外道屋のドラゴンボール   作:天城恭助

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68 初めての絶望

 更に先に進むと開けた部屋に出た。天井も高く、そしてその最奥には巨大な球体が置いてあった。某ゲームにおいては神の眼と呼ばれる物体だ。そして、その目の前には

 

「ベジータ!」

 

 ラディッツがベジータに駆け寄った。ベジータはボロボロの状態で倒れ伏していた。ラディッツがベジータの上体をゆっくりと起こす。

 

「ラディッツか……ということは、イーヴィのやつも来ているのか」

「あぁ! 大丈夫なのか!?」

「ちっ、結局やつの言う通り……というわけか」

「何を言っているんだ?」

「いいか……よく聞け……この戦い、俺たちに勝ち目は、ない……!」

「お前らしくないじゃないか……!」

「さっさと逃げろ……」

 

 ベジータはそのまま気絶した。

 

「ベジータ!?」

「逃げたくば逃げるがいい」

 

 この声は!?

 

 唐突に上から人がゆっくりと降りてきた。

 その者の髪は金の長髪であり、後ろで束ねられていた。右手には黒い剣が握られていた。その姿は某ゲームのラスボスにして、このラスダンの主のもの――ミクトランのものだった。

 

「追いかける気はない。私は降りかかる火の粉を払ったまでだ。もっとも、イーヴィは二度と元の世界へとは帰れなくなるがな」

 

 そして、その声はベジータと同じものだった。悟空たちはそのことに驚いているようだった。

 

「なんだ? 声に驚いているのか? これに大した意味はない。ただの演出だよ。なんならこの喋り方もこの剣も服も、この空中都市ダイクロフトもそうだ」

「悪趣味ね」

 

 イーヴィは思わず口をついて出る。

 

「それをお前が言うか? 私の正体にも勘づいているのだろう?」

 

 普通なら前後が繋がらない言葉だが、推測が確かなら繋がる言葉だ。

 

「そうね。どういう理屈かはわからないけど、それ以外に考えられない。あなたは神宮寺イーヴィ。私自身よ」

 

 全員が驚く。

 

「どういうことですか?」

「言葉通りとしか……」

「その通りだ。と言っても、同じ名前では都合が悪い。この場はディザルムと名乗らせてもらおうか。元の姿にもならんでおこう。ややこしくなるからな」

「それで、何が目的なの?」

「それを聞くか? 私が元悪神がイーヴィが自分にそれを聞くか? はっはっはっはっは!!」

 

 ミクトランの姿をしたイーヴィ……いや、ディザルムは笑う。悪党の様に。

 

「嫌がらせに決まっているだろう」

 

 いつも通りだ。全員の思考が一致した瞬間だった。

 

「なら、もう十分なんじゃないですか? 僕たちが戦う必要はないじゃないですかね」

 

 悟飯はもはやここで戦う意味を失していた。イーヴィは良い人ではないが、悪い人ではない。その同一人物であるし、非道な行いでないのであれば戦う理由がない。

 

「ならん。私はそこに居る私――イーヴィの心を徹底的に叩きのめさなければならん。そのためなら、自身の信念さえ曲げよう。上のモニターを見るがいい!」

 

 ディザルムが上を指差す。モニターがあり、そこには西の都……カプセルコーポレーションが見えた。

 

「さぁ……ベルクラント発射だ!!」

 

 次の瞬間には、西の都をレーザーが襲った。巨大な爆発が起こり、その跡には巨大なクレーターだけが残った。

 

「さて、地球が更地になるまで何時間かな?」

 

 その様子を見た、悟飯が怒りに燃えた。

 

「このぉ!!」

「許せねぇ!」

「野郎!!」

 

 悟飯とラディッツと悟空は一斉にディザルムに飛び掛かった。しかし、三人同時の攻撃にも拘わらず、ディザルムは目をつむったまま、優々とかわしていた。

 

「あぁ、ちなみにだが……」

 

 悟飯とラディッツと悟空の連続攻撃が受け止められた。

 

「ベジータを倒したのは私ではない」

 

 その三人の攻撃を受け止めたのは、ディザルムではなかった。

 

「きぇっ!!」

 

