する。」

 

『無茶ですよ!そのお話ですと、人が持てるくらいの大きさなんでしょう!?当たるわけありませんよ!!』

 

「出来なかったら・・・死ぬだけだ。」

 

そう言って伊奈帆もアサルトライフルをヘラスに撃ち始め、スレインも輸送機の機銃を撃ち始めた。

 

しかし、狙う的が小さすぎる。

 

スレイプニールやアレイオンから見ればC4など蟻のようなものだ。

 

何発も何発も撃ち込むが当たるはずもなく、伊奈帆が死を覚悟したその時、ヘラスが大爆発した。

 

『当たった・・・?やったのですか!?』

 

「違う、僕じゃない。」

 

伊奈帆は冷静にヘラスが爆発した瞬間を思い出す。

 

ヘラスはスレイプニールの反対側上部から爆発を始めた。

 

そこは地上の韻子やユキ姉からも狙えないし、蛍が取りついたままだったということはまず無い。

 

そして何より、直撃した砲弾の炸裂のしかたが、今ではあまり見なくなった『戦艦の艦砲射撃』に見えたのである。

 

砲弾が飛んできた方を見ると、そこには宙に浮く巨大な『戦艦』の姿があった。

 

それは鞠戸大尉と蛍が発見した戦艦であったのだ。

 

 

 

 蛍が基地を出て少しすると、鞠戸大尉はマグバレッジ大佐達を連れて、先ほど発見した戦艦に連れていったのである。

 

マグバレッジ大佐はすぐに避難民と兵士に積めるだけの物資を積み込ませながら、その戦艦を動かそうとオペレーター達にチェックをさせたのだ。

 

「計器類、破損はありません!」

 

「燃料残量・・・わかりません!」

 

ニーナがそう言うと、不見咲中佐が、

 

「何ですか、その答えは!!」

 

と、非常時にふざけていると考えて怒鳴る。

 

「だって、燃料計がないですから・・・」

 

不見咲中佐が自分の目で確認すると、確かに燃料計があるべき場所に存在しない。

 

「・・・なるほど、このような立派な戦艦がなぜ放置されていたかわかりました。この艦の動力はおそらく、アルドノア・ドライブ。ろ獲したカタフラクトからアルドノア・ドライブを取り出して取り付けたはいいものの、結局起動させることができなかった・・・」

 

その結果を聞いた鞠戸大尉は膝を着く。

 

「・・・すまねぇ・・・気ぃ持たせちまって・・・」

 

「顔をあげてください。要は最初と同じ、籠城するだけですよ。幸い、物資は豊富です。何事もなければ2年は持ちますよ。」

 

マグバレッジ大佐はそう言うが、救助が来る可能性が薄く、攻撃を受けるストレスの中、2年も隠れ続ける・・・否、閉じ込められることなど不可能だとわかっていた。

 

まず間違いなく、2年もしないうちに内紛が起こり、自滅する。

 

それまで半年もあればいいところであろう。しかし、脱出の手段が無い以上、それしか方法がない。

 

マグバレッジ大佐が覚悟を決めたその時、艦橋に二人の少女が入ってきた。

 

セラムとエデルリッゾだ。

 

「き、危険すぎますよ!」

 

エデルリッゾはそう言ってセラムを止めようとしていたが、セラムは聞かずに艦橋に入った。

 

「あ~、いいかな?民間人は入っちゃ・・・」

 

詰城先輩が二人に帰るよう促すが、最後まで言いきるより早く、彼の体は宙を舞った。

 

セラムに合気道の小手返しのような技で投げ飛ばされたのだ。

 

鞠戸大尉とマグバレッジ大佐、不見咲中佐が銃を抜きセラムとエデルリッゾに向ける。

 

「なぁ、嬢ちゃんたちよぉ、救助した時からなぁんとなく妙だと思ってたけど、テメェら何モンだ!?」

 

鞠戸大尉が脅すようにそう尋ねると、エデルリッゾがセラムの前に出る。

 

まるで、シークレットサービスが要人の楯になるかのように。

 

「銃を下ろしてください、わたくしたちは、あなた方のお友達です。」

 

そう言ったとき、艦橋の入り口から声がする。

 

「ちょっと、二人とも勝手なことしないでよ!」

 

二人を探しに来たらしいライエであった。

 

彼女が顔を出した瞬間、セラムは光に包まれた。

 

不見咲中佐はたまらず目をかばって銃を取り落とし、マグバレッジ大佐も銃を落としこそしなかったが目を閉じ、鞠戸大尉だけがセラムに銃を向けたまま彼女をにらんでいたのであった。

 

光が収まると、そこにいたのは白いドレスに身を包んだ、金髪に翡翠色の目をした『姫君』が立っていた。

 

誰も忘れるはずがない、数日前、『新芦原事件』で爆殺されたはずの、火星の皇女、『アセイラム・ヴァース・アリューシア』その人であったのだ。

 

「嘘だろ・・・」

 

鞠戸大尉は動転しながらも銃を下ろさず、アセイラム皇女とその『自称』妹のエデルリッゾに銃を向け続けている。

 

それとは対照的に、一番驚いていたのは二人を迎えに来たライエであった。

 

彼女は腰を抜かして廊下に座り込み、アセイラム皇女を指差して震えている。

 

「ウソでしょ・・・アンタ、確かに死んだはずじゃ・・・」

 

