紅玉が不憫すぎるから俺が運命を変える。   作:あたたかい

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ちょっとおくれました。


第十一話『RED』

ー乙彦が紅玉と初めて出会った日の夜ー

 

 

 

「…まったく、彼には驚かされますね。」

 

練紅明は頭を掻きながらため息まじりにつぶやいた。

 

今日訪ねてきた倭乙彦。

彼とは、彼が幼い(今でも十分幼いが)頃からの付き合いである。

昔から、年齢の割にとても頭が切れて、武術の腕もかなりのものだった。しかし…

 

「まさか彼も兄王様と同じ、迷宮攻略者だったとは。」

 

「あぁ…。」

 

紅明の兄である練紅炎。

彼も乙彦と同じ迷宮攻略者であり、宿すジンは2体。

 

「乙彦殿も、彼らに選ばれ招かれたのでしょうかね?」

 

「…いや、どうだろうな。奴は自分の本心を語る気はないらしい。」

 

「…。我らの敵でないといいのですが…。」

 

「フン。奴は敵ではないとぬかしていたがな。」

 

先日の大火の一件から、煌内部に湧くようにその姿を見せるようになった【組織】。

彼らの活動は今になって始まった訳ではなく、煌帝国建国直後からちらほらとその片鱗を見せていた。

練紅炎も、【組織】の力を借りて迷宮に挑んだのだが、【組織】は紅炎たちにとっては少なくとも味方ではない。

彼らはこの国の内部を操ろうとしている。

先日の大火の事件も、【組織】が糸を引いていたのだと踏んでいた。

 

「しかし、その彼を煌の軍に入れて同盟を結ぶとは…。ほかの狙いがあると言っているような物ですね。」

 

「…。」

 

「考えたくないですが、おそらくスパイでしょうね。鬼倭はシンドバッドとつながっているなんて噂もあります。」

 

「シンドバッド…、確かに奴なら煌の情報が欲しいかもな。」

 

後に七海の覇王とも呼ばれる王の器、シンドバッド。

彼は迷宮を攻略し、商人として世界を回っている。

彼が多くの国と同盟を結び、さらには最近自分の国を作ったというのはかねてから紅炎たちの耳に入っていた。

 

「…すると辻褄があいますね。皇帝にもこれを伝えて、同盟を取り消しましょうか?」

 

しかし、こんな見え過ぎた行動、彼がするのだろうか?

こんな国家どうしの取り決め事で、わざわざスパイですと言ってくるようなことをネタに持ってくる意味はあると思えない。

 

「なにか他の目的があるのでしょうか…。どう思います?兄王様。」

 

「…………。」

 

「兄王様?」

 

見れば、練紅炎は小さいメモのような紙をじっと睨んでいた。

紙をチラッと見やると、そこにはたくさんの数字が不規則に並んでいて、文章というようなものではなかった。

 

「…そういうことか…。」

 

「兄王様…?」

 

「紅明!悪いが明日俺は出かける。軍議にも出んと伝えておけ。」

 

「承知しました。どこへ出かけられるのですか?」

 

紅炎はすっと椅子から立ち上がった。

 

「…外出の事は機密事項だ。誰にも教えるな。よいな?…心配するな、少しアホと会ってくるだけだ。」

 

そう言うと、紅炎は部屋を出ていった。

機密事項ということは、大体お忍びで街に繰り出すことなのだろうが、紅炎はそういったことは全くしない。

彼は街へ行くときは堂々と行くからだ。

 

何かと不思議なことが多い紅炎のことなので、特に気にすることではないか。

そう思い、紅明も自分の部屋へと帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

ー次の日ー

 

 

 

「…連れが先に来ているのだが。」

 

「はい。どうぞこちらへ。」

 

洛昌の大通りからは少し外れた古びた料亭。

ここにやってきたのは、鎧を脱ぎ、町人に変装した練紅炎であった。

 

 

「…!、来てくれたんですね!」

 

「…フン。…早く済ませろ。」

 

