外道屋のドラゴンボール   作:天城恭助

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64 最終決戦に向けて

「元の世界?」

「私はこの地球でもこの宇宙の生まれでもない。もっと別な世界から来たのよ」

「……別の宇宙からですか?」

「いや、もっと違うもの。世界の法則そのものが違う所よ。私がこの世界に来たのは……そうね、観光みたいなものかしら」

 

未だに魔人ブウは食事に夢中になっている。悟空はある程度満足したのかこちらの話を聞いている。悟飯は最初から食事をとりながら話を聞いている。

 

「予知ではないけど、この世界の歴史というか未来のこともある程度知っていたし、色々歴史を変えて遊びに来た感じよ」

「イーヴィさん……前例がないのでなんとも言えないのですが、それはもしかしたら神の法では重罪かもしれません」

「いや、重罪だとしても帰るから関係ないし。私の世界とこちらの世界は普通は干渉できないようなところにあるからね。私の瞬間移動でも次元刀でも行き来ができないような場所だから。まぁ、この話は置いておいて今後の魔人ブウの話よ」

「そうでしたね。残念ながら、魔人ブウもあなたも私にはどうしようもないことですから」

 

 魔人ブウの方を見やるとまだ食事をしている。サタンが追加で色々と持っていっている。そこで、会話を重ね順調に仲良くなっているようだ。

 

「界王神は知っているでしょうけど、魔人ブウは元々今の姿ではなかったわ」

「はい」

 

 今更、イーヴィが知っていることに関して言うのがアホらしくなったのかその事実を知っていることに対して特に何も言わなかった。

 

「何がきっかけでその元の姿になるかわからないから、今の魔人ブウからその魔人ブウを切り離して退治したいと考えているわ」

「えええええ!! そんなことが可能なのですか!? というか、あんまりそんなことしてほしくないような……」

「後顧の憂いは断っておくべきよ。それで私もスッキリとした気持ちで帰れるわ」

 

 イーヴィとしては本当は悪のブウも誕生させてギリギリの戦いを楽しみたかったのだが、ギリギリすぎて自身の消滅する可能性が高かったので辞めた。地球人が全滅させられるとイーヴィの力は大きくそぎ落とされる。主要な登場人物に関してもかばいきれるとはとても思えなかった。悪人を除いた主要人物を殺させないがイーヴィの目標だったのでそれを選択できそうになかった。今までわざと危険にさらすこともしてきたが、必ず安全策を用意した上でのことだった。しかし、今回ばかりは用意できそうになかったため諦めた。いや、本当はないわけでもなかったが、安全策は必ず自分を起点に動かせるものに限定するこだわりがあったために思いつかなかった。

 

 ブウをどう処理するかも悩んだが、少なくとも内に潜んでいるであろう悪の部分。それをどうにかしなければイーヴィとしてはこの物語を終わりにすることができない。

 

「それが可能かどうかは、微妙なところだけど……とにかくその戦いに向けて準備をしたいと思っているわ」

「準備ですか……本当に倒せるのでしょうか」

「その心配は全くしてないわ」

 

 勝つ手立てならいくらでもある。老界王神の潜在能力開放。ポタラ。フュージョン。いずれの方法でもあの俗に魔人ブウ純粋と言われる存在を倒せるだろう。しかし、いずれの方法にせよ面白味がない。それだけがイーヴィの中で納得がいかなかった。今更、考えても仕方ないと思考を中断した。危険は冒しつつも安全策だけは何重にも用意するのが信条だ。

 

「ただ、地球でやると戦いで星そのものが壊れそうだから界王神界で戦わせてくれない?」

「な、なんですとぉ!? 界王神界に人間を連れて行くだけでも不敬極まりないのに戦わせてとは何事だ!」

「キビト。今更、気にすることではないでしょう。それに、イーヴィさんの言うことはもっともです」

「どうもありがと。それと、前にも言ったけどZソードを回収したいからすぐに界王神界に連れてって欲しいんだよね」

「確か、私のご先祖様が封印されているのでしたね」

「そう。あなたの15代前の界王神よ。その人の能力を借りれば余裕で勝てるわ」

 

