あれは去年のクリスマス、僕がまだ人間だった頃の事だ。
僕はいつも通り、智哉と美晴と一緒にいた。そして二人は僕に、
「三人でクリスマスプレゼントを交換しよう!」
と言ってきた。僕は驚いた。今までそんな事をした事がなかったから。そう思って家に帰ってから霞と朧に聞いてみた。
「霞、朧、お前達はクリスマスでプレゼントの交換とかした事あるの?」
「あるけど……えっ!?」
「もしかして兄貴やった事ないのか!?」
と驚かれた。
「しょうがないだろ、僕はお前達みたいに友達が居なかったんだ。で、どんな物を持って行けば良いと思う?」
二人はう~ん……と考えていたがやがて、
「それはお兄ちゃんが考える事だと思うよ?」
「そうだぜ、何か二人が喜ぶ物を、自分なりに考えて交換すれば良いと思うぜ」
と言われた。
「そうか、ありがとう二人とも」
「うん」
「おう」
(とは言っても二人が喜びそうな物……う~ん……智哉は妹が大好きで……美晴は確か写真を沢山持ってたはずだから……そうだ!)
僕は買う物を決めて町へ出掛けた。外には雪が降っていたので、一応傘を持って。
町のプレゼントを売っているお店に着くと中は大勢の人で埋め尽くされていた。
「うわ~……これ何か買うってレベルじゃない気が……ん?あれは……」
僕から見てかなり前の方にいた人の姿に見覚えがあったので、僕はその人に注目した。するとその人がこちらを向いて顔が見えた。美晴だ。
(美晴もプレゼントを買いに来たのか……会うと気まずいよなぁ……気付かなかったフリをしよう)
僕がそう思って逆方向を向いた時、後ろから、
「時雨~!!!」
と僕を呼ぶ声がした。僕が去ろうとするとまた後ろから、
「何で逃げるの~!?」
とまた声が聞こえた。こっちは気まずいと思ったからなのに……しょうがないか。
「美晴、どうしたの?」
すると美晴は頬を膨らませ、
「どうしたの?じゃなーい!!」
と僕を怒鳴った。僕は驚いて思わずつまづいてしまった。
「うわ!……ててっ……美晴、大丈夫か……っ!」
今の美晴の格好は上はコートを着ているが、下は少し寒そうなスカートだ。ここまで言えば分かるだろう。僕は美晴にボコボコにされた。
「時雨、酷いよ!」
美晴は涙ながらにこう言うが、僕は
(酷いのは美晴だよ……あんなに殴って……凄く痛い)
と思った。その後、どうにかプレゼントにする物を発見し、会計を済ませた。その頃には美晴の機嫌も治り、二人で話しながら歩いていた。すると後ろから、
「お熱いねぇ~、お二人さん♪」
という声が聞こえた。僕と美晴が後ろを振り向くとそこには、ニヤニヤと笑みを浮かべた智哉が立っていた。
「違うからな!これはそういう事じゃなくて……たまたまお店で会ったんだよ!」
「そ、そうだよ!智哉~、勘違いしないでよ!」
と僕達二人は智哉に顔を赤くしながらも言い返した。しかし逆効果だったようで、智哉の顔からは笑いが消えず、
「あはははは!からかっただけだろ、そんなに怒るなよ~、そんなに必死になって怒るとまるで、本当に俺が正しいみたいじゃないか!」
と言った。
(くそ、しまった……否定しすぎたかな……美晴の方はっと……)
僕が隣にいる美晴を見るとまだ赤面していた。そして下を向いて、
「うう~……」
と何だかうなり声を上げていた。すると智哉も、
「ごめんごめん!だってからかいがいがありそうだな~って思って……からかったらこんなに激しくリアクションするとは思わなかったんだって~」
と謝り始めた。こんな事をやっていたら、いつの間にか、歩いている人達にとても温かい目で見られた。
(凄く恥ずかしい……)
と僕が下を向いていると、流石に二人も気付いたようで智哉が、
「う~ん、とりあえず時雨の家に行こうぜ!」
と言って走りだした。美晴もまだ赤面しながら凄いスピードで走っていった。
「お~い、待ってくれよ~」
僕は一人置いていかれたので、一刻も早く二人に追い付こうと走りだした。
(結局、この傘、使わなかったな……)
僕が家に着くと、中から母さんが出て来て、
「美晴ちゃんと智哉君、待ってるわよ~」
と楽しそうに言った。僕の部屋にいると言うので、母さんにお礼を言ってから二階にある自分の部屋に上がった。
「よっ!時雨、遅かったな」
と智哉が言った。美晴も似たような事を言うので僕は若干呆れて、
「お前達が僕を置いてきぼりにしたんじゃないか……」
と言い返した。だが智哉はもう僕の話等聞いていないようで、
「じゃ、交換するか~」
と言った。美晴も、
「イエーイ!」
と騒ぎ始めた。こうして僕達のプレゼント交換が始まった。歌を皆で歌いながら、プレゼントをくるくると回していき、最後まで歌いきった。すると僕の手には美晴が選んだ物、智哉には僕が選んだ物、美晴には智哉が選んだ物を持っていた。
「じゃ、早速!」
と智哉がプレゼントを開け始めたので、僕と美晴も開ける事にした。すると袋の中から小さいが宝石の付いたペンダントが出て来た。
「美晴…これ高かったんじゃない?」
と僕が恐る恐る聞いてみると美晴は、
「まぁ、少し」
と言って、自分の持っている袋を開けた。するとこの袋からはなんとカメラが出て来た。
「わぁ!智哉、ありがとう!」
「いやいや」
(智哉はこう言っているけど、これも絶対高いよなぁ…どうしよう、僕のそんなに高くないし……もし落ち込まれたら……)
僕がそう考えていると、とうとう智哉が僕の選んだ袋を開けた。
「さ~て、中身はなんだろうなぁ~……とっ」
智哉の袋から出て来たのは写真立てだ。僕はこれなら二人の趣味に合うと思って買って来た。すると智哉が僕の方を向いて、
「時雨、サンキュー!やった~、これで妹の写真を傷一つ付ける事なく眺めてられるぅ~……」
と言った。正直かなり引くが、喜んでくれたようで何よりだ。
これが、去年のクリスマス。
(こんな日々はもう来ないだろうなぁ……)
そう思っても、僕はあの時のプレゼントであるペンダントをずっと肌見離さず持っている。お守り代わりとして、大切に。