ボクの決意ができるまで   作:alnas

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どうもみなさんalnasです。
日が変わらぬうちに話を更新するのは久々な気がします。
戦闘はないし、ロマンは動かないしで、退屈かもしれませんが、今回もおつきあいください。
では、どうぞ。


協力者来る

 みんなに望まれるまま、できることはすべてやった。

 自分のためにできることなど、なにもなかった。

 気づいた頃には、手遅れで。気づくことは、傷つくことだと、後になって知った。

 ロクデナシの、ひとつ残った願い。

 叶えられた先にあった、戸惑いと困惑。初めて手にする、人間としての感性。

 すべてを周りからのみ求められた者。

 それが終わろうと、いまだボクには求められる。

 時間を奪い去ろうと。

 平穏を脅かそうと。

 結局、ロクデナシは求める者にはなれないとしても。

 せめてこれが、悲しい物語にはならないように。

 簡単に手に入る言葉が、手に入らないとしても。

 どうか、人間が手を取り合い、助けられ、助け、汚れなき明日をつかめるように――。

 

 

 

 困ったな。

 確かに撃破した……したけど、同系統の反応がもうひとつ。

 この街では、サーヴァントが既に召喚されていたってことか。

「そうなる可能性なんて、ひとつしかない」

 より詳しく言うのなら、ボクはひとつしか知らない。だとしたら、状況はなにもよくないぞ。

『ああ、もう! どういうことよ、なんでサーヴァントがいるの!?』

 みんなに逃げろと言ってから、必死になって走っていた所長が叫ぶ。

「恐らくですが、聖杯戦争です、所長。その街では、聖杯戦争が行われていた」

『まさか……』

「本来なら冬木で召喚された七騎による殺し合いだけど、そこはもうなにかが狂った状況なんだ! マスターのいないサーヴァントがいても不思議じゃない。そもそも、大前提として、サーヴァントの敵はサーヴァントだ!」

 敵がいれば襲ってきても不思議じゃない。

 昼も夜も関係なく手を出してくる輩はいるし、手段を選ばない者だってもちろんいる。

『……じゃあ……私がいる限り、他のサーヴァントに狙われる……?』

『マシュは聖杯とは無関係でしょう! アレはただの、理性を亡くした亡者よ!』

 そう、マシュは聖杯によって呼ばれたわけじゃない。もとより、サーヴァントであったわけでもない。正規の聖杯戦争であれば、狙われる道理はないのかもしれない。

 けれど、違うんだ。

「キミたちは争いへと介入してしまった。であれば、敵からしたら、紛れもなく当事者だよ」

 勝ち抜くことが最善の道なんだけど、マシュ一人では明らかに厳しい。

『――見ツケタゾ。新シイ獲物。聖杯ヲ、我ガ手ニ!』

 話しているうちに新しい反応か!?

「サーヴァント反応、確認! そいつはアサシンのサーヴァントだ!」

『……っ!? 応戦します! 先輩、私を使ってください……ッ!』

『わかった、絶対に勝たせてみせる!』

 ああ、もう! 次から次に、マシュを休ませる時間すらよこさないつもりか?

『――はい。あなたに勝利を、マスター!』

「連戦で済まないが、みんなを守ってくれ、マシュ!」

 つくづく思うな。

 あの場に、自分も行けたらと。

 もちろん、このボクがいったところで、ある程度の助けにもならないだろう。でも――いいや、もっとダメだ。管制室からボクまでいなくなったら、それこそ瓦解するだろう。

 助けになる手段を持っていないとは言わない。彼女の、立香ちゃんの助けになることもできるだろう。少し弱いかもしれないが、それでも経験というものもある。

「でも、まだそのときじゃないんだよね」

 自身から発せられる冷たい声音。

 何者かが手を引いていることは確定。誰かもわからないうちに、切れるカードを切ってしまうのは悪手だ。

「ごめんよ、マシュ。でもどうか、任せ――」

 反応がひとつ、三人のところへと移動してきている!

