紅玉が不憫すぎるから俺が運命を変える。   作:あたたかい

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うれしくて、家族に自慢しそうになりましたが、親バレするところでした。
危ない。


第六話『裸足の女神』

レーム帝国。

 

煌やバルテビアと並ぶ軍事大陸でありながら、その国風は非常に優雅である。

街には娯楽施設が立ち並び、水道はきれいで、経済も安定している。

まさに理想の国といったところか。

 

この美しいレームを守っているのが、マギたるシェヘラザードである。

彼女には色々な逸話があるが、それはまた別の話だ。

 

 

「…マギはもう二人いる。一人は煌帝国に。」

 

「もう一人は?」

 

「…暗黒大陸。」

 

王の選定者、マギ。

世界に三人しかいない大魔法使い。

一人はここ、レームで200年もの間、最高司祭として君臨しているシェヘラザード。

 

一人は新興国の煌帝国でその将軍らに力を与えている、ジュダル。

 

そしてもう一人、世界中を旅しては迷宮を出したりひっこめたりしていて、暗黒大陸の大峡谷を守るマギ。ユナン。

 

王たる力、ジンの金属器を手に入れるためにはマギに頼み込むのが一番だと、乙彦は考えていた。

 

するとまず、全くお互い面識のないシェヘラザードはダメだ。

ジュダルもダメだ。彼は自分と敵対するであろう練玉艶とつながっている。

するとユナンということになる。

乙彦はユナンに賭けていたのだ。

 

「殿は何でも知ってるんですねー」

 

「その呼び方はやめろ。あとふつうに話せ。」

 

俺を殿と呼んでくる金髪の少女は、レイという。

なぜ俺についてきているかと、それはあの夜のことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

「おまえにチャンスをやる。もう一度人生をやり直せるチャンスだ。」

 

俺は両手を縛られている彼女に提案する。

彼女は何を言っているのかわからない、とでも言いたげな驚いた表情をしていた。

 

「俺に雇われろ。そうすればお前の住むところ、食べるもの、着る服を保証する」

 

「金持ちの家でダラダラ飼われるのは御免だね」

 

「誰がそんな事を言った。少なくともあと三年間は旅だ。お前はアクティブに働く。」

 

彼女は意表を突かれたようだった。

コイツは俺をなんだと思ってるのか。

俺は紅玉を守るポジションに就くため、下準備として世界中をまわらなければいけない。

 

「俺は鬼倭王国第二王子、倭乙彦。俺はある目的のために世界をまわっているんだ。」

 

「えぇーーーーーー!!!??王子様!?どうりで…」

 

彼女を仲間にするのも紅玉のためだ。

彼女はなかなか使えるらしい。

世界中をまわるにあたり、一人では不便なことがたくさんある。

 

 

「だが簡単には雇わない。条件がある。」

 

「条件…」

 

食いついている。

俺の王子という立場や旅をするということに興味がわいているのだろう。

 

「一つ、まず盗賊稼業からは足を洗うこと。旅の中で変な気でも起こして変なことをすると困る」

 

「…それくらいなら…」

 

「二つ目だ。俺の目に狂いがなければお前はおそらく使える人間だ。手放したくはない。そこで、俺がもういいと言うまで俺の元にいること。半永久的契約だ。」

 

「………」

 

「次だ。武術を磨くこと。俺は世界のあちこちから敵対視される存在になるだろう。いや、なる。そんな俺の近くで仕えるのだ、半端な戦闘力ではすぐ死ぬ」

 

「武術…」

 

「最後だ。俺と話すときは普通に話すこと。」

 

「……え?」

 

「これらの条件をのむなら、お前の罪もなしにして身分も保証してやる。どうだ?」

 

彼女は困っているようだった。

 

「私はー…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「元より、お前に断るという選択肢はなかった。」

 

「はいはい。知ってますよーだ」

 

レームへの移動船の中で彼女は俺の条件を受け入れ、俺と契約した。

断っていたら、彼女を国軍につきだしていたのだから当然の選択だ。

彼女はレームの街の中で尋ねてきた。

 

「それにしても、私の仕事ってこれだけなの?」

 

彼女には、俺の荷物を持ってもらっている。

まぁ、めちゃくちゃ運命をひっかきまわす俺に付いてくるというだけで、苦しい仕事になるだろう。

 

「俺はお前を奴隷や召使いとして雇ったわけじゃない。仲間に引き入れただけだ。」

 

「…」

 

