バハルス帝国皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスは、己の野望が大きく前進した事を確信し、喜びに打ち震えていた。リ・エスティーゼ王国のレエブン侯からの内通の書状。それに記されていたのは「黄金の姫」「王国六大貴族筆頭」「王国戦士長」という王国内で最も優秀で、もっとも重要な3名が王国を裏切り、ジルクニフに通じるというものだった。この3名が帝国に付くのなら、悲願であったリ・エスティーゼ王国の併合は、赤子の手をひねる事より容易い。
特に王国併合の最大の障壁だった、周辺国家最強の戦士ガゼフ・ストロノーフ。竜王国での鬼神の如き闘いぶりは、竜王国へ派遣した"不動"ナザミ・エネックをはじめとした将兵から散々聞かされた。圧倒的な剣技のみならず、第五位階の攻撃魔法と未確認ながら高位の回復魔法まで使いこなす英雄を超えた逸脱者。帝国全軍に匹敵するといわれるフールーダ・パラダインを以ってしても、討ち取るのは困難、いや不可能だろう。
あの男が手に入るのならば王国併合に加えて、バハルス帝国の安全保障上の問題が一気に解決する。忌々しいスレイン法国の顔色を窺う必要も無くなるだろう。3年前、平民の身でありながら王国戦士長となったガゼフに興味が湧き、即位後初の親征に赴いた戦場で、当時の帝国四騎士最強だった"巨爆"スペシャル・カナディアンを、圧倒的な強さで倒してのけたガゼフを見て、ジルクニフは心底恐怖したが、それと同時にジルクニフの人材収集癖も大きく刺激された。この男が部下にいれば帝国は、いや自分の野望は…そう夢想せずにはいられなかった。
そのガゼフ・ストロノーフに加えて、王国で最も優秀な貴族であるレエブン侯と、最も美しい王女のラナーが自らの旗下に入る。これは圧倒的な好事、帝国躍進の兆し、喜ぶべき事なのだが…
~ガゼフ・ストロノーフの場合~
「私がバハルス帝国に生を受けていれば、自ら陛下の旗下に馳せ参じた事でしょう。些か遠回りをしましたが、これよりそれを取り戻したいものです。」
「契約していただけるだけで幸せ。金額は見ずに一発サインするつもり。」
~エリアス・ブラント・デイル・レエブンの場合~
「正道を踏み、義を正すは貴族の本務なり。」
「ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス陛下の為に犬馬の労を尽くす所存。」
「単身赴任はお断りします。」
~ラナー・ティエール・シャルドルン・ライル・ヴァイセルフの場合~
「捨扶持(金貨五千枚以上)を戴ければ、帝国の片隅(アーウィンタール一等地)にでもペット(クライム)を連れて隠遁(ニート)いたしますわ。ジルクニフ陛下の御邪魔にはなりません(私に構わず黙って皇帝してろ)」
「もちろんジルクニフ陛下のお役に立てる事がありましたら、なんでも仰って下さい(聞くだけはしよう。それ以上は財布と相談してからだ)」
「(クライムの為以外に)働いたら負けかなと思っている。」
この日、ジルクニフの嫌いな女ランキング1位はラナー王女に決定した。2位以下に圧倒的大差をつけての圧勝である。