ラディッツは、今やサイヤ人とは思えないほど丸くなり地球人のような一般的な良識さえ身に着けていた。
そのためいつまでも孫家にお世話になっていることが申し訳なく思えて仕方なかった。悟空との血の繋がりがあるものの地球に来た当初は悟空たちに悪いことをした。何もせず居候するのも悪いと思っていた。一応畑仕事をしているが、サイヤ人は大食らいである。それが3人も居れば、すぐに食料が尽きる。故に孫家のエンゲル係数はとんでもないことになっている……チチはラディッツに気にしなくていいと言うが、ラディッツは孫家の家計を気にせずにはいられなかった。
ある時、チチに買い出しを頼まれて街に出ると、一枚の求人広告を見つけた。いわゆる商社関係の求人だ。社員寮もあり、給料も悪くない。これなら孫家を出て行っても生活は可能だ。一大決心をして、チチにここの就職試験を受けることを告げることにした。
「チチよ。俺は、この会社の試験を受けることにした」
「……! 偉いべ! 悟空さにもちっとは見習って欲しいだよ。悟空さは結婚してから1銭だって稼いでくれたことがねえだ。今もどこに行っているのかもわかんねえし」
________
その頃、悟空は
「へっくし!」
「風邪でも引いた?」
「多分違うと思うけど……誰かがオラの噂でもしてんのかなぁ」
イーヴィから瞬間移動を教わっていた。
_______
「前はそうは思わなかったが、あいつの方が俺よりサイヤ人らしいからな。戦う方が性に合っているんだろう」
「それが悟空さなんだからしょうがねえとも思うけんど、やっぱり働いて欲しいだよ」
「ずっと言っていればちゃんとあいつも働くようになるさ」
サイヤ人は、星の地上げという悪行であるもののある意味では働き者だ。それは戦闘と言うサイヤ人にとっての趣味も含まれるので、それが天職だったからというのもあるだろうが。
「それよりも俺はここを出ようと思うんだ」
「どうしてだ……!? 何か嫌なことでもあっただか?」
「いや、そうじゃない。いつまでもチチ達の世話になるのも悪いと思ってな。この会社には社員寮もあるし、生活に必要な物は支給してくれる。ある程度なら仕送りもできるかもしれん」
「ラディッツさがそこまで気を遣わなくてもいいだよ」
「俺がそうしたいんだ」
「……わかっただ」
チチはラディッツの意思を酌み、送り出すことにした。
翌日、身支度を整え玄関へと立つ。
「それじゃ、行ってくる」
「頑張ってね! おじさん!」
「ラディッツさ、ダメだったら無理せず帰ってくるだよ」
「心配するな。なんとかなる」
ラディッツは、その会社まで飛んで行き、途中で目立つのはまずいと思って降りて移動することにした。オフィスビルの前に立つと、今までに味わったことのない緊張を感じていた。
指定された場所に向かい、面接官一人との個人面接が行われた。
「えーっと……ラディッツさん、ですね」
「よ、よろしく頼む……ます」
面接官に怪訝そうな顔をされるラディッツ。ラディッツは比較的常識人になってはいるが、学も職もない。今までサイヤ人として生きていたせいもあって、戦闘力が自分より低い相手に敬語を使うことに対する違和感が変な敬語にさせていた。髪もフリーザとの戦いの中で斬られて短くなったとはいえ、それでも平均的な男性よりはかなり長い。あらゆる面が、面接官に対し悪印象だった。面接官は書類を見た時点で落としたかったが、応募者がラディッツのみだったため、とりあえず上からのやれという指示に従って面接を行っていた。
「それではまずうちの会社を選んだ志望動機を教えてください」
「あぁ、その社員寮があって、給料も良かったんでな。ここが一番良いと思ったんだ」
「……そうですか」
正直なことを言っているのだろうが、「思っていても普通それを言うのか」と面接官はかなり不快な気分になった。
「それでは、自己PRをお願いします」
「力には自信があります」
「ほう、どれぐらいですか?」
