今回は本編に食い込まず、タイトル通り(作者の)休息です。
また次回から本編に入っていこうと思います。まあ、ロマニ目線なので、ダイジェストでお送りしますがね。
では、どうぞ。
一人の人間の話をしよう。
いや、別に個人個人が好きなわけじゃないんだけど、ね? ほら……うん、深くは言わない方がよさそうだ。
無理をしている凡人の、特別でもなんでもない話。
主役は彼ではないし、活躍するにも地味過ぎる。
必要なのかと言われればどうだろう? 私からすれば、人の身である彼は特段いるとは思えない。
正直な話、現状彼だけを見ていても退屈だ。物語を楽しむには、彼の隣にいる明るい髪の少女やそのサーヴァントを眺めていた方が退屈しない。なにせ、僕は彼女の綴る物語のファンになってしまいそうだからね。できることなら、夢にでもお邪魔したいところだ。
まあ、彼女を見ているなら、結局は彼も見えてしまうのだけれど。というか、彼もいなければ面白みに欠けるのは確か……まったく、困った男だね。
いなければいないでいいし、いたらいたで意味がある。この上なく厄介だ。
今後、彼女の話をするときも必ず出てくるであろう人物。最早この物語において確固たる居場所を築いてしまっている者。
参ったねぇ。
彼を見ているのは苦しい部分もあるんだが、見ていれば見ている程続きが気になってしまう。まさか、凡人の彼がそうさせるとは。とんだ大番狂わせじゃないか。
うん、悪くない。悪くはないとも。あのバカの人間味溢れる愉快な姿を観れるなら。望んでいたわけではないが、祝福しようじゃないか。僕には未来は見通せないけれど。
どうか、彼が彼らしく振る舞えることを願っていよう。
さて、それじゃあブログの更新でもしてこようかな。フフッ、バレるときが楽しみだ。彼女と実際に話してもみたいが、もしそのときが来たのなら、一ファンとして、彼女と多くのことを話そう。教えよう。ついでに、バカの反応でも見ようかな。おおよそ、予想通りの反応をするだろうけど。
とりあえず、現在の状況でも見ながら、ゆっくりとブログの更新作業をしようじゃないか。
彼の楽しみが、ひとつでも多くあるように。
いやぁ、よかった。
なんていうか、一仕事終えた気分だ。もっとも、実際にしていたんだけど。
「でも、本当によかった」
他の子たちには悪いけど、残った人類最後のマスターが、立香ちゃんなのは幸いだった。下手に力のある、慢心しやすい子や臆病な子だと任務に失敗しかねない。それに、マシュとの相性もあったからね。
正直なところ、マシュにも歳の近い友人――もといマスターができたのは僕も嬉しい。立香ちゃんならサーヴァントを道具として見ることもないだろうし、むしろかわいい後輩として接してくれるはず。
「いまさらそんなことを心配するのは失礼かな。冬木での二人を見てれば、わかることだしね」
「おや、一人でにやけてると気持ち悪いぜ、ロマニ」
「そういうときは話しかけずに見守るのがマナーだと思うよ、ダ・ヴィンチちゃん」
人がせっかく貴重な休憩時間をまったり過ごしているというのに、天才というのは空気を読めないものらしい。彼なら読んでいて壊しにきた可能性も否定できないけど……。
「なにか問題でもあった? キミにも解決できない難問とか」
「ないない。時間的に余裕があったからね。邪魔しに来たのさ」
迷惑にも程がある。
ボクだって暇ではないのだ。今日はスタッフのみんなにも休むように言ってあるのだから、穏やかな日々を過ごしたいのに。まあ、ボクはやることばかりでそうそう休めないんだけど。
「まったく……気が済んだら帰ってよ? こっちはこれから大忙しなんだから」
「おや? こんな美女を捕まえといて無視するのかい? それはちょっとつれないんじゃないの?」
人の頬を突つきながら尋ねるダ・ヴィンチちゃん。
「勝手に捕まりに来ただけだろ? だいたい、キミがボクを捕まえに来たっていうのが正しいんじゃないかな」
「ああ、なるほど。うん、その解釈も有りだ。ロマニ一人なら、どうということはない。なんならどうだい? 疲れているだろうし、この極上の女性たる私が面倒を見てあげようか?」
楽しそうだ。まるで、自分が退屈しないための行動のようでいて、他者のことも気にかけている。
相手をするのが少しばかりやりづらいところはあるけれど、彼は人の心を知らないわけじゃない。だからこそ、ボクはやりづらいのだけれど。
