では、どうぞ
次の日の朝、僕と霞は、昨日黒坂さんや栞が言っていた通り、この12区を出る事にした。
僕達にはお互いと、どこへ行ってしまったのか分からない朧しかいないけれど、自分達が生まれ、今まで暮らしてきた場所を去るのは辛い。霞にも僕と同じような思いがあるだろう。
けれど、最早僕達はこの区に居場所がない。今日中にこの区を出なければ、今この区にいるという喰種捜査官に殺されてしまうだろう。それだけは絶対に避けなければいけない……
「時雨君、霞ちゃん、行くよ」
考えている内に折木さんと栞が迎えに来た。
「っはい!霞、行こう」
「……うん」
(ごめんよ霞……僕が……僕が弱くなければこんな事には……)
こうしてそれぞれが、様々な思いを抱えながら、折木さんの指示に従って12区を出た。
「あの…折木さん」
「なんだい?」
折木さんも葛藤はあるだろうが、平静を装って僕の方へ顔を向ける。そして僕は質問をした。
「これからどこへ向かうんですか?」
すると折木さんは表情を少し曇らせながら言った。
「8区。僕としては会いたくないが、頼れる
この後は、誰も言葉を発する事なく折木さんの車に乗り込み、8区を目指すのだった……
そしてその日の夜……
一人の喰種が堂々と学校の前の道を歩いていた。
(さて…そろそろ来る頃だと思うけど……時雨君達は無事に逃げられたかな……まあ、森羅がいるから、余程の事がない限りは……)
外を歩きながらそんな事を考えていると、三つの人影が見えた。
一人は平均的な身長をしていて、きっちりと揃えられた短い黒髪をした男
もう一人は180cm位の身長をしている、角刈りの男
最後の一人は、その180cmの人よりも大きい身長の、坊主頭の男だった。
俺が三つの人影を眺めていると、その中で一番小さい男が、CDのような物を投げて来た。俺はこのクインケを使っている奴を知っているので、すぐに横へ飛んだ。
「うおっと!危な……」
「遠隔起動」
その声が一帯に響いた瞬間、CDのようなクインケは荊のように形を変え、俺の身体を貫こうとする。
俺はその荊のクインケの包囲網が発動した時、囲まれる前に空中で身体を
「ったく~、危ないなぁ~……えっ~と、言ノ葉さんと~…」
「おらぁ!!!」
殺気を感じて後ろに飛ぶと、さっきまで俺が立っていた所に、坊主頭の男がかなりの早さで巨大な剣が降り下ろした。そして、俺が飛んだ先には槍を構えた角刈りの男が待ち構えていた。
「そりゃあああ!」
「まだ話してるでしょうが……っと!」
その槍を踏み台に上へ飛び上がって、俺が安心したのも束の間、男の槍が変形してライフルになった。
「げげ!!」
ライフルから、その素材になった喰種の赫子のエネルギー弾が打ち出される。流石に数が多かったので、いくつか当たってしまったが、ほとんどは体さばきで避けていき、着地した。
「
この時の俺は一体どんな顔をしていたのだろう。恐らく笑ってたんだろうな。捜査官達の顔が一瞬だが、驚いていた。
(でも……これでやっと……)
「本気が出せる……!!!」
俺の両目は久しぶりに全力が出せる興奮と戦闘態勢になったため、真っ赤な赫眼に変化した。そして、腰の辺りに力を込めると、そこから服を突き破って、脈動する三本の鱗赫が発現した。そして、最後に首を回す。
「ははぁ!」
俺は楽しさのあまりに笑みを浮かべながら、捜査官達に向かっていった。まずは一番厄介な言ノ葉さんを狙っていくと、その思考を読んでいたかのように、俺の行く先を遮るように、神谷さんが大剣を降り下ろした。
俺はその大剣を、二本の鱗赫で止めつつ、踏み台にした。しかし、神谷さんも、俺が大剣を踏み台に飛び上がった瞬間、その剣を振り上げ、俺の赫子を切り裂いた。
(しまった……っ!)
着地した俺は危険を感じて、
「ってぇなぁ……もう……」
俺がぼやいているその瞬間にも、CD型のクインケは変形して、俺の全身を今度は貫いた。直ぐ様、再生させた二本の鱗赫でその拘束を解いて、電信柱を伝って走ったが、再び、ライフル型になったクインケのエネルギー弾で、俺の両足を撃ち抜いた。
「うぐっ!」
俺は足を撃ち抜かれたため、地面に落ち、アスファルトに全身が叩きつけられた。衝撃が全身を駆け巡っているが、そんな事よりも傷の再生を優先した。
当然、そんなチャンスを彼等が見逃してくれるはずもなく、俺の身体は、エネルギー弾で撃ち抜かれ続けた。
(再生が追い付かない……せめて一人位は道連れに!)
そう思って羽赫のライフル型のクインケを狙って、鱗赫を突き刺した。しかし、赫子が山田さんの身体を貫く事はなかった。何故なら彼の身体には、鎧型のクインケが装着されていたからだ。衝撃で彼の身体を吹き飛ばして、クインケにひびを入れるのが、今の俺には精一杯だった。
(あのクインケの形状……
俺の思考が最悪の奴に結びつくと同時に、俺の身体は
「ちく……しょ…」
俺が悔しさに顔を歪めていると、言ノ葉さんが俺に向かって語り出した。彼の声は、男なのにかなり高めの声だった。
「冥土の土産に教えてやる。お前の仲間達が8区に向かっている事を我々は把握している。民間人からのたれ込みがあってな。
そしてそっちには……
話が終わって、言ノ葉さんが顔をそむけると、神谷さんが俺に向かって、大剣を降り下ろした。その後の地面にはいくら掃除をしても取れない、花のような、赤い染みが残った。
「……っ!?」
僕は嫌な予感がして、12区の方を振り返った。横を見ると、折木さんを含んだ、全員の表情が硬くなっている。
「…行こうか」
折木さんが僕に声を掛けても、僕は不安で動けなかった。すると僕の表情から意志を感じ取ったのか、こう言った。
「間違っても戻ろうなんて考えるなよ?……せっかく、翔伍が稼いでくれた時間が無駄になる」
僕はこの言葉を聞いて、彼の気持ちが滲み出ている事が良く分かった。
「……はい」
すると栞が折木さんに質問をした。
「折木さんの叔父さんの所ならば、私達を受け入れてくれるのでしょうか?」
「……分からない。正直にいって五分五分だな」
栞は、はっきりしない答えに納得していないようだったが、その場の雰囲気のためか、それ以上は
「折木さん、黒坂さんはきっと生きてますよね…?」
霞がこう言ったのを聞いていて、僕の不安が大きくなった。折木さんも不安そうにしているが、黒坂さんとの付き合いは彼が一番長いため、信頼しているのだろう。
「大丈夫、あいつの事だ、その内ひょっこりと出てくるさ……」
そんな折木さんの言葉を聞いても、皆気休めだと分かっていた。けれど僕は、そんな幻想にすがりつきたかった。しかし、どんなに楽観的に考えようとしてみても、僕の心から不安は消えるどころか、大きくなっていくのだった……
バトルシーン……難しいですね!私なりには前よりも書けた気がします。一ヶ月に一回は二作品とも更新を目指していきたいと思っています!
ここまで読んで頂き、ありがとうございました!
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