問題児たちと不死身の少年が異世界から来るそうですよ? 作:桐原聖
今回のは今までに比べて長いです。あと最後の方雑です。すみません。
飛鳥と耀の出番大幅カットしました。
「な、なんであの短時間に″フォルス・ガロ″のリーダーと接触してしかも喧嘩を売る状況になったのですか!?」「しかもゲームの日取りは明日!?」「それも敵のテリトリーで戦うなんて!」「準備している時間もお金もありません!」「一体どういう心算があってのことです!」
「聞いているのですか三人とも!」
「「「ムシャクシャしてやった。今は反省しています」」」
「黙らっしゃい!!!」
話を聞くと、どうやら小林達が蛇神と戦っている内に飛鳥達はここら一帯をテリトリーとするコミュニティに喧嘩を売って、しかもその日程は明日だそうだ。
激怒している黒ウサギを、真顔で小林が、ニヤニヤ顔で十六夜が止めに入った。
「コイツらも死にたいから喧嘩を売ったんだろ。ならいいじゃないか」
「別にいいじゃねえか。見境なく選んで喧嘩売ったわけじゃないんだから許してやれよ」
「い、十六夜さんは面白ければいいと思ってるかもしれませんけど、このゲームで得られるものは自己満足だけなんですよ?あ、あと飛鳥さんたちは小林さんみたいに死にたいわけじゃないと思いますよ」
「そうなのか」
「YES。しかもこのギフトゲームをしなくても、時間さえかければ彼らの罪は必ず暴かれます。だって肝心の子供達は・・・・・・その、」
「おい待て黒ウサギ。″フォルス・ガロ″は子供たちを殺していたんだよな?」
「Y、YES。ですが、それが何か?」
「″フォルス・ガロ″に入ったら、僕は死ねるのか?」
「そ、それは無理です。入ったら余計に死ねなくなりますし、何より神格の攻撃が直撃しても無傷の小林さんにガルドの攻撃が通じるとは思えません」
「そうなのか」
「YES。黒ウサギの知る限り小林さんを殺せるのは上層の、それもごく一部に限られます」
「そうか」
「く、黒ウサギ。明日のゲームは?」
ジンというコミュニティのリーダーらしい少年が、慌てた様子で黒ウサギに聞いた。
「一度受けてしまったゲームはもう取り消せないので受けるしかありませんね。まあいいデス。腹立たしいのは黒ウサギも同じですし。″フォルス・ガロ″程度なら十六夜さんか小林さんがどちらか一人いれば楽勝でしょう」
それは黒ウサギの正当な評価のつもりだった。だが、
「何言ってんだよ。俺は参加しねえよ?」
「僕もこのゲームには出ない」
「当たり前よ、貴方なんて参加させないわ。まあ小林君はちょっと可愛いからどうしてもっていうなら考えてあげるけど」
「は、はあ!?」
「よかったな小林。お嬢様から褒められるなんて」
そこに黒ウサギが割って入る。
「ちょ、ちょっと待って下さい!駄目ですよ、御三人はコミュニティの仲間なんだからちゃんと協力しないと」
「そういう意味じゃない」
「そういうことじゃねえよ黒ウサギ」
小林と十六夜が、真剣な顔で黒ウサギを制する。
「黒ウサギ。お前はさっき、″フォルス・ガロ″と戦っても僕は死ねないと言った。僕は死ねないゲームに興味はない」
「いいか?この喧嘩は、コイツらが売った。そしてヤツらが買った。なのに俺が手を出すのは無粋だって言ってるんだよ」
「あら、分かっているじゃない」
「・・・・ああもう、好きにしてください」
黒ウサギは肩を落とした。
椅子から腰を上げた黒ウサギは、横に置いてあった水樹の苗を大事そうに抱き上げる。
「そろそろ行きましょうか。本当は皆さんを歓迎する為に素敵なお店を予約して色々とセッティングしていたのですけれども・・・不慮の事故続きで、今日はお流れとなってしまいました。また後日、きちんと歓迎を」
「いいわよ、無理しなくて。私達のコミュニティってそれはもう崖っぷちなんでしょう?」
ウサ耳まで赤くなった黒ウサギが頭を下げる。
「も、申し訳ございません。皆さんを騙すのは気が引けたのですが・・・・黒ウサギたちも必死だったのです」
「もういいわ。私は組織の水準なんてどうでもよかったもの。春日部さんはどう?」
「私も怒ってない。そもそもコミュニティがどうの、というのは別にどうでも・・・あ、けど」
ジンがテーブルに身を乗り出して聞いた。
「どうぞ気兼ねなく聞いてください。僕らに出来る事なら最低限の用意はさせてもらいます」
「そ、そんな大それた物じゃないよ。ただ私は・・・毎日三食お風呂付きの寝床があればいいな、と思っただけだから」
