問題児たちと不死身の少年が異世界から来るそうですよ? 作:桐原聖
・・・・多分もう一つの作品今年中の投稿無理です。すみません。
「おい、どうした?ボーっとしてると胸とか脚とか揉むぞ?」
「おい黒ウサギ。腹が減った。ハンバーガーとかないのか」
「え、きゃあ!」
黒ウサギが我に返ると、十六夜と小林が背後に移動していた。十六夜の手は胸と脚に伸びている。黒ウサギは慌てて跳び退いた。
「な、ば、おば、貴方はお馬鹿です!?二百年守ってきた黒ウサギの貞操に傷をつけるつもりですか!?」
「二百年守った貞操?うわ、超傷つけたい」
「お馬鹿!? いいえ、お馬鹿!!!」
「おい、そんな事より何か食わせろ」
十六夜と黒ウサギの漫才(?)に、小林が割って入る。
「そうだな。早くそのコミュニティとやらに案内しろよ黒ウサギ」
十六夜も加勢する。二人の気迫に怯んだ黒ウサギは数歩後ずさる。
「わ、分かりました。ですがその前に、蛇神からギフトを戴いておきましょう」
そう言って跳躍すると蛇神の上に乗り、顎の辺りに移動する。遠巻きに何かを話している姿を二人が眺めていると、直後に青い光が周囲に満ちていく。
光の源が蛇神の頭から黒ウサギの手に移ると、ピョンと跳ねて二人の前に出る。
「きゃーきゃーきゃー♪見てください!こんな大きな水樹の苗を貰いました!コレがあればもう他所のコミュニティから水を買う必要もなくなります!みんな大助かりです!」
「そうか。それはよかったな。で、それ食えるのか?」
小林が黒ウサギに聞く。黒ウサギは慌てて苗を抱きしめて跳び退く。
「だ、駄目ですよ!これはコミュニティを支える大事な役割を担ってくれるギフトです!それにそもそもこれは―――」
「待て。今なんて言った黒ウサギ」
黒ウサギの言葉を遮って十六夜が聞く。
「コミュニティの支えになる?てことはお前らのコミュニティは今までどうやって支えてきたんだ?」
「そ、それは・・・」
「『コミュニティ』というくらいだから、お前一人で成り立っているわけじゃないはずだ。当然水不足も出て来る。だがお前はさっき、水は他所のコミュニティから買っていると言った。なんでだ?こんな蛇一体、俺程までとはいかなくても、俺の足元並みの奴が数人居れば充分だ。つまり黒ウサギのコミュニティは、いつでもこのギフトを入手できた。じゃあ何でただで手に入る水を、わざわざ買ってるんだ?」
「他所のコミュニティの水の方が美味かったんじゃないか」
「小林の意見も考えてみた。けど考えてみろ。ここはなんでもアリの箱庭だぜ。水を美味くするギフトくらいあるだろうよ」
「確かにな」
「え、えっと・・・」
「ここから考えられるのは一つ」
十六夜はそこで言葉を切り、黒ウサギを睨んだ。
「お前、なにか決定的な事をずっと隠しているよな?」
「僕もそう思う。お前、見ていてなんだか必死そうだった」
「え、えっと・・・」
「これは俺の勘だが。黒ウサギのコミュニティは弱小のチームか、もしくは訳あって衰退しているチームか何かじゃねえのか?だから俺達は組織を強化するために呼び出された。そう考えれば蛇を倒さずに他所のコミュニティから水を買っていた事や、俺らがコミュニティに入るのを拒否した時に本気で怒ったことも合点がいく。――どうよ。百点満点だろ?」
「っ・・・・!」
「なあ十六夜。コイツがこれを黙ってたって事は、僕らにはまだその『コミュニティ』ってのを選ぶ権利があるんだよな」
「ま、そういう事になるな」
「・・・・・・・」
「沈黙は是也、だぜ黒ウサギ。この状況で黙り込んでも状況は悪化するだけだぞ
それとも他のコミュニティに行ってもいいのか?」