「遠慮しておくよ。ダ・ヴィンチちゃんの相手は荷が重いからね。時間あるなら、立香ちゃんの相手でもしてあげたらどうだい?」
「彼女の? う〜ん……それでも構わないんだけど、ほら、彼女の隣にはマシュがいるだろう? ならそれで十分かなと。下手に介入して二人の仲睦まじい空気を壊すのはもったいないし、マシュの時間もそう多くはない。でしょ?」
「……ああ。それは否定しない」
忘れたことは一度もない。
最初から最後まで、あの子の時間はおおよそが決められていることを。だからこそ、彼女にこそ多くを知ってほしい。その点、特異点を巡る旅は、あの子に多くをもたらしてくれるかもしれない。
「そこだけは、この状況にも感謝できることなのかもしれないね」
「トップが言っていい言葉じゃないぞ」
「いまのは同僚としての言葉だと思って見逃してほしいな。残念ながら、人は情が移ると弱い部分もあるみたいだからね」
おふざけ半分に伝えると、やれやれと首を横に振り、ため息を吐かれた。
「困ったトップだね。でも嫌いじゃないよ」
「はいはい」
「ほんと、釣れないねぇ。人類最後のマスターが男の子だったらおとしてる自信はあるんだけど、どう思う?」
仮にも程がある話題を選んできたな。
「未来ある若者が真実を知って絶望しないことを祈るよ」
「おいおい、絶望する前提はやめたまえよ。この身体でおとしにいって満足させないとでも思うのかい?」
背後に回った彼は、なぜかボクに抱きついてきた。いや、本当になんで?
「人類最後のマスターは女の子だし、第一ボクじゃないよ」
背中に当たってるから、早く退いてくれないと困る! 心はあれだけど身体はマズイ!
ああ、もう……変人はやることが大胆な上に遊び半分で行動に移すと来るから救えないんだ!
「ここで黙るのは得策じゃなかったね、ロマニ」
意地の悪い笑みを浮かべ、人の肩に顎を乗せてくる。ここで否定してはなにを言い出すかわからないのでそっとしておこう。
むしろ構わない方がいいかもしれないし、ここはマギ☆マリのブログチェックでもしようかな。
冬木の観測ばかりしていたから、更新されたかどうかのチェックすらしてなかったんだ。
「ほう。これはこれは」
「なに?」
ブログを眺めていた彼が不思議そうにしていたので、無視することなく尋ねる。が、
「いや、なんでもない。気のせい――もとい、話すことでもない」
「そう? じゃあボクはブログのチェックをさせてもらおうかな」
やっぱり、更新された記事がいくつかあり、その隣にはいつの間にかサイドバーが作られていて、メニューのひとつに投函箱なるものまであった。
「なになに? 世の中の疑問、困ったことがあったら送ってね。きっとその疑問、悩みに答えるよ、か。よし、万策尽きたら送ろう」
「ロマニはたまにというか、結構残念だよね」
かわいそうな奴を見つような冷ややかな視線が痛いなー。でも気にしないぞ。
「ほどほどにしておきなよ? じゃあ、少しお節介かもしれないけど、彼女たちの様子も見てこよう」
話は終わったとばかりに、踵を返すダ・ヴィンチちゃん。
結局なにをしに来たのかは定かじゃないけど、面倒事にならなかったのだから良しとしておこう。
「ああ、そうそう」
去り際、こちらを振り向く彼の顔には笑顔が浮かんでいて――。
「ロマニ。無理は禁物だが、無茶はするといい。なんだかんだ、凡人になったキミが奔走しているのを見るのは悪くない。もちろん、倒れない程度にしなよ。でないと大変だからね」
――僕の隣には、いつの間に用意したのか、淹れ立てのコーヒーの入ったカップが置かれていた。
まだ湯気の立つカップは温かく、ここ数日の疲れを静かにほぐしていくように感じる。
「ほんと、天才の行動はわからないなぁ」
それでも、彼はボクの友人であり、同僚であるのだろう。
初めて会ったときはそれはそれは怒られたものだ。そして、心配された。ふたつの出来事は別々のもので、けれど重なっていて。彼も割と曖昧な理由で協力してくれているうちの一人だ。
「昔のように色々見れればと願うのは、身勝手かな……まあ、見れてもなにかできるってわけじゃないからいいか」
もし、なんてことはない。
ありえたかもしれない別の未来を望むのは意味のないことだと知っている。
一度でも幻想に縋ってしまえば、二度と立ち向かうことはできないだろう。だからこそ、どんなに困難だろうとも、現在を見ていなければ。
だいじょうぶ。
ここにはボク一人じゃないんだから。明日からはまた、未来を取り戻す戦いが始まる。それまでの、ほんの一時の休息。
