紅玉が不憫すぎるから俺が運命を変える。   作:あたたかい

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ご迷惑をおかけしました。

同じ文が何度も挿入され、異常に文が長くなっておりましたので編集し、再投稿しました。

ご報告頂いた方には感謝しかないです。

また、誤字などありましたら指摘いただけるとありがたいです。

これからもがんばります。


第五話『偶然という名の必然』

レームに行くのは時間がかかる。

 

鬼倭を出て煌に着いた、倭乙彦。

煌から出ている移動船を使いレームを目指すが、煌からレームへ直接行ける訳ではない。

 

最短で、煌、バルバッド、アクティアと船の乗り継ぎをしなければいけない。

時間はかかるが、広い砂漠や天山山脈を越える陸路よりかは遙かに短い時間で行けるし安全だ。

 

飛空挺などあればいいが、あれははるか未来でシンドバッドが作ったものだ。

飛行機や車の便利さが身にしみてわかった。

 

出発して3週間。何度も国々の港を経由し、やっとバルバッドに着いた。

 

たくさんの島国が集まってできているバルバッドはまだアリババクンのお父さんが治めており、治安は良く、人々に活気があふれ、経済は潤っているようだった。

しかしそれでもスラム街があったりと、貧富の差はあるようだ。

もっとも、この戦争ばかりのご時世、一つの国に一つは社会問題があるものだ。

そんなものは鬼倭にはないと思っている鬼倭の人々は少し陽気すぎる。

 

 

バルバッドを出て一カ月くらい。

アクティアに着いた。

 

アクティアは煌、バルバッド、レーム、バルテビア、ムスタシムなど大国に挟まれた位置にあり、各国との貿易や移動の中継地点として賑わっている。

しかし海賊や盗賊が頻繁に出るようになり、あまり治安はよろしくなかった。

最近は盗みの手口が巧みになっていると聞いた。

金持ちのボンボンに見られて目を付けられるのはめんどくさい。

俺は身を飾る金品を最小限に減らした。もちろん、鬼倭の風習としてつけられている、鬼の角を象った頭飾りも外した。

 

しかし、鬼倭で父上から授かった大きな刀はどうにもできず、腰に下げたままだった。

頭隠して尻隠さずとは、まさにこのようなことだろうか。

 

 

 

 

「あなた、すごい大きい刀を持ってるんだね!」

 

 

そのアクティアの港、移動船の発着場でのことだった。

 

移動船に乗ったその少女は、出入口の近くで一人アクティアの街並みをぼんやり眺めていた俺に突然話しかけてきた。

 

少女は俺と歳は同じくらいで、背丈は俺より少し低かった(もっとも、俺は結構同年齢の中ではかなり大きい方だったのだが)。

前髪を後ろでまとめていて、全体的に短い髪型からは、独特の雰囲気を感じた。

 

「これ、あなたの?誰かの荷物持ちをしてるってわけでもないみたいだけど…。」

 

少女はいきなり話しかけられてちょっぴり驚いていた俺に構わず話し続ける。

いや、鬼倭にも歳が近い女の子はふつうに居るし、なかなか親しい者もいる。

前世でも彼女こそ小学生の時しかいなかったが、女性とはぜんぜん話せたのだ。

俺が彼女に対して驚きの感情を抱いてしまったのは、彼女の容姿にある。

 

一言で言えば、美人だった。

容姿端麗、肌がきれいで美しい。顔立ちは俺の好きだった女優を幼くしたようだ。

 

自分はロリコンではないと思っていたが、というより胸に刻みつけていたが、彼女を見て綺麗だと思ってしまった。

 

「一人旅なの?」

 

「えっ…とー、あぁ、はい。この剣も俺ので。」

 

つい変な返事になってしまった。

マギの世界に転生したときこそ何でやねんと思ったが、こんな美少女が気さくに話しかけてくれるなら良いものだ。

 

悪いな紅玉。俺はロリコンかもしれない。(しかし今紅玉はロリな訳だが)

 

「へぇー!!そうなんだ!すごいね!」

 

「…そうかな」

 

「そうだよ!その歳で一人旅なんて!!あなた、レームに行くの?」

 

