lost days-失われた日常-   作:AZΣ

5 / 17
5話-情報屋

…僕は今、折木さんと共にそのアジトに向かっている。

「時雨君…ここだよ…」

「えっ!?ここ…ですか!?」

僕が驚いた理由は自分も良く知っている場所にアジトがあったからだ。

「ここは学校ですよ!?」

そう、ここは学校なのだ。幸いにも最近、休みが続いているため生徒はいないが、先生がいるはずだ。

「まずいですよ!勝手に入る訳には…」

すると折木さんは力ない笑顔を浮かべて、

「大丈夫…気付かれないから…こっちだ…」

「えっ!?そこって…」

折木さん指が示す方向を見ると用具室があった。ここは確かに校舎からは見えない位置にある。僕はこれ以上折木さんに無理をさせる訳にはいかないと半信半疑ながらも、用具室へ向かった。

「ガチャッ」

中に入ってみると普通の用具室だ。僕は念のために、「本当にここですか?」

と確認を取った。すると折木さんは床を指差し、

「ここの床を外して…」

と言った。僕は折木さんが指差している辺りの床を外した。すると下から階段が現れた。

「ここを降りてくれ…」

「は、はい…」

僕は折木さんに肩を貸しながら、階段を降りていった。すると一つのドアがあった。一般的なドアよりも少し大きめの黒いドアだった。ドアを開けると突然、広い部屋に出た。何か酒場みたいな感じで、冷蔵庫が何故か三つもあった。他にもドアが幾つかある事から他にも部屋があるのだろう。

「うわぁ……凄い……」

僕が周りを見渡していると突然後ろから、

「こんにちは」

と声を掛けられた。

「うわぁ!」

僕に声を掛けてきた男の人は笑って、

「はははははは!あ、ごめんごめん。俺は黒坂 翔伍(くろさか しょうご)。君が時雨君だね?霞ちゃんから話は聞いてるよ」

黒坂さんは黒いローブの様な物を着ていた。背は一般的な男性位で、顔は何だか感情を掴みにくい。

「霞から!?霞は一体どこに……」

すると黒坂さんは少し驚いた様な顔をして、

「慌てないで、ほら、このドアの向こうにいるよ」

「本当ですか!?」

「うん」

僕は黒坂さんが指差したドアを開けた。すると中には霞がいた。

「霞!」

「お、お兄ちゃん!」

僕達は泣きながら抱き合った。

「無事で良かった…本当に…」

「お兄ちゃん…苦しいよ…」

「あ、ごめん!」

僕は慌てて霞を離した。どうやら力を入れ過ぎていたらしい。

「大丈夫だよ。……お兄ちゃん、聞いた?私達の身体の事…」

「…ああ、朧から聞いたよ…」

「…そっか」

お互いに黙り込んでいると突然、黒坂さんが現れた。

「時雨君、おいで、話があるんだ」

(何だろう?とりあえず行かなくちゃ)

「霞、ちょっと行って来るよ」

「うん」

そう言って僕は霞の部屋を後にした。

「それで黒坂さん、何ですか?」

「君、何も食べてないでしょ?何か食べないと…ほら」

黒坂さんは袋に包まれた物を僕に差し出して来る。僕は思い切って、

「(それ)は何ですか…」と聞いてみた。すると黒坂さんは、

「聞くまでもないと思うけど?」

と言った。

(これを食べれば…この空腹から解放される…でもこれを食べたら僕は自分がもう本当に人間じゃない事を認める事になる…そんなのは…)

「すいません、いらないです…」

と言って断った。すると黒坂さんは少しイラだった様子で、

「空腹になり過ぎて我を忘れてもらっても困るんだけど?」

僕は黒坂さんから放たれるプレッシャーにたじろぎながらも、

「そうならない様に頑張ります」

と答えた。すると黒坂さんは、

「何を、どう努力するって言うのさ?」

「……………」

僕が何も答えられないでいると彼は溜息をついて、

「仕方ないなぁ……」

と言って、僕の口に袋の中身を押し込んだ。一瞬の事だったので彼の手の動きは見えなかったが、口の中に異物感を感じた。

「ごっ!?うぐぅっ!?……ごくん……はぁっ!はぁ…何て事をしてくれたんですか!?」

すると黒坂さんは申し訳なさそうに、

「すまなかった。こうでもしないと危険が増すだけなんだよ、分かって欲しい」

と言った。確かに空腹は綺麗さっぱりと消えたが、やっぱり自分から進んで食べたいとは思わなかった。

「もう二度としないで下さい…」

すると彼は素直に了承してくれた。そして、どうしても空腹になってしまった時のためにさっきの袋と似た様な物をくれた。

「これをコーヒーにでも混ぜて飲めば、かなり空腹を抑えられるはずだよ」

僕は本当はいらなかったが、皆に迷惑を掛ける訳にはいかないので、素直にもらっておいた。

「ありがとうございます…」

すると黒坂さんはさっきの調子に戻って、

「これからは毎日、訓練を受けてもらうよ。君が赫子はおろか、体術もまともに使えないんじゃあ、いざというときに自分も誰も守れないからね」

と表情を和らげて言った。僕は長く気を張り詰めていたせいか、身体に力が入らなかった。けれど、

「はい!お願いします!」

と、声だけはしっかりと出して言った。

 

 

「ほう、面白い事になっているじゃないか?」

「ここは…僕の心の中か」

「そうだ。あいつは元気か?」

多分、折木さんの事を聞いているんだろう。僕は正直に、

「ああ、命に別状はなかったよ」

すると輝影は、

「ちっ、つまらんなぁ」

と言った。しかし続けて、

「まぁ、お前を通して外を見ていたから、知ってはいるのだが。それにしても、随分と私を嫌うなぁ」

(白々しい事を言うな、こいつ…本当にそういう気持ちが分からないのか?)

そんな事を思いながら僕は、

「当然だろ。お前は折木さんを傷付けたからな」

と言った。すると輝影は驚いた様な表情をして、それからすぐに笑いだした。

「ふははははは!お前は甘い、甘過ぎる。その甘さのせいで何もかも失うかもしれないというのに」

と、輝影は笑いながら、僕に言った。

「そんな事にはさせない。絶対に!」

と僕は言い返した。すると輝影はまた笑って、

「それでこの先どこまで持つだろうな……」

と言って消えていった…


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。