だから、少しだけ眠ろう。そして起きたなら、きっとみんなが待っていてくれるから――。
時間というのは経つのが早いもので、立香ちゃんは二日後には特異点にレイシフトすることになるだろう。
前回と同じようにといかなくても、どうか安全であればいいんだけど……そこは保証できないし、安全な特異点なんてありえない。
無理、無茶を強いる場面も多々出てくるはずだ。
もちろん、それをただ見ているわけにはいかない。だからこそ、ボクたちも相応の準備をしてある。
というのも、なにかと言えば、昨日、立香ちゃんの――カルデアの戦力補充があってね。聖遺物なんて根こそぎ破壊され尽くして残っていなかったんだけど、ダ・ヴィンチちゃん協力のもとなんとか英霊召喚を行えた。
その結果と来たら――。
「おやドクター、疲れた顔をしているな。少し待っていたまえ。なに、紅茶程度なら飲んでいく時間はあるだろう」
有無を言わさず席につかせる手際の良さ。
無駄のない動きを続ける、赤い青年。
「ボクにも予定があるんだけどなぁ」
などと言いつつ、おとなしく待ってしまうあたり、彼はうまい。
あらかじめ用意しておいたのか、手際よく目の前でお茶会よろしく展開されていく。こうなっては、彼を無視してしまうことはできない。したとしても、いいことはないだろう。
「キミは普段から休まないと聞いたぞ。まったく、休息は次の活動を円滑にするために必須だ。まして、カルデアのトップである男が倒れでもしてみろ? 他の職員だけではできないこともあるだろ。って、聞いているのかね?」
「あ、ごめんごめん。うん、もちろん聞いてるよ」
でも結構説教が多いんだよね。聞き流さないといけない程度には。
適当に対処している中、気付いているのかいないのか、彼はため息を吐きながらも紅茶を注いでいく。
出会って間もないので非常に言いづらいのだが、これでも彼のクラスはアーチャーだとか。昨日はマスターである立香ちゃんの世話もしていたみたいだし、なんというか、そもそもサーヴァントらしくない。
「アーチャー、こう言ってはなんだけど、生前料理長でもしていたのかい?」
「む? いや、その類の職に就いたことはないが。ほら、せっかく煎れた紅茶が冷めてしまってはもったいない。早く飲みたまえ」
「あ、うん……ありがとう」
紅茶か。
前にレオナルドに煎れてもらったことがあるけど、彼が召喚されてすぐのことだったからなぁ……味については言及しないでおこう。
そんな過去を思い返していると、視界の端に青い影が映った。
「ようアーチャー。なんか簡単に食えるもんはねえか?」
かと思えば、紅茶を煎れていたアーチャーの隣に、いつの間にか一人の男性が立っている。
彼も帰ってきたのか。ということは、立香ちゃんとのお話は終わったようだ。レオナルドから、大まかな説明も受けて来たのだろう。
「ランサー、キミは私を給仕係かなにかと勘違いしているのではないかね?」
「あ? そりゃおまえさんほど向いてる奴はいないだろ」
「ほう……それはどういう意味だランサー」
「言ったまんまに決まってるだろうがアーチャー」
なぜ会って早々喧嘩腰になるのやら。
ランサーは召喚してすぐ、顔を見ただけで真名がわかった。特異点Fでも立香ちゃんとマシュを支え、導いてくれた彼の別側面だろう。消滅間近になって、次はランサーで召喚してくれと言っていたのを覚えていたのもあってか、彼がクー・フーリンであることはわかる。
だが、アーチャーはまるでわからない。一応、今回の聖杯戦争は真名が明かされていようといまいと大きな差はないので聞いてはいるのだが……エミヤなんて英雄、知らないんだよねぇ。
ボクもかなりの知識を蓄えているとは思っていたんだけど、まるで知らないとは不思議だ。
「ウソを言っているようでもなかったし」
けれどここまでクー・フーリンと仲が悪いっては生前関係があったように思うんだけど、記憶にエミヤなんて名前はない。
特異点Fでもなにか『今回は』とか『悪いな、全部が』とか断片的に聞こえていたんだけど、これでなにも関係ないと思うのは無理だ。
「まさか、他の聖杯戦争で会ってたりしてね」
いまも目の前で繰り広げられる口喧嘩。
よく見ていると、嫌悪し合っているというより、長年そうしてきたような感じにも見える。お互いに文句を言いつつも自然体で。
「ああ、わかったよ」
「なにがだ?」
「まだいたのか?」
一人納得したところ、二人から声が上がる。というか酷いな!
