外道屋のドラゴンボール   作:天城恭助

56 / 71
結末の予定が少々変わってしまいましたが、これも今後に必要なことと割り切ってやってしまいました。


54 天下一武術会本戦 EXTRA

 天下一武術会は孫悟空の優勝で幕を閉じた。しかし、イベントはまだ一つ残っていた。

 

 イーヴィは、悟空のいる武舞台に現れた。

 

「悟空、優勝おめでとう」

「おぉ。ありがとな」

「優勝賞金は、振込……って、口座がなかったね。まぁ、後日送金させてもらうよ」

「それよりよ、早くやろうぜ」

 

 悟空は待ちきれないといった様子だった。

 この戦闘民族は……とイーヴィが内心呆れる。軽く流して説明したのをちゃんと聞き逃してはいなかった。優勝したものには私と戦う権利を得るということを。

 

「私は約束は破るけど、契約を違えることはしないわ。ちゃんと戦うからまずは傷を治しなさい。ほら、仙豆あげるから」

 

 イーヴィは仙豆を投げ渡す。

 

「サンキュー」

「戦うにあたって場所を変えるわよ。ルールは武術会と同じだけどね」

「あぁ」

 

 移動した場所は、今までと同じような武舞台だった。ただ、壊される前のきれいな状態というだけにしか見えない。互いに武舞台に上がり、向かい合わせになる。

 

「戦う前に一ついい?」

「なんだ?」

「正直な話、私はあなたに勝てない」

「やってみなくちゃわかんねぇだろ。オラが勝つつもりではいるけどよ」

 

 負けるつもりで戦うやつなどそうはいない。イーヴィも孫悟空に勝てないという話をしたいわけではない。

 

「別に勝てないから止めたいとかそういう話じゃないの。この戦いのルールのことなんだけど、天下一武道会に比べてルールが緩いでしょ」

「武器使えたりすることか? オラは使わないけど別にいいんじゃねぇか?」

「さっき私は勝てないと言ったけどそれは天下一武道会のルールの場合はってこと。ここでのルールなら勝つ自信がある。というか、本当にルール無用の勝負だったら私は絶対に負けない」

「一体、何が言いてぇんだ? わかんねぇって」

「要は、全力は出さないけど勘弁してねってことよ」

「そっか。ならよ、全力を出させてやる」

「たとえ私がどんなに危なくなっても全力を出すことはないと思うけどね」

 

 イーヴィが全力を出すということは、それ即ち終わりを意味する。イーヴィの全力は神龍に願いを叶えてもらうこととほぼ同義。それを起こすためには相応のエネルギーが必要だが、全ての過程を省略し結果だけをたたき出す。それを楽しむための戦いで使うなど面白みに欠ける。命を捨てることになるぐらいなら使う心づもりだが、たかだか試合で使う気は全くなかった。

 

「なんだよそれ……まぁ、いっか。リベンジといってみっか!」

「そうね。受けて立つわ。ま、今この場で私が言うのも変だけど……天下一武術会、特別試合開始!」

「はぁっ!」

 

 イーヴィが試合開始を告げたのと同時に悟空はイーヴィに飛び掛かった。と、同時にイーヴィは懐から大口径の銃を取り出す。どこぞの吸血鬼が使っていたような普通の人類には使えない銃だ。だが、それでもこの世界の最高峰の実力を持つ相手には話にならない。

 

「パァンッ」

 

 という、言葉とともに発砲する。悟空はそれを軽々と避けた。気弾より速いと思うんだけどなぁとそんなことを思いながら、もう一度撃った。それも悟空は悠々と避け、イーヴィの目の前まで迫った。

 

「ぐわっ!?」

 

 ところが、悟空は背後から攻撃をくらい驚いて後ろを見る。

 

「隙だらけよ」

 

 拳銃の持ち手で悟空の頭を叩きつける。衝撃で銃が壊れて、バラバラに分解された。

 

「余所見は厳禁よ。と言っても、私は相手の裏をかくのは好きだから前だけ見てても危ないかもね」

「おぉ~……! 痛ってぇ~」

 

 後頭部を抑えて、屈む悟空。

 

「一体、どうやって後ろから……」

「この会場、今までと同じように見えるけど仕掛けがたくさんあるのよ。私の攻撃をサポートしたり、攻撃をする仕掛けがね」

「そりゃ、さすがにずりぃぞ」

「私がルールだから問題ない」

 

 ドヤ顔で答えるイーヴィ。相手が生きるのに支障をきたさない範囲内で嫌がらせをすることに関しては全力を尽くす様な元神だ。それは相手が物語の主人公が相手でも変わりない。

 