この少女も一人旅のようだが。

俺が頷くと、

 

「レームってすごいところなんだよ!」

 

と、レームについて語り始めた。

しかし、このノリは近所のオバハンが学生に絡むノリだな。

完璧な人間などいない。しかも楽しく話せているのだからいいじゃないか。

と、頭の中に出てきた近所のオバハンを引っ込めた。

 

「コロッセオっていう闘技場があってね、ここがいつも賑わってて…」

 

彼女の他愛ない話は聞いていて心地よかった。

純真な彼女を見ていると癒される。幸せになる。

このまま何もなく元気に育ってほしいものだ…。

 

彼女が話していると、すっかり日が暮れて、夜になっていった。

空一面に広がる星空の下、俺はいつの間にか、眠りに落ちそうになっていた。

長旅の疲れもあってか、俺は案外すぐに、少女と二人で座っていた床でぐっすり眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

武術の究極の技とは、カウンターである。

 

攻守一体、隙のない攻撃はどんな相手でも避けれたモノではない。

武を極めようと志す者は、どんな形でも、カウンターを身につける。

乙彦も鬼倭でその全てを習得した。

 

反射で技が出るほどに。

 

 

俺が眠っているとき、俺の方に伸びてきた手を、セキヅイは見逃さなかった。

 

俺は床に座り、背は壁にもたれ眠っていた。

そのときだった。刀の鞘が動くカチャリという音。

 

それだけで、俺の脳は一気に覚醒し、体は見に染み着いたカウンターを始めていた。

誰かが俺の刀に触れたわけだ。

盗みだろう。

 

鞘に触れている相手の腕を左手で掴む。

どうやらこれは相手の左腕だ。

 

ぐいと左手を引っ張り相手の体勢を崩す。

相手の体はいとも簡単に動いた。

 

次に自分の右手で相手の頭を地に叩きつける。

左手を引いた際に体の軸をひねり、ノータイムで頭を正確につぶす。

 

また、その反動で、右足。

地にうつ伏せで倒れた体を押さえつける。

 

右足が動いたことで、下半身全体が動き出す。

相手を押さえつけることはとにかく教え込まれた。

倒れている相手の体にまたがって乗る。

 

掴んでいた左手に逆の力が加えられ、相手は悲鳴を上げた。

すかさず俺は自分の右手で相手の右手首を掴み、相手の背中に左手とともに押さえる。

 

 

洗練された無駄のない動き。

相手を今の状態に押さえつけるのに3秒もかからなかった。

 

 

一連の動きを終え、俺の思考は起き始めた。

目覚めは最悪だ。

 

まだ日は昇っていない。

夜の三時くらいだろうか。

 

 

必死に抵抗しようとする相手を見た。

力はあまりなく、体も小さい。

全く、どんな盗賊なんだ。

 

 

「…お前、何者だ!?」

 

 

盗賊に問いかける。

反応はない。

 

俺は近くにかけてあったランプを右に掴み、盗賊の顔を照らした。

顔はまだ幼い。俺と同じくらいの年齢、髪は短いが、女のようだ。

というよりー…

 

 

「…お前、夕方の奴か」

 

 

そいつは、移動船の中で俺に話しかけてきた少女だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もともと、俺に盗みを働く目的で近づいた訳か」

ちょうど持ち合わせていた縄で彼女の両腕を縛り、変な動きができないようにした。

こいつは、国軍に突き出すか。

こんな少女が盗みをしなければいけないなんて辛い現実だ。

 

「他に仲間がいるのか?この船の中に」

 

「…いない」

 

……ん?