そう言って、紅炎はどかっと座敷に座る。

店員に案内された個室には、二人の先客が対面に入っていた。

一人は倭乙彦。

つい最近煌に来た鬼倭の第二王子である。

もう一人は、仮面をつけている大男。

 

 

「ここは俺が知る限りでは煌で一番安全なところなんですよ。他の客や店員には盗み聞きされることはないです。」

 

「…。尾行はまいてきてある。さっさと本題に入れ。」

 

「そうですか。…俺はあなたに会わせたい人がいるんです。」

 

紅炎がじっと乙彦の隣に座る仮面の男を睨む。

身長は180くらいで、体格はがっちりしているが締まっている。

髪は青がかった黒で、肌のいたる所に火傷のような跡が見えた。

 

火傷…。

 

 

 

「…そうです。この人こそ、先の大火で死んだと思われている、練白雄です。」

「……っ!!?…白雄様だと!?」

 

「はい。」

 

紅炎はまさか、信じられないという驚きをその表情に浮かべた。

そう、練白雄は先の大火で死んだのだ。

 

 

 

「紅炎…この顔を見ても信じないか?」

 

大男が顔を隠していた仮面を外す。

そこに現れたのは、火傷の跡と傷だらけで、しかし凛々しさを備えた顔。

その顔を紅炎は忘れるはずがなかった。

 

ふいに、紅炎は自分の目頭が熱くなったことに気付いた。

 

「…白雄様…。…ご無事で…。」

 

「礼を言うぞ、紅炎。俺と白蓮、そして白徳大帝が亡くなってから今まで、よくがんばってくれた。」

 

「…いえ…そんな…俺は…!」

 

 

 

 

 

 

「あの大火の時、この乙彦殿が金属器の力を用いて、俺と白龍を救ったんだ。」

 

白雄が言う。

すっかり落ち着いた紅炎は不思議な顔をした。

 

「俺の金属器は時間を止めるようなことができるんですよ。時間を止めて、敵に見つからず、最速の時間で二人を安全な所まで運んだんです。」

 

「…時間を止める…!?」

 

「その結果、俺は一命を取り留めたわけだ。白龍も無事だと聞いている。」

 

 

 

 

「はい…。」

 

「お前に伝えたいことがある。紅炎。」

 

白雄がじっと紅炎を見つめる。

 

「…まず、組織のことについてだ。お前も感じてはいるだろうが…。」

 

「煌の帝国化前後から姿を現しだした闇の組織…。白徳様も、白蓮様も彼らによって殺された…。」

 

「そうだ。そしてその組織を率いているのが、練玉艶だ。」

 

紅炎はうつむく。

 

「…気付いていたようだな。しかし、奴らをどうするかはお前に任せる。」

 

「…!」

 

「お前と紅明のことだ。利用することを考えているだろう?」

 

紅炎は腹の内を見透かされたように感じて、笑みを浮かべた。

白雄はそれを見てうなずいた。

 

 

「紅炎、お前に頼みがある。」

 

「何ですか?」

 

「この国を、それと弟たちのことを頼む。」

 

「……!?」

 

「世界を一つにするんだ。俺や白蓮や父上もできなかったこの夢、お前にしか成し遂げれない。」

 

「…っ!!しかし!白雄様!!」

 

「?」

 

「組織に命を狙われて、王宮に今戻れないことはわかります!しかし、あなたは煌の皇子です!!戻ってはこられないのですか!?」

 

紅炎は必死に、嘆願するようにその思いをぶつけた。

紅炎にとって白雄とは、尊敬する人物であり、目標であり、仲間であり、家族であり、救えなかった人なのだ。

 

「紅炎…。」

 

 

 

 

 

「練白雄は、死んだ。もう、これからはお前が煌を支えていくのだ。戦のない世の中を作れ、練紅炎…。」

 

紅炎は、その涙を落としていた。

白雄が彼の肩を力強く掴んだ。

 

煌の未来を任されたのは、18歳の少年なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

「紅炎に会わせてくれてありがとう、乙彦殿。」

 