カタカタと震えながら、まるで幽霊でも見たかのようにそう呟いた。

 

「今まで騙していたことは謝罪します。ですが、今は一刻も早くこの艦を動かすべきです。」

 

彼女の言うことは間違っていない。

 

間違っていないからこそ鞠戸大尉は警戒した。

 

そもそも、彼女が本物のアセイラム皇女である証拠などどこにもない。

 

もしスパイならば、この艦を自爆させるだろう。

 

しかし同時に、『ならばなぜ今まで大人しくしていたのか』『そもそも種子島に寄港したのも秘密基地を見つけたのも偶然、その偶然を狙ってスパイを仕込むか?』など、信用できる理由もある。

 

結局、妙なことをした瞬間撃てるようにして、鞠戸大尉は牽制を続けた。

 

「ヴァース帝国皇女アセイラム・ヴァース・アリューシアの名をもって命ずる。目覚めよ、アルドノア!!」

 

アセイラム皇女が艦橋の中央に鎮座していた、何のために使うかわからない球体に手をかざしてそう言うと、その球体は光輝き、戦艦が起動した。

 

「これが・・・アルドノア・・・」

 

不見咲中佐が感嘆の声をもらすのを横目にマグバレッジ大佐は

 

「なるほど、戦艦デューカリオンですか・・・ドック、積み込み作業は終わりましたか!?」

 

と、物資の搬入を行っていた兵士達にそう通信を飛ばす。

 

『先ほど完了しましたが・・・この艦、動くのですか!?』

 

通信機から驚嘆の声が返ってくる。

 

「ええ、総員、速やかにこの艦に搭乗してください。基地にいるものが乗艦次第、デューカリオン発進、外で戦っている部隊の援護並びに回収を行います。」

 

そして、外に出るとちょうど伊奈帆のスレイプニールにヘラスが体当たりしようとしていたところで、火器管制手が狙いを定めようとするが、勝手が違いすぎて手間取ってしまう。

 

「仰角52度、直射で当たるわ!」

 

ライエが突然そう言って、火器管制手はついその通りに撃ってしまったが、その砲撃は見事にヘラスを捉え、C4が誘爆してヘラスは粉々に砕け散り、海の藻屑となったのである。

 

「・・・そこのあなた、今回は見逃しますが、今のような真似は慎んでくださいね。」

 

「・・・悪かったわ、父の仕事柄、測量の手伝いをしてて、すぐに計算できたから・・・」

 

それを聞き、鞠戸大尉はライエをにらみつける。

 

今、彼女がやったのは明らかに測量の仕事の域を越えた計算と計算速度、それも目視に頼った暗算である。

 

元々、彼女は伊奈帆が警戒していたのを鞠戸大尉も気付いていたし、不自然な部分も多々あった。

 

ただ、やはり証拠がなく、追求することはできなかった。

 

 

 

 一方、そんな戦艦デューカリオンを遠くから見て、アセイラム皇女が正体を明かしたのを知った伊奈帆は頭を抱える。

 

彼女の正体を隠していたのは伊奈帆の指示によるものであったからだ。

 

そしてスレインはアセイラム皇女の姿を見て、涙ぐむ。

 

『お願いします、アセイラム皇女殿下にお取りつぎを!』

 

「・・・コウモリ、どうして彼女が生きていることを知っている?」

 

コウモリとは、伊奈帆が輸送機の色と形状から仮にそう言ったのだ。

 

『オレンジ色、貴方が何を企んでいるかわからない以上、それは話せません。』

 

逆にオレンジ色とは、スレインがスレイプニールの色から伊奈帆を仮にそう呼んでいるのだ。

 

「企む?何の話?」

 

『とぼけないでください!抵抗できないトリルラン卿をなぶり殺しにしたのはどこの誰ですか!?』

 

「トリルラン卿?もしかして新芦原の?彼は『自決』したんだけど?」

 

明らかに矛盾する二人の会話に、お互いに不信感を積もらせていく。

 

『姫さまを何に利用するつもりなのですか?』

 

「利用されたら困るのか?」

 

『・・・姫さまに会わせてください。』

 

伊奈帆は無言で輸送機のエンジンを狙い、スレインはスレイプニールを撃つ。

 

結果、輸送機は海面に叩きつけられ、スレイプニールはスラスターを吹かしながら砂浜に降下した。

 

『伊奈帆、大丈夫!?』

 

『ナオ君、今、撃たれたみたいだけど平気!?』

 

アレイオン二体がスレイプニールに駆け寄り、その後ろからバイクが走ってくる。

 

『すまねぇ、ナオの字・・・俺のせいで・・・』

 

「・・・蛍は悪くないよ。それより、これから大変そうだ・・・」

 

デューカリオンは伊奈帆達四人を回収し、空を飛ぶ。空を飛べる以上、無理に天津に行く必要は無い。

 

陸路、鉄道、海路を無視して、デューカリオンはロシアにある連合軍本拠地へ進路を取った。

 

この時、デューカリオンが後の一等武勲艦になるなど、伊奈帆を含め、誰にも予想することはできなかった。




あのお方こと、アセイラム皇女登場です。いや、セラムさんとしてずっと出てましたけどね、ええ。

そしてスレインも久しぶりの出番・・・からの退場。ゴメンね、火星サイドの話、挟みにくいのよ。そのうち出番が多い話すると思うから許してね?

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