lost days-失われた日常-   作:AZΣ

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遅くなってすいませんでしたあああ!どうしてもバトルが書きたいのですが、アイディアが浮かばず……
今回はバトルなしです、書きたいなぁ…では、どうぞ!


11話-破滅の足音

栞が泣き止んだ後、僕が帰ると言うと彼女は付いてくると言う。僕は付いて来られても正直困るので、遠回しに拒絶した。彼女は頭は悪くはないはずなので、気付いてはいるはずだが、付いてくると言って聞かなかった。

(はあ……黒坂さんと折木さんに怒られるかな……嫌だなぁ……)

そんな僕の心中も知らず、栞はとても嬉しそうに笑顔を浮かべている。

(そんな顔見たら……しょうがないなぁ……)

 

 

 

アジトに着くと、折木さんと霞はいなかった。恐らく訓練中だろうが、目の前に黒坂さんがいた。

「お帰り~、時雨君~。それでその子は……?」

黒坂さんから若干だが、黒いオーラが見える気がする……少し怒ってるのが態度で分かる。

「あの、この子は僕の幼なじみで……」

すると黒坂さんから黒いオーラが消え、顔にニヤニヤと笑いを浮かべた。

「へぇ~、幼なじみねぇ~……でもここに連れ込むのはどうかと思うなぁ~……」

すると、栞が口を開いた。

「黒坂さん、覚えていらっしゃいませんか?赤咲 栞です」

「ああ、栞ちゃんか!思い出したよ、久しぶり~。でもまさか君が時雨君と幼なじみねぇ……どこまでいっ…」

「あの、そんな事してないので止めて下さい……」

僕が否定すると黒坂さんは軽い冗談なのか笑っていたが、栞は顔を少し赤らめていた。

(おいおい、何で満更でもない顔をしてるんだよ~……はぁ~……)

「でも、栞ちゃんは赫子が使えないかと思ってたんだけど、どうやら違ったみたいだね。時雨君の身体は再生し始めているけど、傷が見えるからね」

「そこまで目がいくとは……流石に有名なだけありますね。普通の喰種では気付かないはずなのに」

「人をおだてるのが上手いねぇ、そしてとても(したた)かだ。でも、年長者をからかうもんじゃないよ~?ははは!」

二人の話を聞いていて、何だか不思議な程に圧力を感じた。

(この二人の仲は結構悪いんじゃないか……?)

こう思ったのは、二人は顔はお互いに薄く笑っているが目が全く笑っていない。正直怖いので遠くに逃げようとすると、訓練場から折木さんと霞が帰って来た。

「お帰り、時雨君…っと新しいお客がいるようで」

「赤咲 栞です。お久しぶりですね、折木 森羅さん」

「おや、ご丁寧にどうも」

僕が霞の方を見ると何故かこちらの方を恨みがましい目で(にら)んでいた。すると栞も霞に気付いたようで、

「霞ちゃんもいたんだ、久しぶり」

と笑顔を向けた。霞も一応挨拶を返したが、どうにも雰囲気が重たい。そこを黒坂さんが冗談等でカバーして和やかに話していると折木さんが、

「ちょっと皆聞いてくれるか?」

と言った。

「どうしたんですか?」

と僕が聞いてみると折木さんは少し言いにくそうに話始めた。

「少し前、コーヒー豆の買い出しに行ってきたんだが、とうとう()()が来たよ……」

奴等。僕の中で嫌な予感がした。

「白鳩か……思ってたよりも早かったな。まあ沈黙(サイレント)がいるからか……」

嫌な予感が的中してしまった。しかしまだ嫌な予感は収まらず、思い切って聞いてみた。

「あの…沈黙ってもしかしてかなり身長の高い、全身白ずくめの人ですか…」

僕がこう言うと会話の雰囲気がさらに重くなった。

「あいつに会ったのか…よく無事だったね」

「あの…沈黙のレートってどのくらい…「SSSレートだ」っ!そんな…」

僕の質問には折木さんが答えてくれたが、嫌な予感が次々と的中する。

「沈黙ってどんな喰種なんですか?」

「奴を見て生き延びた者は少ない。僕も見た事はあるけど逃げるだけで精一杯だった…」

(あいつが……僕達が喰種になった事の唯一の手掛かりなのに…今の僕じゃあ、あいつから逃げる事も出来ない……それにあの死体の山…)

僕は崖の下に積まれていた人達の事を思い出した。彼等もやっぱり、白鳩の中でもかなり強いのは僕にも分かった。しかし、それを音もなくあの人数を殺した……その事実に僕は戦慄(せんりつ)した。

「で、森羅。白鳩は何人位いた?ほとんどの上等と準特等捜査官は沈黙にやられただろうけど」

「多分数人。僕はお前程白鳩と戦ってないから詳しくは知らないけど、そんな僕にも知ってる顔が一人」

「あんまり聞きたくないけど誰だい?」

折木さんは口を開き一言、

言ノ葉(ことのは)