彼女は驚いたような表情で、俺の顔をのぞき込んだ。

俺が何だと聞くと「別に…」と、前世で死ぬほど聞いたセリフを口に出し、

 

「…仲間…か…」

 

と言って微笑んだ。

 

その笑顔に少しドキッとしてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

「お前まで付いてこなくても良かった」

 

ユナンが出した迷宮の中で俺はレイに言った。

 

「いいじゃん別に。どうせ居ても居なくても変わらないよ」

 

そんなことはない、と言いたかったが、そんなことはないことはなかった。

 

結果として、俺は難なく迷宮の宝物庫までたどり着いた。

迷宮生物は思ったより弱く、仕掛けも簡単だった。

 

レイは役に立たないことはなかったものの、役に立つこともなかった。

ただ、俺がズンズン進んでいる中、迷宮内の不思議な動物や植物にわーとかきゃーとか言っていただけだった。

 

この迷宮の中はアモンやザガンとは違い、普通のさびれた建物の中で敵と戦うという構造になっていた。

 

その建物はやはり西洋風で、どこかオシャレな雰囲気を感じさせていた。

 

 

 

「我が名はバティン。時間と懇篤より生まれし精霊なり。」

 

 

宝物庫の中央にあった剣の星に触れると青い巨大な女性のジンが現れた。

長髪で、体中にタトゥーのような模様が入っていて、角が生えていた。

あと、胸が、大きかった。

 

レイはバティンを見て、腰を抜かしていた。

 

「バティン!ここの迷宮はずいぶん簡単なんだな!」

 

青い巨人はにこっと笑った。

 

「それはあなたの腕がいいからですよ、乙彦。普通の人間だったら、私にたどり着く前に死んでいますよ」

 

「………」

 

「王を選びましょう。私の王はあなたです、乙彦。」

 

バティンはノーシンキングで俺を選んだ。

 

「レイ。あなたも魔力は普通の人間より多いです。しかし、乙彦の方が、王の器としては優れていたのです。それにー…」

 

ちらりとバティンは俺の方を見た。

 

「あなたは乙彦の臣下のようですしね」

 

「し、臣下って…」

 

まだ腰が抜けて、床に尻をつけているレイが言葉を放った。

しかし、まだ動揺と驚きでそれどころではないらしい。

 

「我が王乙彦よ、私の力を使い、王たるあなたの使命を果たすのですよ。」

 

「わかっている。」

 

「そう言うと思いました。私はあなたがここに来たときから、あなたの冷静さ、勇敢さを見て、すぐにでもあなたを王の器として選びたいと思っていました。」

 

「…フン、それは王の実力を測るジンとしては失格だな」

 

「ソロモン王には黙っていてくださいね?」

 

そう言うと、バティンはにっこり笑った。

 

「出口はあそこです。期待していますよ、乙彦」

バティンは吸い込まれるように、シュルシュルと俺の剣に入っていき、俺の刀の刀身の根本にはオクタグラムが刻まれた。

 

 

 

 

 

 

「…帰ろう、レイ。」

 

「う、うん、わかった。」

 

魔法陣が起動する間、レイはたくさんの宝物庫の財宝を持ってきた。

魔法陣が起動すると、宇宙のような空間の中、レイと二人きりになった。

 

 

 

 

「乙彦って、ホントにすごい人なんだね」

 

「え?」

 

「…今までは、偉そうな王子様っていうイメージだったけど、違うみたいだね」

俺は偉そうな王子様だったのか。

自らの傲慢な態度を反省する。

 

「あんなに大きいオバケみたいなのが出てきてもぜんぜん驚かなかったもんね。すごいよ。」

 

「すごくはないだろ。確かにバティンは大きかったけど…」

 

迫力満点だったが、あまり時間がなく焦っているせいか、リアクションは薄かったかもしれない。

 

「うん。…大きかったね…。」

 

「あぁ。」

 

「…乙彦は大きいの好き?」

 

「えっ!!?」

 

驚いた。

レイの方を向くと、彼女は下を向いていた。

聞き間違いかもしれない。

いや、きっとそうだ。レイに限ってそういう話はしないだろう。まだあまり彼女のことを掴めないのだが。

 

「なに?」

 

レイが聞いてきた。

 

「…いや、何でもない。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…バーカ。」

 

レイが呟いたその一言は、乙彦は聞こえなかった。

 




僕は大きいのが好きです。

バティンというのは、ジンの元ネタになっているであろうソロモンの七十二柱の悪魔からとりました。
しかし、見た目、性格、能力などは違います。

次回、紅玉出ません!

いつ、出るのか。お楽しみに。

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