ジンの表情が固まった。それを見た耀は慌てて取り消そうとしたが、先に黒ウサギが喜々とした顔で水樹を持ちあげる。
「それなら大丈夫です!十六夜さんと小林さんがこんなに大きな水樹を手に入れてくれましたから!これで水を買う必要もなくなりますし、水路を復活させることもできます♪」
「そう。じゃあ私からも一ついいかしら」
「YES。構いませんよ」
「小林君は、黒ウサギ達のコミュニティに入るのかしら?」
「Y、YES。入りますが、それが?」
「私、彼が気に入ったわ。彼のような人間は、見た事が無かったもの。彼が入るのなら、私も黒ウサギのコミュニティに入るわ」
「僕は黒ウサギのコミュニティに入る」
「そう。じゃあ私も黒ウサギのコミュニティに入るわ」
「そ、それは良かったのデス」
黒ウサギはほっと胸を撫で下ろした。もし小林が黒ウサギのコミュニティに入らなければ、黒ウサギは貴重な同士を二人も失う羽目になっていたのだ。
ジンが苦笑しながら言う。
「あはは・・・・それじゃあ今日はコミュニティへ帰る?」
「あ、ジン坊ちゃんは先にお帰りください。ギフトゲームが明日なら″サウザンドアイズ″に皆さんのギフト鑑定をお願いしないと。この水樹の事もありますし」
「″サウザンドアイズ″?コミュニティの名前か?」
「YES。″サウザンドアイズ″は特殊な″瞳″のギフトを持つ者達の群体コミュニティ。箱庭の東西南北・上層下層の全てに精通する超巨大コミュニティです。幸いこの近くに支店がありますし」
「ギフトの鑑定というのは?」
「勿論、ギフトの秘めた力や起源などを鑑定する事デス。自分の力の正しい形を把握していた方が、引き出せる力はより大きくなります。皆さんも自分の力の出処は気になるでしょう?」
同意を求める黒ウサギに四人は複雑な表情で返す。思う事はそれぞれあるのだろうが、拒否する声はなく、黒ウサギ・十六夜・飛鳥・耀・小林の5人と一匹は″サウザンドアイズ″の支店に向かう。
道中、小林は黒ウサギに聞いた。
「なあ、黒ウサギ」
「はいな、何でしょうか?」
「僕はどうやったら死ねるんだ?」
「そうですね。小林さんのギフトがどんな物かは分かりませんけど、蛇神の攻撃を何もせずに無効化した所から、おそらく十六夜さんと同等かそれ以上のギフトだと考えられます。とすれば、先ほども申し上げた通り、やはり上層の者ではないと殺せないかと」
「そうか。でも死ぬ方法はあるんだな」
「YES。ここは、修羅神仏の集う箱庭ですから。あ、着きました。こちらでございます」
話している間に着いたようだ。日が暮れて看板を下げる割烹着の店員に、黒ウサギは滑り込みでストップを
「まっ」
「待った無しです御客様。うちは時間外営業はやっていません」
・・・・ストップをかけることも出来なかった。
「なんて商売っ気の無い店なのかしら」
「文句があるならどうぞ他所へ。あなた方は今後一切の出入りを禁じます。出禁です」
「出禁!?これだけで出禁とか御客様舐め過ぎでございますよ!?」
キャーキャーと黒ウサギが喚く。それを小林が止める。
「うるさいぞ、黒ウサギ。耳に響くからやめろ」
「す、すみません。小林さん」
小林は一歩前に出た。
「おい、店員」
「なんでしょうか、御客様」
「ここの店長は強いのか?」
「こ、小林さん!?」
「はい、強いですよ。貴方など一秒もかからずに殺されるでしょう」
「ここの店長は、僕を殺せるのか?」
「ですから一秒もかからずに殺せると言っているのです」
「なら店長に会わせろ。僕はそいつに挑む」
「そうですか。では白夜叉様への挑戦者という事でよろしいですね?」
「そうだが」
「分かりました。ですが″名無し″風情がこの店に入るなど言語道断。白夜叉様に挑むのならまずは私を倒してからお願いします」
言って店員が竹箒を構える。その時、店内から何者かが爆走して来た。
「いぃぃぃやほおぉぉぉぉぉぉ!久しぶりだ黒ウサギイィィィィ!」
黒ウサギは店内から爆走してくる着物風の服を着た真っ白い髪の少女に抱き(もしくはフライングボディーアタック)つかれ、少女と共にクルクルクルクルクと空中四回転半ひねりして街道にある浅い水路まで吹き飛んだ。その際、小林に水しぶきが跳んだが、″謎の靄″で切り裂いた。ついでに、近くにあった竹箒も切り裂いた。
「御客様。今のは」
「気にするな。小林のギフトだろ」
ヤハハと十六夜が笑う。その時、少女が縦回転で飛んできた。十六夜が足で受け止める。
「てい」
「ゴバァ!お、おんし、飛んできた初対面の美少女を足で受け止めるとは何様だ!」
「十六夜様だぜ。以後よろしく和装ロリ」