と言った。黒坂さんの顔が緊張していく。

「彼か…随分と偉くなったもんだな…」

「あの、これからどうするんですか?」

霞が口を開いた。僕も疑問に思っていたけれど、怖くて聞けなかった。

「とりあえずはこの12区を出ないと、ですよね?」

栞がこう言うと黒坂さんは(うなず)いた。さらに栞は続けて、

「一刻も早くこの区を出ないと私達は全滅しますよ?」

と冷たく言い放った。僕は、

「栞、何もそんな言い方はないだろ…」

と言うと彼女は、

「時雨がそう言うならば止めるけど、これが現実よ。生き延びる為にはこの区を出るしかない」

「そんな事、分かってるけど……!」

「はいはい、喧嘩(けんか)は止め。こんな時に仲間割れをしてもしょうがないでしょうが」

と黒坂さんが手を叩きながら言った。そして彼は続けて、

「今日中にここは閉じる。そして、皆が少しでも逃げられる可能性を上げる為に俺が時間を稼ぐ」

と言った。この提案に賛成は出来なかったが、頷くしかなかった。何故ならここ(本来は学校の用具室なのだが)の所有者は黒坂さんで、ここにいる誰よりも力があるのも黒坂さんだ。しかし、僕はどうしても納得出来なくて、

「でもっ……!僕達が全員で挑めば…「駄目だ。君達の命を危険に(さら)す事になる。それは絶対に避けないといけないんだ」……絶対に…死なないで下さい」

この時、黒坂さんはいつもと変わらない笑顔を浮かべたつもりだったのだろう。しかし、その笑顔はどこか寂しげで(はかな)いものだった。

「大丈夫だよ、そんなに心配しなくても。俺は君達の師匠だよ~?」

「はい…」

「ん?聞こえないぞ~?」

「はい!」

僕を元気付けようとしているのが分かる。とても嬉しいけれど、納得は出来ない。しかし彼を止める事は自分にも出来ない事は良く分かっていた。

「よし!ちょっと森羅、来てくれ」

「何だ?」

「察しろよ~、男同士でしか話せない話だよっと!」

「お、おい!ちょっと……」

そうして僕達に話が聞こえないように黒坂さんは、折木さんの腕を引っ張って部屋に入っていった。

 

 

 

「で、どうしたんだ、翔伍。あの三人に言えない事でもあるのか?」

僕がそう聞くとこいつは表情を(くも)らせ、

「多分、俺は白鳩に駆逐(くちく)されるだろう。流石にSSの俺でも()()()()()みたいにスピードはないからな。それを考えてお前に頼む。あの三人を守ってくれ」

(何を言うかと思えば……そういえばこいつはそういう奴だった。態度はいっつも軽い(くせ)して、誰よりも周りの人が安全に過ごせるか考えてる。全く損な性格だよ……)

「お前に言われなくても分かってるよ。任せとけ」

「ありがとう……」

「何もお礼なんか……でも、もし…逃げれるようなら逃げてこい。そんなに死にそうなツラしてんなよ、一番の友達の前で」

「そうだな……さあ、戻ろうか!」

「ああ」

この会話が僕と翔伍の、互いに隠し事を一切しない最初で最後の会話になった。

 

 

 

「いやー、ごめんごめん!ちょっと森羅とエロい話で盛り上がってねぇ~」

「おい!?そんな話はしてないぞ!?」

僕は黒坂さんと折木さんの顔が憑き物が取れたように明るくなっているのが分かった。恐らく二人はそんな話はしてないだろう。霞は二人に軽蔑(けいべつ)の目線を送っていたが……

「時雨、貴方はどんな趣味なの?」

唐突に栞が僕に寄り掛かって聞いてきた。

「僕に変な趣味はないよ……」

「え~?」

これから戦いが始まっていくのかが疑問に思える程に心地よい雰囲気が広がっていた。

(たとえ絶対に叶わないとしても…願う位なら良いだろう。せめてこの瞬間が少しでも長く続いて、いつまでも皆の心に残りますように……)

「さあ、解散解散!」

「「「はい」」」

「分かった分かった」

帰る時に霞と二人で話した。

「お兄ちゃん、美晴さんや智哉さんは良いの?」

良い訳がない。本当はあの二人、それに智乃ちゃんに言わずに、これから先、会えなくなるなんて嫌だ。でも、霞を危険に晒したくない。僕だって朧の目を覚まさせてやらないといけない…死ぬ訳にはいかない。

「何も言わないで去るのは嫌だよ、でも……この身体の事をバレたら拒絶されるかも知れない。それが何よりも怖いんだ……」

霞は何も言わなかったが、僕の気持ちは伝わっただろう。絶対に死ぬ訳にはいかない。これは絶対にだ。しかし、この時僕の嫌な予感はまだ収まってはいなかった。黒坂さんが絶対に自分達の手の届かない所へ行ってしまう気が……




3000文字越えました。お気に入りに登録して下さっている三人の方々ありがとうございます!この作品を書く為の原動力になっています。
アクロバティックな戦闘シーンが書けるように頑張っていきたいです。それでは失礼します~

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