「立香ちゃん、追いつかれた! もう一体のサーヴァント、そっちが本命だ!」

『そんな……一体でも敵わないのに、二体同時に襲ってくるの!?』

 所長の顔色が曇る。

 当然だ、アサシン一体に対してすら、マシュは満足に戦えていなかった。そこにもう一体加わったりしたら――。

『決メルゾ、ランサー。ドコノ英霊カ知ラヌガ、御首ニハ違イナイ』

『――ハ。ハハハハハハハハハハハハハハハハ!』

 狂ってる……これは話し合う余地もなしだ。

「所長、マシュ、しっかりするんだ! 足を止めちゃいけない!」

 モニターの向こうでは、フォウも懸命に彼女たちに声をかけている。が、狂ったサーヴァントの姿に、状況に、完全に冷静さを失っているようだ。

「くそっ、二人とも飲まれてる……指示を出すんだ、立香ちゃん。冷静なのはキミしかいない!」

『……いまは逃げるしかない!』

 マシュに、所長に聞こえるように声を上げる立香ちゃん。

『先輩!』

『面白イ、面白イ面白イ面白イッ!』

 マシュが反応を示した直後。

 その隙を、ランサーのサーヴァントは見逃さなかった。

「マシュ、避け――」

『く、つぁ……』

 言葉はそれ以上、続かなかった。

 逃げ出した矢先、マシュの背後へ到達したランサーによって、マシュが吹き飛ばされた。

『面白イ。殺シタイ。逃ゲル背中ホド、美シイ!』

 そのままマシュの元へと歩いて行き、握る薙刀を頭上に掲げる。

「くっ……!」

 つい立ち上がるが、どうしたところでなにもできない。わかっているさ、そんなこと!

 でも、でも!

 彼女と過ごした時間がある。

 彼女に色々と教えてきた思い出が残っている。

「――――………………ごめん、少し席を外すよ! 変わらず立香ちゃんとマシュのサポートは頼んだ!」

「Dr.ロマン! あなたはどうするんですか!?」

 管制室を出て行こうとするボクを止める声。

「どうするって、みんなを助けるために――」

 時間のない中、振り返って声を紡ごうとすると、モニターに映る光景は変わっていた。

『ヌゥ……何者ダ!?』

 どういうわけか、マシュの側へと迫っていたランサーが押し戻され、アサシンまでもが動きを制限されていた。

『何者って、見ればわかるだろご同輩。なんだ、泥に飲まれて目ん玉まで腐ったか?』

 青髪の青年が物陰から姿を表す。

「まさか、彼が……?」

「Dr.ロマン、さあ、席に戻って。あなたの仕事は、ここで彼女たちを助けることでしょう?」

 ボクがしようとしていたことを知る由もないはずのスタッフは、ボクに優しく声をかけてくる。大方、マシュがやられそうになってパニックに陥ったとでも思ったんだろう。

 都合のいいことだ。嘘を重ねるのは悪いかもしれないが、甘えさせてもらおう。

「ああ、そうだったね。ごめん、ちょっとびっくりしちゃって。すぐに戻るよ」

 再びモニターの前に腰を下ろし、周囲を見渡す。

『貴様、キャスター! ナゼ、漂流者ノ肩ヲ持ツ……!?』

 ランサーのサーヴァントが青髪の青年へと問いかける。

 言葉からして、彼もサーヴァントのようだ。キャスター……キャスターか。そうか、キャスターかぁ……。

『あん? テメエらよりマシだからに決まってんだろ。それとまあ、見どころのあるガキは嫌いじゃないんでね』

 そう答え、キャスターと呼ばれたサーヴァントはマシュを立たせる。

『そら、構えなお嬢ちゃん。腕前じゃアンタはヤツに負けてねえ。気を張れば番狂わせもあるかもだ』

『は、はい! 頑張ります!』

 味方、か。

 よかった。とりあえずよかった! 進にしろ、待つにしろ、マシュ一人ではつらいところだったんだ。

「本当に、よかったよ」

 これなら、ボクは冷静でいられそうだ。

 ここから出て行くこともないだろう。現地で戦力が増やせるなら、必要ない。

『お嬢ちゃんがマスターかい?』

 聞かれ、立香ちゃんが首を縦に振り、肯定する。

『そうか。なら、指示はアンタに任せようか。オレはキャスターのサーヴァント。故あってヤツラとは敵対中でね。敵の敵は味方ってワケじゃないが、いまは信頼してもらっていい。一人で健気に戦っていたあのお嬢ちゃんに免じて、仮契約だがアンタのサーヴァントになってやるよ!』

 キャスターはそう伝えると、前を向く。

 だが、その間に、聞こえるか聞こえないかの声量で何事かを口にした。

『信じがたいことに、情けない声が言ったのさ。お嬢ちゃんを助けてくれってな』

 たぶん、この言葉が聞こえていたのは、ボクだけだっただろう。

 

