周辺国家最強(笑)の戦士   作:生コーヒー狸

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帝国英雄伝説⑪ ひとつの国の終わり(後篇)

 リ・エスティーゼ王国の衰退は誰の目にも明らかだった。王国への経済制裁発動と同時に、王国最大の商会である「エイトフィンガーズ・コーポレーション(E.F.C)」が王国への納税拒否を伝えて来た。理由としては「王国との取引で累積した未払い金との相殺」である。さらに「今後の取引を現金決済に限定する」事も伝えられた。事実上の破産宣告である。

 

 ランポッサ三世は遺憾の意を表明するにとどめたが、ザナック第二王子を始めとする王派閥は、交渉の使者をE.F.C本部へ派遣した。しかし交渉の任に当たったアルチェル子爵と部下のスタッファンが、交渉翌日の早朝にヴァランシア宮殿北東の尖塔に裸で吊るされているのを発見された事を受け、交渉は一時中断される事になる。両名共○○を切り取られ、××に大根が突きさされ、全身が△△にされていた。

 

 これをあくまで王家の問題と看過していた貴族達だったが、それぞれの領地にあるE.F.C支部からも同様の通達が為された。激怒した貴族達はE.F.Cに対して詰問の使者を出したが、全ての使者は道中で不慮の事故死を遂げた。これらの事態に業を煮やした王国は、E.F.C本部と各支部に軍を派遣したが、その軍さえ返り討ちに遭うという事実に、王家と貴族の威信は失墜した。

 

 この時点でのE.F.Cは、六腕(ブレインを除く)とガゼフの元部下を中心とした、3万もの実戦部隊に加えて、王国全土に渡るE.F.C支店の売上、経済制裁中の王国において、帝国との密貿易で得た莫大な資金力を併せ持つ、王国最大最強の勢力となっていた。

 

 さらにE.F.Cは代物弁済と称して、貴族の邸宅を襲撃して財貨を根こそぎ徴収していった。貴族達は命こそ奪われなかったものの、それ以外の全てを奪われて王都へ逃げ延びた。財産を失った貴族達は王宮の庇護のもとに置かれたが、王宮にとっては穀潰しの居候への対応に苦慮する事になる。なにせこいつ等、働かない癖に文句だけは十人前、食事の際にはおかわりを遠慮なく要求し、お小遣いまでたかるクズである。

 

 王国中の領地から貴族が排除された事によって、E.F.Cは「リ・エスティーゼ革命軍」の結成を周辺国へ宣言。さらに革命軍の指示で、国内全ての都市と村落が「バハルス帝国に対する無防備地域宣言」を行った。

 

~帝都アーウィンタール~

 

 リ・エスティーゼ王国政変の報を受けた帝国では、皇帝ジルクニフ臨席の御前会議が開かれていた。

 

「王国内の全ての都市で無防備地域宣言が確認されました。王都では王族と貴族が立て篭もったヴァランシア宮殿を、革命軍が完全に包囲したと、革命軍のヒルマ代表が伝えてきております。」

 

「在竜王国帝国軍を除く、帝国7軍から第1、第2、第5、第6の四軍が出立の準備を整えております。」

 

「竜王国のドラウディロン女王より、PKOに協力する為、自衛隊を派遣する用意があると申し出が来ております。」

 

「スレイン法国は帝国による王国領併合を承認。さらにヴェルザスカル地域の割譲を条件に、人類条約機構の成立に賛同するとの事です。」

 

 全ての報告が、王国併合になんの支障もないという事を、ジルクニフへ確信させる。

 

 竜王国の若作り婆(第2形態)の本音は「こっちにも少し分け前もらえません?」だろうから、「思いやり予算」やODAで色を付けてやれば満足するだろう。

 

 スレイン法国は以前からヴェルザスカル地域に執着していた。鄙びた観光地ひとつで、敵対的な亜人やモンスターに対抗する軍事同盟を成立させられれば安いものだ。

 

「そうか…これでリ・エスティーゼ王国消滅が決定したな。それにしても…ここまで状況を予測し、それを実行させるとは…あの女だけは敵に回す事は出来ん、勝てるはずがないからな…」

 

 2年前の時点で王国滅亡までのプロセスを正確に予想し、その為の計画を立案したのはラナーだ。その悪魔的な頭脳にジルクニフは恐怖する。ラナーはあくまで予想と計画だけ(共謀共同正犯?ウフフ、帝国法では罰せられるのは実行犯のみですわ♪)で、彼女は指1本働かせる事はなかったが…

 

 帝国歴196年、王国歴218年下土月23日、バハルス帝国征威大将軍ガゼフ・ストロノーフ率いる帝国軍が、リ・エスティーゼ王国王都に到着した。かつて祖国を追われた悲運の名将の凱旋に王国民は歓喜した。

 

 王宮を包囲していた革命軍を指揮下に加えたガゼフは、暴発寸前の民衆を抑えて、王宮に立て篭もる王族、貴族に対して人道と礼節に則った降伏勧告を行った。嘗ての主君に城下の盟を誓わせる屈辱を与える事になっても、せめて命だけは永らえて欲しい。ガゼフなりの最後の奉公であったのだろうか…

 

「愚王とその奸臣に告げる。小便は済ませたか?六大神への御祈りは?皇帝陛下の御前で土下座して命乞いする準備は出来ているか?3分間待ってやるから40秒で支度しろ!」

 

 降伏を由としない少数の貴族子弟が抵抗を目論んだが、帝国軍はこれを鎧袖一触に断ち、とうとうランポッサ三世による降伏が宣言された。これによりリ・エスティーゼ王国は218年の歴史に幕を降ろした。

 


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