疑問が頭をよぎった。

 

「…君は、俺から剣を盗ったら、どうするつもりだったんだ?」

 

「…売る」

 

「いや、それは知ってるよ。でも、そこまでどうやって行く?この狭い船で隠し通せると思ったのか?」

 

「…」

 

この移動船はここからはレームに一直線だ。

レームまではあと3日ほどだろうか。

そこまで隠していける訳がない。そんなサイズじゃない。

泳いで行けるほど陸は遠くないだろう。

てっきり仲間と協力して逃げたり隠したり俺を殺したりするのかと思ったのだがそうでもないらしい。

一つわかったことがあるが、この娘は頭が弱いらしい。

 

 

「相手が悪かったな。俺は倭乙彦。鬼倭王国の戦士だ。」

 

王子だということは適当に隠しておこう。

 

「…なぁ。なんで君みたいな子が盗みなんてしてるんだ。しかも明らかに無謀な。」

 

「…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

私はレイ。

名字は、知らない。

 

私はアクティアの貧しい夫婦の家に生まれた。

母は病気がちで、父がよく看病していたのを覚えている。

 

父は王国軍の一兵士だった。

あまり偉い身分じゃないけど、なんとか私たちを養えていたと思う。

 

そんなある日のこと、父が戦争で死んでしまったと聞いた。

 

母は病気で働けない状態だったので、私は働くことにした。

近所の料亭に頼み込んで、雇ってもらった。

 

私はがんばってよく働いた。

運よく私は母に似ず、健康、健康すぎるくらいだった。

なので働いて、なんとか母にご飯を食べさせてあげられるくらいにがんばった。

 

しかしそんな生活も終わりを告げた。

 

母は病気で死んでしまった。

合わせたように同時期、私が働いていた店も潰れた。

原因は、主人の奥さんが店の金を持って出ていってしまったこと。

 

家や服を売って生活費に当てたが、それにも限界がきた。

 

私は盗賊に仲間入りした。

 

ずっと真っ直ぐ生きて、日の光を浴びていける生活をしてきたが、それではうまくいかないことがある。

ただ、それだけだ。

 

盗賊団は中規模で、人数こそ少なかったが、私に良くしてくれた。

 

去年から入った盗賊団だったが、私は盗みがヘタクソであるらしく、成功率はゼロ%だった。

私は普段、みんなの料理ばかり作っていた。

そんなときだ。

 

 

「レイ、あいつの剣だ。」

 

 

アクティアの移動船に乗る少年に私たちは目をつけた。

見れば、彼は装飾品をたくさん持っているようで(防犯のためか、それらを外しているところだった)、バカにでかい剣を提げていた。

 

「レイ、お前行ってこい。」

 

金を持っていそうで、間抜けな面をしている。

貴族とか、そういう出身のボンボンだろう。

 

作戦はこうだ。

気さくに彼に話しかけ、親しくなり、彼が油断したところで盗む。

これなら私にもできそうだ。

 

なぜ私に任されたのかはわからないが、まぁお世話になっているわけだから、役に立とうと思った。

盗んだ後のことは特に考えず、私は作戦を開始し、船に潜り込んだ。

 

 

 

「お前、それはハメられてるぞ。」

 

こんなことを言う彼ー…オトヒコと言ったか。彼はかなりの強者だった。

証拠に今、両手首を縄で縛られ、逃げることもできない。

 

「もともとお前を船に置いていって、お前とはもうバイバイということだな。」

 

「…そんなことない!」

 

確かに失敗ばかりの私一人で行けと言われたときは疑問に思った。

しかし、彼らに限って、

彼らに限ってそんなことはない、はずだ。

 

「あるんだよ。辛いかもしれんがお前はそいつらに騙されたんだ」

 

「…そんな…」

 

私は悔しくなって、苦しくなって、涙を落とした。

どうして私ばかりこんな目に…。

 

「…フン。お前は国軍に突き出す。盗みは罪だ。牢屋の中でたっぷり後悔するんだな。」

 

「…」

 

わかっていたことだ。

今までだって、何度も捕まりそうになった。

いつかこうなるのだと、わかっていた。

今がそのときだっただけだ。

 

「命乞いみたいなのはしないのか?」

 

彼が表情に笑みを含んで聞いてくる。

 

「…誰が…」

 

誰がそんなことをするものか。

私にもプライドがある。

覚悟がある。

お前みたいな金持ちにはないかもしれないけどな。

 

 

 

 

「……お前、チャンスが欲しいか?」

 




ちなみにレイちゃんの髪型はガルパンのローズヒップの前髪後ろに持ってきたバージョンみたいな感じです。

次回、まだ紅玉出ません!笑

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