「続いて第七試合 ヤムー選手 対 ラディッツ選手です」
両者が武舞台へと上がる。
この二人、ある意味では似ているかもしれない。原作でそこまで目立たずに消えた悪役という意味で。ラディッツの方が主人公組を圧倒し、結果的には悟空を殺しているので目立っているのだが、悟空の兄という点では影が薄い。ヤムーに関してはスポポビッチを止めたのと悟飯のエネルギーを吸収したぐらいの出番しかない。そのあとは消されるだけである。
と、イーヴィが考え事をしていたら決着していた。
当然のことながら、ラディッツの勝ちである。ヤムーは場外に顔を半分めり込ませるように倒れていた。
一瞬の出来事でほとんどの観客が見えていなかったようである。まるで編集でカットされたが如くである。手抜きなどではないよ。ホントダヨ。
スポポビッチは既にコルクが捕獲済みだし、16号にでもヤムーを回収させよう。別に保護する必要もないが、死なせる必要もない。洗脳の解除はできるかは知らないけど、この件が終わったら手を出してみるのも一興かもしれない。
武舞台から降りてきたラディッツがこちらに向かってくる。
「今度は一体何をさせるつもりだ?」
「別にこれと言ってないよ。まぁ、家族も来ているんだし張り切って良いとこ見せなよ」
「お前は……」
絶対に何かを企んでいると思い聞き出そうと思ったが、事が起きるまで予測ができないためその流れに身を任せることにした。自分を変えられてしまったが、それも悪くないと思っている自分が居て、それなりにひどい目にも遭うが、良いと思えることもある。
と、イーヴィはその思いを見越しており、良いd……ではなく部下になってくれたと喜ばしく思っていた。
「一回戦、最後の試合となります。第八試合 孫悟空選手 対 ベジータ選手です」
仲間内の誰かが固唾を飲んだ。この二人の対決は言わばとびっきりの最強 対 最強である。クウラではない。色々考えると違うかもしれないが物語的にそう思え。
仲間内ではこれが実質決勝戦だと考えている者もいるかもしれない。以前のイーヴィの大会でのことを知っている者からしたら下馬評は悟空がやや上か。
二人が武舞台に向かう前にイーヴィは二人の肩を掴んだ。
「なんだよ、イーヴィ」
「なぜ止める」
二人して非難の視線を飛ばしてくる。
「君らが全力で戦ったら超サイヤ人にならなくても被害が甚大になりかねないから制限をかけさせてもらうよ」
「何?」
イーヴィは二人に手錠のようなブレスレットを付けた。
「な、なにすんだよ」
「力を制限させる機械だよ。君らの力なら外そうと思えば外せる。気を大きく高めれば外れるからね。けど、それを外したら負けを認めなさい。それがルールよ」
「ふん。まぁ、いい。同じ条件なら負けはしない」
「オラだって、負けねぇさ」
この二人って、戦闘能力は図抜けて高いが戦術・戦略で考えると著しく低レベルな気がするのだ。本人たちの性格的にもあまり考えてないというか本能に任せているというか……これは、それを測るいい機会だ。そこを考えないからこその魅力のような気がするが、原作やアニメの内容を振り返ると悔い改めてほしいことが多々あるのだ。身体能力はいくらでも伸びるのだが、それ以外がまるで成長していない……。いい歳して成長も何もおかしな話だが。
悟空は以前にある程度は測れた、今回は主にベジータを見よう。
二人は武舞台に上がり、互いに構えを取る。
「それでは第八試合始めてください!」
開始と同時に激しい攻防が始まった。力が制限されようとその実力は一般人の押し測れるようなものではない。その高速すぎる戦いは一見してどちらが多く攻撃しているのか攻撃をくらっているのかもわからないような戦いである。
動体視力にかなり優れているものなら、時折互いに大きめに振りかぶった拳が激突する瞬間がわずかに見える程度だろうか。
悟空がベジータのパンチを腕でガードし、反撃にパンチをすると拳を掴んで止める。空いた手でパンチをすれば悟空もまた掴んで止める。
激しいぶつかり合いは、気がスパークするように散る。