「誰にも負けんぞ。地球に俺より力のあるやつはいないだろう」
たった二つの質問しかしていないが、面接官はラディッツとは一緒に働いていけないというかラディッツは会社の足手まといになることが容易に想像ついた。
「…………ラディッツさん。申し上げにくいですが、我が社、延いてはこの業界に向いていないと思います」
「そ、そうなのか……!?」
「はい。はっきり言ってしまいますが、不合格です」
「なっ!」
普通は後日結果を伝えるものだが、あまりにも酷いのでその場で言ってしまった。
「そ、そうか……すまない。失礼する」
ラディッツは肩を落として、その会社を去った。
「そう上手くはいかないと思っていたが、あそこまではっきり言われるとはな……」
唐突に目の前に悟空が現れた。
「うおっ!?」
「おっ、兄ちゃん! やりー! 上手くいったぞ!」
「なんでお前がここに……」
「実はイーヴィから瞬間移動のやり方を教わっててよ、その練習で兄ちゃんのところにきたんだけど……その恰好はどうしたんだ?」
「就職しようと思ったんだよ……上手くいかなかったがな」
「就職? ……兄ちゃん、働くんか!?」
「働くのかって……お前もちゃんと働けよ。チチを困らせてやるな」
「それ言われっとつれぇ……」
悟空は気まずそうに頭を掻く。
「まずは、畑仕事でもしておけ。何もしないよりはずっといい」
それに、それ以外の普通の職業は
「……それじゃ、瞬間移動が完璧に使えるようになったら畑仕事するからよ、今度超サイヤ人になる方法教えてくれよ」
「ん? まぁ、いいが……教えたからといってなれるとは限らんぞ」
「それでもいいって。オラもサイヤ人だし目指してみてぇんだ」
「やはり、お前はサイヤ人だな……今の俺よりずっとらしい」
「へへへ……それじゃな、兄ちゃん。オラはイーヴィのところに戻るな」
悟空が飛び立って行った。
「イーヴィのところで修業か……そういえば、あいつ確か外道屋とか言う会社の社長をしているとか言っていたような……待て! カカロット!」
ラディッツは悟空を追いかけて呼び止めた。
「な、なんだよ、兄ちゃん」
「俺も一緒にイーヴィのところに連れて行け」
「別にいいけどよ、イーヴィになんか用事でもあるんか?」
「そんなところだ」
「ふーん」
悟空は特に気にせず、ラディッツと一緒にイーヴィの下へと向かった。
「ようやく戻ってきたね……って、あれ? ラディッツ、その恰好……似合ってないわねー」
「うるせぇ!」
イーヴィは、笑いそうになった。でも、最近のラディッツならそういう恰好をしても不思議ではない気もしていたので、そこまで意外だとは思っていなかった。
「それで何の用?」
「単刀直入に言うぜ。俺をお前のところで働かせてくれないか?」
「は?」
それは予想外だった。イーヴィはラディッツに嫌われていると思っていたし、今でこそいろんな商売に手を出している外道屋ではあるが、本業は研究や技術開発が主である。ラディッツが仕事に就くとしたら、それこそ運送業やとび職のような仕事がピッタリだろう。外道屋にもそういう仕事がないわけでもないが……
「できれば、社員寮とか、住むところがあればいいんだが……」
「あぁ、なるほど」
それだけで、イーヴィはラディッツの事情を察した。良識のある人間らしいことをしようとしているのだと想像がついた。本当は何か悪戯してやろうかと思ったが、ここまで真剣な表情で来られると少し気が引けた。
「駄目か?」
「いいわよ。採用してあげる」
「本当か!?」
「まぁ、準社員としてだけどね。正社員になりたかったら頑張って働きなさい」
「おう!」
こうしてラディッツは外道屋で働くことになったわけだが、イーヴィからのパワハラで何度か泣きを見ることになるのはまた別のお話である。
「オラのこと忘れてねぇか?」
就活やってる中、このお話を書いてて妙な気分になりました。……働きたくないでござる。