 

 

 その後、キャスターの助力により二体のサーヴァントは撃破された。

『あ、あの……ありがとう、ございます。危ないところを助けていただいて……』

『おう、お疲れさん。この程度貸しにもならねえ、気にすんな! それより自分の身体の心配だな。ケツのあたり、アサシンのヤロウにしつこく狙われてただろ?』

『ひゃん……!?』

『おう、なよっとしているようでいい体してるじゃねえか! 役得役得っと。なんのクラスだかまったくわからねえが、その頑丈さはセイバーか? いや、剣は持ってねえけどよ』

 キャスターの彼は気さくな性格をしているようだ。

 もっとも? ただのエロオヤジにしか映ってないけどね!

『……ちょっと、立香。アレ、どう思う?』

『まごうことなきセクハラオヤジだと思います』

 他の女性陣も大方同じ見解らしい。まったく、羨ま……けしからん!

「とは言え、とりあえず事情を聞こう。エロオヤジなのは間違いないが、彼はまともな英霊のようだし」

『おっ、話の早いヤツがいるじゃねえか。なんだオタク? そいつは魔術による連絡手段か?』

 キャスターが話しかけてくる。

 久々のサーヴァントとの会話だな。あ、違うや。少し前に彼と話していたっけ。彼とは慣れたものだが、初対面の英霊にはそれ相応の態度で臨まないと!

「はじめまして、キャスターのサーヴァント。御身がどこの英霊かは存じませんが、我々は尊敬と畏怖をもって、」

『ああ、そういう前口上は結構だ。聞き飽きた。てっとり早く用件だけ話せよ軟弱男。そういうの得意だろ?』

「うっ……そ、そうですか。では早速……軟弱……軟弱男とか、また初対面で言われちゃったぞ……ちょっとへこむ……」

『早く話せよ』

「は、はい。では――」

 おっかしいなぁ。最近の英霊というのは、ああした態度で接するのを拒むのか。

 確かに、すべての英霊が好むわけではないだろうが。にしても、軟弱か。まあ、仕方ないよね。そっち方面に特化した性能をしていたわけでなければ、この身はただの人なんだから。

 でも、トレーニング量、増やそうかな……。

 

 

 

 

 

 やはり、現地のサーヴァントの協力を得られるのは大きいな。

 モニターを眺めながら、ボクはそう思っていた。

「なにより、経験の多い英霊ほど、マシュにとっても影響は強いんじゃないかな」

 戦い方もだが、彼らの話は普通に聞いていても楽しいものだろう。糧になるだろう。マシュには必要なモノだ。

 まあ、戦力としても大分頼りにしたいんだけど。

 マシュ一人に立香ちゃんと所長を守ってもらいながらの戦闘は早い。早過ぎる。

 できることなら、キャスターの彼に導いてほしいところなんだけど……なんか荒行事になりそうで頼むに頼めないんだよね。

 けれど。

『…………』

 マシュが黙り込み、見るからにへこんでいるいまぐらいは、彼を頼ってもいいのではないだろうか。

『ちょっと、立香。キリエライト、見るからに落ち込んでいるわよ? あなた、一応マスターなんだから、ケアしてあげなさいよ』

 所長もマシュの変化に気づいたのか、それとなく立香ちゃんに伝えていた。

 ひとつ頷いた彼女は、歩く速度を落とし、マシュの隣まで移動する。

『……やっぱり、アレ?』

 静かに問うと、

『…………はい。私から宣言するのは情けないのですが……』

 時間をかけ、マシュは口を開く。

『その、私は先輩の指示のもと、試運転には十分な経験を積みました。なのに……私はまだ宝具を使えません。使い方すらわからない、欠陥サーヴァントのようなもので……』

 聞いている間、所長がボクを見てくる。

 マシュの位置からは見えないところで、口だけを動かして。

 ふぉ ろ お し ろ

 一文字ずつ見ていくと、なるほど。フォローしろ、か。

 任せてほしい。こんなときこそ、ボクの楽観的思考が役に立つものさ!

「ああ、そこを気にしていたのか。マシュは責任感が強いからなぁ……でも、そこは一朝一夕でいく話じゃないと思うよ? だって宝具だし。英霊の奥の手を一日二日で使えちゃったら、それこそサーヴァントの面目が立たないというか」

『あ? そんなのすぐに使えるに決まってるじゃねえか。英霊と宝具は同じもんなんだから。お嬢ちゃんがサーヴァントとして戦えるのなら、もうその時点で宝具は使えるんだよ』

 ちょっと!? ボクの話に重ねて言うのやめてもらえるかな! 本来ならボクの出番これだけで奪われてるからね!? フェードアウトしてるよ、これ!

