問題児たちと不死身の少年が異世界から来るそうですよ? 作:桐原聖
このペースが限界かも・・・
小林は、″サウザンドアイズ″に向かった。
「おや、また貴方でしたか」
小林を見て、女性店員が迷惑そうな顔をする。
「白夜叉に会いたい。白夜叉は居るか?」
白夜叉ほどの実力者ならば、北側に連れていってくれるだろう。北までの距離はどれくらいか知らないが、歩くのは面倒くさい。小林はそう考えた。
「現在白夜叉様はいません。どうやら″ノーネーム″の皆さまを連れて、北側に向かってしまったようです」
「お前は行かないのか?」
「私はこの店を守るのが仕事ですから。むしろ白夜叉様が居ない今だからこそ、この店を守らなければ」
「そうか。分かった」
言いながら小林は店の中に入る。
「だから、うちの店は″ノーネーム″お断りで」
「うるさい」
店員の言葉を容赦なく切り捨てた小林に怒ったのだろう。店員が竹箒を構える。だが小林に攻撃が効かない事を思い出し、構えを解く。
「何がしたいか知りませんが、好きにしてください。貴方は白夜叉様のお気に入りみたいですし、どうにかなるでしょう」
その言葉を聞き逃し、小林は店に展示されていた商品を手に取った。薄い板のような物で、中心に星が描かれている。何かの儀式に使えそうだ。
「これは何だ?」
「ああ、転移陣ですね。これを使えば好きな場所に転移できる代物なのですが・・・・一度しか使えない上に、場所は選択できても細かい位置までは選べないという、三流のギフトです」
「これを使って、十六夜たちの所まで行けるか?」
小林が聞くと、店員は溜息を吐いた。
「行けますよ、一応。ああもう、好きにして下さい。私は責任を取りませんから」
「分かった」
小林は転移陣を足元に置いた。瞬間、赤い光が展開し小林と店員を包み込む。
「え?」
店員が間抜けな声を出した瞬間、小林と店員は転移した。
小林と店員は、確かに転移した。
黒ウサギの真上に。小林の″TRICKSTAR″の能力で、黒ウサギが吹き飛ばされる。
「な、何事ですかーー!」
「今だ、逃げるぞお嬢様!」
「分かったわ、十六夜君!」
どうやら二人は黒ウサギから逃げていたらしい。二人が逃亡する。
「ようやく来たか主殿、十六夜と飛鳥を追うぞ!」
十六夜と飛鳥を追いかけてきたと思われるレティシアが、小林に叫びながら空から二人を追う。後には、小林と店員が残された。
「僕はあいつらを追う。お前はどうする?」
「私は北側に繋がった店舗に戻ります。では失礼」
言うなり店員は立ち上がると、小林に背を向けた。
「ああ、じゃあな」
小林が言うと、店員は首だけ振り向いて言った。
「貴方は怪我をしないでしょうから言わなくてもいいでしょうが、一応。お気を付けて」
そこには、先ほどとは違い、わずかな優しさが込められているような気がした。
「ああ、行ってくる」
言うと、小林は走り出した。
小林は人込みが苦手だ。小林の近くに来た人間は怪我を負ってしまうからだ。
なので裏路地を通らなければならず、捜索は困難を究めた。
小林が探し始めて約一時間。二人はおろか、レティシアや黒ウサギも見つからない。
その時、後ろから声を掛けられた。
「おい、お前」
振り向くと、そこには三人のチンピラが居た。
なぜ見てすぐにチンピラと分かったかと言うと、元居た世界でも同じような服装のチンピラが居たからだ。確かヒデちゃん、とか言ったか。よく覚えていない。
「怪我したくなければ大人しく金目の物を出せ」
チンピラの一人が脅すように言ったが、むしろ怪我したい、というか死にたいので、進んでチンピラに向かって歩く。
「何だこいつ?死にたいのか?」
だから死にたいのだ。小林はチンピラの前に立った。チンピラの方が身長が高いため、自然と見上げるような形になる。
「おいお前、やる気か?」
チンピラの一人が言うと同時、残りの二人が拳を構える。面倒くさいが戦うしかないのか。小林がそう思っていると、チンピラの一人が拳を振りかぶった。
