『それではみなさん準備はよろしいですね? よーい……スタート!!』
イーヴィの開始宣言と共に花火が打ち上げられた。
参加者はドームの中にどんどん入っていった。ドームの中に入るとすぐさまいくつもの分かれ道が現れた。
「それじゃあ、全員違う道を行こうぜ」
「当然だ。貴様らと一緒になんて行けるか」
悟空たちは、早速バラバラに行動を始めた。
そんな中イーヴィは数多ある監視カメラで参加者一人一人を観察していた。
「早速、みんな分かれたか」
イーヴィは、全員がどんなルートを辿るかを確認していた。
このままだと、悟飯以外は面白いことになりそうだ。悟飯の辿るルートは面白くなさすぎるから私が手を加えようかと悩むぐらいだ。
イーヴィは悟空たちであろうと簡単に予選を通過させる気はない。というより、普通の予選では軽々と突破されてしまうから迷路という変わり種にしたのだ。罠などのギミックが好きだからというイーヴィの趣味も含まれている。
ピコーンと、イーヴィに悟空たちの誰かが罠に掛かったことを知らせるアラームが鳴った。
「お、早速、誰かが掛かったみたい♪」
モニターを覗くと、悟空が罠に掛かっていた。
悟空の右足首に鎖が巻き付いて先に進めなくなっていた。
「ぐぬぬぬ……!! 駄目だ……びくともしねぇや……」
通常の鉄では、素のパワーで引きちぎられてしまうがそう簡単に抜け出されては面白くない。超サイヤ人になられたら流石に破壊されてしまうが……とイーヴィは思っていると
「仕方ねぇな。はぁああああああ……!」
超サイヤ人になろうとする悟空。
『ちょっと待ってぇ!!』
「あれ? その声、イーヴィか?」
『その鎖を外すにはちゃんとルールがあるんだから、力づくでなんとかしようとしないでよ』
「そうなんか?」
『ほら、目の前にモニターが出てるからちゃんと確認して、クリアしてね』
悟空は言われた通りにモニターに表示されている課題を見る。
「………………わかんねぇ」
モニターには一次方程式や図形などの中学生レベルの数学の問題が表示されていた。問題数は50問。合格ラインは8割正解。悟空は亀仙人のところで、多少の勉強をしていたものの小学生レベルの学力しか持ち合わせていないのでわかるはずもなかった。当然、イーヴィはそんなことはわかっていたので解けない場合は、救済措置として勉強することが可能になっていた。これで、悟空は制限時間ギリギリの勝負になることだろう。
しばらくは動けなさそうなので、イーヴィは画面から目線を外しベジータの方を見る。
「はぁっ!」
危険度の高い罠を破壊しながら突き進むベジータの姿があった。これもイーヴィは予想済みではあったが、それなりのお金と労力をかけて作ったものをこうもあっさり壊されてしまってさすがに凹んだ。丸鋸や包丁などが飛び交う中をエネルギー波などで容赦なく破壊されたのだ。傍にいた一般人は、罠の恐ろしさ以上にベジータの動きに恐れて早々にリタイヤしていった。
そして、ベジータは予選開始から30分も経たないうちにゴール手前まで来てしまっていた。だが、イーヴィが易々と通過させるわけもなかった。
一際、大きな扉の前に立つとゆっくりと扉が開いていく。その先に人影が見えた。
「ようやく門番というやつか……」
そして、その場所にいたのは……
「げっ……ベジータかよ……!」
クリリンであった。ちなみにクリリンは既に武道家を止めており、髪の毛が生えている。18号と一緒に暮らすこともできていた。
「ふん……お前が相手では話にならんな」
とか、言いながらやる気満々のようで構えを取るベジータ。
「ちょっ、ちょっと待てよ! 最初の説明で言ってただろ! 門番の作った勝負をクリアしたらゴール。つまり、予選通過だって」