 丁度、悟空たちの食事も終わったらしい。

 

「話聞いてた?」

「あぁ。でも、よくわかんなかった」

「父さん……」

 

 いつも通りである。

 

「要は今の魔人ブウは良いやつだけど、悪い魔人ブウもいるからそいつを倒したいって話」

「良い魔人ブウと悪い魔人ブウが居て……それ魔人ブウが二人居るってことか? やっぱよくわかんねぇぞ」

「もっとわかりやすく言うなら倒しておきたい強い敵がいるとだけ思っておいて」

 

 それで悟空も納得してくれた。

 

「その魔人ブウは強いんですか? そこに居る魔人ブウも相当に強いようですが……」

「悟空の超サイヤ人3でも勝つのは難しいでしょうね。それに戦闘に関する知能は回るくせしてそれ以外の理性がまるでない」

「理性がない……?」

「今の魔人ブウはお菓子を食べて楽しんだり、遊んだりそういう人間らしい感情や嗜好がある。だけど、その魔人ブウは破壊と殺戮しかしない。戦いを楽しんだりもするけど、それ以外は星を自分ごと破壊して、自分だけ再生してまた別の星を破壊することを繰り返すだけの生物になる」

 

 いきなり星ごと破壊されたら自分たちに勝ち目がない。界王神界は易々と壊れはしないそうなのでそこを戦う場に選んだ。

 

「そんなに危険なら出さない方がいいんじゃないですか?」

「さっきも言ったけど、何がきっかけでいつ出てくるかわからないから入念な準備をした上ですぐ倒してしまった方が良い。出てきた瞬間に地球を破壊されて終わりなんてこともありえるかもしれないからね」

「なるほど。後回しにしたツケを払うことになるかもしれないということですね」

「そういうこと」

 

 悟飯は理解が早くて助かる。

 

「というわけで、私は魔人ブウを分離するための準備に取り掛かるから、悟飯たちは魔人ブウを倒すための準備をお願い。戦う日は……一週間後にしましょう。集合場所は神の神殿よ」

 

 

 

 

 悟空たちは界王神界へ。イーヴィはピッコロたちに事情を説明した後、自身の研究室へと向かった。

 

 界王神界へと向かった悟空たちは大した苦も無くZソードを引き抜き老界王神を解放することに成功した。老界王神に疑問を抱かれながらも魔人ブウを倒すため、悟飯の潜在能力を限界以上に引き出す儀式を始めた。悟空は、自身の力は自分自身で引き出したいという思いや単純に長い時間じっとしているのが嫌だということもあり、潜在能力を引き出すことは拒否した。

 

 一方、イーヴィは魔人ブウから細胞の一部分を分けてもらい研究していた。

 

「……ホント、意味わかんない」

 

 本当に生物なのか怪しく思えるほど、理解しがたい細胞だった。魔人ブウの意思が介在しなければほとんどただの粘土と変わらない。その割には有機的な性質も見て取れる。元々、煙からでも再生できるような生き物なので理解しようとする方がおかしいのかもしれないが、何とかしなければ戦うこともできない。

 

「めんどくさいし力を使っちゃおうかな……」

 

 ただ、宇宙を破壊しつくしかねないような怪物に力を使って、自分の容量を超えてしまわないかが不安だった。メタ的なことを言えば、ドラゴンボールのラスボスである。要素としてはそちらの方が問題だ。法則を捻じ曲げる行為には、それ相応の代償がいる。その代償で元の世界に帰れなくなるようでは、意味がない。というより、私が困る。バビディの能力で底上げをしているとはいえ……結局のところ一番重要なファクターは元悪神たるイーヴィがどれだけ多くの人々に畏敬の念を抱かれているかによる。それを一週間足らずで増幅させる方法なんて……

 

「あるじゃん。そんな方法」

 

 むしろ、なぜ今までその方法を使わなかったのか。無意識にずる過ぎて遠慮していたのか。チートにも程がある方法があった。

 

「勝った。第三部完!」

 

 イーヴィは勝利を確信した。だが、このセリフがフラグなのはイーヴィ自身自覚があったのか、なかったのか。当人にも知る由はなかった。


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