「おりゃあ!」
変な掛け声と共に、小林に殴りかかる。だが拳ごときで怪我をするなら小林も苦労はしない。チンピラの右肘から先が切り裂かれる。鮮血と共にチンピラの右腕が地面に落ちる。
「う、うわあああああ!」
「畜生、何だこいつ!」
残ったチンピラの二人が小林から距離を取り、ナイフを抜く。
「死ねえ!」
チンピラの一人が小林にナイフを突き出す。″TRICKSTAR″の能力で、ナイフは切り口と柄できれいに二分される。
「く、くそっ!」
チンピラがナイフを構えなおした、その時――
「そこまでだ、お前ら!」
何者かが小林とチンピラの間に割り込んだ。ツインテールの髪と白黒のゴシックロリータの派手なフリルのスカートという、変わった格好だ。しかし変わっているのは格好だけではない。
少女は何故か、火の玉の上に乗っていたのだ。いや、よく見るとそれは巨大なカボチャだ。
少女はビッ、とチンピラに向かって指を突き出し、言う。
「おいお前ら、三人で一人を攻撃するなんてどうかしてるんじゃないか?おまけに子供相手にナイフまで使ってさ。お前ら、どこのコミュニティだ?この″ウィル・オ・ウィスプ″が成敗してやる!」
十六夜が聞いたら大爆笑しそうだな、と思いながら小林は少女を見た。チンピラたちはしばらくポカン、としていたが、我に返ると腹を抱えて大爆笑した。
「はは、『成敗してやる』だって!今時誰も言わねえよ!」
「お前も災難だな。こんな奴に助けられて!」
チンピラに爆笑されて、少女の頬が真っ赤になる。少女が叫ぶ。
「やっちまえ、ジャックさん!」
「分かりました、アーシャ」
カボチャが返事をすると同時、ランタンから業火が迸る。業火は四方八方に広がり、裏路地を包み込む。あっという間にチンピラは飲み込まれ、小林にも業火が迫って来る。
″TRICKSTAR″の能力が、小林を守る。今回ばかりは小林もこの能力に感謝した。流石にカボチャの放った炎で死ぬのは御免だ。
「よっしゃー全部焼き払ったぜチクショウ!あれ、あの子は?」
「私の炎で焼き尽くされてしまったでしょう。流石にあの攻撃を喰らって生きているはずが―――」
「生きてるぞ」
焦った声で言うカボチャの言葉を遮り、小林は声を掛けた。ツインテールの少女が驚いたように言う。
「お、おい。なんで、ジャックさんの攻撃を受けて耐えてるんだ?」
「こんな攻撃で死ねるなら僕はとっくに死んでる」
小林が言うと、少女が息を飲んだ。どうやら小林の能力について検討がついたようだ。その時、カボチャが何かに気が付いたように言う。
「私の攻撃を喰らっても無傷、私達が来たとき足元に落ちていた右腕、そしてこの気配、まさか貴方、″無傷の帝王″では?」
「さあな。そんな奴僕は知らない」
確かに、小林は本当に知らない。″無傷の帝王″という通称を小林本人は知らないし、サラがそれらしい言葉を言っていた気もするが、よく覚えていない。
「なあジャックさん。″無傷の帝王″って何だ?」
「文字通り、どんな攻撃をくらっても無傷でいる、最強のギフトを持っている者の事ですよ。
失礼ですが貴方、所属コミュニティは?」
「ノーネームだが」
小林はぶっきらぼうに答えた。さっさと十六夜たちに合流したい。
「私達は″ウィル・オ・ウィスプ″と言います。名前だけでも覚えておいていただければ光栄です。機会があればぜひ私達のコミュニティを見に来てください」
突然態度が変わるカボチャを不思議に思いながらも、小林は「分かった」と返事をした。
「貴方も早くここから出た方がいい。もうすぐ異変に気が付いた″サラマンドラ″のコミュニティが来てしまいます。では失礼」
言うなりカボチャはツインテールの少女を抱えると、飛び立って行った。小林はそれを見ながら首を傾げた。
「何でサラとかいう奴といい、カボチャといい、なんで僕を自分のコミュニティに呼ぼうとするんだ?」
次回、今度こそ本当に鬼ごっこ!