「や、だ、駄目です!いえ、待ってください」
「だから待ってるだろ。ホラ、いいから包み隠さず話せ」
十六夜は川辺にあった手ごろな岩に腰を下ろして聞く姿勢をとる。小林もそれにならい、隣の岩に座る。しかし黒ウサギは迷っているのか、なかなか話そうとしない。
そこに小林が畳みかけた。
「早く言え。僕は腹が減った」
「は、はい」
小林の身体から一瞬、靄のような物が立ち込めたのを見て黒ウサギは怯えながら話し出した。
「まず私達のコミュニティには名乗るべき″名″がありません。よって呼ばれる時は名前の無いその他大勢、″ノーネーム″という蔑称で称されます」
「へえ・・・その他大勢扱いかよ。それで?」
「次に私達にはコミュニティの誇りである旗印もありません。この旗印というのはコミュニティのテリトリーを示す大事な役目も担っています」
「ふぅん?それで?」
「″名″と″旗印″に続いてトドメに、中核を成す仲間達は一人も残っていません
もっとぶっちゃけてしまえば、ゲームに参加できるギフトを持っているのは122人中、黒ウサギとジン坊ちゃんだけで、後は十歳以下の子供ばかりなのですヨ!」
「崖っぷちだな、それ」
「ホントですねー♪」
小林の言葉に同意した黒ウサギは、ガクリと膝をついてうなだれた。
「で、どうしてそうなったんだ。大人は皆死んだのか?」
「い、いえ。彼らの親も全て奪われたのです。箱庭を襲う最大の天災――″魔王″によって」
魔王という単語を聞いた瞬間、十六夜の目が輝いた。
「ま・・・・マオウ!? なんだよそれ、魔王って超カッコイイじゃねえか!箱庭には魔王なんて素敵ネーミングで呼ばれる奴が居るのか!?」
「え、ええまあ。けど十六夜さんが思い描いている魔王とは差異があると・・・」
「おい黒ウサギ。魔王って強いのか」
「は、はい。魔王と言っても十人十色ですが、強大な力を持っております。それこそ、強い者なら小林さんや十六夜さんでも勝てないかと・・・」
「魔王と戦えば、僕は死ねるのか?」
「は、はい。可能性はあるかと・・・」
「分かった」
そう言うと小林は立ち上がった。
「おい黒ウサギ」
「何でしょう?」
「僕はお前のコミュニティに入る」
小林の発言に、黒ウサギの目が輝いた。
「ほ、ホントですか!?」
「ああ。十六夜はどうする?」
小林は複雑な顔をしている十六夜に声を掛けた。
「なあ黒ウサギ。聞いていいか」
「はい。構いませんよ」
「その旗印っていうのは、新しく作ったら駄目なのか?」
「そ、それは可能です。ですが改名はコミュニティの完全解散を意味します。しかしそれでは駄目なのです!私達は何よりも・・・仲間達が帰ってくる場所を守りたいのですから・・・!」
黒ウサギの表情は固い。その決心は半端な物ではないという事だろう。
「茨の道ではあります。けど私達は仲間が帰る場所を守りつつ、コミュニティを再建し・・・
何時の日か、コミュニティの名と旗印を取り戻して掲げたいのです。そのためには十六夜さんや小林さんのような強大な力を持つプレイヤーを頼るほかありません!どうかその強大な力、我々のコミュニティに貸していただけないでしょうか・・・!?」
「ふぅん。魔王から誇りと仲間をねえ」
「おい十六夜」
「何だよ小林」
「僕は死ぬためにコイツのコミュニティに入る。お前はどうする?」
「そうだな。じゃあ黒ウサギのコミュニティに入るか」
「ほ、本当ですか!?」
「ああ。魔王なんてカッコイイじゃねえか。いいぜ、黒ウサギに協力してやるよ」
「あ、ありがとうございます!!」
こうして二人は、黒ウサギのコミュニティに入る事になった。
では次回は白夜叉のギフト鑑定!・・・まで行きたい。