 何者かが気で三人をまとめて吹き飛ばした。

 

「な、なんでてめぇがここにいやがる! ……フリーザ!」

 

 敵の正体が分かった以上、不思議なことではない。何故なら、イーヴィの神としての力はまさに万能。神龍と同じく、いや、それ以上にどのような願いも叶えられる。

 

「それはもちろん、地獄から蘇ったのさ。ラディッツ」

「ならもう一度地獄に叩きこんでやる!!」

 

 超サイヤ人となって、フリーザに飛び掛かる。が、尻尾を使ってラディッツの腕を掴んで止めた。そして、そのまま悟空たちの居る方に放り投げた。

 

「ぐあっ」

「大丈夫か? 兄ちゃん」

「あ、あぁ」

「そう焦ることはないでしょう。兄弟共々じわじわと苦しめて殺してさしあげます。そこの元悪神もね……!」

 

 フリーザが蘇り、超サイヤ人のラディッツの攻撃が容易く避けられたということは、それはとてつもなくまずい状況かもしれない。超サイヤ人より強いフリーザとなるとここにホログラムとはいえビルスが居たことからも、ほぼ間違いなくアレになることができるだろう。

 

「そう簡単にはいかないと思うぜ」

 

 悟空はフリーザの目の前に立った。

 

「ほう……以前とは雰囲気が違いますが、それも超サイヤ人ですか?」

「あぁ、超サイヤ人ゴッドっつうんだ」

「超サイヤ人ゴッド……ですか。その言葉通りだとすると神に近しい存在になったということでしょう? まさかサイヤ人の神と闘うことになるとは思ってもいませんでしたよ」

「オラもまたおめぇに会うとは思ってなかったぜ」

 

 2人は互いに歩いて少しずつ距離を詰めていく。どちらも笑みを浮かべているが、その意味は違う。

 

 互いにパンチを当てられる距離まで近づくとフリーザが先に右のパンチを仕掛けた。悟空はそれを左手で掴んで止め、仕返しとばかりに右の拳を出すがフリーザも掴んで止めた。

 気の高まりが、ダイクロフトを揺らす。

 

「フリーザの野郎……! なんてパワーをしてやがる。以前とは比べ物にならん」

「えぇ……! 底が知れないです」

 

 はっきり言って悟空に勝ち目は……ない。私――イーヴィがディザルムに勝てる可能性も……ない。だが、それは諦める理由にならない。なんとしてでも元の世界に帰る。例え全てを犠牲にしてでも。

 

 

 

 

 

 悟空とフリーザの攻防は熾烈を極めた。戦局的には悟空の方が押している。だが、悟空が必死に見えるのに対してフリーザには常に余裕が見えた。

 

「はぁっはぁっ、おめぇ……! まだ、本気出してねぇな!」

「えぇ。もちろん。本気を出すまでもなさそうですからね」

 

 悟空は既に息が上がっている。おそらく、超サイヤ人ゴッドでいられる時間も僅かだろう。

 

「父さん!」

「カカロット!」

 

 2人に手を出せるような次元の闘いではなかった。そのため、声をかける以外に悟空を手助けする手段がない。

 

 だが、イーヴィはゆっくりと逆転の芽を掴まんとしていた。

 イーヴィは気配を隠したまま神の眼に近づいていた。それには、間違いなく神としての力――エネルギーが大量に込められている。それを奪い取れば、逆転できずともまともな闘いにはなる。そして、それは目の前まで迫っていた。

 

 解析――間違いなく、これに私の持っていたはずの全エネルギーがある。これを取れば逆転するのは簡単だ。

 

 すぐに回収を……って、パスワード!?

 電子機器類において最もポピュラーなセキュリティ。

 

 そう簡単に取り戻させてはくれないか……これを間違えたら何が起こるのやら……唾も出ない身体だが固唾を飲む。

 チラリとディザルムの方を見るとこちらを見て笑みを浮かべていた。

 わかっててあえて止めない。普通なら余裕をこきやがって!と怒るのだろうが、これをしているの相手は自分だ。それをするということは、間違いなく例えこれを取り返すことができたとしても勝つ自信があるのだ。それがわかってもそれしか勝つ手段が浮かばないのでやるしかないのだが。

 

 自分が付けそうなパスワードを入力し、一呼吸おいてエンターキーを押す。

 

『パスワードが違います。後、4回間違えるとロックします』

 

 即アウトの可能性も考えたが意外と有情である。

 ディザルムはこちらをチラリとみてまた笑った。

 やはり狙ってやっているのだ。間違えても正解してもどちらでもいいと思っているからこその反応だ。それでも、ここ以外には僅かな光明さえない。

 

これだ!