 しかも所長は所長で仕方ないわね、ロマニじゃ……みたいな顔するのやめてもらいたい!

『使えないってコトぁ、単に魔力が詰まってるだけだ。なんつーの、やる気? いや、弾け具合か? とにかく、大声をあげる練習をしてねえだけだぞ?』

『そうなんですか!? あ……そーうーなーんーでーすーかー!?』

『ちょっと、いきなり大声出さないで! 鼓膜が破れかけたわよ、本気で!』

 そうこうしているうちに、キャスターとマシュの会話は続いていく。ボクの話は完全スルーだね、わかるとも! というか、マシュの大声が聞こえた辺りから、スタッフが何名か頭や耳を押さえてるな。

「なんでDr.ロマンは平然としているんですか……」

「あはは、そこはそれ。決してライブ会場ではっちゃけた経験が活きているわけじゃないよ」

「……なんでこの人が医療部門トップなのかしら?」

「酷いなー」

 いや、本当にボクの扱い雑になってきたね。

『まあ、やる気が出たのはいいことさ。立香、お嬢ちゃんがこう言ってるんだ。少しばかり寄り道して構わねえな?』

『寄り道って?』

『なに、ただの特訓だ。すぐに終わる。いまのオレはキャスターだぜ? 治療なら任せておけ』

 目を離した隙に話が進んでいる!?

「治療なら任せろって、怪我する前提の話だよね……」

『どうだろうな? さて、まずは厄寄せのルーンを刻んでだな……よし』

『え? なにしてるのあなた。なんで私のコートにルーンを刻んでいるの?』

 見ている限り、危なくはなさそうだけど……ん? 厄寄せ?

『あんたなら、狙われても自分でなんとかできるだろ。ほら、来たぜ』

 キャスターの指差す先。そこにいたのは――

「うん。どう見ても敵だね! しかも、全個体所長に向かって来てるぞ!」

『意味がわからないんですけどー!?』

『しょ、所長、私の後ろに! 先輩も、戦闘準備お願いします!』

 慌てふためくオルガを立香ちゃんが引っ張っていきながら、入れ替わるようにマシュが前に出る。

『よしよし、こんだけ集まれば十分だ』

 一人楽しそうにしているキャスター。

「いったいなにを……」

『あ? つまるところ、宝具ってのは英霊の本能だ。なまじ理性があると出にくいんだよ。なんで、お嬢ちゃんにはまず精も根も使い果たしてもらうって寸法さ! 冴えてるな、オレ!』

『もしかしてバカなんですか!? ううん、バカだ!』

 まったくだ! そして立香ちゃん、キミ、英霊相手に中々言うね! よくぞ言ってくれた!

 できれば、こんな荒療治みたいなことは避けたいんだけど。

 波のように押し寄せてくる敵に立ち向かう少女を眺めながら、多くのことを思う。思ってしまう。

 あれはただの少女だと。

 戦うために生きているのではないのだと。

「覚悟が足りないのはボクなんだとわかってはいる。でも――いや、だからこそ。頑張ってくれ、マシュ」

 力が足りなければ守れない。

 手札が尽きれば負ける。

 そんな局面には、割と出くわすことだから。できることを増やすのは悪いことじゃない。たとえ、多少のリスクを背負うとしても。

 もちろん、ボクはリスクを背負っての行動は避けたいんだけどね。一応、キャスターも見守っててくれるわけだし。英霊にまで上り詰めた相手だから、どうするかは微妙なラインだけ。本当の本当に危ないときは、迷わず助けてくれるだろう。

 

 

 