「お前が白夜叉か?」
小林が少女に聞く。
「おお、そうだとも。この″サウザンドアイズ″の幹部様で白夜叉様だよ少年。して、今日は何の用だ?」
「お前、僕を殺せるか?」
「ほう?」
瞬間、白夜叉の眼が輝いた。
「この東最強の白夜叉に『強いのか』とは、面白い童が居た者だ。まあとりあえず中に入れ。黒ウサギ達も、何か私に用があるんだろう?話は中で聞こう」
店員が何かを言おうとしたが、小林を見て口をつぐんだ。
「生憎と店は閉めてしまったのでな。私の私室で勘弁してくれ」
と白夜叉が言ったので、五人と一匹は今白夜叉の部屋に居る。
「もう一度自己紹介しておこうかの。私は四桁の門、三三四五外門に本拠を構えている″サウザンドアイズ″幹部の白夜叉だ。まあ黒ウサギを助けている器の大きな美少女と認識してくれ」
「その外門、って何?」
「箱庭の階層を示す外壁にある門ですよ。数字が若いほど都市の中心部に近く、同時に強大な力を持つ者達が住んでいるのです」
「そんな事はどうでもいい。おい白夜叉、僕を殺してくれ」
「ちょ、ちょっと小林さん!」
「よいぞ、小僧。そんなに死にたいのなら、明日の朝ここに来い。魔王として全力で相手してやろう。ただ今は黒ウサギの用件の方が先だ。して、何の用だ?」
「おい白夜叉。オマエさっき、東最強って言ったか?」
「言ったぞ。私は東側最強の″階層支配者″だぞ。この東側の四桁以下にあるコミュニティでは並ぶ者がいない、最強の主催者なのだからの」
「そう・・・・ふふ。ではつまり、貴方のゲームをクリア出来れば、私達のコミュニティは東側で最強のコミュニティという事になるのかしら?」
「無論、そうなるのう」
「そりゃ景気のいい話だ。探す手間が省けた」
十六夜、飛鳥、耀の三人が立ち上がった。
「抜け目のない童達だ。以来しておきながら、私にギフトゲームで挑むと?」
「え?ちょ、ちょっと御三人様!?」
慌てる黒ウサギを右手で制す白夜叉。
「よいよ黒ウサギ。私も遊び相手には常に飢えている」
「ノリがいいわね。そういうの好きよ」
「ふふ、そうか。――しかし、ゲームの前に一つ確認しておく事がある」
「なんだ?」
「おんしらが望むのは″挑戦″か―――もしくは、″決闘″か?」
瞬間、五人と一匹の視界が、白い雪原と凍る湖畔に変わった。
小林以外の全員が驚く。小林は目の前に山があるのを見ると、山に向かって駆け出していった。
「ちょ、ちょっと小林さん!?」
連れ戻そうとする黒ウサギを、白夜叉は手で制す。
「よいよい。死にたいのならあの山脈で十分だろう。それに奴との決闘は明日だ。今ここで私が手慰み程度に遊ぶのは奴に失礼だ」
そして白夜叉は三人の方に向き直り、問う。
「して、おんしらはどうする?」
一方小林は、山を登っていた。
富士山から落ちても死ねなかった小林だが、ここは異世界。山そのものの法則が違うのかもしれないと思って登ってみたのだが、登っている時の感覚は普通の山と変わらない。あとは飛び降りてどうなるかだ。
その時、小林の横を何かが横切った。それは、鷲獅子とそれに乗った耀だった。
それを横目で見て、小林は山から飛び降りた。
―――結果は、死ねなかった。
というか、前の世界の山と変わらなかった。
「死ねない、か」
分かってたけどな、と呟きながら白夜叉たちの元に戻る。だがそれを見た飛鳥、耀、白夜叉は驚愕に目を見開いた。
「小林君、山から飛び降りたわよね?何で無傷なの!?」
「実際にやった私だから分かるけど、あの山、ただの山じゃないよ」
「おんし、一体どんな奇跡を見に宿しているんだ!?」
「さあな」
驚いていた白夜叉だが、すぐに笑みに戻った。
「これは面白いな。さすが私に挑むだけある。そうだ、おんしにもこれをやろう」
言って白夜叉が手を叩くと、小林の前に一枚のカードが現れた。
「何だ、これ」
「″ギフトカード″という。まあ簡単に言えばおんしのその才能を収納できるという訳だ。あ、先に言っておくがそれを捨ててもおんしの身体にあるギフトは無くならんからな」
「そうか」
小林がギフトカードを見ると、そこには″名称不明″と書いてあった。
「おい白夜叉。これなんて読むんだ?」
「これか?・・・・何だと!?」
白夜叉が驚く。″正体不明″はギフトをキャンセルする類のギフトならよくある事だが、″名称不明″つまり、『ギフトは分かるが呼び名が分からない』という馬鹿げた物が出た事は今まで無かった。
「おんし、何者だ!?」
「小林芳雄だ」
白夜叉の問いに、小林は真顔で即答した。
次回は白夜叉VS小林!