「ひとまずボクの扱いは置いておくとして、キミたちがあれだね。嫌よ嫌よも好きなうちって――」
一閃。
二人の手に握られた宝具が頬を掠めて壁に突き刺さる。
「「死にたいかドクター(軟弱男)!」」
「――キミたちはまずボクに対しての態度から改めようか!? 一般人相手に宝具を取り出すとか男らしくないぞ!」
下手に避けようとしてたら逆に当たってるからね!? アーチャー。いや、エミヤくんに関しては人の体調を気にしていながらなんて暴挙を……。
「ったく、これがキャスターのオレが気にかけてた男とはねぇ」
やれやれ、と首を横に振るクー・フーリン。
そうか、彼は冬木での映像を観てきたのかな? 確かにキャスターの彼にはだいぶ気にかけてもらってはいた。
「いったいどこを気にしてたんだが。まあ、他のオレのことはどうでもいいけどよ。おかしな課題が出てたが、あれはオレが出したもんじゃねえから受けつけねえぞ。キャスターのオレに会うことがあったら、そのとき答えてやりな」
「……わかった、覚えておくよ」
「おう、そうしとけ」
彼は会話を終えると適当な席に腰を下ろし、散々言い合っていたエミヤくんに料理の注文をしていた。相手をしているエミヤくんも渋々といった様子だったが調理はするようで。
やっぱり仲はいいんじゃないだろうか。
「おや、ロマニ。キミが休んでいるとは珍しいじゃないか。うん、たまの休息は必要だ。あ、隣失礼するよ」
こちらの言葉を聞きもせずに横の席に座ったのは、もはや長いつきあいとなったレオナルドだった。
「相変わらずの身勝手さだな」
「おいおい、こんな美女が隣に座ってやっているのになんて口だい? これか? この口が悪いのか?」
ボクの唇を引っ張ってくるが、ここは我慢だ。何度もいじられて成長した精神力は伊達じゃない。反応を見せるより無視した方が早く終わるんだから!
「チッ、小賢しくなったねロマニ。今度キミが反応せざるを得ない発明品を持ってくるとしよう」
「よおし、発明される前にことごとく邪魔してやるぞ」
互いに別々の反応をしながら牽制する。
彼の発明は基本被害者が出るからね。立香ちゃんたちが巻き込まれないよう注意しないと。最悪エミヤくんたちの力を借りてでも破壊する日も来るかもしれない。
「それだけ平和な日々が訪れるなら、悪くないのかもしれないけどさ……」
あと二日。
そうしたら、長い戦いが本当の意味で始まることになるだろう。ボクの――いや、彼の視たものが現実になるのか、なるとして、いつか。
全てを受け入れる日が来るかもしれない。
これはもう、多分ボクの物語ではなくなっている。世界は既に、中心を決定した後だ。ならば彼女こそが相応しい。
「あ、ロマン発見! ってあれ? みんないるじゃん! マシュ、みんな揃ってるよ〜」
「先輩、待ってくだい!」
こちらに駆けてくる、元気な声がふたつ。
これまではボクが一人でなんとかしなければと勝手に思っていた。なんせ、危機を知っているのはボクだけだったのだから。
でも違ったんだね。
「キミたちが、世界を救うんだろう。未来を取り戻すんだろう」
なら、これはキミたちの物語。
ボクは最後まで、見届ける役目なんだと思いたい。だって、そうだろう? あの子たちのしていくことを、この目に焼き付けておきたいじゃないか。
いつまでも、いつまでも――。
イベントも終わり、また新しい物語が始まりますね。
石の貯蔵は十分ですか? ちなみに私はもう戦えそうにありません。酒呑ちゃん復刻のその日まで我慢しようかなと。
余談ですが、うちのカルデアにはえっちゃんが来てくれました。みなさんはどうでしたか?
では、また次回。