外道屋のドラゴンボール   作:天城恭助

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57 天下一武道会は止めさせない

パースとの試合後、そのまま悟空たちと合流し、昼食に向かった。私は食事を取る必要がないので食べなかった。ただ、相も変わらずサイヤ人たちの食欲は旺盛だった。成長期の子どもでもこんなには食わないぞ。原作よりこの場に居るサイヤ人が多いので、ここの食糧が全て尽きるんじゃないかと思った。

 

 

 

 くじ引き会場に向かうと原作通り、彼らが居た。正直、私にとってはうざったい対象でしかないので悪印象しかない。最初は不思議な雰囲気を出しているが、話が進めば一気に小物になるし……はっきり言ってしまえば嫌いである。

 界王神がこちらに寄って来る。ただ、悟空にではなくラディッツの方だった。

 

「こんにちは。あなたがラディッツさんですね」

「あ、あぁ、そうだが……どうして俺の名を?」

「噂を聞いたことがありましてね、一度お手合わせしてみたいと思っていたんですよ」

 

 この発言は地球人ではないことをほぼ自白したようなものだ。その根拠は、ラディッツは一度たりとも地球で有名になるようなことはしていない。うちの社内ではそれなりの有名人であるが、当然会社の外でそれを知るものは限りなく少ない。であれば、宇宙でのこと(恐らく、フリーザを倒したこと)でラディッツを知ったのだろう。まぁ、界王神だと既に知っているので意味のない考察だ。

 

「本選で当たるかはわかりませんが、是非握手だけでも」

「よろしく」

 

 ラディッツが握手に応えると界王神が不敵に笑う。

 

「なるほど、良い魂をお持ちのようだ」

「はぁ?」

「では、お先に」

 

 そして、キビトと界王神はくじ引き会場に向かった。

 

「何者だ? ラディッツ」

「俺が知るわけあるか」

「あ、はーい、私知ってる」

「本当か?」

「ピッコロは驚きすぎて腰を抜かすかもしれないけど聞く?」

「もったいぶらずにさっさと言え」

 

 ラディッツにも催促された。

 

「あれは、界王神だよ」

「か……! 界王神……!?」

「ん? 誰だ?」

 

 悟空は界王様と居た期間が前より少ないから知らないようだ。

 

「界王神というのは、この宇宙で最も偉い神だよ。界王様は4人いるけどその上には大界王様が居てそのさらに上に界王神がいるの」

「なんでそんな奴が地球の武道大会に来る?」

 

 ラディッツの疑問も最もだ。

 

「まぁ、普通そうなるよね。それより、ピッコロもデンデも気づいてなかったの? 地球に新たな脅威が迫ってること。それも宇宙を脅かすレベルの」

「何!? 界王神様はそれで地球に居られるのか!?」

「私は別に大会の後でもいいかと思って放置しているけどね。ついでに言えばその黒幕の手下がこの大会に参加してる」

「何故、それを言わなかった」

「相手側に厄介なのもいるけど、私の戦力でなんとかできるレベルだし、予め誰かに言う必要はないかなと」

 

 立ち回りさえ間違えなければラディッツとコルク、私でブウを復活させず完封する自信がある。面白味もなんもないのでやらないけど。

 

「とりあえず、界王神はその手下を利用して黒幕の居る場所を見つけようとしているみたいだけどそれをさせる気はないから」

「おい、相手は宇宙で最も偉い神だぞ。そんなことしていいはずが……!」

「私が問題ないと言えば、問題ない。そいつの居場所は私が知ってる。情報量も実力も私たちの方が圧倒的に勝ってる。神格以外で私に勝っているものがあるなら界王神の言うことを聞いてもいいけどそうでないなら絶対に嫌」

 

 周りがなぜか黙っていた。何か視線がおかしい。

 

「何?」

「いや、敵意をむき出しにしているのは珍しいと思ってな」

「あぁ、人をイラつかせることはあってもイラついているところを見るのはなかなかない」

 

 ラディッツとピッコロの言葉にひどく納得してしまう。

 この感情はドラゴンボールの読者であるが故の界王神に対するイラつきだろう。あの無能っぷりは見ていて苦笑いしてしまうほど、ひどい。ついでに本質は違えど神であった私的にみて神と呼ぶにはあまりに人間的過ぎる界王神を神と認めたくないのだろう。

 ちなみに地球の神は正直神としてみていない。それこそただの回復が使えるドラ……まぁ、有能なので良き隣人です。

 

「なるほどね。界王神にイラついているっていうのは図星だよ。でもそれは敵意っていうより、どうしてそんなことができないのかっていうイラつきだよ」

「一体、界王神様の何を知っている」

「色々。いつものことでしょ」

 

 全員、それで納得してしまった。ふ、実績があるとやはり違うぜ……呆れと感心が半々みたいなよくわからん顔を向けられたけどそれもいつものことだ。

 