「ちくしょー……」

「さて、次はどうする? 私は何が来ても対応できる自信があるよ」

 

 悟空に聞こえないように小さく「超サイヤ人4とかゴッドにならない限りは」と呟く。イーヴィの中で悟空が超サイヤ人3になったのは、意外ではあったが想定の範囲内の出来事であった。それくらいでなければこの世界の主人公はやっていけない。だが、自分を上回らせる気は欠片もなかった。それでも、主人公というのは予想を超えて強くなるものだとも思っていた。故に、余裕を見せつつも気は抜けない。

 

「それじゃ、ま、とりあえず……!」

 

 超サイヤ人2へと変身する悟空。設定上は通常時のおよそ百倍の戦闘力になることになっているらしい。ただ、実際のところそこまで上がっているかは疑問が残るところはある。

 何故なら……

 

「はぁっ!」

 

 再び攻撃を仕掛けてくる悟空に対し、新しく懐から出した銃で捌く。もう片方の手でもう一丁取り出し、悟空の顔めがけて発砲する。悟空は上体を反らして避け、そのまま蹴りを入れてくる。イーヴィは腕でガードをしつつ後ろに後退する。

 

「一応、真っ向勝負できなくはないのよね」

 

 それこそが超サイヤ人2が通常時の百倍も戦闘力が上がっているのか疑問に感じる理由である。悟空の素の状態でもある程度苦戦する私が、変身することによって大きくパワーアップしている悟空に普通に戦えている時点でおかしいのだ。本来なら一方的にやられてしまってもおかしくない。この現象はこの世界が物語であるが故の作用であると考えている。どんな作用でそうなっているかはわからない。私はこの世界へ自分の発明品で来ているわけだが、自分の創ったものの原理を完全に把握しているわけではない。過程を省略して結果を出せてしまうが故の弊害だ。過程が分かっててわからないことも多々あるが。

 

「真っ向勝負できても勝てはしないんだけどね」

 

 小さくぼやいてしまう。本当はできなくもないが、悟空を真っ向勝負で倒すには神としての力をどれほど使い果たさなければならないかを考えると嫌になる。ロマンのためだけに命を削りたくはない。

 

「何、ぶつぶつ言ってんだ?」

「なんでもないよ。そろそろ本領発揮してみようかと思っただけよ」

「お、ホントか!? いまいち真剣にやってるように感じなかったからよ。それなら嬉しいぜ」

「そんなつもりは全くないんだけどね。久々に生身だし」

 

 銃で戦っているため、生身である必要はないのだが、身体機能を強化するのであれば生身の方が都合が良かった。俊敏性を高めるためだけならそこまで力を使う必要がない。捌くのは技術力の問題であって力はそこまで必要じゃない。問題は攻撃力だけだ。ダメージを与えることはできても決定打が一つもない。イーヴィが神としての力を使わずに出せる力は初期のベジータ辺りが限度だ。これでも頑張って鍛えたのである。でも、鍛えて力を上げても生身を神の力に還元してまた生身にするとまたゼロスタート(少年時の悟空ぐらい)なのである。維持にも力を消費する。しかも、還元しても100%還ってこない。これが、イーヴィが普段生身になりたがらない理由である。

 

「いつものやつの方がいいんじゃねぇのか?」

「機械の身体だとどうあがいても勝ち目が薄いのよ。戦闘中に力を高めるってことができないしね」

 

 機械の身体である場合、強化はできるが戦闘中には不可能だ。いや、力を使えばできなくもないがそうするなら生身の方が断然変換効率が良い。悟空と互角以上で戦えば確実に悟空は戦闘中に強くなる。それを上回って倒すには、戦闘中に力を上げるのは必須だ。

 

「イーヴィがそう言うならいっか。それなら再開といこうぜ」

「そうね。さぁ、来なさい」

 

 二丁拳銃を構えて待つ。

 

「……よし。っとぉ!?」

 

 再び悟空の背後より射撃されたが、それを何とか避けた悟空。

 

「おぉ~よく避けたね」

「そりゃ同じ手は……うぉ、とっとっとっぉ!」

 

 今度は壁や天井、床に至るまで大量の銃口が向き上下左右から入り乱れるように撃たれ、悟空はそれを躱し続けた。最早、武舞台の上に人が居られる隙間はない。

 

「なっんで、イー、ヴィは、こん、な中、じっと、してられん、だ?」

 

 息をつく間もなく、避け続けているために絶え絶えにしゃべる悟空。

 

「私はこの銃撃全ての軌道を把握しているから、最小限の動きで避けられるのよ。仕掛けた本人が対処できないようじゃ間抜けじゃない」

 

 イーヴィは直立不動のように見えたが、時折足や腕を動かして銃弾の嵐をすり抜けていた。

 