こうして見ていると、単純な戦闘の技量だけで言えばベジータの方が上手に見える。思うにこれには今までの鍛え方による差が出ているのだと考えている。
悟空は今までたくさんの人に師事してきたが、教わったのは単なる技や身体能力の向上でしかないのだ。悟空の基本的な技量は義理の祖父である孫悟飯に教わった技術と経験である。悟空の技量はそれがほぼ全てである。対してベジータは誰にも師事したことがない。彼の性格的にそれができないというのもあるだろうが、それ故に考える機会が多かっただろう。教わらないが故に考えるのだ。悟空も考えてはいるがそれは直感や本能に近い。しっかり考えているからこそ、ベジータは疎かにはできないのだ。数多の戦術や可能性を。悟空の強さは自身の極限を目指す故の強さであり、ベジータは打倒の極限を目指すが故の強さ。その差だろう。それは趣向にも少し表れているように思う。戦い好きは同じだが戦いたい理由が似ているようで全く違う。悟空は自身の限界を測り、限界を超えるため。ベジータは、自身の誇りから自分が最強でありたいためだ。
自身の限界を極め続ける悟空は極限の戦いにおいて自身の限界を超えるということを何度もしてきた。そして地球や宇宙の危機をも救う。……が、それ故にこの試合には負ける。
悟空は実力が拮抗あるいは格上と対峙するとき力で相手を上回らなければ勝てないことが多い。そうなれば自明である。
悟空が気を高めるために距離を取る。
「だあぁあああああ!!」
気が炎の様に吹き上がるが……
「あっ……!」
悟空の手首に着けていたブレスレットが外れた。力を出し過ぎた故にブレスレットが外れてしまったのだ。それに気づいた悟空は気を高めるのを止め、ベジータは構えを解いた。
「ちっ……これで終わりか」
「一応、オラたちで決めたルールだかんなぁ」
互いに不満気である。ベジータとしては戦いで悟空に勝ちたいのであって試合に勝ちたいわけではない。悟空も自身の強さを極め続けるために戦いたいのであって、試合の勝ち負けは関係ない。要は不完全燃焼なのである。
「関係ない。続けるぞ。カカロット」
ベジータは再び構えを取った。
「いやぁ、でも、なぁ……オラも続けてぇのは山々なんだけどよ」
「なんだ、一体」
悟空は学はないがきっちり規則は守る。ベジータは気に食わない規則には従わない。これも性格がよく出ている。
なんとも皮肉な話である。性格的には悟空は試合向きでベジータは勝負向き。だが、戦いにおいて実は悟空の方が勝負向きでベジータの方が試合向きなのである。大抵の敵が相手にならないので、この二人の間に限っての話になるのだが。
「このまま続けてイーヴィがどうすると思う?」
「……めんどくさいことになりそうだ」
「だろ?」
と、思っていたのだがどうやら私がいるからこのルールを守るつもりらしい。私、そんなにひどいことしたかな。
「思いっきりやんのはまた今度にしようぜ」
「貴様の提案に乗るのは癪だが、その方が良いだろうな」
ベジータは構えを解き、悟空は審判の方を向く。
「審判のおっちゃん。オラ、降参だ」
「えぇー!? 孫選手、本当にそれでいいんですか!?」
押され気味だったとは言え、決定的なシーンは全くなかった。素人が見ても達人が見ても勝負の行方はまだまだわからないところにあったために疑問を抱くのは仕方のないことだ。
「オラたちで決めてたルールで負けちまったからな。それを破るわけにゃいかねぇ」
良い勝負であったが、半ばで終わってしまい残念と言った面持ちである。他多数の観客も同じようなことを思っていそうだ。
……何かすごく悪いことをしてしまった気分なのだが、本来ならここで戦うどころかベジータに結構な人数殺されるはずだったのを大幅に変えたのだから気にしないでもらいたい。
「そうですか……それではこの試合、孫悟空選手が降参したため、ベジータ選手の勝利です!」
もうちょい何とかならないかと思いつつどうにもできないので、先へ進めます。こうでもしないと一生終わらない気がします。