帝国歴195年下火月、リ・エスティーゼ王国に侵攻したバハルス帝国軍は、なんの抵抗も受けないままエ・ぺスペル、リ・ボウロロール、リ・ウロヴァールの三ヶ所の領地を制圧、いや解放した。
領主である貴族達が苛烈な圧政を敷いていた為、都市や農村にはあらゆる物資が不足しており、侵攻当初の帝国軍は焦土作戦を懸念したが、こんな事は王国にとってはありふれた光景だという、無慈悲な現実を帝国軍は知ることになる。
「「「「「帝国軍ばんざーい!」」」」」
全ての都市、農村は帝国軍を大歓迎した。貴族に徹底的に搾取されたあげく、最後には見捨てられた民衆は、帝国軍に縋らなければ生きていけなかった。この事を察知していたレエブン侯とガゼフの提言で、帝国軍は通常の3倍の規模の輜重隊を編成していた。毎年のように王国へ侵攻していた帝国軍だが、今年に限っては、彼らは侵略軍ではなく解放軍であった。
今回の帝国軍の侵攻で、リ・エスティーゼ王国は主要な領地の約半分を失う事となった。この事態を受けて、ランポッサ三世は遺憾の意を表明し、周辺国に対して「ランポッサ宣言」を発した。
~ランポッサ宣言 バハルス帝国降伏の為の定義および規約~
1.リ・エスティーゼ王国は、バハルス帝国に対して、慈悲深くも降伏の機会を与える。
2.リ・エスティーゼ王国は、バハルス帝国に対して、謝罪と賠償を要求する。
3.リ・エスティーゼ王国は、帝国に圧政を敷き自国民を苦しめる、鮮血帝ジルクニフ・ルーン・
ファーロード・エル=ニクスの退位と処刑を求める。その後の帝国の統治は、リ・エスティー
ゼ王国が派遣する執政官が行う。
4.上記三つが受諾されない場合、リ・エスティーゼ王国は、周辺国家(スレイン法国、竜王国、
アーグランド評議国、ローブル聖王国、カルサナス都市国家連合)による連合軍を組織し、
バハルス帝国討伐を行う。
5.上記の連合軍は、あくまでリ・エスティーゼ王国を主とするものであり、全軍の指揮権はリ・
エスティーゼ王国にあるものとするが、各国の出兵に関わる負担は、其々の国が負うものとす
る。
6.連合軍の得た戦果(領土、財貨)については、同義的な観点から、リ・エスティーゼ王国が権
利を有する。
7.リ・エスティーゼ王国はバハルス帝国の即時無条件降伏を求める。これ以外の選択肢を採れば
バハルス帝国には無慈悲な鉄槌が下されるだろう。
王国歴217年下火月29日 、リ・エスティーゼ王国国王ランポッサ三世による宣言
これについての各国の感想は「寝言は寝て言え」である。当然このような世迷言だらけの宣言を聞きいれる国などあるはずもなく、宣言は無視された。それでもリ・エスティーゼ王国は周辺国家へ人道支援(義勇軍の派遣、物資・資金の援助)を要請したが、これも黙殺される。
逆にバハルス帝国による、リ・エスティーゼ王国に対する経済制裁(国境の閉鎖、貿易の禁止、帝国内のリ・エスティーゼ王国関連資産没収、国内在住のリ・エスティーゼ王国民の退去、リ・エスティーゼ王国在住の帝国民の退去)が発動され、アーグランド評議国を除いた(評議国は国境の閉鎖に留めた)周辺国家もそれに追従した。
これによりリ・エスティーゼ王国貴族で亡命を求める者が相次いだが、受け入れを認める国は皆無であった。もはやどの国もリ・エスティーゼ王国を「国」として扱う事を止めたのだ。