「当然この弾幕を避けるのに必死なあなたは私の攻撃を躱すのは更に困難なわけで……頑張ってね」

 

 まるで他人事のように手に持つ銃を悟空に向けて発砲する。悟空は避け続けるなか更にそれを避けることは叶わないため最小限の動きで指を使って掴んだ。

 

「残念。掴むのもダメなんだ」

 

 悟空が掴んだ銃弾は、爆発した。それは小さな爆発であったが、悟空の体勢を崩すには十分な威力だった。一度体勢が崩れれば、降り続ける銃弾は避けられない。一度捕まれば、銃弾の豪雨から抜け出すのは困難だ。というより、普通の人間ならば一秒も立っていられずに即死なのだが、サイヤ人にそれを当てはめるのは野暮というものだ。だが、身体が丈夫で銃弾で風穴が開かないと言っても、特別性のそれはサイヤ人相手であっても、普通の人間に投げて小石をぶつける以上のダメージはある。大した事ないように感じるかもしれないが、それが豪雨のように続いたらどうなるだろうか。考えるまでもなく大怪我ないし、運が悪ければ死ぬだろう。

 

「ぐあぁあああ……!」

 

 悟空は亀のように丸くなり、当たる部位を最小限に抑える。それでも上下左右から放たれる銃撃は一部の隙もなくダメージを与える。

 

「我ながらせこい手だけど、私の領域内だし、これぐらいのハンディキャップないとね」

 

 イーヴィは追撃して勝ちを取りに行くことも考えたが、悟空はまだこの状況を打開していない。ただ勝つのも負けるのもイーヴィの中では許されないのだ。何かを得なくては、この大会を開いた意味がない。ただ単に自分が楽しみたいというのもあるが。

 

「ん?」

 

 悟空の動きが止まっている。耐えるために同じ格好のままになることはあるが、攻撃をくらえば僅かなりとも身体は動いてしまうものだ。今はそれすら見受けられない。

 

「…………やばっ!!」

 

 咄嗟に防御の構えを取るイーヴィ。

 

「だぁああああああああああ!」

 

 悟空は気によって爆風を起こした。武舞台のタイルは剥がれていき、天井は悟空の立ち昇る気の圧に耐え切れず吹き飛び、壁は剥がれたタイルが激突し暴風によって根こそぎ取り払われた。

 肝心のイーヴィは多少のダメージを負い、手に持っていた銃も破壊されたものの大きな傷はなかった。

 

「ふぅ……やっと防げた」

 

 道着の砂埃を払う悟空。イーヴィは茫然と立ち尽くしていた。

 

「あ、あははは……力技でどうにかするかもなぁ、とは思ってたけど根こそぎ持ってかれたよ……この大会で一番金かけたのに」

 

 この戦いでしか使う予定はなかったもののそれでも勿体ないと思ってしまう。

 

「なんだよ、これでおしまいなのか?」

「いや、損失金額に目も当てられないだけよ。別に勝つ手段を失ったわけじゃないわ」

 

 この一瞬のために国家予算分ぐらいは吹き飛んだじゃなかろうか。それでも手はまだある。全力を出さずとも余剰分のすべてぐらいはここで使っても良いはずだ。

 

「ふっ!」

 

 どこぞの弓兵や正義の味方のように両の手元に先ほどと同じような銃を作り出す。彼らが作り出すのは(偽物)であって、イーヴィは(オリジナル)を作り出すことだが、やっていることは同じようなものだ。

 

「そんなこともできるんか」

「お望みならいくらでも」

 

 ピッコロさんも服や剣を魔術?で作り出していたが、あれは結局どういったものなのかは謎だ。意外とキャスターになれそうな人物たちである。

 

「それじゃ、第二ラウンドといってみる?」

「あぁ!」

 

 イーヴィは悟空が返事したのと同時に両手に持った銃を連発する。悟空はイーヴィに真直ぐに直進しながらも全て避けている。イーヴィの持つ銃のデザインならば本来の装填数は6発ほどだが、撃った矢先に新しい銃弾が補填されているため関係なかった。それでも悟空に対して意味を成していないが、その銃弾は普通の弾丸ではない。先ほどと同じように爆発するようにできていた。それも先ほどの数十倍は破壊力があるものだ。

 背後で爆発すれば避けようもない。が、悟空は気にせず直進してきた。むしろ、爆風で少し速度上がっている。

 力強い右の拳は、一撃でも当たれば大ダメージは必至。いつものように外に反らすように捌く。しかし、いつまでも同じようになる悟空ではなかった。手を開いて外側に向けて、エネルギー波を放出。力技で内に戻してきた。裏拳のような形でイーヴィの頬に直撃した。

