01 始まりはブルマの家
「知らない天井だ」
ドラゴンボールの世界に入ったと思ったら寝ていた。……どうやら私は、この世界に入った瞬間に消滅したようである。私は私についての記憶を持つものが存在しなければ、私は存在できない。このドラゴンボールの世界に私を知る人間は誰一人としていないのは当然なわけだが、私のいる世界とこの世界は断絶された世界であると言える。
で、消滅しておいて存在できているのは、私の機械の身体を調べてくれた人間がいたから復活できたわけだ。この世界でそんなことをしようとする人間は限られてくる。
――ブルマだ。
私は体を起こして、機械の画面に向かって調べ物をしているブルマを発見した。人(私は人ではないけど)は第一印象が大事と言うし、挨拶はしっかりしよう。
「こんにちは!」
「うわぁっ!」
大きな声で呼びかけたら随分と驚いたようだ。この世界の住人らしく椅子から滑り落ちていた。
「な、なんであんた動けてんのよ!」
「動けるように作ったからね」
「そういうこと聞いてんじゃないの! 電源も何も動かしてないのに機械が動けるわけないでしょ!」
「あぁ、それなら……」
説明は省略。これを見ているみんなは理由わかってるよね?
ブルマには私がどういう存在かを教えた。元は神であること。人の記憶によって存在を保っていること。この機械に憑依していることを話した。
「にわかには信じがたいわね」
「信じるか信じないかはあなた次第だけど、事実しか言っていないわ」
「それが事実だとして、なんか白けちゃったわ。随分緻密にできていると思ったのに、そんな非科学的な存在だと思わなかった」
ブルマは、この時には天才とか言われていたらしいし、既に科学者としての意識を持っているのだろう。一応、私も科学者の端くれだ。白けてしまったという気持ちが理解できる。
「私と言う存在は非科学的かもしれないけど、この身体自体は科学的なものよ。調べたかったら、どうぞ調べて」
私は笑顔でそう言った。
「遠慮しておくわ。あなた人間みたいで解剖しているような気分になりそう。それにただの暇つぶしだったし」
暇つぶしと言われて少しばかりショック。私の世界だったら、機械工学の人間全員が何としてでも解明したがるだろう身体なのに。まぁ、なぜブルマが暇つぶしなんかしていたのか、予想はつく。
この世界には、本編開始後に入った。それが、カプセルコーポレーションの中と思われる場所にいる。その時のブルマと言えば……ちょっと仕返ししてやろ。暇つぶしと言われて傷ついた私の心を癒すためだ。
「あなた恋人はいないの?」
「いるわよ」
うん、知ってる。でも、この質問で機嫌が悪くなっていないあたりヤムチャはまだ浮気をしていなさそうだ。つまり、本当にただの暇つぶしだった。むむむ……
「こんなの所にいたのか」
「あ、ヤムチャ」
噂をすれば影が差すというやつね。既に短髪となったヤムチャが出てきた。
「こんにちは」
「ど、どうも、こんにちは」
少し挙動不審だ。そして、ヤムチャはこそこそとブルマに私のことを聞きに言った。
「誰なんだ、この人?」
「そういえば、名前聞いてなかった。あんたの名前は?」
「私? 私は、神宮寺イーヴィ。よろしく」
ヤムチャとブルマも私に自己紹介してくれた。なんか、ドラゴンボールの世界にやって来たって感じがして気分がいいわ。
「ところで、なんで下着姿なんだ」
「ブルマに服を引っぺがされて……」
「誤解を生むようなこと言ってんじゃないわよ! ッ痛!」
私のことを殴って拳を痛めたようだ。
「私のこと、機械だってわかってたでしょうに」
「うるさいわね!」
「まぁまぁ。理由はわかったよ。それじゃ、そろそろ俺は練習に戻るよ」
これで今が、第21回天下一武道会の前ということがわかった。私も参加しようか迷うな……
「と言っても、武天老師様のところで修業している悟空が来たとしたら勝てるかどうか」
「なら、私があなたの修業を手伝おうか?」
ここでヤムチャを魔改造するのもなかなか面白そうだ。今から鍛えておけばサイバイマンの自爆に耐えられるようにできるかもしれない。
「君が? 機械なんだろ?」
嘲笑に近い笑い。彼らしい見た目で判断する悪い癖だ。まずはそれから矯正してやろうか。
「私を侮っていると後悔するわよ」
ヤムチャ魔改造ひいては、あっさり死ぬことも割とよくあるこの世界で主要人物を死なせないための戦いがこれから始まるのだ。
ヤムチャいじめ、楽しい。詳しいことはカットするつもりだけど。