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どんどん文の腕をあげていきたいですね
鬼倭王国。煌帝国の東に位置する小さな島国だ。
以前は鬼倭の中でも多くの国が存在し、対立しあい、争いが絶えなかった。
私は父上である、先王とともに鬼倭を駆け回り、私の代になってようやく鬼倭を統一した。
今では巷に笑顔があふれ、侍たちは武術をみがき、平和の中で諸外国との戦争に備えている。
私は鬼倭を平和にした大王として皆に慕われ、支持が高い。
そんな私に息子ができた。一人は健彦。私に似て、武術が得意で、今(健彦は19歳だ)となっては剣術で奴に敵うものはいない。
しかし少々やんちゃ者で、こっそり屋敷を逃げ出しては、遅くまで街の者と出かけていたり、街の道場に繰り出したりしている。
悩みの種ではあるが、あれで鬼倭の者からは人気がある。まさしく鬼倭の男という勇猛さ。
それに比べ次男の乙彦(おとひこ)は静かな奴だ。
武芸や学問ばかり鍛えていて、いや、良いことなのだが、少し鬼倭の侍としては心強さとかワイルドさというのが足りない気がしてならない。
しかし優秀ではある。小さい頃から鍛錬にはげみ、いつからか煌など諸外国の外交に同乗するようになった。
なぜかはわからないが。
理由を聞いても鬼倭のためだの調子のいいことを言ってはぐらかす。
そう、奴は何を考えているのかわからない不気味さがある。
俺が引退したら健彦に王位を譲り、乙彦を外務大臣につけようという将来のビジョンがあるが、乙彦が不安であるのだ。
その不安は高まる一方だ。
「旅に出たいのです」
普段あまり俺とは話をしない乙彦が真剣な目で言ってきた。驚いたが、乙彦のことだからこういうことを言い出すとは心の中でわかっていた。
やはり、こいつはよくわからない。
「のう、父上。許してやってくれんか?乙彦はこれまでずっと鬼倭のため尽くしてきたじゃろう」
どうやら健彦を味方につけてきたらしい。健彦とは昔から仲がよかったからな。
確かに乙彦の働きぶりは年齢を考えなくても異常なほどである。そんな奴のわがままだ、聞いてやってもいい、何しろ、王位継承権は健彦の方が上だ。
しかし、
「何が目的だ?」
◇◆◇
ワシこと健彦は驚いていた。
昨日の晩に弟の乙彦がワシの部屋を訪れ、旅に出るなどと言い出した。
仮にも一国の王子、そう簡単に旅に出れるものではない。
しかし乙彦はいつになく真剣な面持ちだった。こんな弟の顔を見たことがあっただろうか。
剣術の稽古でも見せないその顔は、焦っているようにも見えた。
乙彦は旅の目的を説明しだした。
練紅炎が手にしているというジンの力を得るため、世界中に出現している迷宮(ダンジョン)を攻略すること。
ジンの力を手に入れれば魔法のような超能力を使えるようになる。迷宮の場所を知っているかと聞けばアテがあるらしい。いつそんな情報を掴んだのか。
しかし愛する弟の頼み、ワシは父上に話すのを手伝ってやると約束した。
驚いたことに、父上はすぐに許可を出した。なんでも深く考えない鬼倭の男らしさからだろうか。
というより乙彦がジンの力を手に入れることは鬼倭にとってメリットだらけだ。戦力の強化になる。
旅とはいえ、迷宮を攻略しにいくだけ。鬼倭の男は強い。すぐにでも攻略して帰ってくるだろう。
と、父もワシも思っていた。
「ありがとうございました、兄上」
国王の部屋を出て屋敷に戻る道の途中、乙彦が口を開いた。
「ワシらは兄弟の仲、気にすることはないぜよ!」
思ったことを伝えた。まだ幼い弟は、にこっと笑顔を見せた。