 クリリンが催促し、くじ引き会場に向かう。ビーデルにさっきの話の詳細を聞かれたが、大会が終わったら教えると適当に誤魔化しておいた。別に私の口から教える必要はないかなぁと。

 

 

 

 本選のくじ引き――本来であればそのままやる方が良いのだが、予測できないところで天下一武道会が中断させられる可能性があるのでくじに細工をすることにした。

 

 と言っても、大体原作通りにするだけである。順番は多少入れ替えたが。サタンに優勝させることを考えつつ、スポポビッチ及びヤムー、ついでに界王神やキビトに邪魔させはしない……私が言えたことじゃないが天下一武道会目的じゃないやつが多いな。

 

 この大会……物語に絡まないモブが存在しない故に脇役から蹴落とされていきそうである。いや、実力的にも必然なために仕方のないことではあるのだが、それにしたって予定調和という感じが否めないのである。

 

 ちなみに私の一回戦の相手はクリリンである。クリリンは「げっ!」と嫌そうな顔をされた。確かに実力は私の方が上かもしれないが、さすがにその反応はひどい気がする。

 

 モブを私やラディッツ、トランクス、悟天で埋めただけみたいなものだが以下対戦の組み合わせである。

 

 第一試合 クリリン VS イーヴィ

 

 第二試合 マジュニア VS シン

 

 第三試合 孫悟天 VS トランクス

 

 第四試合 キビト VS グレートサイヤマン

 

 第五試合 18号 VS ミスターサタン

 

 第六試合 ビーデル VS スポポビッチ

 

 第七試合 ラディッツ VS ヤムー

 

 第八試合 孫悟空 VS ベジータ

 

 重要となるのはやはり第四試合だろうか。強さ的には圧倒的に悟飯だが、乱入者が気になるところだ。その前のトランクスと悟天に反応しても良さそうだが、見た目からスルーされる可能性もある。そこは観察してみるしかないだろう。しかし、界王神はどうやってあの状況にするつもりだったのだろう。下手をすれば、悟空たちに一回戦で当たることができずに悟空たちがスポポビッチ達をノックアウトしてしまう可能性さえあったはずだ。尋問すればいいとも思うのだが……むしろエネルギーを与えることがない方法なのでむしろ推奨されてもいいぐらいなのだが……やはり、界王神は無能……それはそれとして私は私の思うようにブウ編を進めて界王神が狼狽している姿でも見て楽しむことにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「みなさん! 大変長らくお待たせしました! 早速、第一試合を始めていただきましょう。まずは、神宮寺イーヴィ選手対クリリン選手です!」

 

 審判の人がお互いの紹介を始める。私はセルの件もあるので人気である。歓声が上がり、悪くない気分だ。クリリンはくじ引きの時こそ嫌そうな顔をしていたが、そんなに気負っている様子はなさそうだ。ちょっと楽しもうぐらいの感覚しかないのだろう。家族もいるし悪くないと思う。勝負を譲る気はないが。

 

「それでは試合を始めてください!」

「お手柔らかにお願いしますよ、イーヴィさん」

「ま、ほどほどにね」

 

 互いに距離を一気に詰めて、拳がぶつかりあう。

 拳をぶつけ合って感じるのだが、やはり武道を離れて衰えてしまっているのだろう。悟飯との落差に比べたら微々たるものだが、やはり落ちるものは落ちる。セル編で既にそうなっているのだが、戦力外である。ブウ編での出番はほぼ石にされるためにあるようなものだ。だが、私のシナリオにその役目は必要ない。

 ドラゴンボールにありがちな連続の攻防でじわじわと追い込み、クリリンの頬に強烈なパンチをくらわせる。クリリンはそのまま場外に落ちた。

 

「場外! イーヴィ選手の勝ちです!」

 

 悲しいかな。クリリンがモブの役割を引き受けてしまっている……私が元凶なので悲しむ権利もないかな。

 

 

「続いて第二試合、シン選手対マジュニア選手」

 

 ピッコロは審判が入場を言う前に近づく。

 

「すまない。棄権する」

「棄権……戦わないんですか?」

「そうだ」

 

 ピッコロは戦う直前まで迷っていたようだが、やはり界王神とは戦いづらいようだ。ピッコロの中の神様のせいで拒否反応でも出ているのだろう。閻魔大王に対してあのへりくだり様だ、界王神なぞまさに雲の上の存在。強さは自分が上であろうと恐れ多く感じてしまうのだろう。

 

「マジュニア選手は棄権しましたので、シン選手の不戦勝となりました!」

 

 さて、ここからどう変わるかな?

