「それではニグン殿、御武運をお祈りいたしますぞ。」
「こちらもガゼフ殿の勇戦を信じております。再会の日まで、互いに壮健でありたいものですな。」
帝国に配慮して、法国とは別行動になった。ちなみにクアイエッセさんは、既に一人で出撃したそうだ。一週間ほど暴れたら法国に帰るらしい。クアイエッセさんマジパネェっす。この後すぐニグンサン達は、首都へ向けて避難して来る難民の保護に向かうそうだ。俺達は竜王国の冒険者チームと組んで、前線に近い都市の守備に就くように頼まれた。出発は明日なので、今日はもうゆっくりする予定だ。そろそろ来客があると思うし…
ブレイン達のところへ戻ると、予想通り帝国からの使者が来ていた。
「小官はロウネ・ヴァミリオンと申します。リ・エスティーゼ王国最強の戦士たる、ガゼフ・ストロノーフ戦士長にお会いできて光栄です。」
「とんでもない、私のほうこそ皇帝陛下の懐刀と言われる、ロウネ・ヴァミリオン殿とお会いできて光栄です。」
ロウネの印象はバリバリの官僚というイメージだ。護衛の一人も連れずに来るあたり度胸も十分、さすが原作でナザリックへ出向させられただけの事はある。王国では絶対にお目にかかれないタイプだな。王国の役人なんて賄賂を集る事、上司に媚びる事、職権乱用する事しか能がないからな。帝国に行った時の事を考えれば、仲良くしておいて損は無い。
「皇帝陛下が仰っておりました『リ・エスティーゼ王国に過ぎたるものが二つあり、ヴェルザスカルにガゼフ・ストロノーフ』と。」
「いやいや…かの土地と比するなど、それこそ過分な評価をいただき恐縮至極に存じます…と、皇帝陛下にお伝え下さい。」
ヴェルザスカルというのは、王国にある景勝地だ。大陸一、風光明媚な土地と言われ、かの六大神の一柱も居を構えていたとう伝説が残る地だ。国外から訪れる者も多い。二十年以上も前になるが、スレイン法国がヴェルザスカルを六大神ゆかりの聖地に認定し、法国主導で巨大な神殿を建立する計画が持ち上がったそうだ。その事に不快感を示した王国貴族に、当時、即位直後だったランポッサ三世は「リ・エスティーゼ王国の国土は王国民だけの所有物ではない」という迷言を遺している。ランポッサ三世は失言?が多い事でも知られており、他にも…
「帝国の皆さんと文化が大好き、ほとんどの王国民は同じ気持ちを共有している」
※帝国は毎年、王国に攻めてきて、そのせいで多くの平民が戦死しています
「王になるまで貴族主導、貴族任せの意味をどういうものかわかっていなかった」
※ランポッサ三世の口癖は「よきにはからえ」
「定住亜人の権利は当然、認めるべき。評議国は既に認めている」
※評議国は竜王が治める「亜人が造った国」です。ちなみにスレイン法国の神官への発言
「そんなに収穫が減っておるのか、今農民の収入、平均金貨100枚くらいじゃったか?」
※都市部の職人の平均年収が金貨約40枚、農村の平均収入はその約半分ほど
「トップの国王が大馬鹿者であれば、そんな国がもつわけがない」
※自分を戒める言葉でしょうか?
といった名言の数々を遺している。
「それにしても、皇帝陛下がそこまで私などの事を評して下さっているとは…」
「皇帝陛下は才ある者は、どんな身分、立場であっても公正に評価し、功ある者には最大限に報いられる御方です。」
「これは独り言なのですが…ガゼフ・ストロノーフというブランドを、王国だけで終わらせていいのか…と、ある王女や六大貴族の方に言われておりまして…」
「…っ!!??」
さすがの帝国も、ラナー王女とレエブン侯までもが、王国を見限っている事までは想定していなかったようだ。ロウネにはしっかりと含みを持たせる事が出来たが、ここはもうひと押しいってもいいだろう…
「ここにレエブン侯からお預かりした書状があります。これを皇帝陛下に届けてもらえないでしょうか。」
「そ、それはっ!…たしかにお預りしました。必ず皇帝陛下にお届けします。ガゼフ殿の英断、決して無下にはしないとお約束しますぞ。」
ミッションコンプリートだ。3人分のESを無事に渡す事が出来た。ロウネの反応から観ても内定確実だろう。これで竜王国にいる間はビーストマン狩りに専念できる。