「いや、白雄さんの頼みならいいんですけど、良かったんですか?あれだけで。」

 

紅炎と店で別れ、洛昌内にとってある宿に向かう道の途中。

白雄は仮面をつけながら言った。

 

「あぁ。紅徳でも俺でも紅明でもない、紅炎がこの国を仕切る。それだけ伝えておきたかった。」

 

「そうなんですか…。」

 

「それにしても、紅炎をどうやって呼び出したのだ?」

 

「…それはこれですよ。」

 

俺は小さな一切れの紙を差し出した。

そこには、“11271230”と書かれている。

 

「何だこれは?」

 

「1番街127番地、12時30分。…あの店の住所と待ち合わせの時刻。城ではどこで聞き耳たてられているかわからないので、これを握手するときに渡しました。」

 

「なるほどな」

 

 

 

 

「…これで、紅炎サマが煌滞在を許してくれればいいんですけど。」

 

「……。」

 

白雄が道で立ち止まった。

 

「白雄さん?」

 

「乙彦殿。あなたの、世界の異変を止めたい、という願いは俺も共感した。あなたは先見の明があるようだ。命を救われたあなたに仕えたいと思った。」

 

「…はい。」

 

「しかし、あなたにはほかの目的があるように思える。強引に煌に入らなくても、他の道だってあるはずだ。」

 

「…。」

 

「あなたの本当の目的を、聞かせてくれないだろうか。でなければ、忠誠を示すことなど不可能。あなたもそれはわかるはずだ。」

 

「……!」

 

見透かされていた。別の目的、紅玉を。

このことを話さなければ、彼は俺を信用しないだろう。

 

しかし…

 

 

 

「……練紅玉。」

 

「え?」

 

「俺は彼女を救うためにこの世界に生まれてきました。」

 

 

呆然、という表情を浮かべる白雄。

信用を得るため白状しようかと思ったが、余計に怪しまれているのかも。

まずい。

 

 

「俺はある事情があって、その練紅玉が悲しい目に遭う未来を知ったんです。俺はそれを止めたい。」

 

嘘は言っていない。

しかし、これを白雄は信じるのか。

 

「紅玉、というと?」

 

「今の第八皇女です。今は6歳。」

 

「あなたはその紅玉と結婚したいと?」

 

「いいえ。しかし、彼女の幸せが俺の願いです。」

 

言っていたらバカらしくなってきた。

そうだ。俺はバカらしい理由で転生してきたのだった。

白雄はしばらく考えるような素振りをしていたが、ニコと笑って言った。

 

「…乙彦殿、あなたはどうやら俺の想像を超える変人のようだ。」

 

「うっ!」

 

変人。確かに。

紅玉への思いは時空を超えるほどなので変態のレベルかもしれない。

 

「しかしあなたのその真っ直ぐな目…嘘を言っているとは思えない。」

 

「…言ってませんし!」

 

「この練白雄、あなたのその不思議な魅力に惹かれました…。ぜひ、お供させていただきたい。」

 

「も、もちろん!」

 

俺は白雄の手をしっかり握って言った。

少々バカにされているような気もするが、これで本当に白雄を味方につけたのだ。

なかなか順調だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、その紅玉殿とは会ったことは?」

 

「昨夜に初めて。」

 

「え!そうなのか!…どうでした?思いを伝えられました?」

 

「いや…。」

 

「?」

 

 

 

 

 

 

 

「緊張して、一言もしゃべれませんでした…。」

 

 

 

 

昨夜、紅玉と会ったとき。

まさかエンカウントするとは思わなかったのだ。

緊張してなにも言えず、会釈だけして足早に去った。

 

紅玉はおかっぱで、小さくて、すごく可愛らしかった。

心臓はバクバクだった。

 

 

この話をして、散々白雄に笑われたのは言うまでもない。

 




日間ランキングで見たときは2位まであがってました。

嬉しい限りです。
がんばって完走したいのでよろしくお願いします!

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