『限界、です――これ以上の連続戦闘、は――すいません、キャスター……さん…………こういった根性論ではなく、きちんとした理屈にそった教授、を――』

 かなりの時間が経ち、さすがにマシュも限界が近い。

 これまでかなり頑張ったと思うけど、しかし。

『わかってねえなぁ。こいつは見込み違いかねぇ』

 キャスターは納得がいかないようで、マシュの提案など聞いてもいないようだ。

『まあ、いいか。そんときはそんときだ。んじゃ、次の相手はオレだ。味方だからって遠慮しなくていいぞ。オレも遠慮なしで立香を殺すからよ』

『っ……!?』

『なに言ってるのあなた、正気!? この特訓に立香は関係ないでしょう!?』

 マシュがすぐさま体勢を整え、所長が抗議の声をあげる。

 でもたぶん――。

『サーヴァントの問題はマスターの問題だ。運命共同体だってーの。おまえもそうだろ、立香? お嬢ちゃんが立てなくなったときが手前の死だ』

『マスター、下がって、ください……私は、先輩の足手まといにはなりませんから!』

 呼吸を整えるマシュ。

 対して、キャスターの言っていることは正しい。サーヴァントが絡んでくるのなら、その通りだ。

 でも。

『そうこなくっちゃな。んじゃ、まともなサーヴァント戦といきますか!』

「どうしてこう、勝手かな。英霊って奴は、誰も彼も!」

 戦闘になったら、どう考えてもマシュが不利じゃないか。だいたい、立香ちゃんを失った時点でボクらは終わりだ。ああ、始めないでくれ!

 って、もう遅い!?

『さて、行くぜお嬢ちゃん! 主人もろとも燃え尽きな!』

 キャスターが詠唱に入る――ってそれ宝具だろ!

『破壊するはウィッカー・マン! オラ、善悪問わず土に還りな!』

 行動を見せた直後、キャスターの前方に枝で構成された巨人が召喚される。その巨人は火炎を纏うと、マシュへと向かい出す!? 巨人なだけあって、十メートルを超えるサイズの巨体だ!

『ぁ――あ』

 炎の中、マシュのか細い声が聞こえる。

 ボクに彼女の思うことはわからない。でも、責任感が強く、マスターを信じている彼女なら!

『ああ、ああぁあああっっ!!』

 モニターが炎一色に染まった瞬間。

 マシュの咆哮と共に、彼女の構える盾の正面に巨大な結界が張られ出す。青白く光る壁は火炎の進行を阻み、巨人の行くてを遮り、そして。

 見事、キャスターの一撃を耐え切ってみせた。

『あ……私……宝具を展開、できた……んですか……?』

 へたりこんだマシュを確認したキャスターは、

『へえ。なんとか一命だけはとりとめると思ったが、まさかマスターともども無傷とはね。喜べ……いや、違うか。褒めてやれよ、立香。あんたのサーヴァントになったお嬢ちゃんは、間違いなく一線級の英霊だ』

 笑顔を見せながら、マシュの成長を喜ぶキャスター。

 ボクとしては、マシュが宝具を展開したことより、その表情を見せることの方が驚きだった。

 英霊になっても、子どもの成長は嬉しいものなのか。

『先輩……私、いま……!』

『うん、凄かったよ、マシュ!』

 両手を広げて、マシュへと駆け寄る立香ちゃん。そのままマシュを抱きしめる。

『っ……!』

『フォウ、フォーウ!』

 フォウも彼女に続くように、マシュへと向かっていく。

 二人とも、嬉しそうだね。そんな光景見せられたら、意識がそっちに集中しちゃうよ。

「……驚いたな。こんなに早く宝具を解放できるなんて。マシュのメンタルはここまで強くなかったのに……」

『そりゃ、あんたの捉え方が間違ってたんだよ。お嬢ちゃんはアレだ。守る側の人間だ。鳥に泳ぎ方を教えても仕方ねえだろ? 鳥には高く飛ぶ方法を教えないとな』

 ボクの疑問に、キャスターが答えてくれる。

 守る側……それは。

 それはボクが知らない在り方だ。

 誰かを守る。守り通す。

 できるわけがない。そもそも、そんなやり方は知らなかったのだから。でも、ボクの関わった少女がそれをできるのは、なんだか眩しいな。

 眩しくて、それでいて、ほんのちょっぴり、誇らしい。

 なにもしていない。精々、あたりさわりのないことを教えただけで。少しばかり、生きる手伝いをした程度だろう。

 なのに、彼女の成長が、彼女の在り方が、どこか嬉しいんだ。

「これも人間らしい、ってことなのかな」

 口から漏れた言葉は、誰にも聞かれず溶けていく。

 まだ、なにも終わっていないけれど。解決していないけれど。

 ああ――どうか、彼女の成長を。マシュの隣を歩んでくれる立香ちゃんとの二人の物語を。

 この先の未来を。

 できることなら、ずっと見守っていきたいものだ。

 どうか、ずっと――。

 

 

 


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