 

「やっと、一発当たったぞ」

 

 吹き飛ぶ中、空中で受け身を取って無事着地する。が、その後膝をつく。

 

「あぁ……ふらふらする。軽く脳震盪でも起こしたかな?」

「痛っ……」

 

 悟空もかなり無理な体制からの攻撃だったために肩を痛めたようだ。

 

「力技、好きだねぇ。私もロマン砲大好きだけどさ」

 

 この世界の住民はロマン砲大好き過ぎる気がするのである。このタイミングではそれしか勝つ手段がないというのも無きにしも非ずなのだが、それにしたって頼りすぎな気がするのである。

 

「別にそんなつもりはねぇぞ。ただ、こうやれば防げる、当てられるってのを実践してるだけだ」

 

 ただの戦闘馬鹿なのか天才過ぎるだけなのか。どちらにしろ生身のイーヴィにはできない芸当だ。マネしたくないだけとも言う。

 

「そんな力技使うんだったら、私も力技でいくよ」

 

 銃を創り出しては空に放り投げ、空中に固定する。光がその銃口の一つ一つに収束してゆく。

 

「対策するなら今のうちだよ」

 

 イーヴィがしようとしている攻撃はコルクの使用したジェノサイドブレイバーやワールドデストロイヤーを上回ることを予感させられた。そのため悟空は、攻撃を先に仕掛けてイーヴィの攻撃を潰すか、気を底上げして防ぐ選択を迫られた。悟空が取った選択は、前者だった。

 

「はぁっ!」

 

 その気合の一声の一瞬で超サイヤ人3となった悟空は突進を仕掛けてきた。そのためにイーヴィは出力を最大まで溜める前に放たざるを得なくなってしまった。

 

「発射!!」

 

 大量の大口径の銃が閃光をまき散らす。最大まで溜めてあったのなら一発一発が星すらをも破壊しかねないほどの威力。最大とまではいかなかったためにそこまではいかないがそれでも人一人を壊すには十分すぎる威力だ。むしろ、オーバーキルにも程がある。

 全ての銃の閃光が一つにまとまり極大なものへと変わる。その大きさは地球さえも飲み込んでしまいそうな巨大さだ。巨大であるため逃げることも避けるということはできない。悟空はそれに対して気を全力で引きあげて、抑える。

 

「く……く……!!」

 

 そのままの状態で悟空は耐え続けた。少しずつ押されている。だが、イーヴィは映画でのクウラとの戦いのように押し返してくるだろうと思っていた。危機に陥ってもそれを覆すのがヒーローというものだ。それが孫悟空だ。だが、イーヴィの予想は悪い方向に覆された。

 

「ぐ……ぐぐぐ……ぐわぁああああ!」

「あれ?」

 

 悟空は閃光に飲まれた。その巨大さゆえに莫大なエネルギーを持つそれをくらうということは、死ぬ可能性が高い。閃光が通り過ぎた後は、何も残っていない。ぼろぼろになった悟空を除いては。

 

「ちょっと、悟空!?」

 

 イーヴィは悟空に駆け寄った。悟空の超化は解けて、気絶していた。

 こんなつもりではなかった。悟空なら易々とこの危機を乗り越えてしまうのだろうと考えていた。危なくてもなんとかしてしまうだろうと。超サイヤ人3になった悟空は、原作内では最強格だと言って差し支えないだろう。それが思った以上にあっさりと倒せてしまったのだ。

 

「死んでは……いないか。よかった……」

 

 主要人物を殺さないように立ちまわっているのに自分で殺してしまっては本末転倒だ。

 

「でも、そうか……私が主人公を」

 

 倒した。倒してしまった。それも思ったほど力を使わずに。

 主人公というのは特別なものだ。主人公が全く負けないなどということはないが、ここまで手ごたえがないとは思わなかった。これは相当に神の力蓄えられていると考えてよい。

 イーヴィは言いようのない興奮を覚えた。激しくもなく冷めてもいない、内側から少し熱くなってくるような感覚。

 

「ふふっ」

 

 笑い声がこぼれる。そんな意図はなかったはずだった。勝つつもりもあった。それでも予想以上にうれしく感じた。

 

 

 

 

 

 

 だが、この事実はあまりよくなかったのかもしれない。後々、イーヴィはそのように思った。きっとこれが遠因になってしまったのだと、これが自分を調子に乗らせたのだと。この出来事が起きなければ良かったのだと、数年後思い知ることになる。




一応、これにてオリ編は終わりです。次回からブウ編に入りますが、相変わらずいつ更新できるかはわかりません。
早く書けたらいいな。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。