問題児たちと不死身の少年が異世界から来るそうですよ? 作:桐原聖
ー箱庭二一0五三八0外門・内壁にて
小林はレティシアと噴水広場を歩いていた。
「主殿、そこの店に寄らないか?」
「僕は別にいい」
「そうか。それは残念だ。この店は肉が旨いと有名な店なのだが」
「・・・少しだけなら」
「では行こうか、主殿。これはデートなのだから、楽しまないと」
そう、小林は現在、レティシアとデート中だ。
-事の発端は今から一時間前の事-
小林は屋上で大の字になって空を見上げていた。すると、後ろから声をかけられた。
「主殿、これからデートをしないか?」
振り替えるとレティシアだった。小林は聞く。
「何だ、デートって」
「男と女が一緒に出かける事だ」
「僕は別にいい。というか、なんで僕なんだ?」
するとレティシアは、微かに頬を赤らめて言った。
「何を今更。あんなに情熱的な告白をしておいてそれはないだろう、主殿」
「だ、だからあれは十六夜に騙されただけで」
「大丈夫だ、分かっているぞ主殿。恥ずかしい気持ちは十分に分かる」
全然分かっていなかった。
その後色々あって今に至る。
小林は目の前の『2トン肉』と呼ばれる肉を歯で食い千切る。レティシアも言っていた通り、この店の肉は旨い。ただし、量が多い。
「美味しいか、主殿」
「ああ、旨い。けど僕はもう腹一杯だ」
そう言って小林は食べかけの肉をレティシアに渡した。レティシアは一瞬顔を赤くしたが、「ありがとう」と言い小林の食べかけの肉にかじりついた。
「行くぞ」
レティシアが食べ終わり、二人して満腹になった頃、小林が言った。
店を出ると、噴水の近くに人だかりが出来ていた。
「何かあったのだろうか。行ってみようか、主殿」
そう言ってレティシアが手を差し出してくる。だが小林はその手を取らず、人だかりに一言「退け」と言った。その気迫に人だかりが左右に分かれる。
「行くぞ」
「あ、ああ」
慌てて返事をして小林の後を追う。だがその顔は先ほどとは違い暗い。
(主殿は私と手を繋ぎたくないのだろうか)
もしもそうなら悲しい。小林達に救ってもらった恩義は忘れられるものではない。それに、
(あの言葉、嬉しかった)
旧“ノーネーム”が魔王とのギフトゲームに負けて以来、レティシアはずっと道具扱いだった。それこそ、悲しみをこらえなければならないほどに。
だが、小林が言った、あの言葉。
『お前の悲しみは、僕が背負ってやる。お前の苦しみも、僕が背負ってやる。だから、僕と共に来い。お前の苦難は全部、この僕が背負ってやる』
もちろん、十六夜が考えた言葉だと言うことは分かっている。だが、そんなことはどうでもいいほど、レティシアには嬉しかった。
「ッ!!」
突然壁のような物にぶつかり、尻餅をつく。見上げると、そこにあったのは壁ではなく、小林の背中だった。
(じゃあ私は今何にぶつかったんだ?)
「おい兄ちゃん。誰に喧嘩売ってるかわかってんのか、おい」
「そうとも。俺たちの喧嘩を止めるなんて、いい度胸してんじゃねえか」
見ると、小林は二人の男に絡まれていた。どうやら人だかりの正体は、この喧嘩だったようだ。
「ッ! まずい!」
レティシアは小林をかばうように前に出る。彼らはおそらく人化の術を使った巨人族だ。だがそれでもなお、力も体格も小林やレティシアの倍以上だ。もし一撃でも食らえば小林の体はバラバラになるだろう。
「あ、なんだ姉ちゃん。こいつの付き人か?」
「テメエどこのコミュニティだ、名乗れよ」
男に聞かれ、レティシアは悔しそうに答える。
「ジン=ラッセル率いる“ノーネーム”」
それを聞くと、男は馬鹿にしたように笑った。
「おい聞いたか?“名無し”風情が、俺ら巨人族に喧嘩を売るみたいだぜ!」
それを聞いた野次馬が笑った。嘲笑に耐えきれなくなったレティシアが小林に言う。
「行こう、主殿」
だがその行く手を巨人族のもう一人の男が阻む。
「逃がすと思ってんのか?こいつは、俺らに喧嘩を売ったんだぜ?」
「それについては謝罪しよう。だから今回の事は水に流してくれないか」
「嫌だね」
巨人族の男はそう言うと、野次馬に聞こえるようにわざと大声で言った。
「おいお前ら!こいつら俺らに喧嘩を売るだけ売っといて逃げるつもりだぜ!」
野次馬はすぐに反応した。
「逃げんな名無し!」
「名無しに巨人族の強さを教えてやれ!」
「そうだそうだ!」
レティシアは唇を噛んだ。こうなった以上、もう逃げられない。だがこのまま小林と巨人族を戦わせれば小林は死ぬ。それだけは絶対に嫌だ。
「戦う準備は出来たか、名無しの兄ちゃん」
巨人族の男が拳を構える。
「待ってくれ!その勝負、私が受ける!だから・・・・」
「おい待て、姉ちゃん」
小林に向かって飛び出そうとしたレティシアを、巨人族のもう一人の男が押さえつける。
「いいか、この喧嘩は兄ちゃんが売った。従者だかなんだか知らねえが、手を出すのは無粋ってもんだ」
「だ、だが・・・」
「ほら、そろそろ始めるぜ。目開けてよく見てな」
巨人の男が拳を振りかぶる。小林は身動きひとつしない。
「待ってくれ!私がやる!私がやるから、主殿を助けてくれ!」
レティシアはほとんど半狂乱になって叫んだ。だがその言葉も虚しく、男の拳が小林に向かっていく。
だが、その拳が小林に突き刺さるその瞬間。
靄のようなものが吹き荒れたかと思うと、男の右肘から先が、切断された。
「は・・・?」
レティシアが疑問の声をあげるのと、切断された男の右腕が地面に落ちるのは、ほぼ同時だった。
「があああああああああ!俺の、俺の右腕があ!」
絶叫する巨人族の男に、小林は歩み寄る。
「そんなに死にたいのなら教えてやる。格の違いってやつをな」
「ひいいいいいいいいっ!」
「今回の事は水に流してやる。だから代わりに、有り金全部置いていけ」
その言葉は小林らしくなく、小林の声とは思えないほど冷え冷えとしていた。
「分かった、分かったから!許してくれ!いや、許してください!」
巨人族の男は土下座した。
「なるほど。やはりあの言葉は十六夜殿が考えた言葉だったか」
「喧嘩を売られたらこう言えって言われた」
「しかしすごかったぞ主殿。さすが主殿だな」
そう言ってレティシアは一呼吸つき、
「こんな日常がずっと続くといいな・・・」
と呟いた。
「僕もだ」
「えっ」
「こんな日が時々あってもいい」
「主殿・・・」
レティシアが呟いた瞬間、持っていた槍が小林の腕に当たった。
先ほど小林に聞いた話では小林のギフトで槍が破壊されるはずだ。だが、
シュッ!
短い音がして、小林の腕が浅く切り裂かれた。
「「え・・・」」
二人の声が重なった。
今の状況から分かる事は一つ。
小林のギフトが、効かなかった。
文章力が低くて申し訳ございません。パソコンが復活次第直しますのでご容赦ください。