らき☆すた ~幸せのレシピ~   作:四時

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神社の双子

 朝食を食べ終え、軽いリフレッシュタイムを済ませた俺は、玄関で出かける支度をしていた。

 

「およ? たくと、出かけるの?」

 

 玄関で靴を履いていると、背後からこなたに声をかけられた。

 

「ああ。夕方までには帰る」

 

「散歩?」

 

「それもあるが。五年前、急にこの町から離れる事になったから友人らに挨拶をし損なったんだ。その詫びをしにいく」

 

「それって、女の子?」

 

「まあ、女の子も含まれるな」

 

「どぅふふ、こりゃフラグがビンビンですなぁ、どぅっふ」

 

「その気持ち悪い笑い方止めろ」

 

 あくまで友人だ。

 

 俺は男と女の友情はあると信じている。本当の友情は、性別に関係なく芽生えるものだ。

 

「たくと少尉、健闘を祈る!」

 

「……どうも。自転車借りてくぞ」

 

 敬礼で俺を見送るこなたを背に、俺は玄関の扉を押し開いた。

 

 

******

 

 五年も経つと街並みも随分と変わるものだ。

 

 しかし、変わらない場所もある。

 

 例えばあの公園は、こなたとエンドレス鬼ごっこをした思い出の場所だし、あの駄菓子屋で当たりクジを引くまで帰れませんゲームをして、お小遣いをスってしまったのは、良い思い出だ。

 

 今、こうして過去の思い出に浸れているのも、全てこなたのおかげかもしれない。

 

 あいつが俺の背中を押してくれなければ、別れからくる寂しさを恐れ、何も楽しもうとしない人間になっていたのかもしれないし、

 

 

 この場所で、あいつらと出会う事もなかったかもしれない。

 

 

『鷹宮神社』

 

 その神社の前で、俺は自転車から降りた。鳥居のわきに自転車を止め、境内へと足を踏み入れる。

 

 五年前、こなたは格闘技の習い事をしていた。

 

 その間、暇を持て余していた俺は、周辺を自転車で探索するという遊びに興じていた。

 

 この神社も、その時に見つけたのだ。

 

「変わってないな、ここは」

 

 ぐるりと辺りを見渡す。

 

 ひときわ大きな大木を見つけると、俺はその根元に歩み寄った。

 

 大木に背中を預けて腰を下ろし、一息つく。

 

 初めてこの場所に来た時も、こうしていたっけな。

 

 俺はゆっくりと目を閉じ、過去を思い出す。

 

 

****五年前

 

 

『だいぶ遠くに来たな。それにしても……腹減った』

 

 俺は目を閉じ、木々のざわめきに耳を傾けていた。

 

 すると、誰かが俺の目の前に立つ気配を感じた。

 

『あ、あのぅ』

 

『ん?』

 

 目を開けると、一人の少女が心配そうな眼差しを俺に向けていた。

 

『具合、悪いの?』

 

『いや、空腹なだけだ』

 

『そ、そう……よかったら、これあげる』

 

 少女はポシェットから小さな包みを取り出すと、それを俺に差し出してきた。

 

『クッキー。お母さんと一緒に作ったの。あげる』

 

『いいのか?』

 

『うん、たべて』

 

『……ありがとう。いただきます』

 

 俺は包みを受け取り、中身のクッキーを頬張った。

 

『うまいな』

 

『ほんと?』

 

『ああ』

 

『たんとめしあがれ』

 

 もくもくとクッキーを頬張る俺。にこにこと俺を見つめる少女。

 

『ねぇ、お名前は? どこからきたの?』

 

『水瀬たくと。幸手市から来た』

 

『たくと……じゃあ、たっくんだ!』

 

 どうやら、俺のあだ名はたっくんになってしまったらしい

 

『そっちは?』

 

『私は柊つかさ。この神社、あたしのお父さんが神主さんなんだ』

 

『そっか。クッキーありがとな、美味かった』

 

 立ち上がり、つかさに礼を述べた瞬間、境内に少女の怒声が響き渡った。

 

『こらっー!』

 

 つかさの後方数メートルで、髪の長い少女が俺の事を睨んでいた。

 

『お姉ちゃん!?』

 

『姉か?』

 

『う、うん、かがみお姉ちゃんだよ』

 

 かがみはズカズカと俺達に歩み寄ると、俺とつかさの間に割って入ってきた。

 

 そして、まるでつかさを守るかのようにして、両手を広げる。

 

『あんた、それはつかさがお母さんと一緒に作った、大切なクッキーなのよ!』

 

『ああ、美味かった』

 

『美味かったじゃないわよ! つかさはねぇ、後で食べようと大事にとっておいたの!』

 

『そうなのか?』

 

 俺はつかさに尋ねると、つかさはオロオロと戸惑いながらも、こくりと小さく頷いてみせた。

 

『それを横取りするなんて……ゆるさ』

 

『ち、ちがうのお姉ちゃん、これはあたしが自分からあげたの!』

 

『え?』

 

 かがみはキョトンとした顔で俺とつかさを交互に見渡したあと、茹蛸のように顔を赤くさせた。

 

『ご、ごめ……ん。あたし、てっきり、またつかさがいじめられてるんじゃないかとばかり……』

 

『妹想いなんだな。それに、素直に謝るなんて偉いと思うぞ』

 

『うぅ……べ、別に……そんなのあたりまえっていうか……褒められる事でもないっていうか……』

 

『いや、褒められてしかるべきだ。つかさは良いお姉さんを持ったな』

 

『うん、自慢のお姉ちゃんだよ!』

 

『うぅぅ~~……もぉおおう! そんなんじゃないんだってばぁあ!』

 

 かがみは地団太を踏んで叫ぶが、俺には何となくわかる。こいつは……良い奴だ。

 俺はかがみへと手を差し出し、

 

『俺、水瀬たくと。お前、おっちょこちょいだけど、良い奴だな』

 

 自己紹介をした。

 かがみは『うぅ~』と唸りながら恨めしそうな視線を俺に向けていたが、大きなため息を吐いた後、真っすぐな瞳で俺の手を握り返してきた。

 

『柊かがみよ。おっちょこちょいは余計だ!』

 

 

*****

 

 あの出来事があってから、柊姉妹とはちょくちょく一緒に遊んでいた。

 

 五年前、急な転居の所為で別れの挨拶が出来なかったのが、唯一の心残りだ。

 

 俺は今でも、彼女達の事は友達だと思っているが……、果たして向こうはどう思っているだろうか。

 

「たっくん?」

 

 懐かしいほんわかとした声に導かれるように目を開けると、一人の少女が俺の事を見下ろしていた。

 

 幼い頃のつかさと少女の姿が重なる。

 

「つかさか」

 

 俺の声を聞いたつかさは、はっとしたように目を見開いた後、満面の笑みを浮かべた。




そろそろらき☆すたのアニメが十周年を迎えます。
らき☆すたはアニメやラノベをみるようになったきっかけとなる作品なので、十周年を記念して、自分なりに何かをしたくなりました。
それが、連載に至った経緯です。

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