 

「続いて第三試合、孫悟天選手対トランクス選手です!」

 

 トランクスと悟天の二人が武舞台に上がると観客席からどよめきが走る。それもそのはず、武道会のルールとして15歳以下は少年の部に参加しなくてはならない。一応、私から解説を入れておこう。

 審判の人からマイクを借りる。

 

「みなさん、この二人がどうして少年の部に参加せずここにいるか疑問に思っていることと思います。この二人がここに居る理由は単純です。この二人は圧倒的に強いからです。もし、この二人が少年の部に参加していた場合間違いなくこの二人のどちらかが優勝すると確信をもって言えます。それではあまりにその他の子どもがそして、ほとんど実力の出せないこの二人がかわいそうです。そのため私はこの二人が大人の部に参加することを許可しました」

 

 観客の反応はそれほど悪くない。信頼と知名度というやつは本当にすごい。私からの説明というだけで、ある程度は納得してもらえる。まぁ、実際に見てもらえばこの二人が少年の部に参加するということがどういうことかが理解できるだろう。実際、原作でもほとんど省かれたし。

 

 審判の人にマイクを返す。

 

「それでは、孫悟天選手対トランクス選手! 試合を始めてください!」

 

二人のやり取りは原作と大差なかった。軽い攻防からの気功波のやり取り。

 だが、この舞台は大人の部であり、あの二人がその試合を見ていた。

 

「おい、あのガキ」

「だが、そこまでのエネルギーでもないぞ」

 

 普通に戦っているだけでは標的とみなされないのか、まだ襲う気はないようだ。少しでも多くエネルギーを集めた方が良いだろうに何を躊躇しているんだか。効率厨かな?

 その後、悟天とトランクスは原作と同じように超サイヤ人になったが、スポポビッチとヤムーが動くことはなかった。超サイヤ人になるのが一瞬過ぎてエネルギー測定器で拾えなかったのだろうか。

 結局、この試合の勝者は何事もなくトランクスとなった。

 

 

 

 

「続いての第四試合はキビト選手 対 グレートサイヤマン選手です!」

 

 武舞台に上がり、試合開始が宣言される。キビトは悟飯に超サイヤ人になるように言った。

 

「あいつ悟飯に超サイヤ人になれって言ってるぞ」

「無駄だよ。私がなるなって釘を刺しておいたからね。何が起こるかわかってるのにさせるわけないって、ねぇ界王神」

「あ、あなたは一体……!」

 

 キビトは少なからず動揺しているようだ。もう少しすんなりと、ことが運ぶと思っていたようだ。

 

「仕方ありませんね……キビト!」

「……棄権だ」

「へ? あなたもですか!?」

「そうだ」

「キビト選手が棄権したため、グレートサイヤマン選手の不戦勝となりました」

 

 キビトと悟飯が武舞台から降りてくる。

 

「キビトを下げたのはいい判断だね。キビトの能力は色々と役に立つ。ここで怪我をされたらもったいない」

「キビトのことまで……神宮寺イーヴィ、あなたの存在は把握していました。しかし、あなたは得体が知れなさすぎる!」

「私は私よ。神宮寺イーヴィという名の元悪神。外道屋社長という肩書もある。ま、別にあなた達の敵ではないよ。それにこちらからしたらそれはこっちのセリフだしね。私は知ってたけど」

「どういうことかいい加減説明しろイーヴィ。貴様といえど不敬が過ぎるぞ」

 

 痺れを切らしたのかピッコロさんが質問してきた。意外と界王神擁護してるし。

 

「界王神たちがやろうとしていたことは悟飯をエサにしてバビディの配下を釣ることでしょ。そして、それを追って本拠地たる宇宙船を見つけること」

「……その通りです。あなたは一体どこまで知っているのですか!?」

「まぁ、とりあえずほぼ全てのことかな。多分、君よりずっといろいろ知ってる。今のバビディの戦力から魔人ブウが復活した時の脅威までね」

「そ、そんな馬鹿なことが!」

 

 キビトたちが戻ってきて口を挟んできた。

 

「もういいから。君たちの目的に関しては私が叶えられる。この大会が終わった後にでもね。だから、それまで大人しくしていてよ」

「貴様……!」

「キビト!! お止めなさい。私にはまだこの者の言うことの全てを信ずることはできませんが、一つだけ確信が持てました。この者と敵対すれば、恐らく魔人ブウは復活してしまうでしょう。違いますか?」

「ま、どうなるかわからないけど大会が終わったら協力はするよ」

 

 目的を叶えられると言っただけで叶える気は全くないけどね。

 

 それに、私の行動が読めていなかった時点で界王神に私の心を読むことはできないことに確信が持てた。これで悪だくみに気づかれることはない。いつのまにか消えていた設定のようにも感じるが……その辺は気にしたら負けかな。

 まぁ、ブウのことに関しては天下一武道会が終わってから追々考えていこう。プランもある程度は練ってある。全力で楽しむためのね。


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