『パスワードが違います。後、3回間違えるとロックします』

 

それじゃあ、これ!

『パスワードが違います。後、2回間違えるとロックします』

 

くそっ、なら、これで!

『パスワードが違います。後、1回間違えるとロックします』

 

後、一度間違えたらどうあがいても詰みだ。ならば、ここで命ギリギリまで使うしかない。自身に残った僅かな神としてのエネルギーを使い、パスワードを導きだす。

 

その答えは「a」

 

 自分に馬鹿にされている。非常に複雑な気持ちである。たった一文字、1byteである。自分の大切な何かが込められているかと思えばそんなことはなかった。元の世界での友人の名前やかつて愛した者の名を入れていたのに、こんな答えとは思わなかった。

 だが、今は苛立っている時間さえない。一刻も早く力を回収しなければ、勝ち負け以前に死んでしまう。全て回収する!

 一気に力が満ちてくる。だが、唐突に供給は止められた。

 

『これ以上のエネルギー供給には上位管理者権限が必要です』

「嘘でしょ……!」

「はっはっはっ! 中々、良い演出だっただろう? 絶望させるのに挙げて落とすのは常套手段。落差が大きければ大きいほどショックも大きかろう?」

「まぁ……私がすることだしそんなことだろうとは思ったけど……!」

 

 何をするかまではわかっていなかったが、本当に悪質である。そして、やっぱり自分がやりそうなことだった。

 

「ここで勝負を決めるぞ、フリーザ。変身しろ」

 

 フリーザのこめかみがひきつっているのが見えた。

 

「……それは構いませんが、ディザルムさん。その声で指図するのは止めていただけませんか。命令されるだけでも腹が立つのに、その声は余計に虫唾が走ります……!」

「それは悪かったな。この姿の持ち主の声をそのまま出しただけなんだが……ならば姿も変えよう」

 

 ディザルムは瞬時に見た目が変わった。その姿は、ドラゴンボールのキャラでもなければ他作品のキャラでもない。黒髪の、日本ならどこにでもいそうな至って普通の男子学生の様な姿。だが、その姿はイーヴィにとっては特別だった。

 

「あなた……本当に嫌なことをするわね……!」

「いいだろう? ここにはいない友達の姿だ」

 

 元の世界での友人。好きで飛び込んだこの世界だが、決してここで会うことはできないはずの人だ。

 

「さて、そろそろこの闘いにも飽きてきましたし、本気を見せるとしましょうか」

 

 フリーザが気を貯めている。黄金に輝くその色は、まるで超サイヤ人のようだ。

 

「はぁあああああああ!」

 

 フリーザの白い肌の色も金色に染まる。細部のデザインも変わっているが、重要なことではない。このままでは勝機がまるでない。

 

「安っぽいネーミングですが、ゴールデンフリーザとでも言っておきましょうか。あなた方であればこの姿がどれほどの強さもよくおわかりになると思います」

「……あぁ、すげぇな。これ程とは思わなかったぜ」

 

 素直に感心の声を上げる悟空。

 悟空もベジータも現状では超サイヤ人ブルーになることは叶わない。何をどうしようと無理だ。例えなれたとしてもゴールデンフリーザのパワーそのものはブルーを超えている。スタミナが少々劣っていたぐらいだ。

 

「おや、諦めたのですか?」

「? まだ諦めたつもりはねぇぞ」

「いえ、変身が解けているものですから、てっきり諦めたのかと」

 

 悟空の超サイヤ人ゴッドも解けていた。悟空は指摘されて初めて気づいたようだ。

 

「これで詰み……なの?」




さて、こっから逆転どうしましょう。一応、考えてはあるんですけどね。納得できるオチかなぁ?と既に心配です。

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