「そんなことはどうでもいいだろう。貴様を倒しさえすればな」
闘志むき出しのベジータに若干ビビるクリリンであったが、どちらかと言えば審判にも近い立ち位置であり恐れる必要はないと考えなおす。
「いいのかなぁ……この場でのルールは俺に委ねられているから俺の気分次第で失格にできるんだぞ」
「そんなことをしたらぶっ殺してやる!」
「じゃあ、失格に……」
「ま、待て! わかった……その勝負とやらに勝てばいいんだろう。さっさと言いやがれ」
荒々しさは全く変わらないが、ベジータにしては随分丸くなったようである。ルールに従っている時点でもうだいぶ変わったと言えるだろう。
「それじゃあ俺との勝負はカラオケ対決だ」
「…………」
数秒の沈黙が訪れた。ベジータにとっては予想外もいいとこだろう。両者共に中の人は歌が上手いが設定上はどちらも下手だ。原作にその描写は一ミリもないが、そういうことになっている。そういうことにしておこう。
「ふざけるな! サイヤ人の王子であるこの俺に歌えと言うのか!?」
「この勝負を受けないなら失格になるだけだから別に歌う必要はないぞ」
ベジータが本戦に拘っているとみて強気に出るクリリン。イーヴィから報酬と安全を確約されている以上仕事はしっかりとこなさなくてはいけないと、意外と真面目な彼の性格が出ている。時々、臆病なところが玉に瑕だが。
「ちっ……仕方ない。ならば聴かせてやろう! 超エリートサイヤ人の圧倒的歌唱力を!」
…………………………
……………………
………………
…………
……
…
結果
ベジータ 得点 65点
クリリン 得点 70点
「何故だ!? 少なくともあのむかつく歌よりは良かっただろうがぁ!!」
ベジータの歌といえば「ベジータ様のお料理地獄」を思い出す。他にもベジータが歌っているものはあるが一番の有名どころだろう。あれはキャラソン?でほとんどセリフでギャグなあれを歌と言っていいのか微妙なところだが、歌唱力は高いと判断できるものだろう。しかし、後に映画で「楽しいビンゴ」なるものを歌い、ビルスから下手と言われている。つまりは後者の設定が適用されてしまったわけだ。
「俺に言われても機械が判定してるからなぁ」
クリリンの方は実はそんなに勝ちたくはなかったものの普段通りに歌っただけだった。
クリリンの歌と言えば某映画で歌っていた「翼をください」に独特のアレンジを加えたものだ。リズムはともかく音程は取れているし、あの独特のアレンジさえなければもう少し点数が伸びるだろう。
「その機械に何か細工しているんじゃないだろうな!」
「し、してねぇよ! 少なくとも俺は……」
クリリンは言葉を濁す。自分はしてないと主張できるが、機械自体を用意したのはイーヴィということもあるし、イーヴィの性格を考えると可能性を否定できない。
ちなみに冤罪である。
「別に一回勝負ってわけでもないし、一回でも勝てばここはクリアになるから落ち着けって」
「本当だな! なら、さっさとしろ!」
「ひ、ひえぇぇ!」
ベジータは無駄に気を高ぶらせ、クリリンをビビらせる。
その後、クリリンはいつ攻撃されるのではないかとヒヤヒヤしながら歌い、ベジータは全力で歌い続けた。それは、2時間程に及び、互いの点数は回を重ねるごとに点数が下がっていった。それは、クリリンにはベジータからの威圧による精神的疲労があり、ベジータは全力で歌うことによる喉へのダメージであった。結局、クリリンの精神的疲労がベジータの喉へのダメージが上回りそれが点数となって表れた。つまり、ベジータは予選突破したのである。それによりベジータは思わずガッツポーズを取ったとか取らなかったとか……ただ、声がガラッガラになっていたのは間違いない事実である。
ベジータとクリリンが何を歌ったかはご想像にお任せします。