「…しっかし、あの堅物の父上があんなにあっさり許可を出すとはのぅ…!父上もやはり、鬼倭の男ってことかのぉ!」
父上は乙彦の旅の目的を聞くと、失敗は許されんとだけ言って、すぐに旅を認めた。
それだけ、この乙彦が実力を持っているということだろうか。
「乙彦、いつ出るんじゃ?迷宮に行くなら、兵が必要ぜよ」
「いえ、旅には俺一人で行きます」
何を言っている。聞けばあの練紅炎でさえ何千という兵を連れていったというのに。
「乙彦!それはさすがに…」
「兄上。」
ワシの言葉を遮るように、乙彦が呼びかける。
「今までお世話になりました。俺は、明日出ます。」
いつになく、落ち着いていた。
「鬼倭を、頼みます。」
一瞬、乙彦の言っている意味がわからなかった。
しかし、すぐに理解した。ワシは鬼倭の一将軍を任されている。乙彦が迷宮を攻略している間、変わりがないように、という意味だろう。
いや、そうだと決めつけ、深く考えないようにした。
去っていく弟の背中は、年齢に合わずずいぶん大きく見えた。
◇◆◇
旅立ちの日になった。というより夜が明けただけだ。
昨日は兄と父に別れを告げた。鬼倭の男らしく、あまりじっくり話さない。
さて、旅の内容だがもう決まっている。まず、船で煌帝国を目指す。
ジンの力を得るためにジュダルの力は借りない。組織に媚びを売って目をつけられるのは行動しにくくなるだろう。
なので別口で行く。
煌帝国からレーム帝国を目指す。
まずは煌に行くため船を出す。
用意周到、船はもう岸辺につけてある。船の操縦技術は、貿易船などに同乗した際に教えてもらったので心配ない。
静かだ。まだ朝が早く、皆が起きる時間ではない。日もさっき登り始めたところだ。
聞こえるのは波の音、鳥の鳴き声、それにー
「乙彦さま?」
ふいに背後から声をかけられ、驚きのあまり前に倒れそうになった。
危ない。もう少しで海に落ちるところだった。しかし、この程度で驚くとは俺もまだまだか。
「なんだ…七海か…」
振り返ると、8歳くらいの少女が立っていた。彼女は七海(ななうみ)。妹だ。
「ずいぶん早起きなんだな」
「兄上さまが今朝出ると聞きまして…」
「そうか」
かわいいなぁ。
……いかんいかん。俺にロリコンの気はないが、そっち側に引き込まれてしまいそうな気がした。
もともと、七海とはあまり話さない。なぜなら、俺は日が登っている間ずっと鍛錬をしていたからだ。
しかも、兄弟がやたら多いから、会うのも一苦労なのだ。
「乙彦さまは、」
「うん?」
「乙彦さまはいつ帰られるんでしょうか?」
返事に戸惑った。もともと帰る気はなかったが、そもそも生きていられるかすらわからない。
今ごろ、不安が襲ってくる。
笑えるな。一度死んでいるというのに、なぜ死に恐怖をいだくのか。
「すぐ戻る。しばしの別れだ、七海」
彼女を心配させる必要はない。思ってもいないことを言った。
碇を引き上げ、船を進ませる。
風はばっちりですぐ煌に着くだろう。
今まで育ててくれた鬼倭とは別れる。鬼倭は楽しかった。
俺の目的は紅玉を護る力を手に入れることだ。そう自分に言い聞かせた。
恐怖におびえている時間はない。
◇◆◇
「おい!!俺に力を貸せ!!」
倭乙彦は暗い谷底に、暗黒に呼びかけた。
……反応はない。
「俺はウーゴくんを知っている!!」
ーーー今度は反応があった。
大峡谷の反対側から"彼"は現れた
「やぁ、オトヒコ。」
ユナンー…大峡谷のマギ。俺の唯一の希望だ。
紅玉はまだ出ません笑
紅玉が見たくて見に来た方には申し訳ないです。もうしばらくお待ちください。
それまで乙彦くんの紅玉キチっぷりを見ててください笑
乙彦という名前は乙坂の乙と健彦の彦を合わせた簡単なものです